青森県

さんないまるやまいせき
三内丸山遺跡
東北おもしろ博物館(加藤貞仁著)より
 おもしろ博物館青森県青森市 
空から見た三内丸山遺跡の全景。非常に広大な集落だったことがわかる
●見学時間=午前9時〜午後6時
 (9月から翌年4月28日までは、午後4時半まで)
●休館日=年末年始
●見学料=無料
●交通=JR青森駅から三内丸山遺跡
 行きバス40分、タクシー15分、東北自
 動車道青森インターから車10分


青森市三内丸山
問い合わせ=青森県教育庁
         三内丸山遺跡対策室
         017・734・9924
 青森市中心部から南西へ四キロ。沖館(おきだて)川の河岸段丘上にある縄文遺跡「三内丸山」は、江戸時代からその存在を知られていた。しかしこれが、これまでに見つかった最大の縄文集落跡だとは、「必要に迫られて」掘ってみるまで、だれも想像していなかった。
 「必要」と言うのは、ここに県営野球場を造る計画が持ち上がったからである。存在のわかっている遺跡の上に建築物を建てる場合は、事前に遺跡を調査する義務があるのだ。発掘開始は、一九九二年四月だった。
 掘り始めたら、出るわ、出るわ……おびただしい遺物と遺構が次々に見つかった。それは、歴史の教科書を書き替える大発見のラッシュでもあった。
 その中でも、「原始的な縄文人」というイメージを吹き飛ばしたのが、クリの巨木の柱跡だった。発見されたのは九四年七月。青森県は翌月、野球場建設計画を中止、遺跡を永久保存することを決めた。
 主な出土品を収めた展示室が建てられた丘の上からは、復元した竪穴式住居が点在する広場が見渡せる。かなり、広い。ここに五千五百年前から四千年前まで、考古学上は縄文前期から中期にかけての千五百年間継続して人が住み、最大時は五百人が居住していたと推測されている。そう言われても、門外漢にはピンと来ないが、以前に発掘された縄文遺跡に比べると、ケタ違いの数字なのだという。
 ただ、広場の左手に復元された六本の巨大なクリの木柱は、だれが見ても、説明なしでも、すごいものだ。
 資料によると、柱の直径は一メートル、高さは十四・七メートル。重さは、一本で八トンもある。三本ずつ二列に並び、柱の間隔は四・二メートル。そして、内側に正確に二度傾いている。屋根があったとか、なかっ大型竪穴住居の内部。長さ32m、幅10mもあり、共同作業所とか、集会所、あるいは冬の間の共同家屋などに使われたと推測されているたとか、当時の姿には諸説があり、意見のまとまったところまで復元し、まだ未完成だという。それはともかく、クレーンなどのない時代に、どうやってこの巨大な建造物を構築したのだろう。
 縄文人の技術力は、展示室でも見ることができる。
 直線的な孔(あな)が開けられ、しかもその断面が美しい翡翠(ひすい)だ。静岡理工科大学教授の志村史夫さんは、著書の『古代日本の超技術』(講談社ブルーバックス)の中で、「現在でも、あれだけ大型の翡翠に、あれだけ見事な孔をあけるのは容易なことではない」と驚嘆している。硬い鉱物の一つである翡翠に孔を開ける技術は、基本的には現在も同じだという。
復元された大型竪穴住居と巨大6本柱。これまでの縄文遺跡の定説をくつがえした建築物だ
現場では、まだ発掘作業が続けられている
おびただしく発掘された土偶。明らかに首のところで切断されたものもあり、用途については諸説がある
大型竪穴住居の内部。長さ32m、幅10mもあり、共同作業所とか、集会所、あるいは冬の間の共同家屋などに使われたと推測されている 約1000年間の生活の廃棄物が堆積した盛土遺構。土器、土偶、翡翠の玉などが出土した イグサ科の植物の茎で編まれた「縄文ポシェット」。編み物としては日本最古。中には殻を割ったクルミが入っていた

 展示ケースの中には、かなり大きな翡翠もある。装身具としては重いだろう。それで、「孔に息を吹き込んで鳴らした」、つまり「石笛だ」との説があるそうだ。とすると、縄文の空には音楽が流れていたのか。それはいったい、どんな音色なのだろう。
 最初の三年間の発掘で、出土品はリンゴ箱で四万箱に達した(リンゴ箱で数えるところが、いかにも青森県らしい)。それは、青森県の過去の出土品の四十年分の量だった。
 岩手県久慈市周辺の琥珀(こはく)、秋田県産の天然アスファルト、北海道や佐渡島産の黒曜石、そして翡翠は新潟県糸魚川流域からと、三内丸山の縄文人がとてつもない行動力を持っていたことを、出土品が教えてくれる。また、彼らが豆類やヒエなどの植物を栽培し、タイやヒラメなどの魚を食べ、布や漆器を作り、死ねば墓地に葬っていたことなどもわかって来た。
 この遺跡は、三十八ヘクタールもの広さがあり、発掘されたのはまだ一部だ。現在も発掘が続いている。これから、どんな大発見に出会えるかわからないのだから、こんな楽しいことはない。しばらく発掘作業を見学していたが、女性作業員らの顔はとてもイキイキと輝いていた。
出土した大型の翡翠。中央にある孔は、非常に高度な技術で開けられている

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