んだんだ劇場2004年01月号 vol.61

No19−「再診」の文字が消えた−

12月4日(木)
 なんかムチャクチャいろんなことがあった1日。朝から刊行期限ぎりぎりになってもゲラが戻ってこない『写真帖 仙台の記憶』のことで著者、印刷所と何度も連絡を取り合う。ほぼ10分おきに仙台、弘前、東京(これは広告代理店)に電話をしながらイライラ、カリカリ。おまけに昨夜から家のストーブに石油が流れず、業者を呼んで工事の欠陥を発見、やり直しをしてもらうなど朝からゴタゴタが続いた。それでも10時40分からの「走る脂肪燃焼」「筋コン&ストレッチ」は欠かせない。筋コンはセントラルで唯一の腹筋プログラムだからだ。スタジオに行くと40分からのはずなのに30分にレッスンはスタート。先々週受けたときよりも軽いエアロで少し拍子抜け。隣の古株のNさんに「いつものメンバーがほとんどいないのはどうして?」と訊くと、「この曜日はほとんど来ませんよ」という。ここで変だと気がつけばよかったのだが「この次の筋コンが腹筋で、いいんだよね」と話しかけると、Nさんもインストラクターも怪訝な顔。前半が終わりインスタラクターが代わってヨガの先生が入ってきたところで、初めて今日は水曜日でなく木曜日だったことに気がつく。赤面しながらアンバイ退場。いったん事務所に帰り仕事。1時15分からのS先生の「慣れた方への踏み台昇降」。後半の「やさしいエアロ」はパス。午前中やってるんだもの当たり前。ロッカーで昔の秋田銀行広面支店長にばったり。もう定年退職して「入会費がただというので入った」とのこと。帰り際にセントラル入会カードの顔写真撮影。

 3時、事務所に帰ると県の文化財保護室の方が「あること」で挨拶に見える。帰るとすぐ山形の印刷所の偉い人がこれも挨拶に。フィットネスの汗が引いていないのに大忙し。5時、車で東京から帰ってくるカミさんを迎えに飛行場へ。夕食は山形の印刷所からもらった名品「あらきそば」。7時、デザイナーの金子さんと「仙台の記憶」の最後のカバー直し作業。午前と午後2回もレッスンしているのに夜はいつものコースを散歩。書斎で、寝るまで送られてきた山形の教師の原稿を読み続ける。戦争が起きた1年間の山形の中学生の行動や思考を、当時の新聞や郷土資料、学校誌などから克明にルポする労作で、その緻密さ真剣さに感動する。



12月5日(金)
 昨日に引き続きレッスン。今日は金曜日なので午後から厳しいアヤド・エアロと楽しいピップホップ。と思って行ったらインストラクターは昨日と同じ人。アヤドは1週間お休みらしい。前半の「走らない脂肪燃焼」で終わり。午後からのレッスンは床が滑りやすくなっていて大きな動きは転倒の可能性があって危険。それと昨日から変だと思っていたのだが、シャワーの水が塩っぱいのはどうしてだろう。更衣室で携帯電話を大声でかけているやつがいた。いろんなやつがいる。

12月8日(月)
 朝から本格的な雪。東京に行くようになったので今日が私の初雪である。このところBS2で「小津安二郎生誕100周年」の映画を毎日のように見ている。『小早川家の秋』『東京暮色』など、はじめてみる作品がいっぱいで夜がうれしい。天候不順で散歩が思うようにできなくてもくさらずにすむ。今週はアルバイトの秋大生M君の卒業兼就職祝いやエアロビ仲間の忘年会、新聞記者との会食、といった飲み会が目白押し。ただし11日には定期健康診断(年2回)もあるので飲食はほどほどに、と自己規制。今日のレッスンはいつものS先生の「慣れた方への踏み台昇降」30分と「コンビネーション」50分。よく身体が動いている。東京から帰ってくるときちんと摂生するのが効果をあげている。といっても東京でもそう無茶な暮らしをしているわけではないが、どうしても会食やお酒の機会が多くなる。間食をしない、酒を(あまり)飲まない、暴食をしない、散歩を欠かさない…規則的な生活をしていると暮らしにリズムがでて、おのずと身体に益のない食物を敬遠するようになる。肉や高たんぱくから野菜中心の食事に「好み」が明らかに変化してきている。単に年をとっただけ、かもしれないが。

