んだんだ劇場2005年12月号 vol.84
No33
自立支援のLife Styles

8月10日。
 今日も晴れでした。アメリカに来て、ずっと晴れています。ひょっとしたら、僕は"晴れオトコ"なのかなぁと思えるほど。時計を見ると、午前8時頃。昨日の研修を、日記に綴りました。やはり、パソコンを使うことができると、便利。ノートパソコンを持ってきて、良かったと思っています。ノートパソコンをアメリカ研修に持参するとき、メーカーに「電圧が変わるけど、使用できるのか」と問い合わせました。「あなたの機種は、大丈夫ですよ」とのこと。このような作業に国境を越える実感が伴っていきました。
 それにしても、朝は涼しい。ここ、アーカンソーは日本の一般住宅地のように、家が隣接していません。家の周りに木々が生い茂り、辺りを見渡すと、キャンプをするために山に来たような感覚になります。網戸から、しんやりとした空気が入り、その空気を吸うと、とても美味しく感じます。日記を綴っていると、何だか段々と肌寒くなってきました。ベッドに入ったら、そのまま寝てしまいました。2度寝です。再び、目覚めて時計を見ると、正午を少し過ぎていました。「アッ!」と、大事な用事があるのに寝過ごしたような気持ちになり、(僕はアメリカに寝に来たわけでないのに…)と焦りました。
 ベースメントの階段で、「Nさん、階段に上りたいよ」と叫びました。「おはよう。ガクちゃん。随分寝ていたね。疲れていたの?」とNさん。僕は今日のスケジュールを聞くと、「今日は午後から、障害者自立支援施設を見学しますよ。ジェーンさんがアポイントメントを取ってくれました。時間的に余裕があるので、起こさなかったのだ。かなり遅い朝食を食べる?」とNさん。Nさんの肩につかまって、1階に上がっていきました。
 朝食のメニューは「ベーコン、エッグ、トースト、シリアル、コーヒー」でした。アメリカの食事の定番でした。アメリカの食事で、気付いたことがあります。アメリカは日本の箸文化でなく、フォークやスプーン文化ということです。僕はフォークやスプーンで食事をします。箸を使うことは、ありません。日本では、箸文化なので、周りは箸を使って食事をします。食堂に入ると、割箸が用意されるので、店員に「すみません。フォークとスプーンを用意して下さい」とお願いしています。「あいにく、フォークやスプーンがなくて、申し訳ありません」や「お子様サイズの小さいものしか、置いてなくて…」という場面になり、衣食住の"食"を十分に満喫できなかったことがありました。それ以来、"フォークとスプーン"を携帯するようになりました。自分が使いやすい"フォークとスプーン"ならば、楽しく食事ができるからです。
 アメリカでは、常にフォークとスプーンが用意されています。大人用であり、僕は使うことができました。だから、僕の携帯"フォークとスプーン"を使う必要がありませんでした。また、食事をするとき、言葉で表現できない居心地の良さを感じていました。アメリカに来て、(この居心地の良さは、何だろう)と思っていましたが、薄々と気がつきました。周りが全てフォークとスプーンを使って、食事をしていました。なんとなく、一人ではない"心地よさ"を感じました。周りが箸のときと、フォークやスプーンのときでは、僕の感じる印象が違ってくるのだなぁ…僕が食事をしていると、愛犬クリケットが寄ってきました。思わず、頭を撫でました。
 食事を終えると、身支度を整えて、ジェーンさんの車に乗りました。車で、20分くらいで訪問先である障害者自立支援施設【Life Styles inc.】に着きました。センター長Mrs.Carol Hart氏に施設内を見学させて頂きました。そして,幾つかの質問をしました。また,この施設の利用者のTimmが自分の部屋を見せてくれました。
 センター長の説明では、【Life Styles inc.】は1976年に個人で始めた施設で、広い敷地に自立支援プログラムを行うアパートとオフィス、様々なスキルを身に付けるための訓練施設がありました。
 以下、センター長の説明をまとめました。
・ この施設には、100人以上の障害者が利用しています。地域の中で、自立した生活ができるように生活スキルを身に付くように。また、できれば職業に就くことができるように支援しています。
・ 100人以上の障害者が利用していますが、毎日、この施設に来ているわけでありません。今、毎日サポートしているのは60人程度です。
・ 知的障害者が多いです。
・ 施設に泊まっているのは6人程度?アパートは2部屋あります。
・ スタッフの数は65人くらいです。障害の重い人には、3〜4人必要なこともあります。
・ いくつかの段階を経て、ステップアップして、近くのコミュニティで生活できるように支援していきます。
