んだんだ劇場2004年11月号 vol.71

No29−台風とすれ違い−

9月30日〜10月8日
 9月30日(木)前日から猛威を振るっていた台風20号がちょうどこの朝、秋田上陸。ということで飛行機は飛ばない可能性大と思っていたら、けっこう弱々しい風で無事離陸、東京へ。今回はJALなので到着後のアプローチが長いこと。事務所に着いてネクタイを締め出版祝いの会場である銀座の料亭へ。珍しくタクシーで行ったのだが、日にちが1日間違っていた。会は明日!最近こうしたドジが多いのは年のせいか。事務所に帰ってビデオ屋で借りた行定監督『きょうのできごと』観る。小説はまあまあだったが映画はまったくつまらない。ひとり晩酌の後、おもいたって六本木へ。ここで比内地鶏を「焼き鳥」にして大ヒットした「I」という焼き鳥屋に行ってみる。取材なのだが焼き鳥1本あたりの値段が書いていない。加えてボトルできる酒はヘネシーやドンペリで(ちなみにドンペリは2万1千円)、空恐ろしくなる。焼き鳥屋ですよ、アナタ。けっきょくビールと焼酎に焼き鳥3本で4千円弱。客層は外人とスーツ姿のエリートっぽいOLやサラリーマン。カタカナ業界っぽい人たちも多く貧乏そうな若者皆無。
 10月1日(金)3時から『新雄勝町風土記』の出版パーティ。銀座の料亭などはじめてなので緊張するが、8人ほどの関係者だけの集まりで和気あいあい。帰り際に大きなバウムクーヘン2個をもらう。料亭を使うと最後にお土産があるのはしっていたが、こんなに大きなものもらってもなア。
 2日(土)毎日2リットルの水を飲んでいるせいか二日酔いなし。今日は京都へ。大曲農業高校太田分校の修学旅行に密着取材するためだが、あいにく京都は曇り空。旅館で引率の先生と明日の打ち合わせをした後、友人のHさんの料理屋に行こうとタクシーに乗ると車内テレビから聞きなれた声。石風社のF氏ではないか。「週刊こどもニュース」というNHKの番組でアフガンの国際援助の話をしていた。F氏は福岡在住なのだが京都のH氏が共通の友人でもあることから前も京都であったばかり。京都と縁があるんだなあ。
 3日(日)朝6時起床。8時出発の「京都一日自由行動」に同行。班別なので5名の女学生グループ。このグループは歩いて宿から清水寺、バスで駅裏のファッションビル見学をして、宿まで戻ってくるというコース。若い女の子と接触することなどほとんどないのでわくわくどきどきするが、そのルーズさに驚いたり、物怖じしない堂々とした態度に感心したりと戸惑うことばかり。清水寺には地主神社といって「縁結び」の神社があって、それが高校生に人気で別に清水寺を見たいのではないそうだ。夕方、宿に帰るグループと駅前で分かれ、新幹線に飛び乗る。ヘロヘロで東京の事務所に到着。
 4日(月)寒い。今にも雪が降ってきそうな空模様。2年後のブラジル移民100周年にむけて、小舎の宝物である3000カットの移民写真(10数年前、カメラマンと2人でサンパウロの研究所に泊まりこんで1ヵ月半かけて複写してきた貴重な資料)を使って大型の写真集を作る予定なのだが、その肝心の資料が行方不明で、この1週間事務所では必死で探し続けていたのだが、今日「見つかった」というメール。ほっとする。地方小のK社長と昼ごはん。よく行く蕎麦屋にいったのだが、「なぜ蕎麦は音を立ててすするのか」という「事情」を女将からきく。これは原稿に書く予定なので、ここには書けない。地方小に戻り、気になっている何冊かの本を買う。立花隆さんの新刊『思索紀行』(書籍情報社)は500ページをゆうにこす大冊なのに1600円。文春でも無理な廉価でヤベッチ、ダイジョウブか、でもよくよくがんばったね。これなら立花さんも喜ぶし売れるでしょう。夜はまたK社長とセンターそばにできた北陸の魚を食べさせる居酒屋で一献。明日早いK氏とわかれ水道橋に移動。ここではまたしても福岡の石風社の営業F氏が上京しているので、彼を囲む飲み会。終わって徒歩で神楽坂へ。
 5日(火)連日飲んでいるのだが体調はすこぶるいい。やはり水2リットルがいいのだろうか。今日も肌寒く雨。午前中に吉祥寺に行き親戚のTさんと会う。20年ぶりくらいかしら。午後からデスクワーク。夜は息子とマンションの隣にできたステーキハウスに行くが大ハズレ、口直しに百円すし。久しぶりにいろいろ息子と話をする。大学では田原総一郎の「大隈塾」という講義がおもしろいそうだ。今回はゲストが小沢一郎で、そのため学内反対デモまであったという。その前は猪瀬直樹で、このときは田原氏と本気で授業中にケンカが始まったらしい。この講義は人気があり全学生対象なので、講義を受けるための論文試験があるのだそうだ。
 6日(水)天気がいいので思い切って午後から神保町経由で上野まで(1万5千歩)歩き、公園で「マチス展」を見て帰って来る。少々疲れて昼寝するも寒くて目覚める。息子が友人の家に外泊するというのでひとり晩酌、夜長に昨日本屋で買っておいたねじめ正一『出もどり家族』(光文社文庫)と北村鮭彦『おもしろ大江戸生活百科』(新潮文庫)の2冊を一気読み。12時ちょっと前、かなり大きなゆれでベランダに飛び出す。震度4クラスの地震のようだ。秋田ならどうってことはないが、東京のマンション暮らしではさすがに恐怖で縮み上がった。どこに逃げて誰に助けを求めていいやら皆目わからない。
 7日(木)今日も快晴。朝から打ち合わせ関係の電話やメールで忙しい。こんな日は外に出たいのだが出ると半日ムダにしてしまう。2時から外出。四谷まで歩き、用事を片付けて、また歩いて戻ってくる。1万2千歩。家でメールチェックをして用事を片付け、5時にまた外出。今度は新宿で無明舎のファンだという見知らぬ人と、ある著者を介して食事。秋田でも10日ほど前、見知らぬ読者から電話をもらい昼ごはんを食べたばかり。なんか芸者さんになった気分だが悪い気はしない。
 8日(金)小雨模様。朝10時に事務所を出て羽田へ。昼にはもう秋田で仕事をしていたのだが、最初の仕事は留守中にたまった郵便物の整理、返事書き、メール連絡、印刷所や著者との進行再確認、といったところ。わかっているけどミスが出る。それでも集中して仕事をかたずけると、その達成感というのはけっこうあなどれない。



