んだんだ劇場2005年1月号 vol.73
No26
アメリカ道中記 搭乗編

 事前に、Nさんから「パスポートだけ、絶対に忘れないように」とメールで連絡がありました。パスポートが無いと、外国に行くことができないから…そう言えば、数人の友人・知人に「パスポートを持っていますよね」と聞かれました。パスポートは2003年6月30日に、秋田県庁県民文化政策課へ申請しました。アメリカ研修の1年前でした。今思えば、1年後にアメリカ研修に行くことを予感していたのかな…ほとんどの場合、窓口業務の方に代筆をお願いして、申請書類をお願いするのですが、パスポート申請のときは「ご本人直筆でなければならない箇所かありまして…失礼ですけど、鉛筆を持つことができますか」と質問を受けました。「鉛筆を持って字を書くことはできるけど、決して上手な字ではありませんよ」と言うと、「それでもかまいません。ご本人が書いたことを証明できればよいのです」と言うので、左手にボールペンを持って字を書いたことを覚えています。5年有効券を購入しました。写真も必要なので、地下1階の売店で取りました。電動車椅子から椅子に乗り移り、写真をとりました。元来、写真をとると意識すると、写真写りは良くないほうと思います。「ハイ・ポーズ」と言われると、意識して、脳性マヒ特有の不随意運動が激しくなります。顔が引きつってしまいます。僕の証明写真は「こわい〜」と人が言います。パスポートの写真は、僕の人柄が伝わるような写真をとろうと意識すればするほど、不随意運動が激しくなりました。出来上がったパスポートを友だちに見せると、「まるで犯罪者のような顔だね。怪しまれないように…」と言っていました。アメリカ研修へ一緒に行くNさんも「人相の悪い写真だね…他に良い写真、なかったの?」と笑っていました。
 海外旅行損害保険のことは、インターネットで海外旅行について情報収集して、知りました。僕が一番参考にしたサイトは『海外旅行ウェブジャーニー 出発準備と総合情報』(http://www.web-journey.com/)でした。Nさんから「私はAIUに入っているよ。何かあったときのことを考えて、必ず保険には入っていてね」と話があり、どこの保険がいいのかな〜とインターネットで検索していました。幾つかの海外保険会社がありましたが、Nさんと同じ保険会社に頼むことに決めました。安心感がありました。秋田市山王に在る《AIU保険会社秋田支店代理店》に電話をかけました。
「ご都合の良いとき、こちらに来てくれますか。それとも、こちらが伺いますか」
「僕の自宅に来てくれませんか」と即答。「分かりました…」平日の仕事が終わってから、午後8時に約束しました。保険加入のようなことについて、多くの人は玄関先で済ますと思っています。僕の場合は立ち話が苦手なこと、書類の手続きは代筆が必要であることから、部屋に上がってもらいます。部屋にある愛用の座椅子に座って、保険の商品の説明を聞いたり、代筆を見届けたりした方が精神的にも、肉体的にもラクです。今回の研修の行き先・期間・目的など…を説明すると、それに適した商品を勧めてきました。「保険料6830円を払うと、10日間、安心して研修をすることができますよ」と担当者の話を聞いて、保険を知ったような気がしました。
 8月5日。昨日の壮行会が盛り上がり、二日酔いで昼過ぎまで寝ていました。今日は、アメリカ研修の前日なので、学校の仕事は休日をとりました。手荷物は、JALではビジネスクラス利用で成田までの片道のみ手荷物ひとつ分が無料になるので、そのサービスを利用しました。Nさんが頼んで申し込んでくれました。8月5日午前中にNさんの自宅に宅配業者が取りに来る予定になっているようなので、3日に僕のスーツケースをNさんは取りにきました。いつも出かけるときは、前日に荷物をまとめますが、既にスーツケースを送っていました。(明日が出発なのに、随分とゆとりがあるなぁ)と感じました。
 僕はメールチェックをして、友人や知人に「明日から14日まで、アメリカに行って来る」とメールを書きました。そして、僕のHP『ガクちゃんWORLDへようこそ』の"一行日記"に、数日間の出来事をまとめていました。そして、航空チケットや財布、障害者手帳、パスポート、海外旅行損害保険「AIU」の手帳、スプーンとフォークを入れているお食事セット、飲み物を飲むときに使用するストロー、手拭き、ハンカチ、ちり紙…など。デジタルカメラ、デジタルビデオ、ノートパソコン、ICレコーダーなど、研修の記録に必要な情報機器もスポーツバックに入れました。
