んだんだ劇場2007年10月号 vol.106
No2
地図選び、宿選び

小さな地図を買った
 あの日私たちが出会った、夢のような草原の道がほかにもあるとしたら、もちろん次の日も歩いてみたいと思った。ただ、それらの道がフットパスというものなのかどうか、その時はよくわかっていなかった。第一、フットパスとはなにかさえ、わかっていなかったのだから。実は、フットパスといっても、いろいろな道があることを、それからイギリスのあちこちの道を歩いて、知るわけなのだが、この時はそんなことより、また同じような道を歩いてみたいと思った。そこで、その日の帰り、ブロードウェイの町の小さな店で地図を探した。
 地図なら、途中出会った二組の夫婦が持っていた、あの立派なものがいいだろうと思いながら、気持ちはちょっとだけケチった。その地図が7.49ポンド(日本円に換算して1500円以上)と高額だったせいもある。それで、道の概略さえ分かれば、あとは今日みたいに道なりに歩けるに違いないと、ポケットに入るように折りたためる地図を2ポンドで買った。それから、宿に戻って、日本から持ってきていた、もう一冊の写真の多いガイドブックを開いた。

バースレイ・ヘイ(ピーク・ディストリクト)

ガイドブックの写真
 最初の年(2005年)、私たちはガイドブックとして、『地球の歩き方/イギリス』のほか、『旅名人ブックス41/コッツウォルズ・西イングランド(英国を代表する田園風景)』(日経BP)を持っていった。これは、写真が多いということで、買ったような気がする。これをみれば、でかけてみたい場所を探す目安になるだろうと思った。実際、ブロードウェイ・タワーまで登ってみようと思ったのも、この本の写真を見たのがきっかけ。そんなこともあって、宿に戻ってから、もう一度ブロードウェイ・タワーの頁を開いてみて、納得した。それは、まさしく私たちが今日歩いた草原の光景そのものだったから。あたりまえといえば、あたりまえの話だが、この日この道を歩くことになるまで、私はこの写真の光景にはそんなに期待していなかった。
 もちろん、それは私の偏見。いろんなガイドブックの説明を読んでもそうだし、その中の写真を眺めてもそうなのだが、特に写真の場合、格好のアングルから、絶好の条件で撮られているものが多いので、よくだまされる。だから、実際は話半分に受け取ることが多い。それでいて、でかける時の目安にはする、変な私。
 実は、これを書くことになって、確認の意味もあって、ガイドブックなどを読み直してみて、びっくりすることが多い。そこにはいろんなことが意外にしっかり(!)書かれており、なるほどと思える写真だって、ちゃんと載っている。要するに、自分で勝手にそれらを遠ざけていたことに気づく。今回こんな機会を得て、おかげでこんな発見ができて、おもしろい。旅行が終わってから、その部分のガイドブックをこんなにじっくり眺めることなんて、今迄そんなに多くはなかった。今回はとても素直に、本の中の架空の世界が、実際の光景につながっているのだと信じられる。
 たとえば、この本では、「のどかなコッツウォルズの丘を見渡せる場所」としてブロードウェイ・タワーが登場し、「そこから見る景色はまるで絵のようだ」とも、「目の前に広がる緑の濃淡がまるでパッチワークのように見えた」とも、「美しい夕焼けに染まった塔と丘が見せるシルエットはこの世のものとは思えない美しさ」だとも書かれている。でかける前は、頭の中を通り過ぎていくだけだったこれらの言葉も、いま読み直してみると、妙に親しみをもって感じられ、私たちが眺めた日中の光景から、日没の光景がいろいろに想像できる。これは、とても不思議。

