んだんだ劇場2006年11月号 vol.95
No29
納豆カレー

私は昔から食べていた
 私が今勤めている中日本高速道路という会社は、名古屋市中区錦にある。JR名古屋駅からは、地下鉄でひとつ隣の伏見駅が最寄り駅だ。オフィス街ではあるが、有名な繁華街「栄」に近く、飲食店も多い。だから昼は外へ出て食事するのが普通だが、雨の日には出前を取ることもある。
 そんな時、私がいる広報室で決まって頼むのが、「CoCo壱番屋」のカレーである。
 「CoCo壱番屋」は全都道府県に、1000店以上あるので、1度は入ったことのある方が多いと思うが、発祥の地は名古屋で、今は愛知県一宮市に本社がある。カレー自体がおいしいし、とんかつ、コロッケ、ハンバーグ、エビフライ、山菜、ほうれん草……と、トッピングメニューが多く、辛さも注文できるのが受けて、昭和53年に1号店ができてから、倍々ゲームのように各地に出店してきた。
 最近は、東海地区限定「ゲソフライカレー」とか、関西地区限定「牛すじ煮込みカレー」とかもあって、メニューは日々進化しているようだ。
 でも、私が注文するのは、550円の「納豆カレー」と決めている。

「CoCo壱番屋」の納豆カレー
 以前に、広報室の、愛知県出身の女性が注文するのを聞いて、「そんなものまであるのか」と、とても驚いた。だって、カレーに納豆をかけて食べるのは、私が子供のころから大好きだった食べ方で、でも、家族でまねをする者はなく、友達に話したら「ゲェツ」と言われてしまった思い出があるものだから、そんなものが、カレー専門店の定番メニューになどなるはずがない、と思っていたからである。
 私には、私なりの理屈があって、東京の人などは納豆にからしを入れるのが当たり前と思っているのだから、「納豆に辛味を加える」のではなく、「辛いカレーに納豆を入れる」のも同じではないかと思ったのである。
 実際、これは、うまかった。
 が、「変な食べ方」と言う人が多いものだから、「私ひとりの隠れメニュー」で楽しんでいたのに……カレー専門店のメニューと言う表舞台に出て来たのは、私としてはちょっぴり残念でもある。
 「CoCo壱番屋」が、どこからヒントを得てこのメニューを定番にしたのかはわからないが、名古屋は、中華風の「あんかけスパゲティ」とか、食パンのバタートーストに小豆あんを載せる「小倉トースト」など、組み合わせ自由、なんでもありの「食文化融合地帯」だから、「納豆カレー」も名古屋人らしい発想なのだろう。

納豆かきあげうどん
 先日、東海北陸自動車道を走って、途中の長良川サービスエリアに寄ったら、食堂の入り口に、こんな垂れ幕があった。

「納豆かき揚げうどん・そば」の垂れ幕
 納豆を入れたかき揚げを、うどんか蕎麦に載せるというメニューだ。
 秋田市に住んでいたころ、よく行っていた「与太呂」というてんぷら屋で、納豆のてんぷらを食べた覚えがある。納豆に刻みネギを混ぜていたか、青ジソで納豆をはさんで揚げていたか、その辺は記憶があやふやになっているが、納豆好きにとっては、なかなかの逸品だった。
 しかし、なぜ今、岐阜県で「納豆かき揚げうどん」なんだろう?
 会社の広報室には、いろいろな地域の出身者がいて、鳥取県の人に「納豆を食べるか」ときいたら、「あんな臭いもの」と言下に否定された。前にいた会社で、兵庫県出身の先輩に「あんな、靴下のすえたような臭いのものが、食えるか」とひどい言われ方をしたほどではなかったが、西日本の人は、おおむね、納豆が苦手なようだ。
 「納豆カレー」を注文した愛知県出身の女性にしても、「子供のころは食べたことがなかったし、今でも納豆を食べるのは、家族で私1人」と言う。
 やはり子供のころは食べたことがないという岐阜県出身者が、大人になって食べるようにはなったものの、「会社の寮で納豆が出たとき、タレがついていなかったので、どうやって食べたらいいのかわからなかった」と言ったのには、たまげた。
 今はどの納豆パックにも入っている、「カツオ風味ダレ」などという類のものだ。
 東京出身者と、福島出身の私が、「醤油をかけて、かき混ぜればいいじゃないか」と声をそろえて言うと、岐阜県の彼は「エッ、醤油?」と、納豆本来の食べ方を初めて知って、目を丸くしていた。
 「目がテン」になったのは、納豆文化圏で育ったこちらも同様である。
 だから、なぜ、岐阜県で「納豆かきあげうどん」なのだろう?
 垂れ幕の下の方に、「旭松」というロゴがあった。長野県飯田市に本社のある、旭松食品である。凍み豆腐メーカーとして出発した旭松食品は、いまや「なっとういち」というブランドで全国に納豆を販売している、納豆製造の大手だ。
 調べてみると、臭いのあまり出ない納豆菌を発見し、しかも、1次発酵させてから低温で熟成させるという技術で、それほど納豆臭くない商品開発に成功して、西日本にも販路をひろげたという。たぶん、「納豆かき揚げ」は、旭松食品が開発したメニューなのだろう。
 最近、納豆はモテモテの「健康食品」だ。納豆に含まれる「ナットウキナーゼ」という物質が、血液をサラサラにし、癌の発生を抑止する効果もある、というようなことが広く知られるようになったからだ。それに、大豆は消化しにくいが、納豆にすると消化もよいというので、大豆の食べ方としても優良なのである。
 垂れ幕の右上には、「おくら入り」という文字もあった。「オクラ」も入ったかき揚げということだ。オクラは切るとネバネバする。納豆のネバネバも同じで、これは「ムチン」という物質で、体内の粘膜の材料になる。「ムチン」をたくさん食べると、胃潰瘍の予防になり、風邪をひきにくくなり、最近は癌を予防するというような研究もあって、非常に注目度の高い物質だ。
 納豆、オクラを入れた「健康増進メニュー」なら、納豆には縁の薄い岐阜県でも食べてもらえるという商品開発なんだろうね。
 まあ、オクラはともかく、大豆はタンパク源としても大事な食品だから、納豆は大いに食べるべし!
 私は、冷奴に納豆をかけて食べるときもある。
 大豆食品も大いに食べたいので、先日、やはり健康食品であるプレーンヨーグルトに、きな粉(砂糖は入っていない)を入れて食べてみた。体にはとてもよいはずだが、味はねぇ……まずいと言うほどではなかったけれど……。
(2006年10月7日記)


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