んだんだ劇場2004年7月号 vol.67
No12  花粉症とホームシック

花粉症とホームシック
 なかなかの天気が続いているが、私は花粉症らしきアレルギー症状に悩まされている。目はかゆいし、鼻水は出るし、くしゃみはとまらないしと、大変苦しい。ここの社会では、人前で大きな音を立てて鼻をかむのはゆるされるようなので、これはいい。問題はくしゃみである。
'はあっくしょーん!'という大きなくしゃみはとても行儀の悪いことらしい。だからみんな
'んぷしゅ'とか'っぷ'とか、不発弾のようなくしゃみをしている。特にマナーに関しては、郷に入っては郷に従おうと思っているので、私もなんとかこの不発弾くしゃみをマスターしようとしたが、現在のところまだ成功していない。それどころか、おさえようとすればするほど、 '(は、は、は)っくしょーーーーん!!' というもっと迫力のあるくしゃみになってしまうのだ。ああ、はやくおさまってほしい。
 
 さて、このところなんだかホームシックだ。日本に帰って、仕事さがしてパートタイムで学生しようかなあ、などと思ったりしている。なんだかとても人恋しいのだ。日本の友人がとても懐かしく、メールを送ったりしてみるが、返事がこないとまたがっくりと落ち込む。
 これはいったいどうしてなのか?理由はわかっている。この博士課程というものはものすごーく孤独なのだ。一応、リサーチトレーニングコースというものがあるので、その授業で他の学生と知り合うこともある。しかし、それも授業が終わればそれでおしまいの関係が多い。みんなそれぞれのテーマでそれぞれの研究をしているので、いわゆるクラスメートというものは存在しない。同じ研究室に属していても、博士課程の学生の生活パターンは本当にそれぞれなので、大学内で会うということもほとんどない。だから下手をすると、朝大学に行って、夕方家に戻るまで一言もしゃべらなかったということもあるのだ!海外からの学生は精神的におかしくなってしまうことがよくある、とある人がいっていたのもうなづける。
 私は一人でいるのが大変苦手である。どちらかというと社交的ではなく、積極的にどんどん友人を作っていくほうでもない。でも身近に親しい友人のいない生活には耐えられない。医者という仕事を選んだのも、'コンピューターや机に向かってする仕事は苦手、人と話す仕事がいいなあ'というのが理由の一つだったのだ。それなのに、なぜ、、。
 こないだこういう話を授業で知り合った学生にしたら、
「でも、家族と一緒に住んでいるんだからまだいいよ。私なんて本当に一人なんだから。」
といわれた。確かにそうかもしれない。弱気になってはいけないのかも。
「ただいまー」と家に帰ると、
「ママ、ただいまー」と迎えてくれる娘がいるんだもんね、がんばらなくては。


自宅出産
 おなかはどんどん大きくなり、とうとうおへその底がひっくり返って出ベソになってしまった。歩行もすっかりガニ股になり、なんだか相撲取りになったようで楽しい。現在妊娠34週。残すところ約6週間である。
 妊婦検診に行ったところ、バースプランを立てるようにとパンフレットをくれた。これはつまりどんなお産をしたいかということを文章にし、助産婦や医師、夫にそれぞれコピーを渡すのである。パンフレットには次のような項目があった。

  • どこで産みたいか(家、病院など)
  • 夫やパートナーの立会い
  • お産の間の飲み食い
  • どんな姿勢でお産するか
  • リラックスするためにしたいことは?(シャワー、音楽など)
  • 痛みの緩和
  • 会陰切開をするかどうか
  • パートナーに臍の緒を切ってもらうか
  • パートナーに赤ちゃんを沐浴させてもらうか、などなど。
 読んでいるうちに楽しくなってしまった。前回のお産では水も飲ませてもらえず、いつのまにか早い時期に人工破水され、ベッドに寝たきりになってしまうなど、かなり自分の予定と違ってしまって満足のいくお産とはいえなかったが、今回はちょっと違ったものになりそうだ。
 そもそも私はどちらかというと病院でのお産より、家でのお産賛成派である。もと医者だった自分がいうのもなんだが、私は病院嫌いなのだ。修士論文ではカレン族の伝統的なお産と病院でのお産の比較検討をしたのだが、彼らの伝統的なお産は本当に興味深く、それに対して病院でのお産はなんと味気ないことかとがっかりしたものである。
 だから妊婦、胎児ともに問題のない場合は家でお産したほうがいいのではないか、とずっと思っていたのだ。
 そんなわけで今回私は自宅で出産しようと思っている。全く不安がないかというとうそになるが、幸い病院は家から歩いても5分とものすごく近く、万が一何かあった場合にも大丈夫そうである。現在のところ私もちび2号も問題なし、このままあと6週間が順調に過ぎるといいなあ。

不健康食品、その後
 4月号にも書いたが、イギリスの不健康食品問題はかなり深刻である。でもここ数ヶ月、この問題にかなりの関心が集まったようだ。大手スーパーは今後、食品のパッケージにその不健康度(?)に応じて赤、緑、黄色のマークをつけることにしたらしい。医学会はスナック菓子やジャンクフードのテレビコマーシャルは子供が寝た後の夜9時以降のみにするべきだ、と言っている。テレビ番組でも、フライドポテトとチキンを食べるともうこんなに塩分と脂肪分オーバーなんです!というようなのをやっている。
 娘が行っている保育園にも変化が表れた。今までおやつはビスケットに甘いジュースだったのだが、それが果物と水になったのだ!大変喜ばしいことである。誰の勇断だかしらないが、私は大きな拍手を送りたい。
 夫は相変わらず娘の小学生の友人たちと戦っているようだ。彼はよく娘を連れて友人(その小学生の女の子の親)の家へ遊びにいくのだが、彼らは夫の目を盗んで娘に甘―いお菓子やスナック菓子を与えようとするんだそうである。
「たまにはちょっとくらいいいじゃない」
という彼らとかなり激しく戦っているようで、いつも友人の家から帰ってくると、ぶつぶつ文句をいいながら私に報告してくれる。
 私は健康的な食習慣というものは、親が子供に与えてやれる本当に大事なことの一つだと思っている。この食習慣というのは一生もので、一度ついたら変えることはほとんど不可能に近い。
 例えば飲み物。我が家では私が小さい頃から飲み物といえば水かお茶で、炭酸飲料水やジュースが家においてあることはまずなかった。今でも、あえて自分から進んで甘いジュースを飲む気にはならないし、飲むと必ず水かお茶が欲しくなる。こういう習慣をつけてくれた母親に私は本当に感謝しているし、自分も娘にはそうしてやりたいと思っている。その点、お菓子を全く必要とせず、飲み物も水(とお酒?)しか飲まないシンプルな食習慣を持つ夫の存在は大変強力である。
 食べ物は毎日のことだから、健康にとっても大きな関わりがあるのである。どこで読んだのか忘れてしまったが、夫を嫌っている妻が、高血圧の夫に毎日毎日脂っこい味の濃い食事を食べさせて、ゆっくりと死に追いやったというのがあった。全くその通りである。子供に不健康な食習慣をつけている親は、子供をじわじわと死に追いやっているのと同じなのだ!!
 いつもこの話題になると私はつい興奮してしまう。とはいっても、我が家だって全くお菓子禁止なわけではない。私自身が甘いものは大好きだし、特にチョコレートには目がない。おやつの時に、お楽しみでお菓子を食べるのには全然問題はないと思う。もちろんカラフルな色のついたお菓子やしょっぱすぎるスナック菓子には反対だけど。


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