んだんだ劇場2006年12月号 vol.96

No7−頭痛と紅葉−

美しい秋は体力勝負
 11月に入ってにわかに忙しくなってきた。ということは9月10月と閑古鳥が鳴くぐらいヒマだったともいえるのだが、ヒマより忙しいほうが気分は良い。今日は3連休の初日なのだが全員出社。このぶんだと3連休は一日も休めなくなりそうだ。明日は種苗交換会に行って、夜はある食事会。3日目は1日中、増田町の「蔵」の取材(雑誌ある)が入っている。その間に朝日新聞(週1連載)の原稿を書かなければならないし、単行本のゲラが3本くらい手元で滞っている。最近はだらだらテレビを見ないので時間はある。あるが、そのぶん映画(ビデオ)や小説を読んでしまうので何の進歩はない。昨日は『村の写真集』という日本映画を観てしまい、その日のうちにやるべき仕事を1本パス。徳島県のダムに沈む村の写真館親子の愛情を描いたもので、中国映画の傑作『山の郵便配達』とどことなく似たニュアンスの映画だ。その前日には垣根涼介著『ワイルド・ソウル』(幻冬舎)で夜を徹してしまったしなあ。でも、このまま忙しさが続くと映画や読書ともしばらくお別れになる。だから「おおめに見てね」と、自分自身に謝っている昨今です。
 まあ、あまり好きでない「忙しい」などという単語を使わざるを得ないのは、積極的に外に出ているせいもある。県内のグリーンツーリズムの現状や最近とみにに多くなった「手打ち蕎麦屋」さんの取材に東奔西走、面白そうなイベントがあると身軽に出かけるようになった。事務所に引きこもっているより外でいろんな人と接触しているほうが気分は格段に良い。そこからいろんなアイデアや興味が次々とつむぎだされ、結果的には時間がいくらあっても足らなくなってしまう。さらに、これだけ連日好天続きで、おまけに秋田は1年のうちで一番美しい季節。食べ物もおいしいし、催し物も目白押し。これだけ条件がそろっていれば「外に出なければ損」という気分になってしまう。1日中外に出ていると、翌朝は起きるのがかなりつらい。問題は体力勝負、ですなご同輩。
この液体はドブロク
マタギ特区で買ったもの
毎日こんな快晴
柿と青空

本屋がなくなっても誰も困らない?
 笑われるかもしれないが、このごろ妙に「本」が気にかかっている。本を造るのが仕事だから当たり前じゃないか、といわれそうだが、仕事で造っている本以外に興味はほとんど本には向かわない。本屋にいくと集中力がそがれるし、他所の本への嫉妬も芽生えて気持ちが乱れるから、あまり近づかないようにしているのだ。最近はそれに加えて、本屋のすさまじい衰退を目の当たりにするのが怖い、という理由もあって(それが本音)そばにはよらないことにしている。それがこのごろ微妙に変ってきた。怖いもの見たさなのかもしれない。いや、ソウルの夜店で本を造る(文字通り何も刷られていない紙を製本してみせ、それを売る)職人を見て感激したせいかもしれない。夜店で本を造るパフォーマンスが成立するなんて、もう日本ではありえない光景で、なぜか原点を見たような感慨深いものがあった。ソウルでは価値あるオブジェとして本が暮らしの中にまだ生きていたのだ。翻ってわが秋田では、近所のスーパーに「本屋」が文具コーナーと同じ「壁面」としてデスプレーされていた。これはショックだった。このスーパーには秋田一の規模を誇る老舗書店が60坪ほどの店舗を持っていたはずだが、いつのまにか撤退、いまは店舗なし坪数なしの壁面書店(コンビニなどと同じ)に変わっていた。もう本屋は独立した店舗をスーパーに持つほど重要な価値はない、と断言されているようで胸が苦しくなる。そのいっぽうで、ここ数ヶ月、次々と刊行される出版関係者の自伝風書籍を読み漁っている。エロ本業界の編集者の本、リトルモアを立ち上げた社長の本、自費出版の新風舎・社長の本、嵐山さんの出版風雲録……とまあよく出るし、それを律儀に読むジブンも、いったいどうなっているのやら。とにかく地方都市の「本の力」は効力を失うばかり。書店がゼロになっても誰も困らない、という時代がすぐ目の前まで来ている。
ソウルの本を造る夜店
スーパーで本はこうした扱い
ペット売り場の隣が壁面書店

頭痛と紅葉
 いつも滅入るような希望のない話ばかりを書いているので、少しはパーッと明るくなるような話題を……とは思うのだが、これが慣れないせいかなかなか見つからない。それどころか最近は頭痛がひどく、集中力が続かない。身体に異変があると原因を徹底的に追究するのが「趣味」なので(この数週間何を食べてきたか、特別なことをしなかったか等を分析する)、最近服み始めた栄養剤が悪いのでは、と思い服用を中止。でも一向に頭痛はやまない。散歩をしているときや朝目覚めたとき頭痛は治まっている。……これはもしかして大型テレビで夜毎DVDを観ている影響で、視神経から来る頭痛では、と最近のDVD中毒に行き着いた。2日間ほど大型テレビのスイッチを入れずにすごしたら、あら不思議、頭痛はずいぶん楽になった。あれっ、またいつもの暗い話題にドンドンはまり込んでいるなあ。
 こちらはすっかり冬支度ができました。週末は東京で友人(後輩編集者)の結婚式があり3日間ほど不在になりますが、その間、事務所の床クリーニングと樹木の剪定で業者さんが入っています。来週からは12月。冬のDMの準備が始まり、それを終えると来春に出す本の企画や準備をして、今年の仕事は終わりです。とにかくいろんなことが3,4年分いっぺんにやってきたような、あわただしい年でした。マラソンランナーが30キロ地点で急に失速するような、そんな波乱万丈の1年でもありました。それとは裏腹に生涯でこれほど「紅葉が美しい」と毎日のように感じ続けた秋もなかったようにおもいます。本当に紅葉がきれいだったのか、それとも自分の心境の変化がそのように思わせたのか、よくわかりません。単に年をとって自然の移ろいに敏感になっただけなのかもしれませんね。下り坂の日日です。
この秋一番の紅葉は近所の小公園
剪定作業はじまる
関係ないけどソウルのモダンアート


無明舎Top ◆ んだんだ劇場目次