んだんだ劇場2007年9月号 vol.105
No39
家庭菜園の集大成のような農協ストア

ウリうりがウリうりにきて……
 私の単身赴任宅は愛知県稲沢市、名鉄国府宮駅から徒歩1分の所にある。周囲は「街」であるが、自転車で5分も走ると、田んぼと畑が広がっている。名鉄名古屋駅から特急電車でわずか10分なのに、田園地帯と言ってもいい。
 土曜日にこちらにいる時は、アパートから徒歩2分の農協ストアに野菜を買いにいくのを楽しみにしている。近隣の農家が持ち込んだ野菜が豊富にあるからだ。値段は農家が自己判断でつけるらしく、とても安い。しかも、通常の出荷ルートには乗らない、変わった野菜が多いのも楽しい。たとえば、長ナス。

関東ではあまり目にしない、長〜いナス
 わきに置いたピーマンやスプーンと比べると、おおよその大きさがわかるだろう。長いものは30センチ以上あった。
 東北地方にも「仙台長ナス」というのがあるが、調べてみたら、これは長ナス栽培が盛んな九州の「長崎長」という品種らしい。丸ナスや白ナスなど農協ストアに並ぶナスは種々雑多で、見ているだけでも楽しいのだが、この長ナス、これ全部で100円だった。あまりに安くて、つい買ってしまったが、さて、この量を一人で食べるとなると……?
 「種々雑多」ということなら、この季節、「ウリ類」も豊富だ。

ウリのいろいろ
 後列左側の、白くて大きいのは100円だった冬瓜(トウガン)。真夏に収穫するのに、なぜ「冬のウリ」なのか。青葉高(あおば・たかし)さんの『日本の野菜』(八坂書房)には、「涼しい場所におくと、翌年の三〜四月まで貯蔵でき」るので、この名がついたと説明されていた。
 名前の由来には、もう一説あって、白い粉を吹いた姿を「雪景色にたとえた」というのである。もっとも、「琉球種」という品種は粉を吹かず、つやつやした緑色だから、たぶん青葉さんの説明の方が正しいのだろうけれど、「雪景色説」も捨てがたい。
 大きな野菜だが、私はすぐに、鶏のひき肉だんごとスープにして全部食べた。これ自体はほとんど水分のようなものだから、意外に腹にたまらずに食べられるのである。
 その右の、緑色の、ちょっと長い形のウリは「カリモリ」……という名前で売られていたが、どうみてもこれは、奈良漬の材料になるハグラウリ(白ウリというのが一般名だが、緑色の品種もあるので、ハグラウリという名前の方にした)である。インターネットで調べたら、「カリモリ」は愛知県独特の地方名だそうだ。これも100円。
 農協ストアに買い物に来ていた近所の「おばさん」に聞くと、「縦半分に切って、タネを取り、塩漬けか味噌漬けにするといい」とか。味噌漬けも、「味噌を全体に塗って、冷蔵庫に入れておけばいい」そうだ。私は、薄く切って塩を振り、全体になじませて冷蔵庫に放り込んでおいた。
 前列左端は、バナナ瓜。これも、100円。これは果物扱いで、2、3日熟すのを待った方がいいらしい。
 その右は「タイガーメロン」。これはちょっと高くて、128円。複数の種苗会社でタネを販売しているから、「タイガーメロン」は商標なのだろう。阪神タイガースファンを意識した命名なのだろうか。
 その隣の「シロウリ」は100円、右端の「黄ウリ」は85円。
 前列の4品は冷蔵庫で冷やしている最中で、まだ食べていない。けれど、どれも珍しいウリ類だ……ということは、ヒット商品ではない、ということで、たぶん、甘みが少ないのだろう。しかし、このごろの果物も野菜も「糖度の高さ」をPRしているものが多く、品種改良もその方向が主流なのだが、時として「べたつく甘さ」を感じることがある。今年のようにあまりに暑い日が続いていると、「さっぱりした甘さ」が欲しいと思う。
 で、こうして並べてみたら、「瓜売りが瓜売りに来て瓜売り残し売り売り帰る瓜売りの声」という早口言葉を思い出した。
 ついでに、ある落語家が「貝買いが貝買いに来て貝買い残し買い買い帰る貝買いの声」という、つまらないパロディをやっていたのも思い出した。

オクラの花を食べる
 3週間くらい前から、農協ストアに「オクラの花」が並び始めた。オクラの花は、野菜の花の中では、夕顔(カンピョウ)と双璧の美しさがあると思っていたのだが、なぜこの花が野菜売り場に並ぶのだろう?

野菜として売られていた花オクラ
 やはり買い物に来ていた「おねえさん」に聞くと、「刻んで、たたいていると、オクラと同じようにネバネバしてくるから、三杯酢で食べるといい」と言う。すると、隣にいた「おばさん」は、「削り節と醤油をかけただけでもおいしい」と言った。そして、「これはオクラの花ではなくて、花オクラという専用品種」なのだと説明してくれた。
 インターネットで「花オクラ」を検索してみたら、ヒットした。確かにこれは「オクラの花」ではなくて、「トロロアオイ」の花だった。アオイ科の植物で、その昔(今も)和紙を漉くときに、この根をすりつぶしてできるネバネバを、紙の繊維のつなぎ(糊のようなもの)として使っていた。私は、そういう用途でトロロアオイを知っていたのだが、花が食べられるとは知らなかった。
 もちろん、すぐに刻んでみた。

花オクラの「たたき」に削り節
 花のつぼみが開く寸前を収穫しているようで、花びらがバラけずに、刻みやすかった。食べてみると、苦味などはまったくない。しかし、オクラと同じく「独特の味」というものもない。
 7個で60円だから、高くはない。しかし、それほどの量ではない。だから、これだけで食べるのではなく、サラダの彩りにでも使えば重宝するのではないだろうか。
 それにしても、この農協ストアで売られているのは、長ナスにしても、ウリのいろいろにしても、この「花オクラ」にしても、農家→農協→市場→小売店→消費者という流通ルートには乗りにくいものばかり。まるで家庭菜園の収穫物を寄せ集めたようなものだ。房総半島に帰れば家庭菜園主でもある私にとって、たまらなく楽しい場所である。
(2007年8月19日記)


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