ディルズ・ウェイの草原で食事

草の上で昼ごはん
 ところで、この本のブロードウェイ・タワーの部分を読んでいて、思い出したが、私たちはこのブロードウェイ・タワーには登っていない。理由は入場料。ここまで登ってきて、途中ずっと眺めていた景色だけで充分な気もしたし、1ポンドの入場料も惜しかった。それで、タワーの前の草の上にすわって、それが当初の目的だった昼ごはんを食べた。その昼ごはんも、考えてみれば、慎ましい。宿の近くの小さなスーパーで買ったパンと果物。そういえば、これまで3回のイギリスの旅で、私たちはレストランに入って、食事をすることがなかった。これは、長年の習慣なので、しようがない。ここでまた、ちょっとだけ昔(?)にさかのぼる。
 学生の頃からつきあっていた妻と旅行する場合、ほとんどがこのようなパターンだった。最初の頃は、お金がなかったから、スーパーで買ってきたパンにジャムをぬって、ほかにおかずも少々買ってきて、それを公園なんかで食べた。公園に限らず、それらしく落ち着ける場所であれば、どこでもよかった。いや、いま思えば、その場所には意外にこだわっていたようにも思う。格別、豪勢な、あるいは美味な料理に興味があるわけでもなく、腹がへっていれば、なんでもおいしい(はず)という頭がいつもあって、これに変なケチ根性が働いた。いや、そうでもしない限り、これまであちこちへはでかけられなかった(というのが現実)。その名残りがいまも続いている。不思議なもので、こうして草の上で食事してると、それだけで気持ちが落ち着く。

バス時刻表
 さて、明日はどこへ行こうか。今日は思いがけないものにめぐり合わせてくれたガイドブックの写真をみて、2ポンドの概略地図をみていたら、意外にあっさり、スノーズ・ヒルか、スタンウェイ、スタントンという目安がついた。問題はバスの便。これが少ない。私たちが泊まっていたのはストラッドフォード・アポン・エイボンという町で、ここから上記の場所へ行くには、やはりブロードウェイという町を通るバスに乗るしかなく、一日4便(09:25、12:15、16:45、19:20)。朝でかけるなら9:25。時間にして約50分。ほかの町へいく場合も、同様にバスの数は少ないのだが、イギリスではいまのところ、バスのほか頼るものがない。タクシーでは遠すぎる。

ストラッドフォード・アポン・エイボン周辺のバス時刻表
 そんなわけで、泊まっている町周辺のバス時刻表は絶対に必要。このバス時刻表、そこそこの町なら、たいていはあるはず(?)のツーリスト・インフォメーションへ行けば、手に入ることが多い。周辺のものが一冊にまとまっている場合もあれば、路線ごと一枚の紙になっている場合もあって、とにかくできる限りのものを集め、その時刻表に書かれている途中の停車地と、そこからあらかた想像できるバスの経路を、事前に地図の上で確認しておく必要がある。
 往復のコースなら、降りた場所から、逆に戻ってくるバスに乗る。もし、帰りはほかの道を歩いてみたくなったら、あらかたの見当をつけ、そのバス停の時間までたどり着くことが絶対に必要。いずれの場合も、ブロードウェイからストラッドフォード・アポン・エイボンまでの帰りは3便(9:55、14:10、16:45)。そこで、14:10と16:45という時間を頭に入れておく。
 こうして、バスの時間が決まれば、あとは歩くだけ。今迄も旅といえば、必ずどこかを歩くことになっていた私たちに、このパターンはまったく抵抗もなく、この日から朝9:25のバスに乗って、ブロードウェイの町へでかけることが日課になった。思いがけず、こんな展開になり、当初4日の予定だった宿(B&B)にもう少し滞在したいと思ったが、あいにく予約で一杯。近くのお友達のB&Bを紹介してもらい、3日だけ延泊。この辺まで宿の方もうまく行った。(その後の四苦八苦については後で書く)

