んだんだ劇場2005年5月号 vol.77
No27
アメリカ道中記 空港編

 車椅子で、保安検査場に入りました。Nさんは、手荷物をベルトコンベアーに預け、金属探知機を通り向けました。車椅子で、金属探知機を通り抜けると、車椅子の金属に反応するので、僕は金属探知機の脇を通りました。「お体に触れたいと思います。宜しいでしょうか」と係員。「いいですよ」と答えると、「お身体で、どこか痛いところはありませんか」と聞いてきます。「特に、ないよ」と言うと、そっと身体を触りました。足元・背中・上半身やポケット…などを触って、「ご協力、ありがとうございました」と係員。手荷物を手渡してもらい、出発ラウンジへ車椅子を押してもらいました。
 Nさんの手荷物が金属探知機に反応して「手荷物の中を開けても宜しいでしょうか」と係員に問われていました。「スパナ(10‐12o)が反応したのかな…」とNさん。手荷物の中から、スパナを取り出した。2人の係員は、"なぜ、そのような物を持っているのか"と不思議そうな顔というより、眉間に皺を寄せて、警戒心を強めていました。
 その雰囲気を笑うように、Nさんは「これは、ガクちゃんの電動車いすを折りたたむときに使う物です」と説明しました。すると、急に申し訳なさそうな表情をしました。
 「これから、このような場面がいっぱいあるね。その都度、説明していこう」とNさん。「そうだね。これが、この研修の1つかもしれないね」と僕。「しばらく、ここで待ってください。まもなく、搭乗手続ができますので…最初のご案内となります」と係員。
 そして、係員が戻ってくると、他の乗客が搭乗手続をする前に、僕とNさんはJILの羽田行に乗りました。飛行機の入り口のステップまで、車椅子で行きました。タラップ内は、緩やかな傾斜があります。「少し坂がありますので、車椅子を反対向きにしますね」と言い、車椅子を押してくれました。その手つきに、慣れているなぁと感心しました。
 飛行機の入り口に、数人のスチュワーデスが待っていました。「どのようにすると、いいですか」と聞くので、「席まで、歩いていきます。僕の身体を支えてほしいです」と伝えました。両脇から支えられて、僕は席に着きました。ほとんどの場合、一番前のスチュワーデスと向い合わせの席に座りますが、この日は違っていました。7列目の席でした。僕は窓際に座り、Nさんは隣に座りました。
 10時05分発で、羽田空港に11時10分に着きました。東京湾に、夏の日差しが照り付けて、日光が海面に反射をしていて、海面がキラキラと光っていました。出発時の秋田の雨模様と裏腹な夏空に、気分は高揚してきました。(明日の今頃は、国際線の飛行機の中…)と思うと、大きな期待が心の中で踊っていました。
 羽田空港に着陸すると「他の乗客が全て降りるまで、待っていてください」とスチュワーデス。僕は一番目に乗り込み、最後に降ります。飛行機から降りる乗客の様子や表情を見ていました。機内の密室空間からの開放感や目的地に着いた嬉しさが伝わってきます。僕と同じような感情を感じます。笑顔で乗客を送り出した後、スチュワーデスは忘れ物がないか機内をチェックします。
 「リフトが到着しました。入り口まで、歩きますか。それとも、車椅子で移動なさいますか」とスチュワーデスが聞いている間に、男性職員は機内の通路を通るために、車椅子の車輪を外し、もっと小回りが利いて不安定な車輪の車椅子を席まで持ってきました。僕はそれに乗り、機内の入り口で車輪を取り付けて、他の乗客と反対の降り口からリフト付移動バスに乗りました。
 飛行機の降り口まで、荷台が昇降します。リフト付の移動バス(機内から車椅子のままでターミナルまで歩かずに移動できる優れもの)をJALが手配してくれました。羽田空港には4台が常備されていて、JALとANAが共用しています。1日に50名程度が利用しています。込み合うと利用できないこともあるそうです。年配の方などの利用が多いとのことでした。クーラーが効いていて、すごく快適です。10分程度ですが、職員の方と話ができることが楽しいです。
 羽田空港の手荷物受取所で、電動車いすとバッテリー、スーツケースを引き取りました。手荷物受取所内は、他の乗客は一人もいませんでした。Nさんが電動車いすのバッテリーの配線を取り付けました。JILの手動の車椅子から愛用の電動車いすへ乗り移りました。大げさかもしれませんが、いつも手動車椅子から電動車椅子への乗り換えは、自分の意志で自由に動くことができる自由を得たような気がします。
 羽田空港で待っていてくれた車椅子用タクシーで、前泊する成田日航ホテルに向かう手配をしていました。睦交通の運転手が迎えに来てくれていました。しかし、時計は間もなく正午。羽田空港で、昼食をとりたいと思いました。ここが車椅子タクシーのいいところで、実に融通が利きます。本当はいけないのかもしれませんが、運転手に事情を話すと「大丈夫ですよ。ゆっくり食事をなさってください」と快諾してくれました。40分程度時間を頂いて、1階の出口のすぐ近くの「ライオン」で食事を取りました。「焼肉ビビンバ」を食べました。12時30分頃、ホテル日航成田へ向いました。
 途中、高速道路へ乗り込む一般道が混雑していました。ホテル日航成田には1時間半程度で、午後2時頃に到着しました。¥22170円。クレジットカードで支払いました。羽田空港⇔成田空港は定額料金で税込み¥21350円。ホテルまで、料金メーターで支払うことになっていました。
 ホテルに入ると、今までの雰囲気と全く違いました。皮膚の色が多様で、1階のロビーで『アメリカ』を予感させるものでした。"ホテル日航成田"は出国を控えた方々が泊まるホテル。突然、白人女性が僕に近寄ってきて、「Hello」と声をかけて来たので、「Hello」と返事をすると、「May I help you?」と話しかけてきました。電動車いすに乗っている僕は「No,thank you」と言い、握手を求めて手を差し出しました。「Oh,thank you」と言い、その握手に応じてくれました。チェックイン後、4階の476「ユニバーサルルーム」に案内されました。478がNさんの部屋。しばらくの間、くつろいでいました。


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