んだんだ劇場2004年11月号 vol.71
No24
カードが使えるようになった!

 8月6日からの1週間の海外研修が1ヶ月後に迫ってきました。電動車椅子の機構機内の移動に関して、打ち合わせをしていく中で、アメリカアーカンソー州で1週間生活する準備もしていました。一緒に行くNさんにメールで質問をしていました。
初めての海外。どのようなものを準備すると良いのか、分からないので、教えてください。
・お金に関して
 外貨への両替は、どこですればよいのでしょうか。近くの郵便局で、ある程度の金額を両替すると良いのでしょうか。また、クレジットカードを利用したほうが良いのでしょうか。
・荷物について
 アーカンソー州は、ネットで調べたら、秋田の夏とほとんど同じ気候ですね。秋田の夏と同じ感覚の服装で、よろしいですよね。宿泊地で、洗濯をできますよね。そうすると、1週間分を持っていくというより、4日分くらいの着替えで充分ですよね。スーツケースに詰めていきます。
・海外旅行保険に入った方が良いですよね。
 Nさんは、どのような保険に入っていますか?
・研修中に、具合が悪くなったら…
 どのようになるのでしょうか。熱が上がった場合、日本から風邪薬などを持っていて、服用しようと思っています。
・海外携帯電話を利用したほうがいいのかな…? 
・現地に、パソコンを持っていこうと思います。
 すぐに、まとめたいのです。できれば、インターネットに接続して、発信したいのですが・・・変圧器を購入したほうがイイのですか?
すみません。いろいろと分からないことがあり、質問して…ゆっくりと準備をしたいのです。準備から研修のつもりです。これからも質問することがあると思います。気づいたことがありましたら、アドバイスをよろしくお願いします。

Nさんからの返信メール
・お金に関して
やはり、安全なのは
1.持っていかない使わない。
2.最低限、トラベラーチエックにする。5万円程度で十分、100ドルは大きすぎるので20ドルで十分。
3.できればクレジットカードがあると便利。visa or masterが一般的。加入も楽だし年会費も安い。サインをするのが大変かも。できますか。
4.サインを考えると、1人で歩かないのであれば現金(ドル)が便利。秋田の近くの銀行で両替をするのがいいと思います。$20札で準備するのがいいです。
1番のお勧めは4でしょうか。アメリカ国によりは日本国内の方が御金はかかると思います。
・荷物について
時期的には秋田より一寸暑いと思います。外にいる事がそんなに多くないので部屋の中は涼しいです。必ず長袖のものを持っていって下さい。飛行機の中も同じです。海外では冷房がきついです。洗濯はできますので、四日分で十分でしょう。教会に行くかも知れないので、一寸格好いい格好、先生の学校に行っている格好が一つあると便利だとおもいます。
・海外旅行保険について
必ず入って下さい。私はAIUです。
・研修中に、具合が悪くなったら…
以前、子どもが盲腸炎にかかり、アメリカの病院で手術をしました。保健で全てまかないましたが、特に問題はなかったともいます。保健は大事です。常備薬は必ず持っていって下さい。水は変わりますので、胃腸の薬は必要です。ある程度は私も持っていきますので、それほど大げさに考えなくて良いですが、自分の必要なものは持っていくのが安心です。
・海外携帯電話について
必要性はありません。私が使ったことが無いというのが現実です。
・現地に、パソコンを持っていこうと思います。
東芝のパソコンでは240v(現地は200v)までは対応しているので別途に購入しなくても良いです。電源装置の電圧の許容値を見て下さい。 インターネットの接続は無理かもしれません。Janeさんの家にはコンピューターが有、メールは送信可能。

 7月26日に、秋田市内の小・中学校は夏休みに入りました。その日の午後から有給休暇をとり、日本円をドルに両替するために、秋田銀行新屋駅前支店へ行きました。窓口に行くと、「三戸先生、お久しぶりです。土崎中でお世話になった○○の父親です」と担当者は声をかけてきました。その生徒は階段の上り下りのサポートなどを積極的にしてくれた生徒でした。「先生、今日はどのような用件ですか」と聞かれたので、この夏にアメリカへ研修に行くこと、そのためにお金の両替をするためにきたことを話しました。「すみません。あいにく、ウチの銀行で外貨への両替はやっていないですよ…新屋支店では、やっていますよ。ところで、先生はクレジットカードをお持ちですか?海外に行くときは、現金を持って行くよりもカードの方が便利ですよ。私が海外へ行くときは、財布に殆ど現金を入れていきません。カードで済ませますよ」とカードを見せてくれました。
三戸 「…カードが便利であることは分かるけど、サインすることが困難なような気がして…だから、現金を持って行こうと考えています」
担当者「先生、字を書くことはできますよね。それなら、大丈夫ですよ。物は試し。カードを作りましょう。もしダメなら、破棄すれば宜しいじゃないですか。年会費の1,312円は掛かりますけど…」
 商売上手のお父さんに乗せられて、『あきぎんVISAカード』を作ることになりました。「アメリカ研修に間に合うように、急いでカードを作ります…」と一通りクレジットカードの説明を聞き、必要書類に記入して貰いました。
 数日後、カードが届きました。早速、カードの裏の"ご署名欄"に署名をしようとしました。"この欄には、筆跡が本人と分かるものであれば、何を書いても良い"と言うことで、(何を自分の署名にしようかな。今まで一番書いてきたので、一番書きやすい字は、自分の名前かな)と悩みました。そこで、躊躇することなく『三戸学』を自分のサインにすることに決めました。サインペンを左手に持ち、縦が1p、横が5.8pの長方形の枠を見下ろしました。急に脳性マヒ特有の不随意運動が激しくなり、手が震えてきました。この狭い枠に書こう…あるいは書かなければならないと思うから、心身が緊張してきました。その気持ちのまま、直筆で『三戸学』と書きました。我ながら、自画自賛の字でした。高々、自分の名前を漢字で書くだけなのに、汗をかいていました。(これが自分なんだ)と妙な自己理解が深まりました。
 さて、僕の直筆サインでショッピングできるのかを試しました。長崎屋のメンズショップでアメリカに着ていくTシャツを買いました。レジでお会計を済ませるとき、財布からクレジットカードを出しました。「一括ですか。それとも、分割ですか」と店員はカードを読み取る機械にかけながら、聞いてきました。「一括でお願いします」と答えると、「はい。こちらにサインをして下さい」とボールペンを差し出されました。(いよいよ…)と思うと少し緊張してきましたが、(なるようにしかならない)と思い、まるで使い慣れているかのようにサインをしました。すると、店員は「ありがとうございます。またのご来店を」と言い、カードを手渡しました。(ヤッター)と心の中で叫びました。自分のライフスタイルが変わったような気がしました。他のお店でも試したくなり、ユニクロ・ヤマダ電機・カメラのキタムラに行きました。いずれのお店もアメリカ研修で必要な物をカードで購入することができました。カードは現金で買い物をするときよりも便利でした。購入金額を財布から取り出すことなく、カード1枚を取り出すだけで済みます。署名も全部のお店でO.Kだと字を書くことに自信がついてきました。今までは3378円の買い物をすると、その金額の紙幣や硬貨を取り出すことが大変でした。財布の中から1つ1つ取り出すことに時間がかかり、手っ取り早く5000円札を出して、おつりを貰っていました。そのおつりが財布に溜まり(特に、硬貨の方は)、異常に膨れあがった財布を持ち歩いていたこともありました。今度は、実際にアメリカで使用できるかどうかです。
8月1日
 アメリカアーカンソー州のことをWEBで詳しく調べたら、秋田よりも少し暑いそうです。(連日、秋田も真夏日が続いています)日射病にならないため、帽子をかぶることになりました。夜、近くのスポーツ店で帽子を買いました。普段、帽子をかぶる習慣がなく、帽子を持っていませんでした。というよりも、頭が大きくて、僕の頭にヒットする帽子のサイズがありませんでした。予想通り、なかなかサイズがなく、店員さんと一緒に探しました。色と柄が気に入ったHATがあり、購入しました。
 数学科の先生たちと秋田西中の先生たちから餞別をもらいました。いずれも、突然のことで驚きました。今日は、職員室で校長先生が手渡してくれました。「ありがとうございます」と言うと、職員室にいた同僚の先生が拍手。校長先生が「秋田県の代表として、がんばって来い」と激励をしてくれました。
8月3日
 昨日の夜はヤマダ電機に行き、クレジットカードで「電子辞書」を購入しました。同僚の先生に"いざ、と言うときにあった方が便利だと思うよ"とアドバイスをもらって、買おうと思いました。実際にあった方が心強いような気がしました。ヤマダ電機には、数多くの電子辞書が置いてありました。軽くて、持ち運びが便利であり、高校生が電子辞書を使用する現状に納得しました。キーボードが打ちやすさが僕の商品を選ぶ基準です。時代に逆行しているかもしれませんが、ボタンは小さいければ小さいほど打ちにくい。僕にとって、ある程度の厚みがあった方がキーボードは打ちやすいです。
今日の午前中、電動車椅子のメンテナンスをしました。バッテリーの交換とクリーニング。現在、5年目の電動車椅子。バッテリーは半分以上、消耗していました。「長持ちしているね」とJCIの太田さん。普通は、3年が限界と言っていました。新しいバッテリーに交換して、布で電動車椅子を拭いてクリーニングをしてもらいました。少しキレイになった愛用の電動車椅子で、2日後に渡米します。
 今日の夜、午後7時から地域の居酒屋で、アメリカ行の壮行会がありました。10人の有志が集ってくれました。研修の豊富を語りました。「いろいろなものを見てきて、聞いてきて、報告してほしい」と発起人。最近、なかなか寝付けない。暑いせいなのか…それとも、気持ちが高ぶっているのかな…

