んだんだ劇場2006年10月号 vol.94
No40
韓国ウォッチ始まり始まりィ〜

 夕食を食べて、バスに乗り、ホテルに向かいました。バスの窓越しのソウル市内は、イルミネーションに溢れていました。ちょうど、1ヶ月前のクリスマスシーズンの12月の街並みと同じような景色に見えました。だから、1ヶ月前の街並みを歩いている感じがして、どこか懐かしさが込み上げてきました。新年を迎えたばかりなのに、これから年の瀬を迎えるような感じがしました。木々に取り付けられた豆電球がほのかな光を放ち、街全体を優しく包み込んでいました。隣の座ったSさんは「とても、キレイだね」と言い、一眼レフのデジカメでシャッターチャンスを逃さずに、写真を撮りまくっていました。僕もデジカメを手に写真を撮ろうとしました。しかし、動いているバスの中ではピントが定まらず、シャッターを押すと、光の軌跡が画面いっぱいに飛び回っていました。懲りずにシャッターを押し続けましたが、幻想的な世界は僕がシャッターを押すことで台無しになりました。「何度撮っても、ぶれてしまう…」と僕は愚痴ると、「心のシャッターに撮っていけば…」とSさんはさりげなく言いました。聞いている方が恥ずかしくなるようなキザな台詞で、本人も照れ笑いを浮かべていました。
 3日間、宿泊する『コリアナホテル』はソウル市内の中心部に位置していました。玄関前に、バスが止まり、荷物を下ろしました。玄関前の木々はイルミネーションで、お客を迎えていました。思わず、玄関前でSさんに頼み、写真を撮ってもらいました。フロントオフィスの職員が「ようこそ、お待ちしていました」と日本語で挨拶をしました。まるで、日本のホテルに宿泊するような気分になりました。フロントでチェックインをして、客室係が宿泊する部屋へ案内してくれました。「1988年ソウルオリンピックのとき、このホテルがメインプレスセンターの食堂を担当しました。その後のパラリンピックでは、選手の食事を作りました」と、『コリアナホテル』を紹介してくれました。車イスに乗っている僕に、過去の実績を話すことで(うちのホテルは、バリアフリーですよ)と伝えたかったのであろう。実際にこういう話を聞くと、僕は安心しました。「韓国のホテルには、5つ星から2つ星まで、ランクがあるよ。そして、ツインが基本だよ。日本のように、シングルが基本でないよ」とTさんが説明をしてくれました。「今まで、私が宿泊したホテルの部屋は全てツインでした」と韓国に何度も来ているTさん。僕は「必ず誰かと来ているのですか」と聞くと、「家族と来たときもあるけど、一人のときもあります」とTさん。「ベッド、1つ余りませんか」と聞くと、「それが高級感なのよ…一人のときはダブルの部屋を頼んで、ゆっくりと大の字で寝ています」とTさんは話してくれました。4人を僕とSさん、TさんとIさん、半分に分けました。
 部屋は押し戸でした。僕はドアノブを押して、Sさんが車イスを押して、部屋の中に入りました。車椅子の幅は約40pありますが、通路から部屋の中に入るとき、部屋の作りにゆとりを感じました。荷物を置き、トイレとバスの確認をしました。トイレとバスに手摺りが付いていました。浴槽に手すりが付いていたので、僕一人でお風呂に入ることができるなぁと思い、さきほどの客室係の話を実感しました。早速、部屋をデジカメで撮りました。《韓国のホテルの写真》と記録することで、後で生徒に紹介できるかなぁと考え、たくさん写真を撮りました。部屋の中は暖房が効いていて、少し暑く感じました。僕はSさんにベンチコートのボタンをとってもらいました。部屋の中は薄着で、十分でした。
「三戸さん、先にお風呂に入ってくださいな。何かサポートしてもらいたいことがあれば、何なりと」とSさん。「Sさん、ありがとう。浴槽の脇に手摺りがあったので、一人で大丈夫だよ」と答えました。僕は浴槽の蛇口をひねり、お湯を入れました。僕はお風呂が大好きであり、ゆっくりと湯船に浸かり、疲れをとりたいと思っています。「韓国の人は通常、家では簡単にシャワーで済ませ、週に1回程度、モギョクタンに行き、アカスリをしますよ」と、部屋に案内する客室係が話した言葉を思い出しました。湯船に浸かりながら、(アメリカ人もシャワーで、韓国人もシャワーを使用する。浴槽にお湯を入れる風習は日本だけなのかなぁ)と思いました。外国に来たからこそ、当たり前と思っていたことを考えることができると改めて実感しました。
 パジャマに着替えていると、「三戸さんは、ほとんど自分でできるのだね」とSさん。「サポートしてほしいことは、しっかりと伝えますよ。あまり気を遣わなくても良いですよ」と僕は言いました。お互いに理解が深まったような気がしました。
「三戸さん。ゆっくりとお休みになって…長旅の疲れをとってよ」とのSさんの言葉に、僕は笑いながら「長旅でないよ。飛行機で、2時間30分なのだから…秋田新幹線で東京へ行くより、ずっと近いよ」と言い、ベッドに横になりました。お酒を飲んでいるので、ほろ酔い加減でぐっすりと眠ることができました。
