んだんだ劇場2004年9月号 vol.69
No3
ヘビも出るぞ〜!

ヘビは嫌いだ、恐ろしい!
 畑の南側に、300坪の空き地がある。埼玉県の人が買った土地だが、「すぐに家を建てる気はないので、自由に使っていてください」と言われている。それで夏になると、生い茂った雑草を父親が刈り払い、集めて積んで、堆肥を作っている。
 夕方、草刈りを終えた父親がニコニコしている。「どうしたの」ときくと、草刈り機の先端をひょいと横に払うしぐさをして、「やっつけた」と言った。
 「やっつけた」のは、ヘビである。

草刈りをする父親
 私の暮らしぶりを話すと、「いいわね田舎暮らしは。空気がおいしくて、野菜も新鮮で」というようなことを、よく言われる。まあ、反論する必要もないから、「そうだね」と言っておくが、内心は「虫は多いし、ヘビも出るぞー」と脅かしてやりたくなる。
 ヘビは、毎年見る。両親だけでこの家に住んでいたころ、母親の部屋に「なんだか縄のようなものがある」と思って、よく見たらヘビだったそうだ。父親も私もヘビは大嫌いで、すぐ逃げ出すのだが、母親は平気だった。「ほら、こんな所にいるとお父さんにやられちゃうから、早く逃げなよ」と言って、母親はそのヘビを外に出してやったという。
 アオダイショウやシマヘビは無毒だからそれほど問題ない(でも、怖い!)が、家の周囲によく出没するヤマカガシは要注意だ。背中に赤いダイヤのような模様のあるヘビだ。こいつには毒がある。日本にはマムシとハブしか毒ヘビがいないと思っている人が多いようだが、ヤマカガシも毒ヘビである。しかも、噛まれると、マムシよりやっかいだ。近くの病院に解毒の血清がないからである。
 マムシもハブも、人間が近づくと、身構えていて噛みつくから恐ろしい。その点、ヤマカガシは人間の気配を察知すると、ヘビの方で逃げて行く。だからめったに噛まれることはない。逆に、めったに噛まれないので、病院に血清が常備されていないのである。おぼろげな記憶では、群馬県に「スネークセンター」という所があって、ヤマカガシの解毒血清はそこから運ぶのだという。大変な手間がかかるのだ。
 我が家から歩いて5分ほどの所に、「トンボの沼」という町の公園がある。睡蓮の花が咲き、何種類ものトンボが飛び交っていて、私とモモの散歩コースでもある。しかし、沼を一周しようとすると、途中に「マムシに注意」という看板があるので、沼の向こう側まで行ったことはない。幸い、我が家の周囲でマムシを見たこともない。
 父親はヘビを見つけると、作業場から長い柄の草けずりを持って来て、「エィ、ヤッ」と切断してしまう。草刈りの最中なら、回転する歯で「ピュン」である。最初の年は10匹以上やっつけたそうだ。ほとんど、ヤマカガシだった。おかげで、ヘビの数は年々減っているようだ。それで「ヘビ退治」は父親に任せたつもりだったのだが、先日、裏の駐車場で1m以上もある大きなヘビが、のろのろと動いているのを私が見つけてしまった。朝ご飯を食べていた父親に報告すると、「オレはこれから出かけるから、お前がやれ」と言われた。
 後日、父親に「お前は、よっぽどヘビが怖いんだな」と言われた。草けずりの歯が曲がっていたのだそうだ。思いっきり、力任せに草けずりを振り下ろしたらしい。「道具は、使ったらちゃんと点検して、直しておけ」と叱られた。返す言葉がない。
 
網戸のカエル
 「今年は、カミキリムシが多いですね」と、かみさんが父親に話していた。そうかな、と思っていたら、「あら、また出たわ」。見ると、フローリングの床をカミキリムシが歩いていた。
 我が家の暖房は、薪ストーブなので、私が冬に備えて薪割りをする。すると、朽ちかけた木の中から、しばしばカミキリムシの幼虫が出て来る。白い、巨大なイモムシである。父親はそれを見ると、「昔は、炙(あぶ)って食べたもんだ。脂っこくて、うまかったな」などと言う。「じゃあ、集めて食べる?」ときいたら、「食糧難の時代のことだ。今はもっとうまいものがあるから、いい」と答えた。
 「自然が豊かな」所は、虫も多いのだ。食卓の上の蛍光灯には、コガネムシとかカメムシとか、そのほか名前を知らない虫がいろいろ飛んで来て、カバーの中に入りこんだまま転がっている。「飛んで火に入る」とは、よく言ったもんだと、つくづく思う。
 私は、家族が寝静まった夜中が、資料を調べたり、原稿を書いたりする仕事の時間だ。私の仕事部屋兼寝室は、西の作業場の上にある。その時間になると、灯りは私の卓上だけになるので、虫がみんな集まって来る。「ドスン」という音に驚いて顔を上げると、カミキリムシが網戸にぶつかった音だった。カミキリムシは、よく網戸に突撃して来る。大きな蛾(ガ)が来て、ちょっと気味悪い時もある。細かい虫はかなりいて、クモはそいつらを捕食してくれるから、軒下のクモの巣はあまり取り払わないようにしているくらいだ。大グモがアブラゼミを捕まえて、糸でぐるぐる巻きにしているのを見たこともある。
 そんな2階の私の窓辺に、毎晩アマガエルがやって来る。カエルにとっても、虫の集まる窓辺は絶好の餌場なのだ。昼間はいないから、夜になるとエッチラオッチラと壁を上って来るのだろう。いつもはチョコンと坐っているカエルが、網戸をよじのぼって積極的に虫取りに出動したことがある。真っ白い腹の方から見ると、なんとも間抜けな姿だった。