僕のメールマガジンU

 2001年3月25日〜2001年3月31日まで、アパート探しをしていました。赴任校が決まったら、その学区内に住みたいと思っていました。僕の新居探しは、スムーズに進むだろうと安易に考えていました。土崎地区にある不動産屋を全てあたりました。"1階で、電動車椅子を置くスペースがあるところ"と条件を提示すると、ほとんど絞られます。土崎地区は番地が違うと、学区が違うという複雑な地域で、距離的にそんなに違わない物件があっても、それは学区外にありました。学区外に"バリアフリー住宅"はありましたが、学区内になく…トホホホ。
 自宅がある新屋から赴任する土崎中学校に、電車で通勤できます。僕はこんなことを真剣に考えました。通勤をするにも、学区内に引っ越すことも、両方、多くの人の支えが必要です。半年間、秋田市立下北手中学校で講師をしていたとき、新屋から通勤しました。多くの人が階段の上り下り、電車の乗り降り、バスの乗り降り…をサポートしてくれました。学区内に引っ越すことで、僕の日常生活に、生徒が関わってくるかもしれません。だけど、現実は厳しく、なかなか見つかりません。県住を考えて、『秋田県建築住宅センター』に相談しました。学区内に県住はありますが、4階の部屋しか、空いていないということ。エレベーターもエスカレーターもなく、しぶしぶ…
 秋田市教育委員会学校教育課に「土崎中の学区内に住みたいと思っていますが、住家がなくて…何か情報があったら、教えてください」と相談しました。少しでも僕の状況を知ってほしいと思っていました。周りの方の協力を得るために、障害者は自分の状況を知らせる必要があります。「赴任校の校長先生が一番よく知っているから、校長先生に相談してみると良い"と言ってくれました。3月28日に、引継ぎ作業があり、そのとき校長先生に相談しました。校長先生は、"地域の中に住むとは、すばらしい」と言ってくれました。赴任校の先生方が1つのアパートを紹介してくれました。僕が使いやすいように、ほとんど段差がなく、学校から歩いて10分くらいの近さなのですが、電動車椅子を置くスペースがない、7畳の1LDKで、狭いということで断りました。
 4月1日、僕が一押しのアパートの大家さんに会いました。そのアパートは、玄関まで2段の段差があり、そこに板をはって良いか、どうかの話し合いをしました。午前10時にアパートで会い、1時間くらい話し合いました。結果は、良いよということでした。4月1日から、引っ越しをしたかったけど、今月の7日、8日に引っ越す予定です。
 今日は赴任校に初めて出勤する日。午後から、県庁で辞令交付式があります。正式な教員として、スタートをきるわけですが、気負わず、ありのままの僕で、自分で心の中にバリアを作らないで、楽しく生きていこうと思います。          

