んだんだ劇場2005年9月号 vol.81
No26 スーパー隣人

洪水
 雨季も半ばのチェンマイ。8月中旬には大雨が続き、過去40年間で最悪という洪水にみまわれた。チェンマイを流れるピン川という川が氾濫し、市内のかなりの地域が浸水したのだ。
 我が家は川から離れたところにあるため、その日の夜のニュースで初めて洪水のことを知った。腰まで水につかって歩いている人たちの姿が流れていたが、なんだかそれが同じ市内で起きているとは信じられない。でもその証拠に、川べりにある長女の幼稚園は次の日から3日間閉園となった。
 8月下旬の現在では、影響を受けた地域もだいぶ平常どおりに戻ったようである。その程度に差はあっても、チェンマイは毎年洪水の被害を受けているらしい。今後、なんらかの対策がとられるとよいのだが。
 さて、最近のチェンマイはかなり涼しい。エアコンがなくてもあまり汗をかくことがない。扇風機をつけていると、寒く感じることさえある。
 常夏の国タイとはいっても、結構涼しい時期もあるのだ。とくにタイの北にあるチェンマイなどは、かなり過ごしやすい気候なのではないだろうか。やはり年をとったらチェンマイに住むのが正解かもしれないなあ。

外が好き
 次女の最近のお得意は、指さしである。お目当てのものを指さして、「あっ、あっ。」と言ったり、どこか空の方を指さして、「うぉー!」と言ったりする。
 特にこの「うぉー」を心底感動したような調子で言うので、こちらとしても同じ感動を共有したいと、彼女の指が示す方向を目で追うのだが、ターゲットがわからないことが多い。もしかしたら、大人には見えないものを見ているのかもしれない。
 外に行きたいときも指さしが大活躍だ。
 部屋の中で抱き上げると、さっそく指さしだ。「ん?何々?」とその指がさす方向へ進んでいくと玄関に到着。そして彼女の指はドアをもぐいぐいさしまくる。そして、見事外に連れ出してもらうのに成功!
 そんな次女を見ていたら、ずっと前に難民キャンプで出会った女の子を思い出した。その子は確か3歳になっていなかったと思う。栄養失調で入院していた。丸々と太った弟と比べて、異様にやせていた。弟が生まれて以来、親があまり面倒をみなかったらしい。母親を説得してやっと入院させたのだが、彼女はとても悲しそうな表情で、食事もとろうとしなかった。
 入院して治療をしていくうちに、少しずつ食欲も出てだんだん元気になってきた。がりがりだった手足もすこしずつふっくらしてきて、私たちスタッフにも笑顔をみせるようになったのだ。
 その彼女を抱き上げると、いつも指さしをしては窓の近くに行きたがった。そして窓のそばまでいって、じーっと外を眺めたものである。
 でも今の次女をみていると、あの女の子も本当は外に出たかったんだろうなと思う。入院中はずっと建物の中だったから。わかってあげられなくて悪かったなあ。
 子供はみんな外が大好きだ。私もそうだ。以前地下にあるクリニックで仕事をしたことがあったが、窓のないところで1日過ごしただけで、なんだかおかしくなってしまいそうだった。
 やっぱり人間も動物だから、建物の中に閉じこもっているのは不自然なことなんだろうな、だから外に行きたくなるんだろうな、と妙に納得。とすると、勉強や塾に追われて、外で思い切り遊ぶ時間のない現代の子供たち、これはかなり不自然なことなんだなあ。
 外に出ると、うっとりわくわくした表情で葉っぱに手を伸ばしたり、花をもいだりする次女を見ているとそう思うのだ。

お隣さん
 私たちの家は、一本の道路をはさんで同じデザインの家が並ぶ建売住宅の一角にある。右隣はローンの返済に困って夜逃げしてしまったため、空き家。左隣には、我々より少し年上の夫婦に中学生の一人娘の3人家族が住んでいる。
 このお隣さんが今どき珍しいスーパー隣人なのである。さすがのチェンマイといえども市内では隣の人と全くつきあいのないことが珍しくない。この点では日本とあまり変わりがないのだ。
 ところがこのお隣さんはすごい。我が家は日中家を空けることが多いのだが、雨が降ると洗濯物は入れておいてくれる、窓は閉めておいてくれる。おかずのおすそ分けをしてくれる(これがとってもおいしい!)。庭の木の枝をはらうのに夫が手間取っていると、さっと来て手伝ってくれる。こんな調子で、我が家だけでなく、この近辺2,3軒の面倒を見ているのである。
 まさに昔ながらの温かい近所づきあい、なのだ。
 朝起きた次女が「あー!」と一声あげると、すぐに「あらーもう起きたの?」とお隣から返事が返ってくる。ぎゃーと泣くと、すかさず「どうしたの?」。
 こういう隣人に恵まれた私たちはなんてラッキーなのだろう。ここにずっと住めたらいいな、と思うが、何せ借家だからね。うーん、ちょっと残念。


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