 古武術研究家・甲野善紀が提唱する「捻らず・うねらず・踏ん張らず」というスポーツ理論を国立の桐朋高校バスケットボール部が実践した成功記録でもある『ナンバ走り』(光文社新書)に感銘を受けて、本棚からツンドク状態だった田中聡『不安定だから強いー武術家・甲野善紀の世界』(晶文社)も読み始める。甲野自身の書いた本も数冊読んでいるのだが、本人が書くととたんに難しくて意味がわからなくなるのに、他者が実践したり解説したりするもののほうは皮肉にもたいへんわかりやすい。「いげたくずし」「ナンバ」といった甲野理論の中核がすいすいと頭に入ってくる。なるほど、こういうことだったのか。甲野理論の実践成功として巨人の桑田投手や陸上の末次選手のエピソードはよく出てくるが、バスケットのマイケル・ジョーダンやイチロー、長嶋茂雄の身体性も甲野理論でカヴァーできるとなるとただ事ではない。近代以前の右足と右腕が同時に前に出る歩き方に、今最も新しいスポーツ理論の秘密が隠されているというのは刺激的だしわくわくする。もう少し勉強してエアロビの動きのなかにもとりいれてみよううかしら。



12月11日(木)
 午後からいつものS先生のステップリーボック。1時から重要な舎内打ち合わせがあったが、体調もいいしぜひ出たかったので遅刻を了解してもらう。午前中には年2回の定期健康診断もあった。血圧は127の63、ホッとする。昨夜から何も食べていないので昼は届いたばかりの「神室そば」。レッスン中、身体のだるさがかなりひどいのに気がつく。よくよく原因を考えたら日課になっている黒酢、にんにく卵黄、プロポリスを今朝(のみ)飲んでいない(診察のため)。栄養補助剤にけっこう助けられているマイボディのひ弱さをしりガックリ。栄養補助食品は身体にいいのか、よくないのか、判断がつかないまま飲み続けているのだが、思わぬところで効果は証明されたわけだ。前半のレッスン終了後、疲れがひどくリーボックのみでパス。舎内での2時間近い打ち合わせの後、近所の焼き鳥屋で、気のあうエアロビ仲間の女性3人とささやかな忘年会。話は弾み、あっという間に10時。一人で迂回しながら歩き(散歩をかねてだが最近は飲んだ後はどんな遠くからでも歩いて帰る)家に帰ったら12時半を過ぎていた。実は明日も新聞記者の人たちと飲み会があるのだが暴飲暴食がかなりコントロールできるようになったので、不安はない。反面、ハードな運動が栄養補助食品によってかろうじて支えられていることも今日はじめてわかり、サプリメントに頼らない食生活も考える必要があることを痛感。さらに日常生活の問題点として、運動(エアロビ)後の午後3時から夕方にかけ、地面に吸い込まれるような怒涛の睡魔が襲ってくる、という現実への対応も迫られている。老いと体力の衰えと、はたしてマイボディはどこまで戦えるのだろうか。

 映画監督の市川昆監督が小津安二郎のリメーク映画を撮るという新聞記事が出ていた。いつものくわえタバコ姿ではなく、ふっくらした健康そうな顔写真を見て驚いた。最後まで記事を読むと「もっと作品を撮りたいのでタバコをやめた」とある。う〜ん、これは問題発言。喫煙者たちのシンボリックな存在でもあったこの人にして「健康のためタバコをやめる」というのは筋が通ってないし、喫煙者にとって影響は少なくないだろう。なぜこんなことにこだわるかというと、私自身の周りには喫煙者が多く、その人たちの権利は充分認めてはいるのだが、禁煙者に対して露骨にコバカにした態度をとる「過激な喫煙者」ほど転向も早い、という現実があるからである。公的な場で喫煙者の権利擁護を声高に叫ぶ著名人も、私が知る限り、年をとるといつのまにか禁煙論者に転向している率はかなり高い。だから私は「過激な喫煙論者」の言説をほとんど信じていない。病気になり、医師から止められると、その時点で99パーセントの人は命が惜しくなり簡単にタバコをやめる。市川監督の記事を見たときも驚きと同時に「やっぱりか」という印象なのである。こんなこともあり、最近は誰に会っても私自身、聞かれもしないうちから「毎日、食事に気をつけ、ダイエットを心がけ、規則正しい生活をして、エアロビや散歩をする、命より健康が大切な健康オタクです」と自己紹介するようになった。50歳を過ぎたあたりから「健康オタク」を標榜しても恥ずかしくなくなったのである。なぜ健康が大切なの、ときかれれば、病気が怖いこと、家族や会社を守る責務があること、もっと長く仕事をしていたいこと、とスラスラよどみなく答えることができる。



