んだんだ劇場2005年11月号 vol.83
No32
研修先の大学にて

2004年8月9日(月)
 今朝は、小鳥のさえずりで起きました。ひんやりとした朝の空気が心地良く、時計を見ると、午前8時。シャワーを浴びました。シャワーの水の勢いが強烈なので、身体の節々が水圧されて、気持ちよさを感じました。着替えをして、階段のところで、Nさんを呼びました。「おはよう。ガクちゃん…今日から、研修が始まるね」とNさん。「そうなんだよ。いよいよ、今日から始まると思うと、ドキドキしてきたよ」と僕は応えました。
 1階では、ジェーンさんが電話をかけていました。「これから訪問するアーカンソー大学に電話をかけて、アポイントメントをとっているところですよ」とNさん。僕は席について、朝食を食べ始めました。メニューは'シリアル・コーヒー・ベーコン・pruneサラダ'でした。アメリカに来る前、知人の「外国に行くと、食文化が違うので…体調を壊すかもしれないから、気をつけなよ」とアドバイスを聞いて、未知なる食事に少しの不安を抱いていました。なにせ、初めての外国。普段はほとんど体調を壊すことのない僕でも、環境が変われば…自分が気づいていなかった繊細な自分の体の一面を知ることになるのかなと思っていました。しかし、3日あまり滞在して、アメリカの食事に慣れました。僕自身、その環境の適応力に感心していました。
 僕が朝食を食べているとき、ジェーンさんとNさんは打ち合わせをしているようでした。「午前10時30分にアポをとりました…ここを、午前10時10分ころ、出発しよう」という会話が聞こえてきました。思わず、僕は「O.K..Thank you」と大声で言うと、「Oh!Very Good」とジェーンさん。2人の会話を聞き取ることは難しいけれど、数字は聞き取ることができました。少し、自分に自信を持つことができました。
 昨日、アーカンソー大学に行きました。ジェーンさんが運転する車で10分くらい。「ここから、大学まで近いですね」と話すと、Nさんは「ジムさんがアーカンソー大学に勤務されていたんだよ。専門は数学。後で、ジムさんの書棚を見てごらん。結構、数学の本が多いよ」と教えてくれました。
 朝食を食べ終わると、身支度を整えました。ICレコーダと私の教師生活を説明するときに使用するファイルをショルダーバックに、詰め込みました。各訪問先で、僕の教師生活を説明するときに便利と考えて、写真に英語で説明を書いたファイルを作って、持っていきました。言葉で伝えるよりも写真の方が僕の教師生活をイメージしやすいのではないかと考えました。
 大学のキャンパス内に入り、ジェーンさんは障害者用駐車場を探しました。日本でお馴染みの車イスマークが、ここアーカンソーにもありました。世界共通のマークなのかなぁと思いました。車を駐車すると、ノンステップで大学の校内への入り口でした。僕にとって、その公共施設が使いやすいかどうかを判断する視点の1つが入り口です。入り口は大まかに押し戸・引き戸・自動ドアの3種類があります。使いやすさの順で並べていくと、自動ドア・引き戸・押し戸。その入り口が自動ドアに、驚きました。廊下は車イスがすれ違っても、余裕たっぷりの広さが確保されていました。エレベータは日本と変わりありませんでした。余談ですが、エレベータの中に入ると、正面に鏡がついています。その鏡は、車イス利用者がエレベータから降りるときに、鏡を見ながら、バックで降ります。僕の意識のでは、公共施設でエレベータの設置は当たり前で、エレベータの正面に鏡が付いているのか、チェックポイントの1つの視点です。
 さて、ジェーンさんの照会のもと、アーカンソー州立大学Center for Student with Disabilities(障害学生センター:CSD)を訪問しました。ミーティングの最中でしたが、やさしく迎え入れてくれてミーティングに加わりました。自己紹介をした後、スタッフの説明を聞いた後,幾つかの質問をしました。
◎ CSDの設置
