んだんだ劇場2005年12月号 vol.84
No29 一時帰国

一人で一時帰国
 チェンマイは一年の中で最もよい季節に入った。空は高く澄み、爽やかな涼しい風が吹いてくる。いつも夜寝るときには、カレン族の手織りの綿の肌掛けを使っているのだが、さすがにこれだけでは足りなくなってきた。そろそろ分厚い掛け布団が必要かも。
 意外かもしれないが、南国タイとはいっても一年中暑いわけではないのだ。これからもっと寒くなると、分厚いジャケットも着るし、毛糸の帽子だってかぶることもあるくらいだ。とはいえ、今のところは日本でいえば、初秋。私の大好きなこの季節は来年の3月上旬くらいまで続く。
 11月の始め、国際保健医療学会という学会に参加するために一人で帰国した。第一の目的は友人と旧交を温めること、第二の目的は自分のリサーチについて発表することである。
 気がついたら日本を離れてもう8年。わずか一週間の滞在であったが、幸いなことにいろいろな人と会うことができ、第一の目的はりっぱに達成することができた。思い切って帰国した甲斐があったなあ。よかった、よかった。第二の目的に関しては、来年の学会に乞うご期待、というところであったのだが、、、。
 長女は淋しいのを我慢して、一生懸命留守番していたようだ。日本から電話をして、
「ちゃんと留守番していてくれて、ありがとうね。ほんとにえらいねえ。」
と褒めたら、急に泣き出してしまった長女。次女はといえば、私が戻って以来、すっかり私にベッタリだ。今度置いていかれたら大変と思っているのかもしれない。
 本当に勝手な母親で申し訳ない。子供たちよ。
 
助っ人
 私の留守の間、助っ人として夫の祖母と義弟が来てくれた。
 祖母は83歳。いつもどこかしら体の調子が悪いと文句を言っては、どの薬を飲んだらいいのかと私に聞く。結局はビタミン剤(サプリ??)ということで落ち着くのだが、よく動いて、ご飯もよく食べる元気な彼女には、はっきりいってそんなものは必要ない気もする。
 一週間の日本滞在を終えてチェンマイに戻ってみると、あんなに荒れ果てていた我が家の庭は、一本の雑草もない完璧な姿になっていた。しかもかわいい家庭菜園まで出来ている。どうやら祖母が一人でやったらしい。今もほとんど一日中庭いじりをしている祖母であり、そのうち我が家では野菜を買う必要がなくなりそうだ。
 一方の義弟は22歳で、夫の兄弟の末っ子だ。甘いマスクで結構女の子に人気がある。夫との間にはほぼ15歳の開きがあるのだが、夫と比べ、顔の作りがしっかり進化(?)し、現代風になっているところがなんとも興味深い。
 彼は私の留守中、主に次女の世話と洗濯の担当であった。でも私が戻ってきてからも、洗濯、皿洗い、掃除、そして料理の下準備までやらされている。人使いの荒い義姉にこきつかわれて気の毒だが、何しろ私は大姉、夫は大兄なので許されるのだ。あー、なんというシアワセ。
 唯一の問題は、子供たちの夕食でおおわらわの時にガールフレンドから電話がかかってくることだ。どうでもいいようなことをぺちゃくちゃしゃべっているのをみると、「いい加減にしろー!」と言いたくなってしまうのだが、現代の長電話は、携帯+イヤホーン=手ぶらでできるため、とりあえずやるべきこと(=次女のお守り)はやるという条件で大目に見ている。
 それにしても、人手があるというのはやっぱり助かる。タイでは親類(主に祖父母)か、お手伝いさんが小さい子供の面倒をみるのが普通で、我が家のように親だけで子育てしているのは結構珍しい。でもお手伝いさんを頼めるような経済的余裕のない私たち。このまま義弟を子供たちのねえや(にいや?)にしてしまおう、ともくろんでいる夫と私である。

出生証明のない子ども
 国際保健医療学会の母子保健に関するシンポジウムで、在日外国人の問題が取り上げられた。
 その中で、不法滞在している在日外国人の母親から生まれた子供は、出生証明をもらうことができない、という問題が提示された。出生証明書がないということは、どこで誰から生まれた子供なのか、正式に証明するものがないということで、例えば、母親の祖国に行って、国籍を取得しようとした際に問題が生じるということである。つまりその子供は、どこの国籍も取得できない、宙ぶらりんの状態になってしまう危険があるのである。
 こんなことが許されるのだろうか。子どもの権利条約の第7条において、子どもは出生後すぐに登録され、出生の時から名前、国籍を取得する権利を有するとある。日本も一応この条約の締約国となっているはずなのだが、一体どうなっているのだろう。
 親が不法滞在だというだけで、その子どもの人生を最初から踏みにじるようなことが許されるのだろうか。このように存在を認められない子どもたちは、教育や保健医療サービスなどを受ける機会を与えられず、一体どんな人生を送っていくのだろうか。
 考えただけでも腹が立つ。
 常識で考えたら明らかに異常なことが、法律という名のもとでまかり通っている世の中。おかしいよ、絶対。法律がどうの、不法滞在がどうのと言う前に、まず人間としての常識を持って対応してもらいたい。子どもに罪はないのである、全く。


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