中途半端な地図は役に立たない
 これは、次の日歩いてみてわかったことだが、最初に買った2ポンドの地図、全体の位置関係を確かめるには便利だったが、細かな部分になると、まったく頼りにならないことが判明。結局、みんな(?)が持っているOS Explorer Mapを買うことになる。
 この日は、ブロードウェイからバックランド、スタントン、スタンウェイの予定で歩き始めた。もちろん、最初は予定。歩いているうち、もう少し先まで行ってみよう、まだ行ける、帰りのバス時間にはまだ間に合うはずと、村に着くたび時計を確かめながら、結局はスタンウェイまで歩いた。
 困ったのは、町からの最初の道がみつけにくかったこと。これは、町の人やツーリスト・インフォメーションに聞いて、なんとかなった。それに途中の道は、たいてい道なりに行けばいいし、フットパスの標識を見逃さずに行けば、なんとか道は続いてくれる。困ったのは、分かれ道になった時。どっちへ行ったらいいのか、その判断が難しい。あるいは村の舗装道路に出た時、次のフットパスへの入り口がみつけにくい。この日はなんとかなったが、やはり地図をケチってはいけない。それで、あの地図を買うことにした。

ニュータウン(湖水地方)のバス停で

ブロードウェイ周辺のExplorer Map

OS Explorer Map
 こうして手に入れた地図(OS Explorer Map)は、その後の私たちのイギリス旅行には、必須のものになった。イギリスにもいろんな種類の地図はあるが、最初に出会った夫婦にみせてもらった、Great Britain's national mapping agency の Ordnance Surveyから出ている、2万5千分の一縮尺のOS Explorer Map を私たちは以後ずっと愛用している。これはイングランド、スコットランド、ウェールズの全地域を403冊(部)にまとめており、広げた大きさは横125センチ、縦95センチ。日本の国土地理院が発行している2万5千分の一に似た地図にカラフルな道の表示があり、これに旅行に必要な情報がたくさん付け加えられていて、とても便利。片面のものも、両面のものもあり、値段は同じ。2005年には一冊7.49ポンドだったものが、2007年夏には7.99ポンド。詳しくは、下記を参照。
http://leisure.ordnancesurvey.co.uk/leisure/ItemDetails.jsp?item=os_explorer

OS Explorer Map/The Cotswolds(OL45)

コッツウォルズ・ウェイ
 最初、ブロードウェイからブロードウェイ・タワーを経て、チッピング・カムデンへ歩いた後、今度はブロードウェイを基点に、ブックランド、スタントン、スタンウェイへの道をほぼ往復、あるいはスノーズ・ヒルに続く道などを歩いたのだが、これらの道のある部分が「コッツウォルズ・ウェイ」という有名な道としてつながっていたことを、後で地図(OS Explorer Map)をみて、知った。
 それと気づいて、気持ちのどこかに、それらを通して歩いてみたいと思ったのは確か。しかし、こうした道に沿って歩くには、重い荷物を背負って歩くことも覚悟しなければならず、それはいましたいことではなかったので、それ以上はこだわらなかったが、一度だけハドリアンズ・ウォール・パスで、思いがけず楽な方法を発見(2006年)。このことは後で書く。それはそれ、ただ最初の頃は、そうした道を丹念に踏破したいわけでもなく、偶然めぐりあった草原の道を歩くことにワクワクし、それだけで充分に心地よかった。

ケズイック(湖水地方)

なんという心地よさ
 ところでこの時、いったい「なに」が心地よかったのだろうか。まずは、天気がよかったことだろう。天気のおかげで、晴れやかな気分だった。そんな気分で、なだらかな丘が続く、ゆったりとした感じの景色を眺めながら、草の上を歩いていたことだろうか。ゆるやかな斜面の草原で、まわりにいろんな緑を感じながら、のんびり歩けていたからだろうか。必死な思いで先を急いでいたわけでもなく、無理をして体を動かしているわけでもなく、柔らかな感触の草の上を、なんともいえず、穏やかな気分で歩けていたせいだろうか。
 心地いいとは書いたが、草の上には羊や牛の落し物が、それはもうありすぎるくらい、あちこちに散らばっていて、歩く時それなりに気を配らないと大変なことになるのだが、別にそれがイヤでもなく、最初から当たり前に思えていたのはなぜだろう。その後、いろんな道を歩くことになり、決して心地いいばかりではなく、たとえばこの落し物だらけの道だったり、ほかに大変な思いはそのたびいろいろなのだが、それらが小さなことに思えていたのも不思議といえば不思議。
 もうひとつ、これは私の中の奇妙な満足感。おそらく日本では、こういう光景、こんな道にお目にかかることはないだろうと思うと、なぜかワクワクした。似たような道が、日本にまったくないわけでもないだろうが、こんなに延々と続いていることはない(と思う、断言はできないが)。さらには、家のありようも、まわりの景色につながっている感じがする。そのことで、なんともいえず、気持ちが落ち着いてくる。そんな中に「いま」いる心地よさのようなものだろうか。そして、このワクワクした思いを誰かに話したくて、ウズウズしてる、そんな気分だったと思う。だから、うっかりすると、あやうく踏んでしまいそうなたくさんの落し物があっても、そして実際にそれらを何度か踏んでしまっても、一向に気にならなかったのかもしれない。