2001.4.2

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 4月4日、始業式。待ちに待ったこの日。先生として、本当のスタート。この日を迎えて、真っ先に思うことは、これまで関わった多くの人たちに感謝したい気持ちでいっぱいです。今まで、本当に多くの人たちにお世話になりました。これまでの多くの人たちの出会いが、今日につながっているような気がしてなりません。
 生徒にとって、始業式だけど、僕にとっては、新任式。赴任校の生徒と初めての出会いの日。"はじめよければ、すべてよし"と言われるように、出会いを大切にしていきたいと思っています。
 3月28日(水)の引継ぎ作業のとき、前校長が「1年部の所属で、1年生の数学と他学年の数学をお願いします」と言ってくださいました。続けて、「…三戸先生は、1年間初任者研修があります。校外研修30日、校内研修60日ですよ。たくさんのことを学ぶ気持ちで、教師1年目を…」と言ってくださいました。
 今年度は、担任を持ちたい気持ちでいました。学年所属と聞いて、少し残念な気持ちになりました。でも、余り気負わず、しっかりと確かに教師1年目をスタートできることが大切なのかなぁ…と思っています。自分の与えられた仕事、役割を自分なりにこなしていくと、きっと楽しい明日が待っていると信じています。土崎中学校は1学年5クラスで、今まで講師で勤務していた学校と比べて職員室が広いです。先生方の人数も2.5倍くらいです。1学年で9人の先生方がいます。半年間、講師をしていた秋田市立下北手中学校は全職員が15人くらいなので、"なぜ、こんなに人がいるのだろう"と戸惑いばかり…でも、たくさんの人が集まれば、その分、たくさんの個性と触れ合うことができます。たくさんの人に触れ合うことが好きな僕にとって、楽しい職場環境なのかなぁと考えています。
 4月2日(月)に、校務分掌が決まりました。僕は進路指導の校務分掌と学年では、生徒会の担当になりました。1年生の進路指導は、職業調べです。この学習が2年生での職場体験学習につながり、3年生の進路選択につながっていきます。進路学習は学活の時間を使用して、行います。僕がリードして進めていく学習で、少しの不安がありますが、諸先輩の先生方のアドバイスを受けながら、進めていきたいと思っています。
 7日,8日に、学区内の新しい住家に引っ越します。秋田市障害福祉課にホームヘルパーを頼んだら、週に2日しか派遣できないということ。僕がやってほしい介助は、次のことです。
朝ご飯・夕ご飯
背広の着替え
代筆
初任者研修・会議などの出かけるときの運転ボランティア
 ボランティアを呼びかけていますが、どうなることやら…ボランティアには、朝ご飯と背広の着替えを介助してほしいです。時間帯は、午前6時半〜午前7時半の1時間、朝ご飯と着替えの介助をしてほしいです。毎日の生活で、朝は母も仕事があり、シンドイ現実。朝ご飯は食べていかないと、生徒に「朝ご飯、食べてきた?」と聞くことができない…朝早いから、ボランティアを募るとしたら、近所の人かな…僕自身、先週1週間、動いたけど、あんまり手応えがなく、学校が始まったので、ボランティア探しができません。見きり発射なのかな…と思います。

読者の広場
 桜咲く春、いよいよ新生活のスタートですね。ガクちゃんには、ガクちゃんにしか見えないものがありますよね。今回の住居捜しでも、また社会の「気付かれない一面」があれこれ見えてきたみたいですね。それを、どんどん公にしていって、みんなの目にも「見える」「気付く」状態にしていくこと、それは、ガクちゃんにとってとつの大きな使命のようなものかもしれません。……昔は、自分でなんでもすることが立派だと思っていました。人に迷惑をかけないことが、自立だと思っていました。でも、今は誰にも迷惑かけない人なんてどこにもいないと思っているから「お願い」することが苦になりません。その分、自分にできることを自分ができる時には精一杯すればいい。きっとガクちゃんも同じような考え方だろうなと思います。違うのかな?
2001.4.5

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 4日(水)、新任式のとき、僕はこんな挨拶をしました。『…夢を大切にしています。みんなと夢を語っていきたいなぁと思っています。…ここで、僕の夢を紹介したいと思います。僕は卓球をやっています。昨年、秋田県身体障害者体育大会に参加して、金メダルを取りました。今年は、全国大会に出場したいと思っています…僕は、現役スポーツ選手なのかなぁ…これから、みんなと一緒に、授業をしたり、階段を上ったり、給食を食べたり、いろいろなことをしていきたいです。よろしくお願いします…』
 5日(木)に、入学式がありました。入学式が終わり、これから関わる生徒を目の前にすると、全てが吹っ切れました。赴任してからも、心のどこかで下北手中学校を引きずっていたので、ようやく土崎中学校に赴任してきた感じがしてきました。
 入学式のとき、1学年部所属は先に体育館に入り、職員席で起立をして、拍手で新入生を迎えます。僕は長い間、立っていることがシンドイので、先生方に支えてもらって、立っていました。そうすると、拍手ができないので、心の中で、拍手をしていました。教師としての初めての入学式。新入生は肩に力がはいっているように見えました。期待と不安で、胸がいっぱいに膨らんでいる新入生を見ていると、とてもすがすがしい気持ちになりました。彼等の中学校生活を一緒に過ごす僕は、これから先、どんなドラマが待っているのだろう…と思い巡らしています。
 1年生の教室は、2階にあります。"行きたいところに、自由に行けない"ことは、とてもストレスがたまります。入学式の次の日、1年1組の自己紹介の時間がありました。1人ひとりの生徒の自己紹介を聞きたいと思っていました。『今ごろ、2階の教室で、自己紹介をしているのだなぁ…』と思うと、いてもたってもいられず、職員室にいる先生に頼んで、2階に連れてもらいました。教室にいくと、生徒は素知らぬ顔…授業が始まって間もなくでした。1人ひとりの自己紹介。言葉使い、声、雰囲気、しぐさ、内容…生徒1人ひとりの個性を感じていたら、僕の個性も紹介したくなりました。「僕の名前は…」と自己紹介をしたあとで、「僕と一緒に階段の上り下りをしたい人?」と聞くと、クラスの3分の2の生徒が手をあげました。「僕は2階の教室に来ることは、とてもシンドイです。みんなが2階でいるとき、僕が1階にいたら、僕はどう思うかな…」と話しました。一人の生徒は、《寂しい…》とボソリと応えました。"もう1回言うよ…"と言って、同じことを繰り返しました。
 僕が話し終わった頃、ちょうど、チャイムがなりました。号令をかけると、クラス全員がすっと立って、僕の後をついてきました。そして、クラス全員と一緒に、階段を下りました。次の授業の始まり、クラス全員が職員室にいる僕を迎えに来ました。生徒の気持ちを受け止め、担任の先生と相談し、ボランティア班の生徒が僕と一緒に行動をすることになりました。係りを決めることも考えましたが、みんなに僕と触れ合ってほしいという願いをこめて、当番制にすることになりました。
 下北手中学校の生徒がくれた手紙と、僕の返事です。今、読み返すと、とても勇気付けられます。長い時間をかけて、ゆっくりとゆっくりと…ですね。
*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*

さんのへ先生へ。
先生。今日は数学の時間に、どう授業をしたらよいか、わからないと言っていましたが、私にひとつ提案があります。今日の授業のように、図を書きたい人に書いてもらえば、いいのじゃないですか。授業の時に、「図をかきたい」人をぼしゅうして書いてもらったり、「字をかく人」を同じくぼしゅうして書いてもらったりすれば、良いのじゃないですか?あくまで、私の意見ですけどね。そしたら、今日みたいに図を書きたい人が前に出て、やってくれると思いますよ。けっこう、みんな図を書くのは好きみたいですし。それと、生徒の声もきいてみれば、良いかもしれません。けっこう、いいアイディアをくれるかもしれませんし。
さんのへ先生。なやみながらでもいいので、がんばってください。人間って、なやむものですよ。だから、あきらめずにがんばれ―――!!ってかんじです。
みんな おうえんしていますので。でわ!! (わざとですから)さようなら。
*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*

