んだんだ劇場2005年5月号 vol.77

No35−リフォームの季節−

のっぴきならない用事
 4月3日(日)昼前のJAL便で東京。朝1便でカミさんを飛行場まで送り届けたばかりなので、この日2回目の秋田空港。カミさんは日帰りだが、家に一人残してきた義母が心配。とにかくこのところめっきり物忘れがひどく、いや「物忘れ」といったレベルをもう超えていて、昨日は様子を見に行くと、ゲーゲー吐いて家の中をのた打ち回っていた。腐った豆乳を飲んでしまったのだ。アルツハイマーは物忘れだけでなく、こうした症状もあり、とにかく危険きわまりない。もう同居する時期に来ているのだが、カミさんが定年2年前にして部署が激務に変わり同居の準備をしている余裕がない、というのが現状だ。でもここ数ヶ月が山だろう。東京に着き、ある人と会談。プライヴェートなことなので内容は書けないが話し合いが一段落して上野へ。いつもの「上野藪」で一杯。人心地がつく。帰りに上野公園で花見。人数の割りに酔客が少ないのに拍子抜け。1升ビンではなく2リットルペットボトル(お茶)が主役という花見には驚いた。暴れたり酔っ払いも少ない。秋田が異常なのか。
 4月4日(月)快晴。午前中にデスクワークを済ませ、神保町でSさんと昼食。終わってMさんと喫茶店で打ち合わせ。知り合いのY社に顔を出し雑談後、いったん事務所に帰りメールチェックし秋田に連絡、仕事の指示。夕方、地方小のK氏と市谷で一献。最近はK氏と二人っきりで飲む機会が多い。夜、眠られず「『噂の真相』25年戦記」と「酒中日記」(吉行淳之介編)を読む。
 4月5日(火)快晴。今年の悲惨だった雪まみれの秋田にどうしても反射的に「おもい(恨み)」がいく。天候は人間の思考に重大な影響を与える。秋田や北東北、日本海側の自殺率の高さは天候と無関係なはずはない。春休み中の息子と近所のトルコ料理へ昼食。なかなかうまかった。午後から皇居1周、神保町経由で1万5千歩散歩。ずっと休みをとっていないので今日は休日気分。夕食もヒマそうな息子を誘って飯田橋の「S」という小さな沖縄料理屋。ここは20年前に来たことある。けっこう有名な店で、ずっとさがしていたのだが昨日偶然に見つけたもの。驚いたことに内装はかわっていたものの、出てくる料理は昔のまま。おいしかった。今日は早めに寝る。
 4月6日(水)昨日の夜に届いたゲラをチェック。この2本の仕事に5時間近くかかってしまう。どちらも今月中に出る本だからしょうがない。午前中電話多く来客もあり。地方小K氏と出版クラブで昼食。これで今回の東京での仕事はすべて終了。ブラブラ新宿まで出て映画「アビエーター」観る。ハワード・ヒューズの伝記ものだが、まあまあの出来。しょんべん横町でやきとりを食べるが「臭い」が気になって長居できなかった。カウンター両隣にタバコをふかされたのもきつかった。「尼さんは笑う」を読んで早めに就眠。今年に入ってほとんど休みをとっていないので、疲れがでてきたのか。
 4月7日(木)曇り空。午前中に掃除を済ませ昼は近所のバイキング形式の和定食屋さん。950円と高いランチだが本物のお袋の味で気に入っている。午後羽田に着くと、書店で恩田陸『夜のピクニック』が平積み。オビに「第2回本屋さん大賞受賞」の文字。あれっ本屋さん大賞って2日前ぐらいに決まったばかりでは。昨日会ったK氏が発表パーティに出席した、という話を聞いたばかり。この手回しのよさに敬意を表して購読。待ち時間から到着までの4時間あまりで読了。おもしろかったが、私にとっては「すごい」という本ではない。青春ものでは川上健一や若手女流に優れた作家がたくさんいる。エリート高校という舞台設定が感情移入できなかった理由かも。



