No23−何があってもおかしくない−
4月6日〜13日
6日(火)10時JAL便で東京。羽田に着いてから10分間陸路を滑走し(!)、それからバスに乗せられてようやくターミナル着。いつものことながら秋田―東京間50分というのは詐欺。飛行機に乗っている時間だけでゆうに1時間半はある。友人のSさんと小学館の地下食堂で昼飯。事務所に戻り「ミニ引越し」の準備。1年間の東京暮らしで不要なもの、使わなかった備品、使用期限が終わったものを秋田に送り返すため。大きいのはソファーベッドから小さいのはビニール袋まで、秋田から応援に来てくれたFさんの大型バンが荷物でビッシリ。打ち上げの夕飯は3人(息子、Fさん)で神楽坂の焼肉屋。初めての店だがおいしかった。夕食後ひとり神保町まで散歩。水道橋「レトロ屋」という立ち飲み屋でビール。ソーセージのいため焼きなんていうメニューまである戦前風居酒屋で、なんとなくいっぱいやりたくなったのは一昨日まで父親の容態が思わしくなく「ここ数日が山」というような状況にあったからかもしれない。どうにか急場はしのいだものの、もう何があってもおかしくない。心の準備はできているのだが、長男なので、いろんなことが去来して、なんかこうめちゃくちゃ酔ってしまいたい気分だった。 7日(水)部屋が広くなって気持ちいい。午前中は引越しの後かたづけと仕事。午後から神保町。柴崎友香著「きょうのできごと」(河出文庫)買う。行定監督の映画で話題になっている作品だが、何も事件がおきない関西の若者の小さな物語という惹句にひかれて映画を観るつもりだったが、なんだ原作がちゃんとあるんじゃないか。映画の面白さが話題になるのはけっこうだが、原作あるんだから原作者にももっとスポットを当てるべき。夜は息子外泊。ひとりでワイン、ビール、日本酒とのみ続け、かなり酔っ払って散歩。途中でラーメンを食べたようだがよく覚えていない。これも親父のせいか。 8日(木)予想通り二日酔い。朝風呂に入り身を清める(笑)。午後から日本橋のデパートでホームパーティ用の食料買出し。夜6時、神保町の長老S夫妻と友人のS,Kの4人来宅。おもてなしの定番は秋田産のガッコ(漬物)と神室そば。楽しい一夜(HP上で個人名を挙げるのはリスクがあるのでイニシャル)。ホストのせいか、今日はほとんど飲まない。寝しなに斉藤美奈子「戦下のレシピ」(岩波アクティブ新書)読む。 9日(金)10時半、上野駅丸井前で高校時代の同級生Sと待ち合わせ、だったが11時になってもこない。あれっ、きょう土曜日じゃなかったっけ。曜日を間違えた。いったん家に帰り、午後から京王線八幡山の大宅壮一文庫へ。20年ぶりくらいか。午後いっぱい調べ物をして帰ってくる。昔よりも使い勝手がいいのがわかったのでこれから利用しよう。夕食はサラダにスパゲティをつくる。 10日(土)朝風呂に入り10時半、上野丸井へ。こんどこそ30年ぶりに中学時代から仲のよかった同級生のSと会いコーヒーを飲み、蕎麦屋でビールを飲み、大衆食堂で焼酎とウィスキー。延々アメ横周辺で夕方6時まで飲み続け、それでも話は尽きなかった。帰り際Sは、カワハギの干物をアメ横で買ってお土産にもたせてくれた。飲み疲れのため10時、はやばやと布団に入る。 11日(日)睡眠をちゃんととったせいか二日酔いはない。そのかわり秋田からダンボールいっぱいのゲラがきていた。雑用を片付けてゲラチェック。1日中家で仕事。あまりもので夕食をすませ深夜、早稲田大学までとぼとぼ散歩。睡眠と腹筋と散歩で体調はいい。食べ過ぎの飲みすぎをセーブすれば半年毎にある4月下旬の健康診断はナントカか問題なくクリアーできそうだ。 12日(月)朝ごはんはちゃんととる。