網戸をよじのぼるアマガエル
 カエルなら、まだかわいい。
 今年はまだ見ていないが、時にはゲジゲジが進入してくる。細長い無数の足をヒャラヒャラさせて、気色悪く歩く。この虫は、この家に住むまで見たことがなかった。毒もなく、噛みつきもしないので何の害もないらしいが、あまり見たくはない。家の周囲をきれいにして、じめじめした所がないように努力しているせいか、年々減っているようだ。
 それより、同じような姿で足の短いムカデは怖い。1階で寝ている父親は、夜中に手の指を刺されたことがある。「ズキンッ」と頭まで痛みが走ったというから、恐ろしい。私も寝ている時に、なんだかお尻の下がむずむずするので飛び起きたら、8pぐらいの赤い色をしたムカデがいた。
 ムカデには、殺虫スプレーがよく効く。たいていの虫に効果があるので、夏の我が家では各所に殺虫スプレーを置いている。
 「豊かな自然」の中で暮らすのも、容易なことではないのだ。

哀れ、タヌキよ
 トウモロコシが実った。が、今年のトウモロコシはまずかった。水不足のせいで、最初から実にシワが寄っていて、ゆでても硬く、甘みもない。しかしそれでも夜中に動物が現れて、最初の2本を食べられた。たぶんタヌキだと思うが、父親は「ハクビシンかもしれない」と言う。どちらにしてもほってはおけないので、父親は周囲に魚網を張った。網を「ピンと張る」のではなく、「ダラリと張る」のが父親の「秘策」である。網が「ピン」としていると、動物はよじのぼって来るが、たるみがあると、「網が動くから、動物は用心して登らないんだ」と父親は自慢した。下をくぐることができないよう、網の下の部分は余裕をもたせて地面に広げておく。

周囲に魚網を張ったトウモロコシ
 だが……網を張った翌日、「あいつらも必死なんだな」と、父親が感心していた。端のトウモロコシが、やはり食べられたというのである。が、それは、網目から手(正しくは前足)を伸ばして、届いた実を取って食べたのだ。しかしそれを網の外には出せないので、網越しに口をつけて食べたらしい。
 朝遅く、ノコノコと私が起きたころは、父親が掃除した後だったので現場を見ていないが、食べ残したトウモロコシの軸が魚網にひっかかっていたという。
 さて、この家で暮らし始めたころ、裏手の竹林からリスがやって来ていた。川沿いに樹齢100年か200年かわからない巨木が2本あるので、どちらかに巣を作っていたのだろう。畑の端にクルミの木があって、クルミが落ち始めると毎日来ていた。リビングからよく見える場所に、クルミを集めて置いてやったら、喜んで(と思うが)クルミをかじっていた。2、3個食べると、今度は両方のほっぺたをふくらませてクルミをどこかに運んで行く。冬に備えてクルミを地面に埋めるためだ。
 その木が枯れ、昨年、竹林の中に1本あったクルミの木も枯れてから、リスは姿を見せなくなった。クルミの木の寿命は20年ほどらしい。だが、リスが食べ忘れたクルミが、いろいろな場所に芽吹いている。
 クルミの実を、地面に置いただけでは発芽しない。クルミの木は、リスに食べさせてやる代わりに、種子を埋めてもらっているのだ。そのいくつかはリスが食べ忘れることを、ちゃんと計算しているかのようだ。自然は、うまくできているものだ。その中の1本は、すでに私の背丈を超えている。この木が実をつけるようになったら、リスは戻って来るだろうか。ひそかに期待している。
 畑仕事をしていたら、背後で「バタバタ」と足音がしたので、振り返ったら、「東の加藤さん」の方から、ノウサギが走って来て竹林へ消えたことがある。ヘビは勘弁だが、いろいろな動物を見る機会は多い。中でも多いのは、タヌキだ。ただし、車にはねられて道端に横たわっているやつだ。
 高速道路や有料道路で、しばしば「動物に注意」の看板を目にする。北海道ではキタキツネだったし、秋田ではカモシカの絵が描かれていた。サルの絵も見たことがある。クマの絵を見たことはないが、昭和55年、読売新聞秋田支局大曲通信部(秋田県大曲市)の記者時代、管内の田沢湖町の県道で、大型トラックがクマをはねた交通事故があった。
 房総半島各地で最近、イノシシが増えて畑を荒らす被害が増えているようだ。が、「動物に注意」の看板は、タヌキの絵ばかりだ(最近、「トンボの沼」のわきに「亀に注意」という看板が立った)。実際に、哀れなタヌキは多い。月に1匹は見ているのではないだろうか。タヌキは車のライトに照らされると、身がすくんでしまうらしい。それで、ほかの動物より、交通事故死が多いのだという。
 哀れで、私には他人事とは思えないほど悲しい。
 前に、「クサヤは苦手」と書いたが、食べられないことはない。食べものの好き嫌いはほとんどないのだが、極力食べないようにしている物はある。揚げ玉(てんかす)を上に乗せた「たぬきそば」だ。
 なんとなく、「共食い」になるような気がするからだ。

「トンボの沼」のわきに立った「亀に注意」の看板


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