Iさんへ
 とてもステキなお手紙ありがとう。突然、事務のT先生から、「3−BのIさんから、"三戸先生に"だって」
と言って、渡されたときはビックリしました。心の底から、ドキドキしながら、手紙を読みました。手紙を読んで、素直にIさんの優しさに心を打たれました。心の中のモヤモヤが一気にふっとばしてくれました。そして、心がとてもあたたかい気持ちになりました。
 授業のことで、落ち込んでいた新米先生をとても勇気付けてくれました。新米先生は図や字をみんなに書いてもらいながら、みんなと一緒に作っていく授業をしていきたいと思っています。Iさんの意見は、とても参考になりました。ありがとう。なんか、Iさんの手紙を読んで、自分に自信が持てました。悩んでいる人に、「がんばれ、応援しているよ」と言うことができるIさんは本当にステキな心の持ち主。Iさんの手紙は、新米先生の宝物。悩んだとき、この手紙を読み返そうと思います。『残り少ない中学校生活を楽しもう!!』
 『ガンバレ!! 受験生』
新米先生より 2001.4.15

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 18日(水)から、初任者研修が始まりました。"楽しみに、待っていました"というより、"とうとう、始まったなぁ…"という感じです。初任者研修の校外研修は、秋田県総合教育センター、秋田県中央教育事務所、秋田市教育委員会で実施されます。
 この日は、秋田県総合教育センターで行われました。センターは天王町というところにあります。僕の新居から、JRを利用して、2駅。「追分駅」で下車して、徒歩で約20分とパンフレットには書かれています。僕の足では、40分くらいかかります。バスを利用すれば、自宅の近くにあるバス停から1度乗り換えて、「アキタ電子前」まで行き、そこからセンターまで徒歩。僕の足で、20分くらいかかると思います。
 "ちょうど、仕事の都合がつく"とのことで、その日は母さんに送ってもらいました。同僚の先生方の「バスの方がイイよ」というアドバイスを受けて、バスを利用して、行くつもりだったので助かりました。研修場所に、どのようにしていくか、これが僕の研修前の課題です。研修場所には、同じ研修仲間に「いっしょに いこう」と気軽に呼びかけたいと思っています。これは、僕の僕なりの仲間作り。同じく初任者研修を受ける先生たちは、俗っぽく言えば、僕の同期。これから、教員生活をしていく中で、とても大切な仲間になります。
 僕は地元の大学でないので、同年齢の先生方の知り合いは全くいなく、少しの不安はあります。
 「…昨日、初任者研修と言って、シンマイ先生の研修がありました。秋田県の小・中学校の先生になりたて、ホヤホヤの64人たちが集まりました…ボクは秋田大学ではなく、山形大学なので、知り合いの先生はほとんどいません。僕は先生の友達をいっぱい作りたいです。中学校に入学して、みんなは友達をいっぱい作りましたか。みんなで、友達作りのコツなど、アドバイスがあれば、教えてほしいなぁ」
生徒の反応はシ〜ン…としていました。
 この間、秋田市教職員組合の先生方が土崎中学校に来ました。「学校内で、何か不便なところがないか」ということでした。僕と一緒に"学校のバリアフリー化を考えていきたい"と言いました。学校も1つの公共施設。公共施設のバリアフリー化が言われている中で、"学校"という公共施設のバリアフリー化は進んでいません。車椅子の児童・生徒が入学するので、「玄関にスロープをつけた、エレベーターをつけた」という話を聞きますが、多くはありません。いつか、全国的に、学校施設のバリアフリー状況の実態調査をしたいと考えています。僕は組合の先生方に、このように話しました。「この校舎内、いろいろとバリアはあります。だから、すぐに施設のバリアフリー化を求めるのではなく、生徒にバリアを感じてもらいたい…僕の存在は生徒にとって、教材なので、僕と触れ合うことでバリアがあることを知ってほしい…生徒が僕と触れ合って、いろいろと感じたことを大切にしていきたい…」
 講師をやっていた、秋田市立下北手中学校のとき、生徒から"昇降口の段差に、板をつければいいじゃん"という声があがり、生徒と一緒に考えたことがあります。学校内のバリアは、生徒の学び場。生徒が何気なく発した声に、もの凄く鋭い感性が秘められています。思わず、心を打たれます。これから、生徒の声をくみ上げ、代弁していきたいと思っています。部活の担当は、港囃子(みなと はやし)という土崎の夏祭りに活躍する部ですが、ときどき、卓球部に顔を出して、部員と打ち合っています。
2001.4.21

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 最近、生徒との関係が上手くいっていないように思います。1年生の生徒と関わり始めて、1ヶ月が立とうとしています。まだ、生徒との距離が縮まっていないなぁと感じます。それよりも、生徒との距離が開いているように感じるときがあります。どうしてなのかなぁ…僕らしい授業ができていないような気がします。少し、生徒と気持ちのすれ違いがあるのかなぁ。授業の終わりに、自己評価カードを書いてもらっています。これは授業への準備、意欲、態度、理解を自分で振り返るとともに、授業者である僕が生徒の実態を把握するため、そして、僕がその日の授業を振り返るために活用しています。授業の感想の中に、"分からなかった"という感想を書いてくれた生徒がいました。僕は授業中、『質問ある人、疑問な点がある人はどんどん言って』と言っています。1人ひとり見てまわって、理解度を把握することの困難な僕にとって、生徒の声がとても大切になります。感想に"分からなかった"と書いてくれた生徒に、「質問、ありませんか」と聞いても返答はありません。
 周りの先生方は「何でも気軽に相談してほしい」と言ってくれています。まだ、1ヶ月…だけど、生徒の中には、僕と階段を上り下りすることに戸惑う生徒もいます。僕は生徒に僕と肌と肌で触れ合いたい…僕は生徒のおもちゃになりたい…『お互いの心のバリアを取り除こうよ』生徒にこう呼びかけたいと思います。僕がありのままの姿で接していけば、きっと伝わると信じています。ゆっくりと、ゆっくりと伝えていこうと考えています。
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 下北手中学校の生徒に手紙を書きました。生徒からメールで返事がきました。21日(土)に、下北手小・中学校のPTA主催による歓送迎会がありました。保護者とお酒を飲んで、とても楽しかったです。ある生徒の父親が「先生、娘と話をするか」と言って、携帯で電話をかけてくれました。「○○さん、元気?今、お父さんとお酒を飲んでいて、酔っぱらっている…」と言ったら、笑っていました。とてもステキなノリで、心があたたかくなりました。その日、車椅子のオフロードレーサーである渡辺幸哉氏の講演を聞いたとある先生が言っていました。「生徒は目を丸くして、聞いていたよ。きっと、三戸先生のことを思い出していたのじゃないかなぁ」
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 みなさん、お元気ですか。僕は相変わらず、ボチボチやっています。新学期。新しいクラス・先生・生活に慣れましたか。たぶん、みなさんのことだから、"みなさんらしく"生活していることでしょう。その様子が思い浮かびます。僕は1年生の所属になりました。1学年5クラス、1クラス37人くらいです。生徒がたくさんいて、授業をしていて、教室がメチャメチャ狭く感じます。
 土崎中学校は、校舎がとても広いく、かなりの距離を歩いているような気がしています。職員室から、教室まで5分かかり、ときどき、休み時間がなくなります。トホホホ……6時間目が終わると、クテクテ……やっぱり、疲れます。もっと、体力をつけたいなぁと思っています。1階に理科室、コンピュータ室など特別教室があり、1年生の教室は2階にあります。朝の会、給食、帰りの会、掃除などで、1日に何度も、生徒といっしょに階段をのぼったり、おりたり…"みんなといっしょ"をキャッチフレーズに、毎日、生活しています。
部活は、港囃子(みなと はやし)という部の顧問になりました。土崎地区のお祭りに活躍する部活です。卓球は、やっています。体を動かすことは、とても気持ちがイイです。楽しいから、これからも続けていきます。パワーアップしていきたいと思っています。ときどき、卓球部に顔を出しています。
 4月8日(日)に、新屋の住民から土崎の住民になりました。もう、アパート探しは大変でした。やっとのこと、新しい住家が決まりました。学校から歩いて、20分のくらいのところです。毎日が新鮮で、早く新しい生活に慣れたいなぁと思っています。また、会いたいです。近くにきたら、遊びに来てください。どこかで会ったら、気軽に声をかけてください。
2001.4.17 土崎中 新米先生 三戸 学