12月15日(月)
 今月5回目のレッスン。うち4回はS先生の月、木。「オーソドックスなレッスンが好きなんですね」と先日の忘年会で仲間のHさんに言われたが、どうもその通りのようだ。明後日から東京。今年はお正月も家族みんな東京で過ごすつもりなので今日が最後のレッスンになるかもしれない。東京でもセントラルに行けるから以前のように後ろ髪引かれるような思いはなくなったが。ステップとコンビネーション・エアロで汗を搾り出す。月曜日のレッスンは「さあ、1週間頑張るぞ!」という若々しい精気を身体に蘇らせてくれる。レッスン中、ずっと古武術家・甲野善紀の「いげた理論」のことを考えていた。マイケル・ジョーダンやイチローがなぜすごいのか。どんな球でもヒットにでき、何重のガードもするりと潜り抜ける天才的な身体の運用術は「身体の1箇所に支点をつくらない」からだ、と甲野は言う。その意味がわかってきた。動作の瞬間に支点(ためやねじり、踏ん張り)がなく力(支点)が全体に分散されているから、相手は次の行動予測ができない。イチローがほぼどんな球にも対応できるのも固定的な1箇所の支点を作っていないからだし、ジョーダンがガードを潜り抜けた瞬間、相手が逆の方向を見ているのもそのせいだ。いい映画や本を読んだ後、なぜ自分がそれに感動したかを丁寧に自分と対話しながら分析するのが好きだ。その考える時間はレッスン中が一番適している。頭から余計な雑念が追っ払われている状態だからだろう。



12月17日〜22日
 17日(水)いつもの10時JAS便で東京。発券所カウンターで元オフコースのドラマー大間ジローさんとばったり。飛行機に乗り込むまでいろいろ話をする。ミュージシャンは特有の癖がある人が多いが、大間さんはそのへんの匂いのない珍しいナチュラルな人で気軽に話すことができる。事務所に着いて掃除に買い物。肉じゃがを作り、息子の夕飯の準備をして「地方小」の忘年会。今年の会場はセンターそばの中華料理屋さん。隣に壮神社の恩蔵さんが座ったので古武術家・甲野善紀の話題で盛り上がる。壮神社は甲野さんの本やビデオを出している版元。昨日から田中聡『不安定だから強い――武術家・甲野善紀の世界』(晶文社)を読んでいるので質問にはこと欠かない。機会があれば紹介して下さるそうだ、うれしい。2次会は川上、畠中と市ヶ谷駅前赤提灯で。
 18日(木)晴天で気持ちがいい。朝、息子の食事を作る必要がなくなったので(朝早く予備校に行くので)早朝散歩。早稲田大学まで行きリーガロイヤルホテルで一休み。戻って約1万歩。腹ペコで昼は近所の大阪寿司「大〆」。午後はデスクワークと台所周りの整理。夜は届いたばかりの武満徹全集4「映画音楽」のCDを聴く。
 19日(金)秋田からゲラや書類が届くも仕事する気になれず。天気がいいので神楽坂周辺を歩き回る。昼は「二葉」でバラチラシ。これで神楽坂の有名寿司店を連続制覇。午後からデパートを3軒はしご。正月用のおせちや大晦日に家族で食事する店の予約。けっこう大仕事。夕方、代官山で開催中のNさんのガラス工芸展に行くも本人不在。そこから神保町「名舌亭」へ。ロンドンの丸茂さん、センターの川上さんの3人飲み会。2ヶ月前から予約を入れていた名舌亭の「からすみ」をようやく入手(1万6千円)。歩いて帰宅。少し焼酎を飲みすぎた。金曜日なのにまるで仕事をしていない。いいのか自分!
 20日(土)晴天。今日も外をほっつき歩く。飯田橋から市ヶ谷、日本テレビ、皇居、神保町。東京駅ステーション・ギャラリーで「山口薫展」。買い物をして、久しぶりにそばを打つ。割粉の小麦粉の分量をいつもより少なくして打ってみたらうまくいった。なるほど教科書どおりでなくてもいいんだ。息子は大のそば好きなので「うまいうまい」と食ってくれる。深夜、小津の「彼岸花」。佐分利信の「不機嫌な(日本の父の)演技」を外国人は本当に理解できるのだろうか。朝早く起きなくていいので夜更かしがひどくなる。戒めなければ。ずっと『小津安二郎』(岩波新書)を読み続ける。
 21日(日)今日も晴天。フリーライターの金丸弘美さんと丸の内にある「ミクニ 丸の内」で昼食。金丸氏は三国氏と親しいからだろうが武井シェフが玄関まで見送りしてくれる。帰りは新宿の雑踏を1時間ほどさまよい帰宅。連日食べすぎ、酒と夕食を抜く。空気清浄器やイオン製水器、ジャーポットのフィルター交換や洗浄の期日が過ぎているのでまとめて備品注文。家事は無限にやることが出てくる。要諦は余計な買い物をしない、洗い物はまとめて、細かなことを気にしない、といったあたりか。
 22日(月)今日も晴れ。秋田に帰る日だが東京での一日をムダにしたくないので夜8時の最終便で帰ることに。これなら一仕事や遠くに出かけても十分間に合う(出発の2時間前に家を出る)。午前中掃除や後片付け、夕食の仕込み(野菜炒めと味噌汁)。一仕事終えてから着替えて帰り支度。大江戸線・上野御徒町で途中下車、上野藪そばで熱燗一本におろしそば。そろそろお正月気分の出てきたアメ横を散策。ものすごい人。機中は熟睡、家に帰りつくと九時近くになっていた。

