んだんだ劇場2004年9月号 vol.69
No14  自宅出産で安産のはずが

自宅出産で安産のはずが
 予定日のちょうど一週間前の7月29日の夜、陣痛が始まった。明日は参加中のトレーニングコースの最終日、娘も保育園の最終日で盆踊り大会がある日。どうか本物の陣痛ではありませんように、と祈りつつ陣痛の間隔を計ると、残念なことにきっかり10分おきに規則正しくやってきている。信じたくないが、どうやら本物のようだ。
 あきらめて病院に電話をし、陣痛が始まったことと自宅出産を予定していることを告げると、現在すでに数人の妊婦がお産に入っており、助産師の数が足りないので、多分自宅出産は無理だろうといわれる。とりあえず自宅でもう少し様子をみて、陣痛が強くなったらもう一度電話するようにといわれた。こうなるのではないかとは思っていたが、案の定である。しばらくすれば、助産師の手が空くかもしれないとしばらく家で様子をみることにする。
 ところが数時間後に陣痛が5分おきになって電話をしても、やはり助産師が足りないといわれ、とうとうあきらめて病院へいくことにする。病院に着いてみると、その晩は本当に忙しかったようで、陣痛兼分娩室に入れられた後は、ほとんど誰も様子を見にやってこない。
 前回のお産は回旋異常のため吸引分娩となって結構大変だった。今回は2回目だし安産に違いないと信じて陣痛と戦うが、やっぱり痛い。そろそろいきみたくなってきたので、助産師を呼んだ。もう少しでこの痛みともお別れだと思うとちょっと元気が出てきた。ところが、その助産師は内診をしたあと、
「ちょっと柔らかいものが触れるので、医者に診てもらいますね。」
と言って医者を呼びに行き、なんとその医者は、
「もしかしたら逆子かもしれません。ちょっとエコーで見てみましょうね。」
というではないか!そ、そんなー。もういきむ準備万端だったのに、また我慢である。エコーでは案の定逆子であった。なぜこの段階まで誰も気づかなかったのー!と心の中で叫んでも後の祭りである。
 医者が経膣分娩をしたときのリスクと帝王切開について説明する。私も夫も頭の大きさでは誰にも負けない自信があり、さすがの私のりっぱな骨盤も、私たちの血を継いだ子供の頭を百パーセント余裕で通す自信がない。誰も逆子だなんて思っていなかったから、妊娠中に、経膣分娩が可能かどうかの評価は何もしていないのだ。
「て、帝王切開でお願いします。」
そして、緊急手術となった。こうなってしまうと、もう何でもいいから早くこの痛みから解放して!という感じである。
 そして無事次女が誕生した。3430グラムのりっぱな体格であった。
 あの必死に耐えた陣痛はなんだったのだろうとちょっとむなしくなるが、無事に産まれたことにまず感謝すべきであろう。逆子で生まれた子はマッサージが上手になるというから、それに期待しよう。
 それにしても自宅出産で安産のはずが、だいぶ違う結末になってしまった。昔から私は安産体型といわれ(おしりが大きいだけ?)自分でもそう思っていたのに、2度もこうなってしまうとは、私はお産にはよくよく運がないらしい。子供は3人欲しいと思っていたが、こうなるとちょっと考えちゃうなあ。

産まれたその後
 イギリスでは普通に分娩した場合には2,3日で退院、帝王切開の場合でも4日程度で退院する。私の場合は、娘の黄疸の光線療法のため6日目に退院となった。
 退院するとすぐ次の日に病院の助産師が家にやってきて赤ん坊と母親のチェックをする。その次には、ヘルスビジターと呼ばれる人が家までやってきて、今後の赤ん坊の検診や予防接種の話などをしていく。前にも書いたが、これら妊娠、出産、産後のケアにかかる費用はゼロである。学生として1年ほど滞在するだけなのに、ここまで面倒をみてもらってしまって、あまりイギリスの悪口ばかり言っていてはいけないなあと反省する。
 さてその後は、おっぱい、うんち、おしっこ、おっぱい、うんち、おしっこの毎日である。紙おむつは高価なので、昼間は布おむつにして夜だけ紙おむつを使っている。ベビーベッドはリサイクルショップにて20ポンド(4000円相当)で購入。母乳のみなので粉ミルクもいらず、かなり出費がおさえられている。ところがいつもはケチな夫が、なぜか赤ちゃんのおしりふき(ウェットティッシュー)にこだわりをみせ、スーパーの一番安いのでいいよという私に、
「その安いおしりふきの肌触りはどうなの?柔らかいのじゃなくちゃだめだよ。」
と言って、一番高価ないいにおいのするおしりふきを買ってくる。おしりを拭くたびに貧乏になっていくような気のしている私である。
 長女は予想通りものすごく情緒不安定になってしまった。
「赤ちゃん、赤ちゃん。」
とかわいがってはいるものの、私がおっぱいをあげていると、
「おっぱいあげちゃだめー。」
と言って泣いたりする。私も産後のためかイライラしていることが多く、つい冷たく当たってしまうこともあって、いつも自己嫌悪である。母に言わせると、私も妹が産まれたときにはかなり荒れて妹に乱暴をはたらいた(!)らしい。それを思ってもっと長女に優しくしなくてはと思うが、難しいのだ、これが。毎晩長女の寝顔を眺めながら、「まな、ごめんね。」と言っているだめな母親である。
 次女はといえばおっぱいをよく飲んでどんどん重くなっている。泣きわめく次女を抱き上げて、
「おっぱい、飲む?」
と聞くと、すぐに泣きやんで口を尖らせ、おっぱい準備オーケーの体勢になるのがなんともかわいい。日に日に表情が豊かになり、顔つきもどんどんしっかりしてきた。
 夫は次女が泣き出すとすぐに駆け付けて、抱っこした途端に泣き止む彼女に大満足。そしてまたわざとベビーベッドに寝かせて泣かせては、
「やっぱりパパが抱っこしないとダメなんだよねー。」
と言っては悦に入っている。スキンシップは大事だと思うけれど、今後、勉強しながら次女の面倒をみることを思うと、ちょっと不安な私である。
 私はといえば、出産直後、長女に、
「もう一人赤ちゃん入ってるの?」
といわれたお腹が気になるものの、とても元気である。うれしいのは、普段は小さい私のおっぱいがものすごく大きくなったことだ。長女の時もそうであったが、授乳しながら自分のおっぱいを眺めて自己満足に浸っている。
 次女をむかえて4人家族になった私たち。大変だけれど賑やかになってやっぱりうれしいなあ。


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