 追伸:下北手中学校での楽しい半年間が、今の僕につながっています。ありがとう。
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 こんにちはNです。長い間メール送ってなくてすみません。ところで、三戸先生からのお手紙が、教室に貼られました。土崎中学校はとても大きいようで苦労していると思われます。授業はうまくできていますか?なんかN君にできそうなことがあったら何でも言ってください。これからもがんばってくださいね。
H.N

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 25日(水)に、初任者研修がありました。《1ヶ月ほど、過ごしてみて》という内容のレポート提出がありました。
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生徒と一緒に
 秋田市立土崎中学校に正式採用されて、1ヶ月が立とうとしています。私は1年部の所属になり、早く生徒と解け込みたい気持ちから、入学式の次の日から昇降口で、「おはよう」と生徒へ声を掛けています。初めの頃は受身だった生徒も、少しずつ主体的に挨拶をするようになってきました。私は気持ち良く、さわやかに挨拶をできない人は心の中が少し曇っているのではないか、と思っています。そのような生徒には1日の生活の中で、積極的に声を掛け、生徒の内面に入り、生徒と共に心の曇りを払拭できるように指導していきます。これからも朝の挨拶は続けていき、生徒と挨拶を通して、心の交流と心の健康チェックをしていきたいと考えています。
私は中学校に入学して、決意を新たにしている1年生の気持ちを大切にしていきたいと思っています。毎日、授業をしていても生徒の学ぶ意欲を感じます。私の教科である数学は、数学嫌いの生徒にどのようにして数学好きになってもらうのか、が1つの課題です。中学校に入学して、"算数"から"数学"と名前が変わり、難しくなるのかなぁと抵抗感を持っている生徒もいるように思います。私は多くの生徒に数学を好きになってほしいと考えています。生徒の知的好奇心をくすぶる魅力ある授業を展開していくために、教材研究をしっかりと行っていく決意を持っています。また、生徒1人ひとりが自分の考えを述べられるような授業の雰囲気をどのように作ったら良いか、苦心しています。私はお互いの考えを言い合い、認め合い、分かち合うことで数学的見方や考え方が深まっていくと考えています。このような気持ちで、毎日の授業にのぞんでいます。
私は秋田市立豊岩中学校、秋田市立下北手中学校で講師経験があります。この経験が僕に大きな自信を与えてくれました。生徒は私に『何事も一緒に行うことのすばらしさ』を教えてくれました。授業はもちろんのこと、毎日の生活の中で不便なところがありますが、生徒と一緒に乗り越えていきたいです。そうなるためにも、早く生徒と信頼関係を築いていきたいと考えています。私の何気なく発した言葉や態度が生徒にとって、心の体罰にならないように、細心の注意を払っています。そして、「生徒から学ぶ」「諸先輩の先生方から学ぶ」という謙虚な姿勢と何事にもチャレンジする心持ちを大切に、より多くのことを吸収し、これからの自分の糧にしていく所存でいます。
2001.4.28

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 1人暮らしを始めて、1ヶ月が過ぎました。先生になったら、赴任した学校の学区内に住むことが1つの夢でした。3月24日に、赴任校が決まり、アパート探しが始まりました。予報以上に、アパート探しは難航しました。秋田市内に県営住宅が16個(県営住宅入居案内より)あります。そのうち、障害者用の部屋があるのは、1つだけです。しかも、2部屋しかなく、単身の入居はできないとのこと。各地方自治体もそうであると思いますが、秋田県は「障害者の社会参加」を政策の1つとして、掲げています。言葉、あるいは理念・理想が先行して、現実が伴っていません。社会参加のベースになる住宅事情がこのような現状の中で、"どのように社会参加してね"と言うのだろう。また、1人暮らしをするとき、ホームヘルプサービスを利用しようと思っていました。秋田市役所の障害福祉課に行き、ホームヘルプサービスを利用したい旨を伝えました。対応してくれた人が「24時間のサービスなので…」と概要を説明してくれた後、「あなたの障害の状態では、"1週間に2日"ホームヘルプサービスを利用できます」と言っていました。
 その日から10日ぐらい過ぎたころ、「朝ご飯の介助サービスは早朝サービスではないので、午前8時以降でないと…」と担当者から電話連絡がありました。「それでは、とても困る」と言いました。朝の7時30分には、学校に行きます。僕の介助内容は、朝ご飯と衣服の着脱、身だしなみ。午前6時30分から午前7時30分までの1時間。制度上、朝ご飯を作れないとなると、20分あれば良いです。朝ご飯は、とても大切。先生が朝ご飯を食べてこなくて、生徒に「朝ご飯、食べてきた?」と聞くことができません。大学のとき、1人暮らしをしていましたが、今と比べて、数百倍の時間がありました。自分で食事を作ることができます。しかし、時間がかかり、仕事との両立は難しいです。実際に1人暮らしをしてみて、不便さを感じています。これこそ、体験学習なのかなぁ…実際に、体験することで得るものがたくさんあります。体験学習の素晴らしさについて、1人暮らしを通して、感じています。
 さて、今は母に身の回りのことをやってもらっています。なんて、親不孝者だろう…早く、有料ボランティア、無料ボランティア、どちらでもイイですから、日常生活を介助してくれる人たちを募りたいです。僕の1人暮らしは、"地域社会との連携"を視野に入れています。地域社会に住むことは、そこの地域の実情を知る、地域住民と関わることになります。1人の教師が自分の介助を通して、地域社会に関わっていこうとする営みは、とても面白いような気がします。いつかは、生徒も…と願っています。
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読者のひろば
 がくちゃんの学校の様子など、HPで楽しく見せてもらっています。僕も来年は初任者研修を受けるぞ!と思いながら。養護学校高等部の講師をしているので、参考になるところもたくさんありますよ。ぜひ僕の学校の先生方や生徒にもがくちゃんのHPを見せたいです。
2001.5.5