10月17日〜21日
 17日(日)11時半ANA便で東京。台風とはすれ違い。空港の売店で浅舞漬物研究会(という会社名)の漬け物を何種類か買う。自分で食べるため。カミさんはここのやつは甘すぎて嫌いだというが小生はミソ漬ゴボウや辛しナス、いぶりガッコ、チョロギを酒の肴にするので、このぐらいの甘さがちょうどいい。朝ごはんもこれで済ませてしまうのだから安上がりでもある。空港カウンターで、貯まったマイレージで航空券を買いたいのに電話がいつも通話中なのを抗議すると「皆さんによく言われます」とのこと。だったらどうにかしろよ。今日は何も用事がないので事務所に直行せず上野で電車を降り「上野藪」でお銚子に蕎麦。現時点で一番好きな蕎麦屋がここ。外人やパンクのお兄ちゃん、おのぼりさんがいつもいっぱいで、神保町の蕎麦屋のように気取りがない。なぜかここの菊正宗はぬる燗がうまくて、同じ酒のシャーベット(みぞれ酒630円)も大好き。山葵と薄口醤油が他の藪の店とまったく違うのも小生好み。3杯の昼酒でヘロヘロになり事務所着。
 18日(月)夜中におしっこに5回近く起きる。確かに水はたくさん飲んでいるが、いつもは夜1回しか起きない。何か特別なものを飲食したか考えてもよくわからない。昨日の酒はそんなたいした量ではない。どうしたんだろう。神保町まで散歩。帰りに神楽坂の「ブックスミヤ」(新潮社のそば)に寄り何冊か本を買う。いいタナで、この近辺では自分に一番フィットする本屋さんで好きになる。夜は息子と近所の「香港食堂」。美味しかったが最後のチャーハンがベチャベチャでがっかり。
 19日(火)台風の影響か今日も雨。午前中デスクワーク。午後から歩いて神保町まで。昼は友人のSさんと市ヶ谷まで「さば定食」。タクシーで食べに行っても惜しくないほど美味しい。ピンクレディのお兄さんがやっている店なのだそうだ。雨の中を歩いて事務所へ。歩き足らなくて飯田橋の路地を探検。何やかやとこの二年近くで事務所にたまってしまったものを秋田に帰すために梱包作業に精出す。東京は月に1週間しかいれないから多くの日常品は不要。それがわかるまでこんなに長い時間かかってしまった。スーパーで輸入物の安いマツタケを売っていたので、安い牛肉も買って夜は豪勢に「すき焼き」。息子と鍋の底までなめつくす。日本シリーズは巨人以外のチームが出るととたんにエキサイテングになる。面白くて最後まで観てしまう。やはり野球は巨人がダメにしたんだなあ。
 20日(水)珍しく10時間近く熟睡。昼ごろ起きだす。秋田にいると土日もカミさんにどやされて7時にはちゃんと起きる癖がついているから、こんな朝寝坊は久しぶり。疲れもたまっているのかもしれない。ブランチをつくるのも面倒なので近所の定食屋で950円の和食バイキング。メーンはサバ煮だった。傘をさして裸足にサンダルのまま神楽坂界隈の路地を当てもなくほっつき歩く。ここに住んでいると毎日違う店で昼飯を食べられそうだが、もうそんな興味はとっくに失せた。できれば毎日お漬け物で真っ白なお米を腹いっぱい食べたい。なんてこった。夜は新聞社の友人と銀座のスペイン料理店で食事。かなりの有名人気店なのだそうだが、台風が接近していて外は豪雨、客がほとんどいない。おかげでゆっくり食事が出来た。土砂降りの中をタクシーで帰宅。明日無事に秋田に帰れるだろうか。明後日から秋田でいろんなアポが待ち受けている。
 21日(木)7時前に目を覚ましシャワー。台風は茨城あたりで温帯低気圧に変わったらしく穏やかな小雨。傘をさしながら東京駅まで歩く。飛行機が飛ばない可能性もあるので新幹線にしたのだが電車は満席、ぎりぎりセーフ。4時間近くかかって秋田着。例によって東京から送ってあった荷物(ダンボール4個)を整理し、たまっている郵便物に目を通し、電話やメールをしていると外は真っ暗。家に帰ると夕食はサバ定食。夕食後は散歩、日本シリーズを見てから夏物を整理し秋冬物に衣替え。深夜1時を回っている。さあ明日からまた忙しい日々が始まるゾ。


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