バクストン郊外(ピーク・ディストリクト)

「フットパス」の定義
 ここまで、かなり気軽に「フットパス」という言葉を使ってきたのだが、なにをもって「フットパス」というのか。その正確なところを、私自身はっきりわかっているわけではないのだが、たとえば、私たちがいつも持ち歩く OS Explorer Map 上に表示されている「人が歩ける道」の説明に若干の補足を加えると、次のようになる。なお、補足説明に、『ウォーキング大国イギリス(フットパスを歩きながら自然を楽しむ』(平松紘著/明石書店刊)を一部引用。

PUBLIC RIGHTS OF WAY
@ Footpath(フットパス)・・・人だけが歩くことを許された道。地図上、緑の細い破線で表示。
A Bridleway(ブライドルウェイ)・・・ブライドルは「手綱」の意味。人、馬、自転車の通行が許された道。地図上、緑の太い破線で表示。
B Byway open to all traffic(バイウェイ)・・・本来は「間道」という意味で、人、馬、自転車に加えて自動車が入ってもいい道路。ただし、舗装されていないところが多い。地図上、緑の太い十字マークで表示。
C Road used as a public path・・・地図上、緑の**で表示。(XX部分は下の写真説明を参照してください)

OTHER PUBLIC ACCESS
D Other routes with public access・・・地図上、緑の丸い点で表示
E National Trail/Long Distance Route :Recreational Route (ナショナル・トレイル、長距離ルート)・・・地図上、緑のソロバン玉で表示。
F Permitted Footpath (正規のものではない、地主が公的使用を認めたフットパス)・・・地図上、オレンジの細い破線で表示。
G Permitted Bridleway (正規のものではない、地主が公的使用を認めたブライドルウェイ)・・・地図上、太いオレンジの破線で表示。
H Offroad cycle route (サイクリングロード)・・・地図上、オレンジの丸で表示。
Explorer Mapの道表示説明部分
 このように、歩ける道にはいろいろあるのだが、私のこの『イギリスのフットパスを家族で歩く』というタイトルの文章の中では、上にあげたすべての道を便宜上「フットパス」と呼んでもいいような気がする。なぜなら、上にあげたイギリスの道のどれも、私たちはそれぞれフットパスの気分で歩いていたのだから。
 もちろん、これらの中で、私(たち)の好みの道というものはある。そうした道を歩きたくて、イギリスにでかけて3年。最近では地図をみていると、なんとなくそんな道を予測できるようになったのだが、これだって、当てが外れることもあるし、また逆に思いがけないところで、嬉しい道に出会ったりもする。だから、それとなく道を選んで歩いていると、いつのまにか、私(たち)が歩きたい道にめぐりあうのだと思うようになった。実際、それらの道はいろんなつながり方をしていて、時には舗装された、言ってみれば、ちょっと不本意な道を間にはさむこともある。しかし、そんな道も必ずや「望みの道」につながっている。そんな意味でも、上にはあげていない、車が頻繁に走っている幹線道路などを除いた、これらの道すべてを「フットパス」といってもいいような気がする。