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 連休が終わり、1週間が過ぎました。僕は毎朝、昇降口の前に立っています。正確に言えば、壁に寄りかかっています。立っていることはシンドイからです。入学式の夜、転任者の歓迎会があり、そのとき、学年主任の先生から、「明日の朝から、一緒に昇降口に立とう」と言ってくれました。その言葉の背景には、こんなことがあるように思います。
 入学式が終わって、生徒が保護者と一緒に帰るとき、僕は真っ先に昇降口に行きました。不安と期待で溢れた生徒の気持ちを少しでも、和らげようと思っていました。それと、保護者のみなさんに、僕を見てもらいたいと思っていました。僕に自分のかわいい子どもが数学を教わることに、不安な気持ちになる保護者もいると思います。なぜ、不安な気持ちになるかと言えば、それは"障害"をイメージだけで捉えているからでしょう。だからこそ、ありのままの僕を見てほしい、できれば、楽しい会話をしたいなぁと考えていました。お互いに知らないことは、すれ違いが生じやすく、とても不幸なこと。僕は壁に寄りかかって、「さようなら」と言っていました。生徒は、「さようなら」と返してくれました。保護者は、「センセイ、うちの子どもをよろしくお願いします」と言ってくれた人もいました。そういう僕の姿が学年主任の目にとまり、僕の気持ちを汲んでくれたと思います。毎朝、昇降口の壁に寄りかかって、「おはよう」と声をかけていると、生徒に変化が見られます。初めは、【何で、先生がいるの?】【朝から、何か言われるのかなぁ】と思っていた生徒もいて、おどおどして、「おはようございます」と言っていました。だけど、最近では「おはようございます」と元気に言ってくれます。"元気"というのは、1人ひとりの自分らしい元気です。声が大きいからと言って、元気が良いとは考えていません。"挨拶"は、言葉と目と心でするもの(僕の持論)。特に、僕は心の挨拶を大切にしています。心の中で、本当に挨拶をしたいと思っていれば、不思議にその気持ちは伝わってきます。
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 三戸先生はじめまして。ホームページ拝見させていただきました。僕実は、土崎中学校に生徒なのです。生徒会の副会長を、やっている。Mといいます。友達のYくんから、三戸先生のホームページがあることを聞い興味があったので、みてみたんですが、とってもおもしろいです。僕は数学は、そんなに得意なほうでは、ありません。でも、けっこう好きな教科です。T先生におそわっているのですが、よくわかっているのに、計算ミスをするね。とよく言われます。今日の授業でも、教科書の練習問題で九九を間違ってしまいました。今年は受験もあるのですが、あまりはかどってはいません。もっとがんばりたいです。三戸先生の授業が受けられないのが、残念だけど、これからもがんばっていきたいです。明日かあさって機会があれば、声をかけさせていただきます。
では。さようなら。
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 僕のHPの掲示板「スマイリーな掲示板」に、土崎中の生徒の書き込みがありました。早速、次の日、職員室で「センセイのHPを見ましたよ」と、ニコニコとステキな笑顔で、声を掛けてくれました。これを機会に、ネット上でも、生徒と交流できるといいなぁ…と思っています。
昨日、秋田県の教員採用試験の受験案内が新聞発表になりました。『過去最少を大幅に更新』という見出しでした。教諭の採用予定者は、105人です。厳しい状況です。土崎中に、講師の先生がいます。(みんな、合格してほしいなぁ…)その中で、特に関心をひいた内容。「視覚障害により身体障害者手帳を取得している盲学校理療科教諭志願者、聴覚障害により身体障害者手帳を取得し、手話の指導が可能な聾学校教諭志願者は特別選考を行う」と書いてあります。この記事を読んで、複雑な気持ちになりました。まず、特別選考とは、どのような選考なのか。本当に、特別選考が必要なのか。特別選考なしで、合格した僕にとって、一般試験でも十分という気がします。教師としての実力があるか、ないかを判断されるわけですから、障害の有り無は全く関係がありません。もし、受験に1人しかいなかったら、どのようになるのでしょう。また、一般受験は20倍の倍率。特別選考と一般受験との整合性をどのようにして保つのだろうか…全国的な状況などに興味あります。
2001.5.13