ここが踏ん張りどころか
 4月11日(月)S先生の「コンビネーション」。30人はいるだろうか、やはり春になると人は増えるようだ。動きの大きなレッスンなので隣の人とぶつからないよう気をつかうと、それがストレスになる。ほぼ1ヶ月ぶりのレッスンなので途中で息があがる。やはり週1回はやらないと……3月は精神的な落ち込みや、頻繁に人とあったりして、エアロビに行く余裕がなかった。疲れたけれども爽快感は相変わらず。
 今年に入ってほとんど土日も休んでいない。忙しいというより土日に仕事をすると能率が上がるから、なんとなく無理してしまうのが本当のところ。義母のアルツハイマーや仕事上の態勢立て直し、個人的な落ち込みや会社、親族のことで内憂外患の日々だが、ここがふんばりどころ。健康であることに感謝しつつ、ゆっくり楽しみながら「下り坂」を降りていこう。
 昨日は久しぶりに足に1キロのウエイトを巻きつけ、手にダンベルを持って5キロほど散歩。さすがに疲れた。雨が降ってきそうなので距離を短くしたのでその分負荷をかけた。でも4キロというのはきつい。
カミさんの勤務が変則になり帰りが8時過ぎになるので、こちらの生活リズムもかわってしまった。夜遅くに食事をするのは身体にどうなのだろうか。朝の食欲と夜の熟睡が自慢だったが、最近2つともちょっぴりおぼつかなくなってきた。食欲はまだしも夜の眠りが浅い。起床時間前に目がさめるのも「老化現象」だけでは片づけられない何かがありそうで気になる。
 4月14日(木)またしてもいつもの失敗。Y先生の11時からの「中級エアロ」に出るつもりで午前中の仕事を調整したのだが、時間もレッスン内容も変わっていて、途中入場は禁止されているため、アウト。しょうがないので1回のトレーニングルームで筋トレ。若い男の子のインストラクターに機材の使いかたを教えてもらうが、彼らもけっこう急がしそうで、オバサンのリクエストで指名のかかったほうに行ったきり戻ってこなかった。こちとらだって美人のインストラクターに手取り足取り教えてもらったら楽しいから、人のことは言えない。たいして汗もかかなかったがシャワーで全身をくまなく洗いさっぱり。トレーニングに行くのは、このシャワーを浴びてすっきりできる「利点」もある。実は小生、自宅の風呂では烏の行水で身体はめったに洗わない。スポーツクラブに来ると入念に髪や身体を洗うのは、そのため。
 クラブに行く前、知事選の不在者投票(今は別の言い方をするらしい)のため秋田駅へ。ここで個人的な銀行振込も済ませてしまう。駅構内でほとんどすべての用事がすんでしまうから便利だ。なんとなく気分を変えたくて、もう一年近く同じ腕時計をはめていたのだが今日から別のものに替えてみる。このところ夜はもっぱら南木佳士の本に夢中。『山中静雄氏の尊厳死』という本に納められている中篇小説「試みの堕落論」は読んでびっくり。タイの難民医療チームに参加した著者が買春をする話だが、この裏舞台が秋田なのである。あまり目立たない小説だが秋田がコード進行上、かなり重要な役割を担っている作品で興味深い。南木佳士はいい。もう4冊ほど読んだが、まったく飽きがこないし抑制の効いた生き方に共感が持てる。