 Life Stylesとはアーカンソー州北西部に住む発達的能力障害者のための非営利団体です。1976年以降、Life Stylesは私たちの居場所を創り出す機会、友だちを選ぶ機会、仕事をして地域社会に貢献する機会、そして家庭を持つ機会を得るという私たち皆の夢を実現するために、彼らが必要とするサポートを提供してきました。ライフスタイルの基本理念は、これらの夢を達成するために人々を支援することです。私たちは、個人の尊厳と人道の原則に照らして矛盾のない、質の高いサービスと資源を提供することに尽力してきました。Life Stylesの全てのプログラムはボランティアによるものであり、地域社会での生活に十分に参加する個人としての権能を与えることを目的としています。この取り組みは、私たち全員にとって、地域社会の本当の精神を理解することに近づくと思っています。それは障害者のために地域社会を構築して、受け入れて、広げたいという願望であり、まさにLife Stylesの仕事です。それは障害者の命を豊かにすることです。
 以下に、センター長に質問をしました。その主な質問内容をまとめました。説明と重なる部分もありますが、ご容赦してください。
◎ 主な質問内容
Q1.この施設の目的は?
A1.地域の中で,生活ができるように支援しています。幾つかの段階に分けて,生活スキルを身につけていきます。ステップアップの期間が半年の人もいれば,2年間の人もいます。一人ひとり違います。障害者を収容する施設ではありません。できれば,就職できるようにと願っています。
Q2.利用者は何人ですか?
A2.100人以上の利用者がいます。毎日,ここには60人程度が来ています。この地域の人たちです。知的障害者が多いです。自立生活スキルを身につけている人は,この施設には来ません。年齢は,さまざまです。1番若い人で,16歳の利用者がいます。インクルージョン教育を行っているので,ほとんど地域の中で生活をしています。16歳の利用者は,どうしても学校に馴染めなく,本人がこちらの方が良いと選択して来ました。
Q3.スタッフの数は?
A3.65人程度。障害の重い人には,1人に3〜4人のスタッフがつくときもあります。また,在宅障害者を訪問しています。
Q4.宿泊施設もありますか?
A4.生活スキルをステップアップすると,実際に生活をしてもらいます。現在,6人程度が宿泊しています。
辺りは芝生で、緑が多く、ゆったりとしています。
THE DREAM…
 能力障害を持つ人々にとっての夢は単純なもの、それは機会を得ることです。自分自身の選択で家庭生活を楽しむ機会、仕事をして、様々な余暇や私たちの地域社会が提供するレクリエーション活動を楽しむ機会です。そのため、以下の支援プログラムがあります。
一時的なアパートでの生活
 料理や掃除、金銭管理、洗濯、アパートのメンテナンスなど毎日の生活スキルと意志決定を、監督下に置かれたアパートの中で教えます。
地域社会生活支援
 一時的なアパートに移った人とその他の地域社会で生活する能力障害を持つ個人に、平均週2時間提供されるサービスです。予算管理や交通手段の調整、そして健康面と安全面の支援をします。この支援は、彼らの手によって、リメイクされます。彼らは、隣人、教会のメンバーと一緒に活動をすることにより、地域社会を楽しみます。
個別支援サービス
 重度の能力障害を持つ人に提供されます。障害が重度のため、公共施設やナーシングホームに住む人々、またはそれらの対象となる人々に対して、地域社会で生活するのに必要な支援が提供されます。
雇用サービス
 地域社会で仕事を見つけることを支援し、ちゃんと仕事ができるように被雇用者と雇用者に援助を提供します。この支援を受けて、私たちの地域社会では40人を超える人々が正規の仕事を持って働いています。
生活支援公開講座
 発達障害者に、生涯の学習する機会を個人に提供する成人教育プログラムです。水泳やボーリング、旅行などの活動と同様に料理や応急処置、個人間のコミュニケーションやその他の授業が提供されます。毎年、100人を超える人がこのプログラムで学んでいます。
――−これらのプログラムは年齢・宗教・社会的不利・性別・人種・皮膚の色・そして、国籍に関係なく執行・管理されています―――
 センター長のCarol Hart氏の説明を聞き、施設内を見学しました。利用者の1人の方が誇らしげに自分アパートのあるところを教えてくれました。一人の若者Timm19歳がアパートを見せてくれました。
[利用者の1人のTimmとの会話]
三戸 .朝ごはんは,何を食べますか?
Timm.パン・ジュース・シリアール。お昼ごはんは,サンドイッチ・チップス
三戸 .すごくキレイにしていますね。
Timm.誉めてくれて,嬉しいです。他の人にも,中へ誘ったことはありますが,彼らはただ廊下に立ったままでした。
三戸 .あなたは何歳ですか?そして,あなたの夢は何ですか?
Timm.19歳。夢は,いろいろあります。18歳まで,家に住んでいました。働きたいですね。ときどき、母が尋ねてきます。だから、掃除をしています。料理も自分でしていますよ。
 2人で、共同生活をしているそうです。とても整理整頓されて、こじんまりしたアパートです。
 僕とNさんは「きれいですね」と一言。僕は「自分のアパートよりも、ずーっといい」と叫んでいました。
Timmが話す表情は、とてもイキイキしていました。そして、何よりも夢を語っているTimmが印象に残りました。また、部屋にアーカンソー州を象徴するイノシシのフラッグが飾られていました。

