んだんだ劇場2007年8月号 vol.104
No38
ワラビ畑


来春が待ち遠しい
 7月18日に、房総半島、千葉県いすみ市の家に帰ったら、畑の一画に、ワラビが生い茂っていた。

繁茂したワラビ
 今年の春、父親が苗を購入したワラビである。植えたのは8株ほどと記憶しているが、それが、まあ、立派に育って、しかも新しい芽をどんどん出していた。ワラビと言うと、クルクル巻いた芽しかご存じない方が多いと思うが、育つと、こんな葉を広げるのだ。
 ワラビは北国の人間にとって、なじみ深い山菜である。いま住んでいるいすみ市では、春になっても生のワラビが八百屋に並ぶことはない。それで、父親は自分で栽培しようと思い立ち、種苗会社のカタログで見つけて取り寄せたのだ。
 ついでに、ゼンマイも購入した。ゼンマイの方は、これほどには繁茂していないが、元気に育っている。ただし、ゼンマイは土を選び、半日陰の方がいいらしい。
 それに対して、ワラビは日当たりの良い場所が適している。
 秋田県の民謡「本荘追分」でも「♪本荘 名物 焼け山のワラビ 焼けば焼くほど 太くなる」と歌われているくらいで、山焼きした斜面には太いワラビが次々に出て来る。
 というわけで、父親は、「もっとワラビにいい場所を作る」と言い出した。
 河川改修工事で、家の裏に、盛土で2段の土手ができた。家の敷地から1段下のところまでの斜面をなだらかにして、そこにワラビを植えるのだという。それはいいのだが……
 ちょっと朝寝をしていて、ノコノコと起きたら、父親が「手伝ってくれ」と言う。父親は、盛土を土嚢(どのう)に詰めて、1段下の段に並べていた。その土嚢を作れというのである。土嚢が並んだら、上の土を崩してなだらかな斜面を造り、堆肥を混ぜた山砂を敷き詰めて、今年の冬、ワラビを植え替えるのだそうだ。
 しかし、この盛土は、近くのトンネル工事で出た残土で、ほとんど粘土に、少し岩らしきものと小石が混じっている。ところが、この「岩らしきもの」というのが、水をかけてからハンマーでたたくと、すぐにボロボロに崩れてしまうというしろもので、崩れたら水に溶け、粘土になってしまう岩石(?)なのである。私が住んでいる地域は、どこを掘っても、この変な石しか出て来ない。川の上流部に行っても、石ころらしきものはない地層の土地なのである。
 いや、まあ、こいつをスコップで崩し、土嚢に詰めるのは大変。すぐに私はへばってしまったが、父親は、さっさと、上の段を3本鍬で崩し、新しい斜面を造り始めた。74歳とは思えない馬力である。が、ようやく梅雨明けになったようで、暑い中、あまりせっかちに働いて体調をくずさないかと、私は、少し心配している。

単身赴任者のための料理教室
 私は今、勤めている中日本高速道路の社内報に、「単身赴任者のための料理教室」を連載している。もう、18回書いた。
 この会社は、日本道路公団を3分割して民営化したうちの1社。道路公団は東京にあったから、首都圏に家を建てた人が多かった。それが、出身地とか、さまざまな理由で、東、中、西の3社に分かれたために、名古屋に本社のある中日本会社には単身赴任がやたらと多いことになった。
 私が入社して間もないころ、そんな一人と話をしていたら、「野菜を食べないといけないことはわかっているが、どうしたらいい」と相談を受けた。
 「簡単なのは、おひたし。鍋に湯をわかして塩を入れ、青菜をさっとくぐらせれば、それでできあがり」
 私がそう言うと、その人は、「えっ、塩を入れなければだめなの?」と言った。
 塩湯を通すと、青菜があざやかな緑色になる、ということを初めて知ったと言うのだ。
 もう一人、「リンゴの皮がむけない」という人がいた。「左手でリンゴをつかみ、右手でナイフを持つと、左手の親指に向かって刃を動かす。そんな怖いことはできない」と言うのである。
 「小さな鍋ひとつしか、調理器具は持っていない」という人もいた。「インスタントラーメンだけは作れる」とおっしゃる。
 こりゃぁ、だめだ。外食ばかりでは健康を維持できないじゃないか。それで、簡単に調理できて、季節の野菜を中心としたメニューを紹介することにした。
 最近作ったのは「トンしゃぶサラダ」。今が盛りの夏野菜を適当に刻んで、上に「しゃぶしゃぶ」にした薄切りの豚肉を載せ、適当なドレッシングをかけて食べる。

トンしゃぶサラダ
 レタスなんかは手でちぎればいいし、トマト、キュウリなどはまな板に置いて上から包丁をあてればいいから、「リンゴの皮がむけない」方でもOK。
 その次は、「キュウリで2品+1品」。
 ザクザクでいいから、キュウリをせん切りにして、1品は、トリ皮を刻んで混ぜ、たっぷりワサビを載せて、醤油をかけてかき混ぜる。これが、もう、不思議にうまい!
 昔住んでいた、東急東横線の新丸子駅前にあった釜飯屋の評判メニューである。が、そちらは、ちゃんとトリ皮をゆでてせん切りにしていた。けれども、単身赴任のお父さんに「トリ皮を買って、ゆでて」というのは面倒だから、スーパーで売っている焼き鳥の「トリ皮」を使え、というレシピにした。
 もう1品は、「中華くらげ」なるものを混ぜるだけ。これなら、キュウリをせん切りにする手間だけでできる。
 けれども、それではあまりにも寂しいから、「+1品」は、それに、はるさめをゆでて混ぜてもらうことにした。はるさめは豆のでんぷんなので、栄養バランスもいい。ついでに、トマトを切って周囲に盛りつけたら、これは、もう、りっぱな「料理」である。

キュウリで簡単料理。左は「トリ皮とわさび」。右手前は「中華くらげと混ぜただけ」。右奥は、はるさめ、トマトも入れて、中華ドレッシングで食べる
 どうです、なかなかおいしそうでしょ?
 で、これはみんな、私の単身赴任宅で調理し、写真も自分で撮っている。野菜を切るところなどは両手を使うから、三脚を立て、セルフタイマーでシャッターを切っているのである。
 テーブルクロスも、食器も、箸、スプーンも、毎回変えている。前に、サカタのタネの月刊誌『園芸通信』で、毎月、野菜料理を紹介していた時は、かみさんがそういうコーディネートをしてくれた。自分でそこまでやるのは、面倒と言えば面倒なのだが、できあがりがきれいだと、これはうれしい。
 だから、最近、食器屋をのぞいて、ついつい、皿とかどんぶりを買ってしまう。いずれは千葉県いすみ市の家に帰るのだけれど、そのとき、どれくらい食器が増えているのか、考えると、ちょっと怖い気もしてきた。
 ちなみに、今夜は「スープ餃子」。和風の顆粒出汁で、醤油味の汁を作り、安い餃子を放り込んで、ちょっと煮込むだけ。適当に野菜を入れれば、栄養バランスもいい。

今晩食べたスープ餃子
 安い餃子でも、わずかに肉が入っているので、残ったスープがおいしくなる。そこへ残り飯を入れて「簡単雑炊」にもできる。単身赴任では、「料理のリメイク」も大事な要素なんですねぇ。 
(2007年7月24日記)


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