仙台平野のほぼ中央から北寄りに広がる大崎地方の鹿島台町は、美田で有名な穀倉地帯である。その一角の高台に昭和60年8月1日、快適な公共宿泊施設・国民年金健康保険センター「みちのく路」がオープンした。
標高そのものは100m余りにすぎないのだが、一帯で最も高い小山の頂上部を整地して建てられたというだけに、眺望が何とも素晴らしい。早朝の煙たなびく田園と幾つかの小さな森と低い丘陵が織り成す農村風景を見ていると、なぜか得した気分になってくる。
眺めの良い場所に建つ施設はほかにも決して珍しくないだろう。山の中腹や高原からの大景観、渓流や渓谷の美しさ、海に近い地方の独特の雰囲気、どれもそれぞれに味がある。しかし「みちのく路」からの〈これぞ東北地方太平洋側の農村風景〉というべきパノラマは、宮城県内の公共施設ではあまり例がないのではあるまいか。
高すぎず低すぎず、壮大すぎず狭くもなく、過不足ない和やかな景色。街の灯りも喧騒もないから、夜は見事な満天の星空だ。
オープン当初、温泉はなかった。敷地内にボーリングして昭和63年8月に温泉棟オープン。平成5年には日帰り入浴用の浴場も完成した。
(財)宮城県国民年金福祉協会が行政機関から委託を受け運営する同保養センターは、地上3階地下1階の落ち着いた建物内に客室14室(和室12・和洋室1・身障者対応のツイン洋室1。63名収容)のほか大浴場2カ所(男女それぞれ2カ所あり。1階にサウナ付の「ゆったりの湯」、2階に眺望のきく「みはらしの湯」)、会議室3室、舞台付・大レーザーカラオケのある大広間、レストラン、ラウンジ、結婚式場、売店などを備え、テニスコート3面も併設している。
車で10分ほど西に行った山中に、目の神様として信仰を集めている「滝沢不動尊」がある。ほかにポピュラーな見どころを探すとすれば松島まで車で約30分、米沢から移封された伊達政宗が仙台に移るまでの間居城があった岩出山(いわでやま)へは約40分、ラムサール条約で世界的にも知られる渡り鳥のサンクチュアリの一つ伊豆沼にも約 分といったところ(ちなみに鹿島台の町鳥も白鳥だそうな)。
逆に考えるなら、仙台圏からも海岸部からも山岳地帯からもそれほど遠くないというロケーションも、「みちのく路」の特徴といえるだろう。
夫婦で家族連れで親しい仲間同士で、観光やレジャーより「旅を楽しむ旅」に出たいような時は、ホッと息抜きのできるこんな湯宿にくつろぐのがピッタリなのかも知れない。
JR東北本線・鹿島台駅付近には、品井沼(しないぬま)を干拓して美田に変えたわらじ村長≠アと鎌田三之助翁の像が立っている。つぎはぎだらけの服にわらじ履き。こうもり傘を手に筵(むしろ)を背負ったその姿は、鹿島台の田園風景や空気同様、実にいい表情である。
|
|
|
「旅を楽しむ旅」にもってこいの宿
| |