しかし小食な息子に比べるとあきらかに少し食べすぎ。雑用を済ませ昼は市ヶ谷の蕎麦屋「たちばな」で天ざる。すぐ近くの地方小センターに寄りK氏とお茶。歩いて神保町、「フォリオ」で今度出る「ナンダロウアヤシゲな日々」の著者にゲラ渡し。サブタイトル決まらず、帰りしな考え続けるがいいアイデアがでない。家に着きそうになったのでまた戻り皇居1周、それでもアイデア浮かばない。神保町の喫茶店「古瀬戸」にはいって一息ついたら、ようやく3つくらい案が出る。サブタイトルが決まらないと装丁が遅れ、刊行予定に狂いが出るから必死。う〜ン、これでなんとかなりそう。古書街で自舎本と友人の本(書名は書けない)が100円で売られているのを見つけ購入。そのほか3冊ほど面白そうな本を買い、ゲラがなくなった分、本でディパックがいっぱいになる。このごろ新刊より古本が好きになりつつある。夜は初授業から帰ってきた息子と近所の中華料理屋「五十番」で食事。きょうは完全に食べすぎ。2万歩歩いているからまあいいか、と自分を慰める。もう帯状疱疹の痛みはほとんどないから4月中旬からエアロビに復帰したい。が、まだ迷いがある。早くダクダクと気持ちいい汗をかきたい。 13日(火)朝はパン。少しは肌寒いほど。冷蔵庫に腐るものはほとんどない。冬物もあらから昨日のうちに秋田に送り返した。10時半事務所を出て12時半のANA便で秋田へ。さあ戦場へ、という気分だ。帰りの電車やモノレールの中はあいかわらず声高にケータイをかけている人がいっぱい。秋田に帰るとホッとするのは年のせいだろうか。そのくせ仕事場の机に山となっている書類をみるとむらむらと闘志が湧き上がってくる。やはり自分にとって秋田がすべてのよりどころなのだ。目いっぱい仕事をして、家庭で安らぎ、老親たちの面倒を見、本を読んで野山に遊び、いろんな人と語らいながら年老いていく……まさに故郷である。東京はいまだ私の中ではリゾートに過ぎない。 4月20日(火) 今日は健康診断の日。年2回なので前回の11月からあっという間。だからたいした変化はないような気もするのだが、小生の場合、この短い間に帯状疱疹というビッグイベントを経験。体調になにかしらの変化が生じていてもおかしくない。胃カメラを飲む検診ではないので気は楽だが年2回というのはけっこうせわしない。血圧は130台と80。前回より上が若干高めなのは朝から電話でガミガミ怒鳴っていたせいかも。前回の不安材料は初めて「不整脈」の疑いが指摘されたこと。心電図検査が終わって、そのことを訊くと「今回は何ともないですよ。まあ年をとるとどこかは引っかかるようになってるんですよ」と慰めてもらう。帯状疱疹の痕はまだ薄く右胸に残っていて、いまも蚊に刺された時のような痒みがある。この痒みのおかげでエアロビに復帰する決断がつかないでいる。 昼前に検診を終え、朝から何も食べてないので久しぶりに秋大生協食堂で昼飯。学生たちがみんな優雅というほどでもないが「ゆっくり」食事しているのに気がつき、自分のがっついた食べ方を反省。いまの子供たちは飢えや兄弟間の食べ物争奪戦などと無縁なせいだろうか、おしなべておっとりと食べ物を口に運ぶ。何かすごい発見をした気分で事務所に帰る。 このところ来客が多い。ひきこもるよりは人と話しているほうが精神的にはいいのだろうが、慣れていないこともありけっこう人疲れする。4月は販促月間と決めて編集よりも広告宣伝の仕事を中心にこなしてきたが、それもほぼ山を越し今は結果待ちの状態。小生以外の人たちは新年度ということもあり公官庁関係の仕事でみんな深刻な顔で東奔西走している。86歳でいよいよ身体の自由がきかなくなった父は酸素マスクをはずしたものの、明日何があっても不思議ではない状態が続いている。