 1973年職業リハビリテーション法(Vocational Rehabilitation Act)と,1990年アメリカ障害者法(Americans with Disabilities Act)により,障害学生の市民権が守られています。障害が理由で,大学生活が不利益を被ることがないように,様々な支援をする部署です。新入生の障害学生にとって,大学生活に適応することは多くの挑戦を引き起こします。 アーカンソー大学 (University of Arkansas)は全ての学生の平等な教育の機会を提供して,障害学生のために完全な大学生活を過ごすことができるように決心しています。障害学生センターは,障害学生に機会均等を提供することにおいて重要な役割を演じて,そして管理者,教授と学生との連絡役です。サービスの準備の基礎となっている哲学は,障害学生の最大の成功機会を,そして大学卒業後の自立をサポートします。
◎ CSDの組織
 スタッフは20人程度。私が訪問したとき,ミーティングをやっていました。6人のスタッフが対応してくれました。Dr. King氏はCSDの部長です。カウンセラー教育の学位を持っています。Dr. King氏は聴覚障害者と精神障害者,脳損傷の学生を担当しています。また,障害関連の問題点を大学に専門的に申し出る役割を担っています。
 Dr. WattsさんはCSDの準部長です。Dr. Wattsさんはカウンセラー教育の学位を持っています。学習障害,ADHDなどの学生を担当しています。新入生の障害学生の指導・助言をしています。
 それぞれの担当者がそれぞれの障害カテゴリーを担当していました。
◎ 主な質問内容
Q1.学生数,割合。
A1.1学年4000人の学生がいます。そのうち,200人程度が障害学生です。全体の5%を占めています。
Q2.どこが支援をしていますか?
A2.アーカンソー州がお金を出しています。
Q3.仕事の内容。
A3.試験のときのサポートが一番忙しい。一人ひとりの障害学生に合うサポートを考えています。
Q4.障害学生の就職状況は?
A4.現在,失業率はとても高い状況です。ほとんどの障害学生は就職ができない状況。卒業後の生活は,CSDとして把握していない。
Q5.学校の先生になった障害学生は,いますか?
A5.しっかりと把握していないので,分かりません。
Thank you for talking. ――――
◎ 授業での主な支援
・ ノートテイク ・座席指定 ・テキスト等の文字を拡大 ・テキスト等を点字に変換 ・アシスタント
・ 大学の校内にアクセスしやすい駐車場の確保
・ 住んでいる部屋のバリアフリー化
◎ 試験での主な支援
・ 試験時間の延長 ・パソコンで答案を作成 ・問題を読んでもらう ・電卓の使用 …
・ 試験の時間延長や手話で受験する学生は,個室で試験を受験します。
◎ CSDの活動内容
障害学生に、学ぶ環境を整えていくことは、障害学生に多くの挑戦を促します。アーカンソー大学は、等しい教育的な機会を全ての学生に対して提供するあらゆる努力をして、障害をもつ学生のために完全な大学経験を改善することを約束します。CSDは、その中心的な役割を担っています。
障害学生の義務は、次の通りです。
・ 生活支援要請を議論するために、CSDスタッフメンバーに会うこと。
・ 生活支援要請の形式に記入すること。
・ 生活支援要請される各々のコースのインストラクターに、申請用紙を用意します。
・ 申請用紙を各々のコースのインストラクターに届けること。
・ そのコースのインストラクターと支援内容を話し合ってください。
(CSDは、学生と教職員に提案を提供するために利用できます)
・ 試験の1週間前に、支援を受けたい要請をすること
・ 生活支援に関して、どんな事でもCSDに報告すること 
・ 障害学生に生活支援の内容をメールで通知するので、障害学生はCSDにメールアドレスを登録し、更新すること
◎ 支援の申請
 CSDへの登録は、アーカンソー大学への入学手続きと別々です。申請手続きに関しての情報がほしい学生は、CSDに連絡をして、その情報を取り寄せます。
☆ 登録プロセスのチャート
障害学生は大学生活支援要請をするため、申請用紙に記入します。