結城さんの受賞パーティー
 4月15日(金)昼の電車で仙台へ。結城登美雄さんの芸術選奨受賞パーティ出席のため(本も売る)。秋田県知事選の期日前投票を前日、同じ駅構内投票所で済ませたばかりだ。仙台の会場である市民会館横の西公園では、そろそろお花見の準備がはじまっていた。少し早めに着いてしまったので西公園を散歩して、さらに駅前まで出て、戻ってくる。パーティーは300人規模の大掛かりなものだったが箸、コップ持ち込み、酒肴もすべて持ち込みというユニークな会で会費は3000円。挨拶は最初に浅野知事が乾杯の音頭をとって、後はもっぱら飲み食い談笑、それも2時間弱で終了した。会場にずっと都はるみの曲が流れていたが、これは結城さんの好み、というか彼女が今回の同時受賞者でもあるからだ。会場を移動し結城さんの講演会。多くのボランティアがいないと成立しない会だなあこれは。人望のある結城さんがうらやましい。2次会は「おでんの三吉」。有名な店だが初めて入った。さすがにおでんはうまい。知らない方と2次会ということでご一緒したが、結城さん本人は現れず。それではと結城さんの広告会社元社員たちの飲み会にひとりで潜入する。日があらたまったころ結城さんが酔って現れ、1時半ころ解散。ホテルに帰って爆睡。
 4月16日(土)今日は東京・虎ノ門で同じパーティー。仙台と違いこちらは40名内外のこじんまりとした会で、進行も型どおり。最初に講演会をやったあと、立食パーティーに移動。出席した7割近くの人が挨拶にたつ。どちらの会場でも本を売ったのだがよく売れた。終わってから作家のMまゆみさん、世田谷のパテ屋さんのHのり子さん、建築家のI先生、共同通信のMさんの5人で東京駅に結城さんを見送り。そのまま地下の沖縄料理店に直行して「主のいない2次会」で5人は盛り上がった。
 4月17日(日)2日間の疲れが出たのか昼近くまでぐっすり。午後から映画でも観ようと渋谷に出かけるが、あまりに人ごみに「ヒトアタリ」して気分が悪くなる。映画はどれも食指が動かず、ブンカムラで蜷川幸雄演出の芝居をやっていたので入ろうとしたら開演時間を5分過ぎていて、これもダメ。新宿に移動してみたが、やはりおもしろそうな映画はない。あきらめて神楽坂に帰り、山崎マキコ著「マリモ」(新潮文庫)を読む。
 4月18日(月)午前中にバタバタと帰り支度。羽田空港ANA新ターミナルの5階の「けけ」というバイキング自然食レストランで昼飯。なかなかうまい。自分の好きなものが食べられるというのはメニューに悩まずにすみ、ありがたい。野坂昭如著「文壇」(文春文庫)読み続け、秋田に着くと山のような仕事。今月は週末も予定がびっしり、早く仕事を片づけなければ息を抜く時間が作れない。しんどいなあ。



リフォームの季節
 4月25日(月)S先生のコンビネーション。今月は3回目のレッスン。月に5回が目標だが、まあ、長期間休まないだけでもいいとしよう。とにかくなんだか身辺がいつも騒がしく時間がなかなかとれない。フロア前にまたしてもスポーツドリンク無料の試飲所。3本ぐらいせしめる主婦もいて、たくましい。私も2本ゲットをめざしたがタイミングあわず1本のみ。今日は20人くらいの出席者で大きく動いても大丈夫だった。このくらいがちょうどいい。30人を越えると身動きが取れなくなり、酸欠状態で息苦しい感じになる。S先生のレッスンは動きが大きくうえに速く細かいから、余計人数が気になるのかもしれない。実は前回のレッスン(14日)の汗だくウエアーがバックにそのままで、新しいウエアーに詰め替えるのを忘れていたこと。スタジオに着来て、そのことに気がつく。生乾きの気持ち悪いウエアーをまとってレッスンに臨むが、数分でそのことすら忘れてしまうほど熱中。しかし最後にストレッチのために脱いだシューズを忘れて家に帰ってきてしまう。かなりボケてきてるなあ。
 2日前、盛岡の印刷所の熊谷孝さんが81歳でなくなり葬儀に出席。1年前まで現役でバリバリ仕事をしていた方なので突然の訃報にはおどろいた。盛岡から帰って地元紙を読んでいたら「明治大学教授・山崎光博氏、逝去」の記事。山崎さんはまだ58歳で、無明舎のHPにも「かやぶき屋根復元プロジェクト」の連載を書いていただいていた。東京でも何度かお会いしているのだが、まさか病に冒されているとは。さらに今日は「秋田の民俗」の著者である木崎和博さんが逝去されたとの連絡。2月の父の死以来、身近で死が渦巻いている。私自身そういう年齢になったということか。合掌。
 人と会う日々が続いている。仕事と直接関係はない。義母と同居することになりそうなので家のリフォーム、義母の家や不動産の後処理、さらに東京事務所の引越し(義母との同居で東京に行く時間がほとんどなくなる)といった主に「不動産」に関わる厄介な問題で仕事よりも疲れる。その道の専門家と相談しているのだが、門外漢なので初歩から教えてもらう。金と不動産は縁がない人生だと思っていたのだがなあ……。ベッドに入る前の数時間が「読書タイム」で至福の時間だが、これもいい本に出会わないと台無しになる。衛星放送の映画も楽しみ。昨日は川島雄三監督の「幕末太陽傳」が面白かった。映画館まで期待して観にいった「真夜中の弥次さん喜多さん」は頭が痛くなってしまった。ちょうど重松清の「流星ワゴン」という小説を読んでいて、どちらも死後の世界と現世が交錯する話でややこしい。ややこしいのは沢山だ、GWは山登りでもして心身ともリフォームしたいものだ。


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