以下は、Life Stylesで頂いたパンフレットから直訳しました。
 私たちが接する人々の生活の質に限りない豊かさを提供することに加え、Life Stylesは経済的にも意義があります。公共の施設で一個人が生活するために、政府の財政援助は1人当たり年間平均76000ドルがかかります。これに対してLife Stylesの居住プログラムは1人当たり平均15000ドルであり、地域社会支援に移ると4800ドルまで下がります。アメリカ合衆国に住む発達的能力障害者のうち、わずか28%しか雇用されていないのに対し、Life Stylesの参加者は85%も雇用されています。これらの勤勉な人々の多くは何年間も同じ仕事を続け、皆が税金を払い、地域の店で買い物をし、成長を続けるアーカンソー州北西部の経済に貢献しています。このことは、彼らが良き近所の住人であることに加え、教会のメンバーであり、熱心なボランティアでもあることを意味しています。
あなたにできること
・ 授業で教えることができます
・ 消費者の友だちとなることができます
・ 毎日の建物のメンテナンスを手伝うことができます(塗装、床の張り替え、窓掃除)
・ 特別な行事の手伝いができます
・ 雇用サービスプログラムを通して、誰かを採用することができます
・ 免税の現金投資ができます。個人で、教会や市民グループを通して、または雇用者のmatching fundを通して。(劇場なり劇団が、一般の観客や会社から寄付を集める。そうすると、その額に応じて、民間の財団や政府が助成金を出すという欧米の制度)
・ あなたが加入する公益信託にLife Stylesを加えることができます。
・ あなたの社会グループや教会、市民グループが休日(ハロウィン、サンクスギヴィング、ヴァレンタインデー、イースター)を消費者のために、採用するように組織することができます。
・ 1年を通して、花壇で植物を育てることができます

 Carol HartさんとLife Stylesがアーカンソー州北西部の年間最優秀非営利常務取締役と非営利組織に選ばれました
 Carol Hartさんが1976年に法人施設Life Stylesを設立したとき、彼女の使命はファイアットビル地域社会の中の発達的能力障害者に支援を提供することでした。26年たった現在、非営利組織の常務取締役であるHartさんは、今なおファイアットビルの3つの公共施設を通して、支援を提供し続けています。彼女の団体が成功しているのは、Life Stylesが創立当初の使命に常に誠実であり続けているからだとHartさんは述べています。彼女は地域社会を巻き込むこと、そしてサービスを提供する人々とその家族の提案に耳を傾けることも引用しています。
 仕事への情熱がいつも常務取締役としての成功、そして組織全体の成功の鍵であるとHartさんは述べています。「ここで得られる機会と、そして私たちがここにいることにより地域社会全体に与えられるものによって、私の生活が豊かになるような気がします」とHartさんは述べています。
 100人以上にも上るHartさんのスタッフを幸せにし続けることも、Hartさんの優先リストの上位に当たり、実際に彼女はスタッフのために感謝のピクニックやフォーカスグループを催したり、職場の環境を改善するための提案に耳を傾けたりするなどして、スタッフを幸せにしています。
「それは、とても重要なことであると私たちは実感していますし、仕事に行くことは楽しいことでなければならないと思うの」とHartさんは述べています。

 その日の夕食をAQ(アーカンソークウォリティ)鶏肉レストランで食べました。「今日のメインDishは、チキンだよ」とNさん。この日は月一度のスコットランド圏人会の夕食会がありました。ジェーンさんの故郷がスコットランドです。その会に、僕とNさんが加わって美味しいフライドチキンを頂きました。もちろん、アメリカンサイズのビッグチキンです。この店は、クリントン元大統領の行きつけの店だそうです。店内に、クリントン元大統領が店内で食事をしている様子が掲示していました。(クリントン元大統領は、アーカンソー州の出身です)
 だいたい15人のくらいのパーティでした。ジェーンさんが「GAKU!! Ready…Please prepare a speech.」と言ってきました。出席者が簡単な自己紹介をするようです。1人ずつ立ち始めて、簡単なスピーチを始めました。みなさんは、流暢な英語で話していて、何を話しているのか分かりません。アルコールが入ると、さらに早く話します。全く、言葉が理解できませんでした。シドロモドロしているときでも、少しずつ順番は近づき、とうとう僕の番になりました。僕は完全に開き直って、知っている単語で簡単にスピーチをしました。
「Hello. My name is Manabu Sannohe. I come from Japan. I am a handicapped person.
I teach the mathematics in a junior high school now. I receive training in U.S.A.
I learn a lot of American society. I want to challenge a lot. Thank you.」
片言の英語を話したら、みなさんが拍手をしてくれました。ジェーンさんが「great speech!」と誉めてくれました。


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