ダーウェント湖(湖水地方)近く

無限のフットパス
 ともかく、思いがけず出会った草原の道での快感は、その後の私たちのイギリスの旅にずっとつながっている。さっき、最近は地図をみて、「心地いい(に違いない)道」をみつけることができると書いたが、理由は実に単純。ちょっと大胆な言い方をすれば、イギリスのあちこちにそんな道が無限にあるからだ。現在、我が家には、来年以降の楽しみとして、自分たちへのお土産として買ってきた、これから行ってみたい場所(地域)の地図なども含め、25冊のOS Explorer Mapがあるけれど、これ一冊で、間違いなく一ヶ月の歩く旅を楽しむことができると私は思っている。そして、いま頭の中では、そんな旅をいろいろに想像できる。

ベークウェルにあるハドンホール付近く
 ここまで、私たちの「フットパスを歩く旅」に必要なものについて、書いてきた。次は、それを一ヶ月間続けるために一番必要なもの、宿のことについて書いてみたいと思う。

日程が決まっている旅は・・・
 旅行する場合、あらかじめ全部の日程を決めてしまうのは、好きではない。むしろ、我慢できない。いや、最近は時と場合によって、そういうものと割り切って、多少は我慢しながら、でかけることもできたりする。それは、おおむね自分の力ではとうてい動けない(やりくりができない)旅行の時であって、それはそれ。その点では、我慢の仕方がうまくなってきたようにも思うのだが、そういう時でも、自分の気持ちのままにできる時間を作って、心のバランスを取ったりはする。
 旅に出れば、必ず予想できないことが起こる。身に危険が及ばない範囲で、それはおもしろい。もちろん、すべての予定外を歓迎しているわけではない。私は、元々が頭でっかちにできている人間だから、究極のところ、タフにはできていない。だから、そこそこ、自分でほどよく受け止められるくらいの予定外を楽しみにしている。そんなわけで、行き先はもちろん、宿もできるかぎり、その時その場の成り行きで、変えられる方がいい。

宿を探すのは楽しみ・・・のはずが
 最初の年、時差調整のため、また体を休める目的で、オックスフォードに6日滞在。その後のストラッドフォード・アポン・エイボンでの4日間も、イギリスはどんなものか様子うかがいの感じがあった。一度ドイツで(これは短い旅だったが)、比較的簡単にその日の宿が取れたこともあって、いずれイギリスに慣れてきたら、そのやり方でやってみようと、その先の宿の予約はしないでおいた。宿を探すのも旅のおもしろさだと、これはずっとそう思っていたし、そういうところから、思いがけないイギリスを味わえるかもしれないと期待もしていた。
 ところが、時期的なせいか、場所的な理由なのか、途中から宿がなかなかすんなり決まらなくなって、そのことに少しうんざりし始めてきた。もうひとつ、フットパスというものに出会って、私たちのイギリスでの旅の仕方(時間の過ごし方)が見えてきたせいもある。現地で時間をかけて、宿を探すエネルギーがもったいなく思えてきた。それより、その時間、ほかのフットパスを歩くことに使えたらと思うようになった。年齢のせいもあるのだろう。昔のように(?)ガッツで、目の前の難関を乗り切る、宿探しのゲームを楽しむより、限りあるエネルギーなら、自分(たち)が心地いいと思えることに使いたいと思うようになった。