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 今、授業のことで悩んでいます。今年、1年間は新米先生ということで、初任者研修があります。そのため、僕を指導してくれる指導教員がつきます。僕の指導教員は校長先生を退職された方で、毎週火曜日と木曜日の週2回、非常勤講師として、学校に来て頂いて、指導を受けています。指導教員は僕の授業の様子を見て、助言・指導を頂きます。指導教員と1ヶ月が過ぎました。指導教員は僕に"イイ先生になってもらいたい"という気持ちで、指導してくれます。僕の授業を見て、「板書が困難なら、いろいろな教育機器を使用して、授業をしたら、どうだろう」「この次の時間から、試しに、コンピュータ室で授業したら…私はてっきり、あなたが採用なったとき、あなた専用の教室が与えられて、授業するものと思っていましたよ」と助言してくれました。
 1年生の教室は、2階にあり、コンピュータ室は1階で職員室の向かいにあります。入学してから、1ヶ月間は教室で授業をしていました。生徒と一緒に作っていく授業を実践してきました。僕は指導教員の話を聞いて、すぐに、コンピュータ室で授業をやってみようと思いました。既存の授業スタイルにしがみつくより、いろいろな授業スタイルに挑戦しようと思いました。コンピュータ室を利用して、授業をしたことがほとんどないので、どうなるのか、見当がつきません。だから、敢えて、挑戦してみたいと思いました。『僕は新米先生。1年間、研修を受ける。せっかく、1年間、指導教員から指導を受ける機会があるのだから、僕の授業を指導教員に見てもらい、率直な意見を言ってもらえる、【ここは、こうした方が良い】とアドバイスをもらえる絶好の機会』と捉えました。コンピュータ室での授業は僕が行くのでなくて、生徒に来てもらうスタイルです。この間、コンピュータ室で初めて授業したとき、妙な感動を覚えました。土崎中での今までの授業は、数学教科係と一緒に教室に向かいました。でも、コンピュータ室での授業は荷物を教科係に運んでもらい、僕は始業時のチャイムと一緒に、教室に向かうことが出来ます。不思議と、新鮮な気持ちがしました。背中に羽がついたように、身軽になったような気がして、飛び跳ねるようにコンピュータ室へ向かいました。
 コンピュータ室は、2人で1台のコンピュータという割り当てです。教材提示装置という機器を使用して、生徒のコンピュータの画面に映して、生徒はその画面を見ながら、僕の説明を聞く、という授業スタイルです。僕が担当している1組、2組の授業はコンピュータ室で、2時間行いました。指導教員の先生は、「まず、コンピュータ室で授業をやってみよう。いろいろと見えてくるものがあるだろう。何回か授業をして、それで、生徒の反応を見よう。そして、あなた自身も実際に授業をやってみて、やりやすいか、どうか、分かってくるだろう。もし、上手くいくようだと、校長先生に話して、コンピュータ室で授業をできるようにしたら、いい」と言っています。いろいろな授業スタイルに挑戦して、見えてくるものがきっと、あるはず。生徒にも、その気持ちは伝えました。「僕は板書が困難で、シンドイ…だから、困難なところを補うため、いろいろな工夫をしなければなりません。だから、コンピュータ室で授業をやってみようと思いました。これから、何回か、コンピュータ室で授業をやっていきます。授業はみんなのものです。僕はみんなにとって、分かりやすい、楽しい、面白い授業を実践したい…だから、どんな授業がみんなにとって、分かりやすい、楽しい、面白い授業なのか、みんなの素直な気持ちを教えてください」決して、かっこよくない、紆余曲折したところに、本当の人と人との心の交流、結びつきがありるように思います。授業スタイルは、模索中です。生徒の声を大切にしながら、自分なりのスタイルを作っていきたいです。この営みは"生徒と一緒に授業を作っていく"ことです。不器用ですが、僕の授業に対する情熱は、伝わると信じています。
2001.5.21

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 今週の木曜日は体育大会。秋田市営八橋陸上競技場で開催します。全員種目…50m走、持久走(男子 1500m・女子1000m)学級対抗全員リレー、選手種目…全校駅伝、学級対抗リレー、部対抗リレー。僕が注目した種目は、学級対抗全員リレーです。この種目には、中学校1年生の運動会の思い出が詰まっています。
 中学校に入学して、環境が変わったので、僕のことを知ってもらうためのデビューをします。少し大袈裟かもしれないけど、僕が僕らしく学校生活を送るためには、必要なことです。不幸なことに、初めて僕を見る人は、身体を動かすことが大好きだとは思いません。どちらかと言えば、おとなしく読書をしているタイプと思われることが多く、そのイメージを払拭してもらう必要がありました。これからお世話になる先生方に僕を良く知ってもらうため、絶好の行事が運動会でした。
 今年から、運動会の種目の大目玉として<学級対抗全員リレー>が取り入れられました。ルールは簡単で、クラス全員でバトンをリレーして、順位を学年別に競い合います。当然、僕も<全員リレー>に参加すると思っていました。ところが、運動会の話し合いが行われていた学級会で、担任の先生が、「サンノヘ君は全員リレーを見学してほしい」と言いました。「徒競争は参加できるから、良いでしょ…全員リレーはクラス全員のことだから、あなたの参加したい気持ちも分かるけど、みんなの気持ちも考えて」先生はきっと、僕が<全員リレー>に参加をすると、みんなの勝ちたい気持ちが削がれると思って、このようなことを言ったのだろう。どうでも良いけど、クラスのみんなの前で言うことだけは、やめて欲しいと思いました。生徒は先生の言葉に影響を受けます。先生たちは自分の言葉の影響力を考えてほしいです。<全員リレー>は僕も参加するものと思っていたクラスのフインキが一瞬にして、変わりました。先生の言っていることも一理あるという顔付きになりました。
 僕はかなり、やる気を失いました。このようにして、人間は無気力になっていくのだろうか。でも、ここで諦めたら、自分を知ってもらえません。中学生になると、理屈ではなく、そのものを見てもらうことが一番だと分かっていました。だから、是が非でも<全員リレー>に参加したい…と思っていました。僕は参加したい気持ちをクラスの仲間、先生に伝えていきました。担任の先生がいくら言っても、参加したいものは参加したい…クラスの仲間は毎日、僕と接しているので、その気持ちを言わなくても、分かっていました。生徒の力を見くびるな。「全員リレー、ガクちゃんが不参加になるのはおかしい」この声がクラス全体のものになるまで、そんなに時間はかかりませんでした。「ガクちゃんが足の遅いことは分かりきっていること。みんなで、優勝しよう」クラスは僕の存在を受け入れていました。担任の先生だけが僕の存在を受け入れていませんでした。とても寂しい担任の先生。運動会の当日。クラス全員が朝の7時半ころ、教室に集まって、作戦会議を開きました。その作戦は、「ガクちゃんは4番目に走れ。前の3人で半周以上の差をつけてバトンを渡すから、後はおもいきり走れ」というもの。僕が走っても優勝できるように、クラスみんなで考えた作戦でした。作戦が決まると、体育の先生に体育係が<全員リレー>の走る順番に僕を入れるので、登録を訂正するように頼みに行きました。
 ―学級対抗全員リレー―「位置について、ヨ〜イドン」
 いざやってみると、その通りになりました。僕はおもいきり走り、次の人にバトンを渡しました。その後はクラス一丸となり、一人越し、一人越しで最後のアンカーには一位でバトンが渡り、そのまま僕たちのクラスが優勝しました。クラス全員がその場で抱き合い、喜びを分かち合いました。まさに、一人ひとりが精一杯の力を出し切れば、大きな力になることを見せつけた瞬間。僕たちのクラスの優勝は多くの先生に感銘を与えました。
【一人ひとりの力は小さいけれど、心を一つにすれば、どんなことだって、できる】
 運動会が終わって、担任の先生が僕に謝りました。
 「三戸君が走ることをきっかけに、ウチのクラスが団結力したのだね。三戸君にありがとうと言いたくなりました」
 「先生、そこまで言わなくとも」
 最近、1年生の学級対抗全員リレーの練習を見ていて、自分の中学校を思い出して、深い感慨に陥っていました。不思議と興奮し、熱いものが込み上げてきました。全員リレーはリレーでも、全員でバトンを渡すリレーであり、足が速い人もいれば、遅い人もいます。だから、優れて足の速い人がいるチームが勝つわけではありません。これは総合力の勝負。チームプレーを競う種目。クラスの団結力を競う種目。31日の学級対抗全員リレーは、どんなドラマを見せてくれるのか、今から楽しみです。だけど、木曜日の天気予報は雨。雨天中止なので、絶対に晴れてほしいと願っています。この気持ちは生徒より、強いかもしれないね…
2001.5.30