 翌日。快適に目が覚めました。だけど、部屋の中は真っ暗でした。(なんだ〜少し目覚めは早かったのかなぁ)と思って、また目を瞑り、眠ろうとして、ウトウトとしていました。すると、Sさんは部屋の電気を付け、着替えを始めました。(Sさんは、なんて朝が早いのだろう)と思って、「Sさん、まだ夜が明けていないよ」と寝ぼけ眼をこすりながら話すと、「三戸さん、時計をしっかりと見てよ。もう、7時30分を過ぎているよ」とSさん。その言葉に「ウソだろ〜」とビックリして、ベッドの横にある時計を見ました。「あっ…本当だ」と僕は慌てて、ベッドから起きて、部屋のカーテンを開けました。日本と午前7時30分とは違い、夜が明けてきた感じでした。1月の秋田の朝では午前6時頃の様子でした。(どうしてなのだろう…韓国と日本は時差がないのに…)と頭の中が混乱しました。室内電話が鳴り、Sさんが電話をとりました。
「Tさんからの連絡で、午前8時30分ころに部屋を出るので、準備をするように…」
 僕は急いで準備をしました。Sさんにベンチコートを着せてもらい、ニット帽子を持って、僕は車椅子に乗り、Sさんが押して、部屋を出て、集合場所のフロント前に向かいました。フロント近くの売店で、サンドイッチとお茶を朝飯に購入しました。2日目の見学コースを回るため、タクシーを呼ぶことにしました。Tさんがフロントにお願いをしました。係員は車椅子に乗っている僕を見て、「タクシーを呼ぶより、ジャンボタクシーに頼んだ方が便利と思いますよ」とTさんにアドバイス。韓国では、タクシーに"模範タクシー"と"一般タクシー"の2つの種類があり、「車椅子は、模範タクシーでなければ、対応してくれない可能性が高く、見学地先で模範タクシーを呼ぶことは時間がかかるだろう。それより、ジャンボタクシーに予約した方がよいのでは…ジャンボタクシーは時間内の貸し切りなので、希望するところへ簡単に行くことができますよ。車椅子の対応も、しっかりとやってくれますよ」とフロントの係員の提案。「フロントは、ジャンボタクシーに電話で確認しても良いかと聞いている」とTさんは話してくれました。「フロントにお願いしても良いよね」とTさんが話すので、僕とSさん、Iさんは「お任せします」と頷きました。フロントの係員が電話をかけて、頼んでいる様子。Tさんと話すときは日本語で、タクシー会社と電話で話すときはハングル語で話していました。係員はタクシー会社と連絡が付いたらしく、こちらに近寄り、「連絡がつきました。午前9時〜午後2時までなら、自由に乗ることができます。頼みますか」と係員。Tさんは「よろしくお願いします」と係員に言いました。係員はタクシー会社に伝え、「15分くらいで、このホテルに着きます。それまで、こちらのロビーでお待ち下さい」と。
 僕はSさんに車椅子を押してもらい、ロビーに向かいました。待っている間に、ソウルガイドを読みました。
一般タクシー…他のお客と相乗りになる場合がある。英語や日本語は、ほとんど通じない。乗車拒否されること  
がある。シルバーの車体。基本料金…1,900ウォンから
模範タクシー…英語や簡単な日本語が通じる。接客マナーはよい。黒い車体に金色のライン。観光客向け。
基本料金…4,000ウォンから
 ガイドブックは簡潔にまとめており、とても分かりやすいなぁと思いながら、読み進めていきました。『気候と服装』の項目には、ソウルの月別降水量と日本の各都市と比較を掲載。1月の平均降水量「mm」
ソウル…20.0mm  東京…48.6mm   札幌…110.7mm
 このデータから、ソウル市内は乾いていることが分かりました。そして、『日の出、日の入り時刻』も掲載していました。【1月15日平均の日の出時刻は7:46,日の入り時刻は17:37】と書いていました。これをみて、僕は今朝のことが納得できました。僕が目覚めた時間は日の出時刻だったんだなぁ…このことを係員に聞きました。「日本との時差はありませんが、日本より西に位置するので、日の出・日の入りはやや遅くなります」とのこと。今朝、僕が驚いた現象は、このような地理的な条件であることを知りました。それでは、日の入りが日本と比べて遅いので、1月の秋田の午後6時頃は辺りが真っ暗になります。でも、ソウル市内は薄暗くなりかけている状況かなぁと思うと、今日の夕方を迎えることが楽しみになりました。
「ジャンボタクシーが来るまで、今日の見学するコースを確認しましょう」とTさん。時計は午前9時頃。ようやく、日差しを感じられるようになりました。(いよいよ、1日が始まるなぁ)と実感できました。


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