ファミリールーム
 私たちのイギリスの旅は、原則として、三人で一緒に行動することがほとんどなので、宿に滞在している時の便利さ、使い勝手、料金の面からも、三人一緒の部屋がいい。したがって、ファミリールームということになり、ベットの組合せはダブルとシングルなのか、シングル3つなのか、それは宿によって、それぞれ違ってくる。私たちの希望は後者なのだが、これまでは前者の方が圧倒的に多かった。
 最初は『地球の歩き方』のホテル紹介ページを参考にしたのだが、これは大筋で間違いないというのが、これまでの印象。それぞれの体力を考え、また3人が一ヶ月という長い期間一緒に過ごす場所ということを考え、できることなら、私たちにとって居心地のいい宿であってほしいと思って、結構念入りに宿を探す。それはどんな宿なのか、以下思いつくままに書いてみた。
 基本的にはテントの旅のイメージ。もちろん、この年になって、実際のテントではなく、テントの自由さ、気楽さが理想。イギリスに限らず、旅行の場合、日々移動して歩く形は原則として望んでいない。毎日荷物を整理し、それを持ち歩き、移動することが旅・・・といった疲れ方はしたくない。だから、一度宿に荷物を収めたら、しばらくはそこへ滞在する形がいい。これだと、宿がそのうち我が家のような感じになり、日々でかける時の行動用の荷物もわずかで済む。
 もちろん、安いにこしたことはないが、安さだけが基準でもない。そこそこの広さがあって、心地よく、こざっぱりした室内。この点、これまでの印象から、イギリスの宿はどこでも大丈夫のような気がする。過度の装飾は不要。なにより、いつ戻っても、シャワーが使え、休める部屋、昼寝ができる部屋。荷物はそれなり部屋にまとめられ、衣類はタンスに収められ、自分たちで使い勝手を考えて過ごせる部屋。できれば、静かな部屋。周囲に気を使わないで済む部屋。まわりからも邪魔されないで済む部屋。フレンドリーな宿がいいけれども、それで私たちのペースが乱されるのも困る。

昼寝ができる部屋
 これは、私たちの旅行の時期にも関連している。6月から7月にかけてのイギリスの場合、私たちには「昼寝の時間」がどうしても必要となる。この時期、朝5時には外が明るくなり、夜は10時頃やっと暗くなる。朝から夜まで目一杯動くなどということは、もちろん不可能。妻も息子も、必ず途中に昼寝の時間を必要とする。私の場合はどうかというと、その時間が惜しいと思うこともあり、日によって体が元気な時もあって、そんな時は二人が休んでいる間、昼寝をせずに、私の時間として好きに使うこともあるが、三人の旅において、いろんな意味(旅を良好な状態に保つ意味)でも、昼寝の時間はとても大切。
 その昼寝の時間、日によっていろいろなのだが、おおむね午後2時前後に部屋へ戻り、シャワーを浴びたり、浴びなかったりで、その後昼寝。午後4時すぎに起きて、ティータイムの後、その日の第二部となることが多い。ちょうど午後5時くらいで、昼過ぎという感じだろうか。といって、夜遅くというのは、3人とも苦手なので、暗くなるまで目一杯に動くということはまずない。旅行期間中、大体は決まったリズムで過ごすことが多い。いや、多少いつもより、朝が早くなる感じだろうか。

ウィンダミアのゲストハウスの室内

ケズイックのB&Bの室内

交通の便がいいところ
 最初のうち、このことを強く意識したわけではないが、フットパスに出会ってからは、そのフットパスをうまく歩けることを一番のポイントに考えるようになった。そこで、日々の移動のために、交通の便がいいところ。フットパスへは、バス(時には列車)ででかけることが多いので、理想としてはバスステーションに近いところ。そして、宿泊地を選ぶ際、いろんな方面にバスがつながっている町を基準に考える。できれば、その中心になっている町が望ましい。といって、大きすぎる町ではなく、そこそこの町というのがミソ。バスステーションが近いとなれば、町の中心。
 たいていは一週間前後滞在することが多いから、毎日の食料調達が容易であることも大切。このためにも、町の中心に近い方がいい。まあ、スーパーマーケットがあれば充分。そして夕飯が確保できるところ。(このことについては、後で詳しく書く)。そんなワケで、郊外の別荘地のような場所は、私たちには過ごしにくい。したがって、こうした条件と、まわりの静かさとは、時々相反することもある。