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 僕の授業スタイルについて、"教室"、"コンピュータ室"どちらで、授業を行ったら良いかに関して、読者のみなさんから、たくさんのメールを頂きました。読者のみなさんは、コンピュータ室で授業を行うことについて、"面白い"という感想を寄せてくれました。
 授業を行うとき、"教室"、"コンピュータ室"の長所と短所をまとめてみました。
【教室】
≪長所≫
・生徒と距離が短く、声が届き、生徒の様子もわかる
・黒板に問題を解いてもらったり、生徒と相互的に授業が展開できる
・僕の不便なところを補ってもらい易い
≪短所≫
・黒板に貼る画用紙などの準備が大変
・狭いので、机間指導が困難
【コンピュータ室】
≪長所≫
・1階なので、僕1人で行くことができる
・広いので、椅子に座りながら、机間指導ができる
・教材提示装置を使用して、コンピュータの画面に映すので、そんなに授業の準備はいらない
≪短所≫
・生徒との相互のやりとりがなくなる
・生徒との距離が遠く、声が通りにくい
・2人で座っているので、とてもうるさい
 1組、2組の授業をコンピュータ室で、行いました。コンピュータ室で授業する前は、期待と可能性を膨らませていたものの、実際に授業をすると、やはり教室の方が良いのではと感じました。その理由として、
・生徒と相互的に、授業を展開できない
・生徒と一緒に、授業ができない
・うるさい
・生徒との距離が遠い
があげられます。1つ目の理由は、コンピュータ室はコンピュータがあるので、チョークの粉がコンピュータに入るといけないため、ホワイトボートがあります。そのため、生徒に気軽に問題を解いてもらう場面が少なくなります。教材提示装置を使用して、生徒のノートをパソコンの画面に映すことを考えましたが、生徒は黒板で問題を解くより、抵抗を示しました。2つ目の理由は、コンピュータ室は1階にあり、便利です。教室で授業を行うと、2階にある教室まで、数学係は僕を運んでくれます。コンピュータ室で授業をやってみて、生徒と一緒に階段を上ったり、下りたりすることが減りました。気が付かないまま、生徒と触れ合っていたことに気づきました。また、授業中、「誰か、僕の代りに書きたい人」と声をかける場面がなくなりました。僕は座ってなら、何とか、字を書くことができます。教材提示装置の上で、字を書くと良いのです。だけど、これでは生徒の方が退屈してしまいます。僕の言うことを代わりに書くことが生徒は面白いのです。それに、生徒は意外と心を痛めます。『先生が手伝って…と言っているのに』クラスの仲間が前に出て書いている姿は、生徒は新鮮に感じる様子です。仲間と一面が見ることができ、ホットしている感じです。それと、生徒が僕の代わりに板書しているときは、他の生徒は集中します。雰囲気がとても良いです。3つ目の理由は、2人で1つのコンピュータという型で座っているので、どうしても私語が目立つようになります。授業中、いつもザワザワしています。「前を向いて」と言っても、教室が2つ分の広さなので、なかなか、指示が通りません。4つ目の理由は、コンピュータ室は広いため、生徒が遠くいる感じがします。教室では、僕が椅子に座ると、少なくとも、1番前の席に座っている生徒の様子は良く分かります。コンピュータ室の場合、僕がいるところと生徒の机が遠く、(ちょうど、理科室のようなイメージ)地面を蹴って、椅子を動かして1番前の生徒の机にいかないと、どこまで問題を解いているのか、どこでつまずいているのか、良く把握できません。
 1年2組の授業中、問題の答え合わせをしていました。コンピュータ室で授業を行うと、教室よりも落ち着きがなく、騒がしくなりました。1人ひとりの生徒が答えを言って、その答えをもう1人の先生がプリントに書き、それを教材提示装置で、生徒のパソコンの画面に映しながら、進めていきました。騒がしく、生徒の答えを言った言葉も上手く聞き取れない状況。数学の授業は正解を言ってもらっても、授業が成り立ちません。生徒の間違いをみんなで考えていくことによって、理解が深まっていくことがあるのです。このような現状を前にしたとき、僕は教室で授業をした方が良いなぁと思いました。この気持ちを生徒に伝えました。「…いろいろな授業スタイルがあり、1つのものに凝り固まるより、いろいろな授業スタイルに挑戦したいと思っています。だけど、実際にコンピュータ室で授業をやってみて、とても不便さを感じます。僕は教室で、授業をしたいです。授業はみんなのものです。これから、サンノヘ問題をやってもらうので、できたら、その裏に"教室"か"コンピュータ室"、どちらで授業した方が良いか、書いてください」
 それをまとめました。「コンピュータ室」が13人、「教室」は22人でした。1人ひとりの生徒の意見です。(生徒が書いたもの、そのままです)
・「教室」でも、「コンピュータ室」でも、どちらでもかまいません。けど、どちらかというと、教室の方がいいと思います。けど、コンピュータ室でもいいし。どっちでも、O.K!
・基本的には、どちらとも言えないけど、どっちかといえば、コンピュータ室の方がいい
・私はコンピュータ室でやりたいです 
・教室の方がいいと思う。加法の時も、だいたい終わりごろにコンピュータ室でやったから、もし、コンピュータ室でやるなら、おわりごろにやればいいと思う
・ちょっとうるさいケド、コンピュータ室の方がわかりやすくてイイと思いマス
・教室がいい。コンピュータ室だと椅子がうるさい
・1−2の教室でやりたい
・私は画面が近くて、コンピュータ室のじゅぎょうがちょっと大変だったので、教室でやりたいです
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 教室で授業をしたい生徒が多いので、教室で授業をすることにしました。
『生徒と授業する場所も決める』 以前に比べて、生徒との距離が近くなったような気がします。なんだか、自分に自信がつきました。結果的に、僕がやったことは良かったなぁと感じています。やはり、コンピュータは数学の学習内容で使用したいです。「次の時間は、コンピュータ室で授業をします」と言ったとき、知的好奇心に溢れた表情をしていました。きっと、生徒は、"コンピュータで、どんな授業をするのだろう"と、期待を膨らませて、授業に臨んだはずです。それが先生の困難な部分を補うためであり、落胆したのではないかなぁと思います。これが1つの結論でなく、授業形態は何通りも持ちたいです。そのために、コンピュータ室で行う授業、教室で行う授業と、いろいろな可能性を探っていきたいです。これは僕の教材研究で、教育の本質なような気がしています。
2001.6.4


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