障害学生は、CSDのガイドライン(職業リハビリテーション法とアメリカ障害者法に適合)に基づき、障害の種類と程度を申請します。

どのような支援をしてほしいのか、支援内容をCSDのスタッフと会って、話し合います。

CSDで議論して、その学生が支援対象なのか十分に検討して、決定します。

CSDは学生に支援対象であることを伝えます。

CSDと学生が生活支援の内容を話し合います。
◎ 障害の確認
CSDの障害確認ガイドラインは、5つのカテゴリーに分けられます。生活支援をするための便宜を図るためです。尚、生活支援要請で知り得た学生の個人的な情報(障害名と程度など)は絶対に公表しません。
1.学習障害
2.注意力欠陥障害(ADHD)
3.機動性(感覚で、全体的な状況)…身体障害者
4.精神医学的な障害
5.外傷性脳損傷(TBI)
◎ 障害者差別を受けた場合
障害学生が障害に基づく差別を受けたか、様々なアクセスを与えられなかったと思っている場合、職業リハビリテーション法とアメリカ障害者法に基づき、苦情手続きをして訴える権利があります。差別は以下のカテゴリーに類別されます。
A 大学生活支援に関するサービスの修正、意見の相違または否定
B 大学の学習活動で感じる不便さ
C 障害によるいやがらせ,差別
D その他
 訴えた学生は、CSDの副ディレクターか、障害学生が指名したCSDのディレクターと相談します。不満を和らげます。不満が解決されなければ、学生は適切な正式な苦情手順をとる権利があります。法律の手続きにより、差別を解消していくシステムができています。このような手続きを取った障害学生に対して、社会的な報復は大学方針と連邦主義者と州法によって禁止されています。
           アーカンソー大学 障害学生のためのセンター 申請用紙
今日の日付:_________________
現在の大学の学年:___________   卒業予定    :_____________
個人情報
名前:____________________________________________あだ名:___________
電子メール:________________________
性_____ 人種______ 生年月日__________________
実家の住所:
実家の電話番号:
現定住所:
現在の電話番号:
緊急連絡先  :名前 電話番号

障害名と程度        始まり・診断の日付
1._________________________________ ______________________________
2._________________________________ ______________________________

あなたは、リハビリテーションのアーカンソー部に登録されますか?________________
可能ならば、あなたのカウンセラーは、誰ですか?_____________________________________
生活支援に関して
1.あなたが過去に受けた生活支援を書いてください。
_______________________________________________________________
2.あなたがアーカンソー大学で要請したいと思う生活支援をかいてください。
_______________________________________________________________
3.あなたがしてほしい生活支援を教えてください。(CSDの参考のために)
_______________________________________________________________

 約30分の訪問でした。スタッフは「日本から来た研修」と聞き、僕のチャレンジに敬意を表しているように感じました。大学内にCSDという専門の部署があり、障害者一人ひとりにあった方法でサポートしていました。予算と人員を配置していなければ、到底できることでありません。ただただ、圧倒されていました。
 帰りに、Wallmartで買い物をしました。「このスーパーマーケットは、アメリカでも有数なチェーンストアーですよ。アーカンソーに本社があるため、本社の近くに自前の空港まで作って、もとの空港を移転したんだよ。秋田で言えば、ジャスコとヤマキをくっつけたようなもので、1階のみ。端から端まで歩くと、10分はかかると思います」とNさん。
 入り口に、車椅子の標識がありました。その隣に、次のようなことを書いていました。
【障害を持った方々へ
当店では、アメリカ障害者法により、障害を持った方々が使いやすい建物です。何か不便を感じたら、すぐに当店に報告してください。早急に改善したいと思います】
4行くらいの英文でした。Wallmartの宣言に読み取ることができました。しばらく、僕はそこに立ちつくしました。これまで利用した公共施設で、不便さや理不尽なことを伝えてきました。たいてい、僕の訴えは嫌な顔をされることが多く、ここ2〜3年前から「教えてくれて、ありがとうございます」と礼を述べるときもあります。しかし、この場合も「必ず、改善します」とは言わなく、「社内で検討します」と答えます。検討した結果の報告を受けますが、「利用するとき、事前に連絡をください。職員があなたのサポートをします」と個別的な対応がほとんど…サポートの職員に頼まないと、僕は利用できない…それに対して、Wallmartは誰かに頼むことなく、利用できるようなシステムになっていた…
 入り口の脇には、貸し出しの電動車椅子3台が置いてありました。もう、感嘆…店員に尋ねました。
僕  「なぜ、電動車椅子を置いてあるのですか」
店員 「これから買い物をするのよ。荷物を持って歩くの、大変な方もいるでしょう。そういうとき、電動車椅子を利用するとラクですよね。いっぱい、買い物できますよね。借りるときは、店員に言ってくださいね」
僕  「利用します」
店員 「あなたは、自分のものがあるでしょう」
僕  「この店のものを乗ってみたい…」
店員 「あとで、どっちが乗り心地がよいのか…教えてね」
僕  「Thank you」
 僕は店内を乗り歩きました。遊園地で、ゴーカートに乗るような気分。スピードは遅かった…性能的には、やはり僕の電動車椅子。しかし、買い物をしやすいように電動車椅子を用意する心使いに脱帽していました。店内を歩くと、3人の方が同じ電動車椅子を利用していました。すれ違っても、十分な広さの通路。不便を感じることはありませんでした。
 Nさんとジェーンさんと夕食の買い物。「献立は、麻婆豆腐・わかめスープ・ひじきの煮つけ」一緒に食材を買いそろえました。


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