んだんだ劇場2006年5月号 vol.89
No36
海外研修報告

 2004年8月14日、アメリカから帰国。1週間ぶりに、秋田の自宅に帰宅しました。アパートのドアノブを開けて、部屋に入りました。1週間の研修が無事に終えたことに、"ホッ"とため息をつきました。部屋の様子を見て、1週間前と代わり映えのない様子に、少し落ち着きました。机には、1週間分の新聞と、アメリカ研修期間に届いたお手紙が整頓されて置いてありました。母が来て、整頓したものだろうと察しがつきました。
 早速、僕は荷物の整理をしました。そして、1週間ぶりに自宅のお風呂に入りました。ジェーンさんのお風呂は、ユニットバスでした。浴槽の中という限られたスペースで、身体を洗うことは困難でした。動作が窮屈になりました。反対に、自宅の浴槽は洗い場があり、窮屈感を感じないで洗うことができました。アパートを借りるとき、大家さんに頼んで、大家さんは浴槽に、手すりを付けることを許可してくれました。やはり、僕が使いやすい浴槽は、気持ちがいいです。お風呂から上がると、すぐに寝ました。
 次の日、8月15日(日)。「ピンポーン」という呼び出し音で、目覚めました。ドアノブを開けると、宅配便でした。職場の方へのお土産でした。早速、お土産のチョコレートとファイアットビル空港で購入したアーカンソー州の絵はがきを学校に持って行きました。日曜日で、しかもお盆なので、当然ながら、誰もいませんでした。僕は鍵を開けて、学校に入りました。そして、職員室の先生方の机上に一つずつお土産を置いていきました。配り終えたら、母と一緒に八郎潟の祖父母の家に行きました。墓参りをして、先祖の菩提にアメリカ研修の無事を報告しました。
 16日(月)は秋田拠点センター「アルベェ」で教職員の研修があり、17日から5日間、夏季休暇を採っていました。23日(月)に、アメリカ研修後、初めて出勤しました。その日から、アメリカ研修の報告書作成に取りかかりました。研修内容をまとめていく中で、アメリカ研修で学んできたことを生徒に伝えたい…という気持ちが溢れてきました。教師は様々な研修をする機会があります。その研修で学んできたことを自分の中に留め置くのでなく、生徒に還元してこそ、教師の研修が生きてくると考えていました。アメリカ研修で学んできたことを生徒への教育活動に活かさない限り、本当の意味でのアメリカ研修は終わらないような気がしていました。
 9月上旬に、アメリカ研修の報告書ができました。その後、僕は同僚の先生に、アメリカ研修の報告をしたいと思っていました。その旨を話すと、同僚の先生は快諾してくれました。
 10月4日。職員会議終了後、「海外研修報告会」を開いてくれました。僕はパワーポイントを使用して、報告をしました。その後、同僚の先生に「アメリカ研修で学んできたことを、生徒に伝えたいので、そのような機会を設定してほしい」と相談しました。秋田西中の総合的な学習の時間では、3年生に「福祉」を学習テーマに取り上げて、取り組む時期がありました。「その中で、海外研修のことを生徒に話すことができるね」と、同僚の先生と話していました。また、買い物などで学区内を歩いて、地域や保護者の方との「アメリカ研修に行ってきたんだってね。三戸さんが見たこと、感じたことを生徒に伝えてほしいなぁ」という立ち話が僕の気持ちを後押ししました。
 12月9日。3年生の福祉体験学習がありました。偶然にも、その日は障害者の日でした。福祉体験学習は総合的な学習の時間の一環であります。以下の3つのコースから、生徒が学びたいコースを選択して、一人一人の生徒が福祉に関して、自ら追求したい学習課題を設定しました。
・地域の福祉施設を訪問するコース
・校内で高齢者・障害者擬似体験コース
・福祉関係に携わる講師の先生の講話を聞くコース (三戸先生の講話を聞くコース)
 『ふるさとゆめづくり〜新屋・浜田地区をよりよくしていくためには〜』と題して、自らの課題追求、あるいは課題解決を通して、地域を見つめよう…よりよい地域にするための提言をしよう…このことが学習のねらいでした。コースの中に『三戸先生の講話を聞くコース』がありました。そのコースには、63人の生徒が集まりました。事前に、担当の先生から生徒一人一人の学習課題を読ませてもらいました。一人一人の生徒がどんなことを僕の話から学びたいのか…また、より生徒の心に届く講話をするために、生徒の学習ニーズを知る必要がありました。事前に、全ての生徒の学習課題をまとめました。