 帰る早々、事務所の机をチェックすると1週間前の健康診断の通知書が届いていた。判っていたことだが一気に暗い気持ちになる。これをあけるときの嫌な感じ。一年で最も緊張と不安でどきどきするときだ。今年から健診は年2回になり春のときは好成績で前年に6つ以上あったチェック項目が、十二指腸潰瘍の疑い(要再診)と不整脈の疑いの2つに減っていた。今年は……健診はじまって以来初めて十二指腸の「再診」の文字が消えていた。15年間で初の快挙! おまけに体重も一年前とほとんど変化していない。これはうれしい。5分前の暗い気持ちがうそのように晴れ渡る。しかしあいかわらず春同様不整脈の疑いが指摘された。健康オタクとしては80点というところか。さあ明日からまたトレーニングだ。



12月24日(水)
 東京出張あけの10日ぶりのレッスンは今期2回目の「走る脂肪燃焼」50分と「筋コン」30分のW先生。今セントラルで最も人気のあるクラスだが、さすが師走、20名ほどの「少ない」出席者で動きやすい。「さあクリスマスで付くぜい肉を落としましょう!」と威勢のいい掛け声でスタート。でも、こちとらクリスマスなんて関係ない年になってしまった(それでもカミさんはケーキだけは買ってくる。そのケーキも今年は近所の和菓子屋・不老庵の餡のデコレーションがついた和風というのが泣ける)。メリハリの利いたエアロでたっぷり汗を流し、地獄の筋コン(腹筋)で油をこってり絞られた。とにかく腹筋は徹底的に弱いようで背中を床につけて徐々に起き上がるという動作ができず、W先生に手伝ってもらいようやく起き上がれる始末、恥ずかしい。昨日の健診の結果に気をよくしている場合じゃないっツーの。腹筋の力で床から置きあがれるようになるのが来年の最優先「人生目標」ダ!
 ロッカーのシャワー室横に小型冷蔵庫をタテ半分に割ったような機材が取り付けられた。なんと「水泳パンツ脱水機」。さっそく使ってみると、これがけっこう便利でタオルの脱水も可能。これなら無造作にバックにいれてもビショビショ濡れないから安心だ。

12月25日(木)
 今日が最後のレッスンになる。いつものS先生のステップ50分。やはり連日だと身体が重い。今年のレッスン回数は、1月は7回、2月は8回、3月も8回、4月4回、5月9回、6月5回、7月6回、8月4回、9月5回、10月休館、11月7回(内2回東京)、12月7回の計70回。回数的にはたいしたことはないが、ここ数年では最も充実した1年間だった(体調的にも気分的にもよかった)。
 おわって年越用の買い物を済ませ、「和食みなみ」で忘年会。今年のゲストは永井さんと藤原さん。


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