そのため今月は度々湯沢に行った。病院にいっても口がきけないので、顔を見せ担当医の話をきくぐらいしかできることはない。せいぜい実家でお袋のグチをじっくりと聞いてやることぐらいか。中途半端に実家が近くにあると、何もないときは行くのが億劫になるものだが、4年ほど前に街の中心部に「ラ・シュエット」という喫茶店ができてから状況は少し変わった。コーヒーが抜群にうまいだけでなく、落ち着いた品性ある居心地のいい空間なので、ここで時間をつぶす楽しみが出来た。同級生がやっている店なので身びいきといわれるかもしれないが、秋田県では最もレベルの高い、神保町あたりにあってもおかしくない、ゆったりと優雅な時間が流れる(ような気分になれる)喫茶店である。 4月22日(木) 朝一番のメールで東京のSさんから『玉川温泉ガン闘病日記』の著者ふじみとむ。さんが19日に亡くなったという連絡はいる。1日2500アクセスもある人気HPで自分の闘病記を書き続けている30代の人だが、ここ10日間ほどHPが更新されていなかった。ガン発病から4年半、毎日のように自分の病気や家族、玉川温泉のことを驚くべきパッションで書き続けてきた人なので、「なにかあったな」と気にはなっていたが、やっぱり…。今はよく頑張ったね、といってやるのが一番のはなむけかもしれない。合掌。 このところ夜はもっぱら読書にいそしんでいる。うまく面白い本とあたれば本は芋ずる式に繋がっていく。近藤史人『藤田嗣治「異邦人の生涯」』(講談社)、渡辺一史『こんな夜更けにバナナかよ』(北海道新聞社)と連続で面白いノンフィクション長編が続いたのでボブ・シャーウィン『ICHIRO』(朝日文庫)まで欲張るが、これはマリナーズつきの記者が書いたイチローの一年間のヨイショ記事とスコア―ブック解説がメーンの本で少しがっかり。私生活や物語の舞台裏、知られざるエピソードなどほとんどない。こちらが知りたいのはアメリカにおけるイチローのプライベート(食事や趣味)やトレーニングの実態など。面白い本は3冊以上つづかないということか。 4月24日〜30日 24日(土)朝から小雪まじりの寒い日、11時半ANA便で東京。宮城県の著者が亡くなったので葬儀に出席し、その前後を東京に滞在する予定だったが、遺族から密葬なので来るに及ばず、というメールを直前に受け取る。でも予定通り秋田を発つ。機内は異様な黒服たちが多く乗っていた。先日も帰りの機上に若くて屈強そうな(しかしアホそうな)黒服の若者たちが多く乗っていて、あれは何かスポーツ選手なのだろうが、今回は寡黙で、朝から酒臭い連中(その筋ではなさそう)。いったい何者なんだろう。事務所に着くと岡山で出版社を経営するYさんが待っててくれ事務所で2時間ほど話し込む。最近同業者(地方出版社)と話すことが少ないので貴重な時間。夕方、買い物、常備菜、冷蔵庫の古くなりかけの材料で肉じゃが、ゴーヤチャンプルつくり。夜はひとり晩酌。秋田では父が寝たきり、義母も老化がすすんで仕事以外でも内憂外患。東京に一人いると少しは心穏やかになる。あまり好きな言葉ではないが「隠れ家」みたいなもの。 25日(日)快晴。秋田は雪だというのに。午前デスクワーク。午後から品川まで出て高輪周辺を2時間散歩。帰ってまだ日の高いうちからベランダでビール。余裕が出たら一度やりたかったこと。昼から酒を飲むことはほとんどないので超新鮮で酔ってしまう。2日前から読み続けている中井英夫『虚無への供物』(講談社文庫)がどんどん面白くなってきた。夕方昼寝、夜は神保町まで今日2度めの散歩。2万歩以上歩いている。昔のウォーキングシューズを久しぶりに履いたので足指にまめが出来た。 26日(月)今日も晴れ。洗濯、掃除。