福島県

いわき市石炭・化石館
東北おもしろ博物館(加藤貞仁著)より
 おもしろ博物館福島県いわき市
フタバスズキリュウの模型が出迎えてくれる「いわき市石炭・化石館」。背後の鉄骨のやぐらは、坑内への昇降装置
●開館時間=午前9時〜午後5時
●休館日=第3火曜日(祝日の場合は翌日)、
        1月1日
●入館料=一般630円、中・高・大学生420円、
        小学生320円
●交通=JR常磐線湯本駅から徒歩15分


いわき市常磐湯本町向田3の1
問い合わせ=0246・42・3155
 化石は、生き物の歴史を閉じ込めたタイムカプセルだ。ありふれた木の葉の化石でも、自分で見つければうれしいものだ。中には、その魅力にとりつかれてしまう人もいる。
 当時、福島県立平工業高校二年生だった鈴木直さんも、化石探しに夢中になっていた。鈴木少年が住むいわき市は、かつては日本を代表する炭田の一つである常磐炭田があり、化石の出やすい地層が露出している場所がたくさんある地域だ。だいいち、「化石燃料」とも言われるように、石炭自体が、太古の植物の化石だ。鈴木少年は小学生の時、年輪を見ることができる樹木の化石「珪化木」を見つけたことがあった。常磐炭田では、しばしば石炭層の中から珪化木が見つかっていた。
 昭和四十三年の秋、鈴木少年は、いわき市久之浜の小さな川に面した崖で、サメの歯の化石を見つけた。その場所を掘り続けるうちに、爬虫類の背骨らしい化石に遭遇した。連絡を受けた東京の国立科学博物館の小畠郁生博士らが加わり、本格的な発掘が始まった。その結果、八千万年前の海で魚などを捕食していた「クビナガリュウ」の、ほぼ全身の骨格が出現した。
 クビナガリュウは恐竜ではないが、同時代に生きていた大型の爬虫類だ。クビナガリュウの化石が日本で見つかったのは、これが初めて。歴史に残る大発見だった。この化石は、発見された地層名である「双葉層」と、少年の名前から「フタバスズキリュウ」と名付けられた。
 発掘された本物は今、東京の国立科学博物館にあるが、復元された骨格標本の複製は、この「いわき市石炭・化石館」の中空を悠然と泳いでいる。首が長く、頭は小さく、四肢を翼のように広げた、優美な姿だ。
 ここには、中国で見つかった全長二十二メートルの超巨大草食恐竜「マメンチサウルス」の全身骨格標本や、最大の肉食恐竜「ティラノサウルス」の頭の骨などもある(いずれも複製)。しかし「フタバスズキリュウ」は、それより高く、誇らしげに空中を飛ぶような形で展示されている。
 ところで、八千万年前というのは、地質学の時代区分から言うと、中生代白亜紀で、陸上では恐竜、海中ではアンモナイトが繁栄していた時代だ。そのころ、日本は大陸と地続きで、現在の太平洋岸地域は、ほとんどが浅い海の底だった。だから、そのころ陸上をのし歩いていた恐竜の化石が日本で見つかるのは、岐阜県の一部など、限られた地域である。
 白亜紀は六千五百万年前に終わり、恐竜も、クビナガリュウも、アンモナイトも絶滅した。それに代わって現在の哺乳類の祖先のほとんどが現れた新世代へと時代は移り、現在の日本列島が、次第に姿を現し始めた。
首の長い草食恐竜「マメンチサウルス」や、巨大なツノを持つ草食恐竜「トリケラトプス」などが威容を誇る化石展示室
化石展示室の奥まった所に、日本で初めて発見されたクビナガリュウ「フタバスズキリュウ」の、全身骨格標本(複製)が、悠然と空中を泳いでいる
400万年前に生息していた「イワキクジラ」の頭骨の化石。ヒゲクジラの仲間で、これまでに16個体の化石が発見されている
「フタバスズキリュウ」が発掘された現場の復元模型。1体分の骨の化石が、まとまって見つかった 2500万年前の海を泳いでいた鳥類「プロトプテルム」の全身骨格復元模型。ペンギンによく似ているが、実はペリカンの祖先から枝分かれしたグループの鳥 人形を使ってかつての炭鉱の生活が再現されている。これは、妻から弁当を渡され、仕事にでかける作業員
 「いわき市石炭・化石館」には、クジラやゾウ、それに現在のペンギンに似た「プロトプテルム」という鳥など、新世代の動物の化石もたくさん展示されている。しかも、「イワキクジラ」とか「イワキゾウ」と言った、この地域の特有種が多い。また、常磐炭田の石炭も、新世代の樹木だ。動物にしても植物にしても、この辺りが当時、大量に遺骸が集まりやすい地形だった、ということなのか。古生物ファンにとっては、なんと魅力的な土地なのだろう。
 さて、「いわき市石炭・化石館」の後半部分は、昭和五十一年に、百二十五年の歴史を閉じた常磐炭田の歴史展示である。石狩や筑豊炭田に出炭量は及ばなかったが、東京に近いことから、戦後の日本の復興に果たした役割は大きかった。
 福島県人の私としては、その昔、都市対抗野球で「オール常磐」チームが活躍したことが懐かしい。そんな華やかな時代があった。石炭の掘削機、坑道そのもの、そして炭鉱で働く人々のリアルな人形を見た後では、世の中のあまりにも急激な移り変わりに、複雑な思いをさせられる。
いわき市で発掘された巨大アンモナイト

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