 その日、母は仕事帰りに秋田市社会福祉協議会によって、移送車を借りてきました。今回のアメリカ研修に限らず、東京等に行く予定があるとき、5年前くらいから飛行機を利用することが多くなりました。電動車椅子を秋田空港まで運ばなければならない。皆さんが知っている車椅子のように折り畳むことができると、一般の普通車に積むことができます。しかし、電動車椅子は折り畳むことができないうえに、80kgもあります。1人の人間の力では、荷台に積むことも不可能…電動車椅子専用の車が必要になります。数年前から、民間のタクシー会社で「福祉タクシー」を走らせています。一般のタクシー料金で、電動車椅子に乗りながら行きたい所に連れて行ってくれます。秋田市内に用事があるときは利用していますが、秋田空港までのタクシー料金を考えると、秋田市社会福祉協議会の《移送車サービス》を利用した方が良いと考えます。この《移送車サービス》は、僕がサービスの申請をすると、移送車利用登録証が渡されます。発行日が平成13年3月26日。
『※ご利用にあたって』
・ 利用申し込みは、電話等で予約して下さい
・ 利用期間は、原則として2日間
・ 利用料は、無料です。ただし、燃料費は自己負担です。
 友人・知人のAT運転免許のある方が市社協の職員の説明を受けると、運転手の登録がされます。後は、市社協に「8月6日に、秋田空港に行くので、前日に母が移送車を取りに行きます」と電話連絡をすると良いです。このサービスは、とても役に立っています。以前、移送車の運転手を大学生のボランティアに頼んでいましたが、母は「私もできる」と言い、移送ボランティアに名乗りをあげました。今回のように、学生が夏休み中のとき、なかなか頼むことが難しい…また、最近、学生と関わりが全く無く、気軽に頼むことができる学生が身近にいない…かなり、切実な問題であり、いずれ解決をしなければ…と思っています。
 6日、母の運転で秋田空港へ行きました。出発の日は、雨。少し、アメリカ研修の先行きが心配になりました。午前7時10分ころ、自宅を出発して、午前8時頃、秋田空港に着きました。障害者用駐車場に車をとめ、秋田空港内に入りました。JILの搭乗手続カウンター前に、Nさんは座って待っていました。母は「息子をよろしくお願いします」とNさんに、丁寧な挨拶をしました。「三戸先生のお母さんに、初めてお会いしたのですが、いろいろ苦労をしてきたのにとても明るい方でした」とNさんが感想を言ってくれました。
 予定通り、電動車いすのバッテリーをはずしてアイスボックスに収納し、預けました。電動車椅子利用者が飛行機に乗る場合、バッテリーに課題があります。僕のものは通常の自動車で使用しているウェットタイプのバッテリーを使用しています。このタイプは移動の振動で液漏れ起こしやすいのでバッテリーだけを別に運ぶことが必要となります。具体的にはバッテリーを搭乗前にはずし、アイスボックスのような衝撃のかからず漏れても大丈夫なコンテナーに移し運ぶのです。JALではアイスボックスにプチプチ衝撃吸収保護シート?でくるみ運びました。車椅子で移動する方もいらっしゃるようで、初めてではないそうです。バッテリーの1つの重さは13kg、JALの女性職員は軽々と2つ持って計量していました。全部で、26kg!!その姿に、唖然としました。電動車椅子をJILの手荷物に預けて、僕はJILの手動車椅子に乗り換えました。
 少し時間があるので、空港1階の待合コーナーで、喫茶店【sora】のモーニングコーヒーを飲みました。そこまで、母が車椅子を押してくれました。
 「私は、全く心配していないよ。せっかく、アメリカに行くのだから、たくさん勉強しておいでよ。アンタが1週間いないので、ゆっくりと羽を伸ばすよ」と母。僕は初めての海外なので、緊張していました。Nさんは愛用のデジタルカメラで、写真を撮っていました。
 「あとで、研修の報告書を書くんでしょ。そのときに、役に立つと思って…たくさん写真で記録しておこうよ」
 20分くらい、話をしたのかな〜「そろそろ、お時間ですよ。2階の出発ラウンジに行きましょうか」とJILの担当者。2階セキュリティーチェックに入るところで、担当者は車椅子を反転しました。出発ラウンジまで来てくれた母に「行ってきます」と言うと、「気をつけてね」とニコニコと手を振っていました。そして、Nさんに「本当にお世話になります。よろしくお願いします」と頭を下げました。


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