遠田耕平
村への出張ワクチン接種を止めて、保健所だけでのワクチン接種にして、しかも保健婦の収入も減らさずに、ワクチンを受ける子供の数も減らさない方法とは、読者の皆さんは一ヶ月付き合っていただけたでしょうか。
僕の名案 日本では宣伝といえば、テレビや新聞、チラシといったいろんな方法があるがカンボジアでは口コミである。では、誰が口コミをやるのか。これに僕は悩んだ。村にはお産婆さんが何人かいて、保健婦と顔見知りだし、村のワクチン接種では村の村長たちがボランティアで連絡の手助けをしてくれている。だから村のボランティアとお産婆さんたちに保健所からの連絡を徹底して、お母さんたちに伝えてもらうのが一番いいだろう、と始めは考えたのである。 でも村を歩いてみて、これは日本的な発想だと気がついた。多分日本ならこれで足りるのかもしれない。でも、カンボジアは違う。実はお産婆さんがお母さんたちと接する機会は限られているし、村長たちボランティアも他の事で忙しい。どうも確実にお母さんたちに伝わると言い切れない。だったら保健婦たちはどうだろうか。もし保健婦たちが今まで村へワクチンや注射器を担いで行っていた代わりに手ぶらで、身軽にこの口コミの徹底のために村を毎週回ったらどうだろうか。お母さんたちへの連絡が徹底するまで毎週でも村を訪ねて、もちろんお産婆さんや村長とも会い、お母さんたちへも直接メッセージを伝え続けるのである。保健婦たちはほとんど午後は働かないし、一時間くらい村に行かせることは可能だ。これはずっと確実に思えるのが、どうだろうか。
カンボジアの保健所には新生児を記録する簡単なノートがあるが、記録は不完全で誰もちゃんと使っていない。しかも保健省は昨年全国の村のボランティアに記録のノートを印刷して配ったのであるが、記録は断片的、本当の新生児の数の半分程度もわからず、信頼性を欠いた。 その最大の原因は村のボランティアもお産婆さんもお金をもらえるわけじゃないので真剣に知らせてくれないからである。じゃ、誰が真剣か。保健婦である。保健婦が自ら全ての村のお産婆さん、村長に聞いて回り、記録すれば、村の新生児は100%わかるといえる。というのも、これも村を歩いてわかったことであるが、カンボジアでは保健所の助産婦がアルバイトで村に呼ばれて、全体のお産の30-40%を手伝っているし、残りは村のお産婆さんがやっている。カンボジアではお産婆さんたちは村でも顔の知れた人たちで、助産婦とも仲がいい。例外的に難しい出産は町の病院で産むが、村の人たちは誰が病院に行ったかは良く知っている。つまり、保健婦さえやる気になれば100%の村ごとの完璧な新生児の出生記録簿が完成するのである。 なぜ新生児の記録が必要か。これがワクチン接種をする子供の数を減らさないもう一つの僕の名案(工夫)である。つまり、毎月の終わりに予防接種の記録と新生児の記録を見比べて、それぞれの村のどの子供が保健所にワクチン接種に来ていないのかを的確に知ることができるのである。もしこれがわかれば、保健所にいても村のボランティアやお産婆さんたちを通して、そのお母さんに連絡して、保健所に来るように促すことができる。毎月お茶代を出して、保健所で村のボランティアとお産婆さんたちを集めてミーティングを開いて、この情報交換をすることも考えている。 どうだろうか僕のアイデアは、成功の鍵は、保健婦たちである。保健所の活動が軌道に乗るまでは保健婦自らが村に出向いて宣伝する。そして、新生児の情報を100%集める。村に頼る限り失敗する。保健婦がしっかりすれば成功する。
さて、そうすると保健所の所長がどのくらいしっかりしているかも大事なことである。僕が保健所長だったら…
おもしろいことに、保健所のスタッフたちはそんな安い当てにならない政府から支給される足代に頼るより、村に行くことを止めてしまって、お母さんに保健所に来てもらう方がずっといいと言い出している。つまりお母さんに来てもらえばいいのである。本当に人が保健所に集まり出したとき、本当に村の人たちが保健所の便利さを理解してくれた時、保健所の一般診療の収入は必ず自然に上がるはずである。そうなると保健所のスタッフはますます元気づけられるだろう。 皆さんどうだろうか。うまく行くだろうか。こっちの人は無理じゃないかという。お金がなくてできる訳はないと言う。本当に貧乏な人で足代も払えない人はどうするのかとも言う。現実は厳しい。確かに難しい問題はある。でも、そう言われて、ハイそうですかとは言えない。きっとできると信じる。きっとできると信じるその始まりが大切だと思っている。理想と現実の間に必ず道があるはずだ。理想だけでもない、現実だけでもない、その間に最善を尽くした方法が見えてくると信じる。 今、試験的に9つの県の12の保健所を選んで始めた。保健所に近い村から、村での接種を止め、保健所でのワクチン接種を始める。6ヵ月後に再び皆さんに報告ができたら幸せある。
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