 生徒の「学習課題」と「質問・知りたいこと」をまとめていきながら、講話の内容を組み立てました。4つの観点で、講話をすることに決めました。
『1 アメリカ研修のこと 2 毎日の生活 3 これからの夢・生き方 4 生徒への質問に答えるQ&A方式』
 僕の講話は、午前10時〜午前11時30分まで、質疑応答を含めて90分間。途中、10分間の休憩を挟みました。日頃、数学の授業をしている生徒に、まとまった時間で福祉について講話をすることは、初めてでした。何となく、照れくさい気持ちがありました。しかし、生徒の学習課題を読むと、僕の話から学びたい気持ちが伝わってきました。そのとき、僕の教師生活から、生徒はいろいろなことを感じ、考えていると感じました。また、(三戸先生の日常生活で、不便を感じていることは・・・)と思いを馳せていました。このような生徒の気持ちを感じて、僕はパワーポイントで発表資料を作成しました。
 講話会の当日、1時間目の授業を終えて、講話の会場(音楽室)へ行きました。生徒の司会で、講話が始まりました。講話のタイトルは『いっしょに生きる〜人は一人で生きられない〜』にしました。始めに、「今日は、何の日ですか」と問いかけました。12月9日「障害者の日」の意味を伝えることから、講話を始めました。
 講話を終了して、一つ肩の荷が下りました。生徒の感想を読むと、このような講話が生徒にとって必要と感じました。福祉に関する講話をしながら、生徒は自分の生き方を考えていました。自分を見つめている生徒の姿が伝わってきました。福祉の学習は、障害者への理解にとどまるのでなく、自己を見つめる心を育てていくと感じました。以下、3つの視点を生徒の感想文から読み取ることができました。
・ 福祉講話は自らの生き方・価値観形成や家族,友だち,クラスを見つめ直す機会となった
・ アメリカ研修を話すことにより,日米の福祉の違いや人の意識の違いなどを理解することができた。このことにより、講話を聞く前と比べて、生徒の国際理解教育が図られた。
・ 教師自らの経験や体験を生徒に語ることは、教育効果がある。
 福祉講話は、地域の方を聞きに来てくれました。
「西中生のために、教師が伝えたいことを伝える。生徒は教師の思いを聞く。そのことから、生徒は大きく育っていくと思いますよ。これからも、三戸先生のメッセージを生徒に伝えてほしい。心の教育につながっていくと思います」
 さて、講話の後、講話を聞いた生徒に「バリアフリーに関するアンケート」を実施しました。障害者の講話が中学生に、どのような変化を及ぼすのか、客観的なデータを得ることが目的でした。それをまとめて、平成17年2月10日、秋田県総合教育センターで開催される『第19回 秋田県教育研究発表会』で、発表することに決めました。発表するための書類に『今年度、秋田県教委主催「海外自主企画研修」で米国アーカンソー州へ1週間程度の研修に行きました。3年生の総合的な学習の時間で、幾つかのコースに別れて福祉体験活動をしました。そのコースの1つに、私のアメリカ研修を報告する「福祉講話」がありました。事前に生徒は「日米の福祉の違い」等の学習課題を考え、それに基づいて講話をしました。感想やアンケート調査等から、生徒の変容を考察します。』と、発表趣旨を書きました。
 【海外自主企画研修を活かした総合的な学習の時間−違った生き方や価値観に触れ、自らの生き方を見つめ直す福祉教育−】と題して、アメリカ研修で学んだこと、生徒への福祉講話、生徒の感想文とアンケート調査から得られた知見をまとめて発表しました。特に、力点を置いたことは「障害者講話を教育課程に位置づけること」でした。アンケート調査から把握できるように、88%の生徒がその必要性を感じていました。聴衆は頷いて、聞いていました。最後の質疑応答で、「生徒の感想を読んで、生徒の心に変容が見られる。とても良い教育実践と思います」と感想を頂き、僕の発表は終わりました。
 聴衆の拍手を聞きながら、これでアメリカ研修に1つの区切りがついたことを実感していました。


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