んだんだ劇場2004年2月号 vol.62

No9

干しガレイ荒浜ブランド

 僕らの獲ってきたカレイを干物にして売っていこう!と漁業研究会(青年部)は俄然盛り上がっている。3月、湾内にマリーナが出来るにあたり、式典のお土産に荒浜産の海苔と干しガレイが来賓に配られるのだ。その干しガレイ作りを町から委託され、ゆくゆくは保養センターやインターネット販売をする足がかりにしたいと思っている。3月初旬までに約三千枚を作るのだが、この1月後半から2月一杯のうちに作っておかなければ、3月、4月は我々底引き網漁が禁漁期間になる為、マガレイが獲れなくなる。早急に干しガレイの味を研究して青年部ブランド、荒浜ブランドを確立しなければならない。
 干しガレイの味付けは人それぞれ好みがあり「俺はしょっぱいのが好き」と言う人もいれば「俺は醤油をかけて食べるくらいの薄塩がいい」と言う人もいて十人十色である。
 100枚ほどのマガレイを市場の競りで買い、内臓を取る作業からはじまった。青年部全員が集まっても10人ほど、この日は7人が集まった。カレイのサイズは手のひらより少し大きめ、皿に乗せたときに様になる一番値段の高いサイズだ。うろこを引いて腹の部分に小さい切れ目を入れ、腸(わた)を出す。慣れてくると1枚につき5、6秒で一連の作業が終わる。
 問題は塩加減だ。5通りの味を作る事にした。10リッターの水に対して3パーセント(300グラム)〜7パーセント(700グラム)の塩を入れ、それぞれの水に約1時間浸けた後、細い棒にだいたい10枚ずつ通して2時間天日に干す。この日は風もいい感じに吹いて出来具合は良いようだ。町の商工水産課の課長をはじめ、通りすがりの漁師さんなどに焼いて試食してもらう事にした。まずは3l、「味が無い!」と言う意見が大半だが、「これくらいがいい」と言う幹彦あんちゃんもいた。僕も魚本来の味は出ていると思ったが、もう少し味に押しがあってもいいかも知れない。そんな感じで7lまでを焼いたところいちばん票が集まったのは5lの塩水に浸けたものだった。癖の無いほのかな塩加減だ。もう少し濃いのが僕は良かったのだが万人向きなのはやはりこれ位なのかもしれない。
 何はともあれ味が決まった。皆でビールを飲みながら今後の展開を話し合った。今、スーパーや魚屋で売っている干物はどんなパックに入れられて、どれくらいの値段がするのかだれも興味が無かった。買い物に行った時はそこいらの所もアンテナをはってこれからは見てみようと言う事になった。
 2月はじめ、風が強く漁に出られない為、干しカレイ作りを1日かけて作る事にした。
 この日はマガレイが各船で大漁。今月中に3千枚用意する為には、今日作れるだけ作ってストックしておきたい。競りでは青年部が買い占めた。他の仲買も値を上げて相乗効果もある。5人で腸を取り塩水に浸ける。ここまでで約2時間、棒に刺したり洗濯バサミにはさんだりして乾かす作業に4時間ほどかかり、その後、箱にシートを敷きカレイを並べる。それを冷凍庫に入れて作業完了。枚数を数えたら1800枚だった。慣れない作業ということもあり時間がかかったが初回にしてはまあまあの枚数を作れたと思う。
 何よりも我々若い漁業者が、自分達の獲ってきた魚に付加価値をつけて売っていこうと何かアクションをする事自体初めてのこと。みんないつもより充実感と自信が出てきたように見えた。安い安いといつも愚痴っている体質を少しずつ変えていくための初めの一歩だ。

 それにしても漁に出られない。波が高く沖に出ても途中で戻る日も何度かあった。1月は殆ど海苔の手伝いに行って、底引きは5回ほどしか出漁しなかった。2月は去年4回ほどしか出られず今年も出足は鈍い。そんな中ある団体からシンポジウムに参加して欲しいと電話があった。僕の事をホームページで知ったとの事。シンポジウムの主旨は「わたしのチャレンジライフ」と題し、「異なる世界に飛び込んだら?」「見知らぬ土地で暮らすって?」新しい自分なりのライフスタイルを求めてこれからの仕事、これからの生活を考えてみませんかといった内容だ。70人ほどの一般の方の他、パネリストとして僕のほかに東京でOLから転身してカフェを経営した方、長野で地域の活性化を図っているりんご農家の方などが参加するとの事。場所は東京の日本青年館、親方に休みをもらって参加する事にした。
 漁師さん全般に言えることなのだが、この世界とても閉ざされていて、海と船の往復、話す人も漁業関係の人が殆どで他の世界の人との交流が無い。その為考え方が片寄ったり、人付き合いが上手く出来なかったりする人も少なくない。僕自身も狭い地域の中でしか活動していなかったのでどっぷりと浸かりつつあった。いろんな人達と会い、今の漁業の現状、問題点、そして楽しさ、やりがいなどを話すのも僕の大事な任務だと思っている。それにしても久々の東京。友達と会うのも楽しみのひとつだ。会社で仲の良かったメンバーと早々と飲み会の段取りもして2月19日出発の予定だ。

 2月から荒浜はホッキ漁が解禁になった。秋のはらこめし同様、亘理の食事処ではこの時期ホッキめしが名物でどの店でもそれぞれの味付けで一押しのメニューだ。親方と2人、去年からもう1艘の小さい船で漁をはじめたのだが、今シーズンは干しガレイ作りがあってまだ一回も出ていない。船の準備は完了したので早く出たいところだ。
 しかしこのホッキが今年は最初から安い。去年は浜値で安くても400円だったが、すでにこの時期300円台になり、物によっては100円台もあるとの事。店で食べるホッキめしは千二、三百円ほどする。とてもおいしいこのホッキ、色々な食べ方を僕たちが提案していくことが大事だ。

 海苔積みの作業を終えて湾内に帰ってくると、岸壁はボラ釣りの人達で見事な景色だ。たかしおんちゃんも暇を持て余し、漁に出ない日は殆ど毎日ボラ釣りをしている。「ヒロタケー、ボラ持っていけー!」と向うの岸壁から大声で叫んでいる。「何匹釣ったのー?」「50」
 釣り名人のたかしおんちゃんは短時間で毎日これぐらいは釣っている。周りの人達はビックリして釣り方を教えてもらったりする。この時期のボラは寒ボラと言って脂が乗って、刺身にしても美味いらしいのだが、荒浜の海の人達は食べないらしく(外道扱い)たかしおんちゃんもどっさりと近くの釣り人に置いてくるらしい。特に山の方から釣りにきている人はもう大喜びで貰って行くとのこと。
 僕も話の種にたかしおんちゃんから5匹貰ってフライにして食べてみた。癖が無くさっぱりとしていて割といける。アジに近いような感じだ。子供たちの受けも良く、よっぽど漁に出られないときは又、貰いにいこう!たかしおんちゃんに報告したら「それじゃ俺も食ってみっか」ということでフライにして食べた所「悪くないぞ」と思い、奥さんに勧めたらしいのだが最後まで口にしなかったらしい。禁漁までもう少し。気を抜かないでラストスパート!


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