んだんだ劇場2004年4月号 vol.64
No9
明治のお蔵にどっさりこ

腰掛庵の「わらび餅」と「醸まん」(山形県天童市)
 山形の知人が言っていました。「山形は蕎麦は旨いけど、これという美味しいお菓子がないんだよね」
 そう言われてみますと、確かにすぐ頭に思い浮かぶようなお菓子がなく、強いて言えば<富貴豆>ぐらいと思っていました。ぼくの無知だったようです。鐙編集長が天童市出張の折に買って送ってくれた(少し前になりますが)腰掛庵の「わらび餅」と「醸まん」という酒まんじゅうを今日は紹介したいと思います。冬の間、運動もしないで甘い物ばかり摂取しているとデブになるばかりでなく、そろそろ糖尿の心配もしなければならない年齢ですので、糖分の間、甘さを控えていました。ご理解ください。

●「わらび餅」 わらびの根には豊富な澱粉があって、それを粉にして餅にしたものです。昔、凶作の時など、米の代用食として珍重されたものと聞きます。秋田県でも江戸時代、飢饉で米の収穫が激減した時、年貢の代りにわらびの根を納めさせたという話もあるくらい貴重なものでした。粉の出来る割合が少ないため、今もやや高価なものになってしまうのは仕方ありません。ところが、これが今、自然の味として隠れた人気をじわじわ発揮しているのです。
「わらび餅」は葛餅や片栗の澱粉と似たところもありますが、腰掛庵のそれは、本わらび粉100%使った本物です。ぷるんぷるんした柔らかな餅に香ばしい黄な粉をかけた上品な味にはちょっと驚いてしまいます。きっと3世代前のご先祖様に会ったような懐かしい味がするでしょう。わらび餅1皿(ほうじ茶付き450円 小箱600円)

● 「醸まん」 いわゆる酒まんじゅうです。酒まんは各地にありますが、それぞれ特徴があって食べ比べするのも一興です。腰掛庵名物の「醸まん」は、水を使わずに吟醸酒の酒粕から作った酒ダネだけを使って生地を練ったものだそうです。ほんのりと漂う酒の香りと、ほどよい餡の甘味が調和した逸品です。1個150円はやや割高と思われるかも知れませんが、百聞は一食にしかずです。

あとがき
 天童の甘味処、腰掛庵は舞鶴山のふもと、北目にあります。北目といえば、かつての羽州街道から山寺街道が分かれ、「めでためでたの若松さま」への追分にもあたります。舞鶴山の山頂に登りますと景色は抜群で、春だと美しい枝垂桜に出逢うこともできます。
 肝心の腰掛庵は築後120年という座敷蔵のお店で、大きな囲炉裏のある広間からは桜を眺めることもできます。ぼくは腰掛庵の広報マンではありませんが、羽州街道の取材以来、この町が好きになっています。人間将棋で有名な舞鶴山天童公園や明治時代の旧村山郡役所など見るべきところは事欠きません。藤原優太郎の『羽州街道をゆく』(無明舎出版)を片手に山形の甘味旅をすることを、ぜひおすすめしたいと思います。

腰掛庵(仲野和子)
天童市北目町1-6-11
TEL 023-654-8056
FAX 023-653-3962
定休日月曜 祝日の場合営業

わらび餅

醸まん




行列のできる小さなお店

鈴為もちやの「ミルク焼」(秋田市南通)
 昔からある「豊年焼」などと同じ懐かしいオヤキの仲間です。
 鈴為のミルク焼というと、秋田市の女性なら知らない人はいないほど人気の美味しいオヤキ。雪が舞う寒い季節などとくに、この乳色をしたほくほくのオヤキを懐かしむ人が多いのではないでしょうか。やさしい母の温もりが感じられるかも知れません。
 そこで、ミルク焼といえば、ミルクの入ったオヤキと思っている方が多いと思いますが、実はミルクは入っていません。ではなぜミルク焼なのでしょうか。その秘密は白い最上質の小麦粉にあります。中にたっぷり入ったつぶ餡は北海道十勝産の小豆が使われ、もちろん添加物は無し、俵型の鋳型で焼かれたオヤキはこんがり香ばしい出来上がりです。今では貴重な経木に包まれた包装にもほのぼの安心感があります。
 お店のすぐ近くには聖霊学園の女子校もあり、お客さんは圧倒的に女性が多いようです。店のご主人は「オヤキも女性と同じで白いほうが喜ばれるよ」というとお客さんも喜ぶとか。また「ヤキモチも女性の特権、でも焼き具合はほどほどがいいようだね」とリップサービスも忘れません。
 生ものであるため、当日賞味がいちばん味がいい。冷たくなってもチンするかこんがり焼き直すとまた格別美味しいですね。
 鈴為もちやは先代の創業以来70年ほどの歴史をもつといいます。そしてミルク焼は、餅ばかりでは店がナガモチしないとして考えられたアイデア商品だったようです。それも早、50年以上の年月を経ている長寿オヤキです。ミルク焼はほぼ通年の商品ですが、8月の1ヶ月間だけはお休みするとのことです。
 遠いふるさとに帰ったような懐かしい味、鈴為ミルク焼の味を一度、お試しになってみて下さい。

鈴為もちや(鈴木為彦)
秋田市南通
 みその町2-1
TEL 018-832-4913
聖霊学園通りにある。

鈴為もちや

ミルク焼き




街角から千福万来

斎藤もちやの大福餅(秋田市楢山)
 春彼岸も過ぎて雪の北国にもようやく春の香りが満ち、お菓子屋さんの店頭に桜餅やうぐいす餅など、季節のお菓子が並ぶようになりました。今年は桜の開花も相当早そうで、各お店では花見だんご作戦に忙しいことと思われます。
 秋田市楢山本町というと、昔は楢山表町といって周辺に住宅地をかかえ、盆暮れには結構にぎわう商店が並んでいました。
 斎藤もちやはそんな通りの中ほどにあります。外見はあまり目立たない店構えですが、ここの「大福餅」は知る人ぞ知る(知らない人は覚えてね)本物です。もちやさんは主に慶事仏事の際の餅や赤飯などを作る専門店です。「もちはもち屋」という言葉どおり、日本文化に根ざしたハレの日には欠かせない存在。店頭は普通のお菓子屋さんのような雰囲気はありません。がらんとした店頭に小さなガラスケースがあってその中に、大福餅やお赤飯が少しあるだけです。お店に入っても大きな声で呼びかけるとご主人か奥さんが出て来ます。ここの大福餅は、もちやさんだけあって味も当然、本格派です。紅白、草もち3種の大福餅は一度味わうととても幸福な気分になれますが、これ以上、詳しい内容は口では説明できませんので、とにかく口に入れて感じてみて下さい。このところもち米の価格高騰で1個100円が110円というのは仕方ありません。
 このお店、実は夏になると大勢の人が押しかける人気の店として有名です。昔懐かしい「氷水」(カキ氷)を食べる人で行列ができるのです。見かけや量産を主眼とする甘物業界の中にあって、日本人の魂を呼びさます素朴な甘さを提供する、そんな地味なお店も少なくなりましたね。

斎藤もちや
秋田市楢山本町2−1
TEL 018-832-5834

斎藤もちやの店構え

知る人ぞ知る大福餅


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