まあ、なんとか宿は決まる
 いま、ここで宿というのは、『地球の歩き方』のホテルの項でも紹介されている、B&Bかゲストハウス、まれに中級と書かれているホテルのこと。B&Bとは、Bed & Breakfast の略で、文字通りの朝食がついた宿のこと。そのB&Bとゲストハウスの違いはどこにあるのか、私にはよくわからない。客室数が多いものをゲストハウスと呼ぶ傾向があると、『地球の歩き方』には書いてあるが、たかだか3年の経験で、さてどちらがいいということもない。
 その料金、個々に事情は違って、まちまちなのだが、ガイドブックを眺めていて、ファミリールーム75ポンドあたりを目安にする。日本円に換算すれば、1ポンド200円なら15000円。つまり一人当たり5000円。朝食つきだから、日本のビジネスホテルを考えれば、もちろん納得の料金。ただ、曲者はポンドの変動。最初の年(2005年)は1ポンド208円、それが3年目(2007年)には250円を超えてしまい、18750円にもなる。最近、また下がってきてはいるが、これだけはどうしようもない。
 宿もいろいろ。もう一度泊まってみたい宿もあれば、そうでない宿もある。ただ、ここでは名前をあげて、個々の宿の良し悪しについては書かない。それは、どの宿も、私たちにとっては長い期間の旅の中で、その時々のめぐりあわせのように思えてくるから。それに、これまでを振り返ってみて、さっきあげた条件のすべて満たした宿はなかったが、最低でも1週間前後は滞在するようになると、それぞれに自分たちの居心地よさをみつけることで、総じて満喫できているような気がする。その宿の話は、今後折りにふれて、出てくると思う。ここでは、決して静かではなかった部屋の話を少々。

スキプトンのホテルの室内

通りに面した部屋
 交通の便がいいところ・・・となれば、時として静かではない部屋の場合がある。宿に到着、部屋に入ってみて、街の通りの音(一番は車の音)を覚悟しなければならない時がある。たとえば、希望のバスステーションが目の前のホテルだった場合は車の往来がひっきりなしの通りに面しており、町の中心部に徒歩一分という場所にあったB&Bは、信号のたび車が石畳の道を走り抜けていく。その音がすぐ窓の下から聞こえてきたりする。内心、しまったとも思う。
 しかし、それはもう仕方のないこと。そんな時は、その宿の利点を考える。町の中でも、ちょっと通りを外れると、意外に静かなこともある。ただ、これらは事前にわからないこともあって、こっそり不本意な思いもするのだが、そんな時こそ、その宿に「ほかにはないいいところ」をみつける。これは、長く(?)泊まる時の知恵かもしれない。それと、毎日聞いていると、意外に音には慣れてくるもので、そんな宿だからこそ、通りの様子が眺められて、これはこれでおもしろかったりする。また、思いがけないトラブルがあった時、その町の便利さや宿の主人の人柄に救われたりすることもあって、これこそ事前には絶対予測できない「おまけ」のようなものだと思う。

サタデーナイト・フィーバー
 宿で困ったことの一番は、マンチェスターで泊まるオーストラリアン・バーを併設するチェーンホテル。交通の便はまあまあだし、ファミリールーム素泊まりで49.95ポンドという料金が魅力。この一階がバーになっていて、週末は深夜2時まで営業と注記にはあった。2年目の最初に泊まったのが金曜の夜。長い飛行機の旅の後、やっとの思いで宿に到着して、さて寝ようと思った夜の10時頃から、ディスコバーの(空気がビリビリするような)大音響は始まり、これは翌朝3時まで休みなく続き、もはや唖然とするしかなかった。途中で寝るのはあきらめ、写真を撮りに外へ出たくらいだ。そんな宿ではあるが、イギリスの最初と最後に、通過するだけのマンチェスターならここがいいと思っている。要するに金曜と土曜を外せばいいだけの話だし。
 果たして、日本の夜のことは知らないが、イギリスではいまだ、サタデーナイト・フィーバーが健在で、若者たちの騒ぎようは尋常ではない。ある町のホテルのすぐ近くにも、そんな若者たちのためのバーがあって、一週間も滞在すれば、必ず一度か二度はそんな夜がめぐってくる。この時は、せっかくだから、その光景が見下ろせる窓際にすわって、パトカーが常駐あるいは巡回し、そのうちワゴンパトカーに収容される若者たちの一部始終を眺めている。疲れていれば、そのまま眠ってしまうのだが、なにかで目が覚めてしまうと、もはやそうしているしかない。
バースレイ・ヘイ(ピーク・ディストリクト)のフットパスで羊・牛が目の前

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