相変わらず洗剤がうまく溶けない。水の温度でなく洗濯機に詰め込みすぎで回転が悪いせいか、と思ったが少なくしてもダメ。どうなっているのか。ベランダ掃除をすれば100円箒が役立たないばかりか毛が抜けてかえって汚くなる始末。午前いっぱい仕事をして午後から皇居1周散歩。美術館など月曜休館のところが多い。東京駅から京浜東北線で川口市SKIPシティのNHKアーカイブまでバスを乗りついでノコノコ出かけるが、なんとここも月曜休館。帰ってひとり晩酌。息子は家庭教師のアルバイトで夜遅く帰ってくる。 27日(火)雨、風もかなり強い。秋田から月末資金繰りファックス入り一挙に現実に戻される。メールで新しい著者の原稿も入っている。山形の戦時中を描いたノンフィクションでかなり面白い。午後、北の丸公園を通って国立近代美術館で「国吉康雄展」。そのまま皇居を半周、東京駅のステーションギャラリーで「難波田史男展」。32歳で事故死した難波田は私より8歳上の画家で、作品にもその稚拙さも含め圧倒的なシンパシーを感じてしまった。永田町にある国会図書館に移動し、ある新聞資料を調べてから館内の使い勝手を入念にチェック。6階食堂でタンメン。実は小生こうした大食堂が好き。「うまくもまずくもない平凡な味」が好みなのだ。夕方帰って2時間熟睡の昼寝。けっこう身体はバテている。夜、早く帰ってきた息子と近所のイタリア料理「アルベラータ」。前から行きたかった店でパンもパスタも自家製でソムリエまでいるのには驚いた。久しぶりにおいしいイタリア料理を食べた。 28日(水)朝7時に起きて朝食の準備、後片付け、腹筋・腕立てをして着替え、コーヒーを飲みながら新聞を読み、机の前に座ると9時を回っている。ここからパソコンを開いて一日の仕事が始まるのだが、月末のせいもあり秋田から頻繁に連絡、問題ある老親たちの状況も電話で入る。HP用原稿ややっかいなメール問い合わせなどいっぱい、その返事を書き、細かな連絡調整をするうち、あっという間に昼。午後からは外に出て人にあったり散歩をしたり、調べものや展覧会に行く。夕方には帰って夕食の準備をしてからひとり晩酌。それから2時間ほど机の前で仕事をし、秋田からの日報を確認して、風呂に入り、就眠。これが典型的な東京での日課。今日は午後から新宿まで出て買い物。友人Oさんの喫茶店で一休み。帰って1時間昼寝、6時半から竹橋パレスビルの中にある人材派遣会社パソナの「農業インターンプロジェクト研修説明会」を取材。これは20代のフリーターたちに農業実習を秋田の大潟村でしてもらい農業関連の起業を促すというもの。60人ほどの若者が参加して会場は満杯。1時間ほどで説明会は終わり、3名ほどの若者の話を聞き、神保町に出て久しぶりに「名舌亭」「やまじょう」をはしご。 29日(木)祝日。10時過ぎまでぐっすり寝て昼ごろブランチ。洗濯、掃除。高田馬場まで散歩、帰りは電車で帰ってくる。途中、紳士服の量販店で夏用のジャケット。夜は息子と神楽坂の韓国家庭料理の店で夕食。そのまま水道橋まで散歩。 30日(金)8時起床。バタバタと準備をして12時半のANA便で秋田へ。2時間の余裕をみて神楽坂を発っても羽田はいつもぎりぎり。これは搭乗手続きなどテロ対策で慎重になっているせい。GWにはいったせいかいたるところから赤ちゃんの泣き声でかまびすしい。今回の滞在は3,4日のつもりだったが結局は1週間いる羽目に。そのかわりGM中は秋田で毎日仕事三昧の予定。そして8日からまた東京で何本か仕事の予定が入っている。身体は大丈夫か。いや、それよりも父親の体調に異変があれば、こうしたスケジュールはいっぺんに吹っ飛んでしまう。うかつに重要なアポは入れられない状況になってしまった。東京同様秋田も快晴。 |