んだんだ劇場2008年2月号 vol.110

No21− 今度はお前が考えろ−

波乱の幕開けです
 年明け早々、自費出版の「新風舎」が、その2日後には「草思社」が民事再生申請を出しました。波乱の幕開けです。新風舎は昨年暮れから「倒産は時間の問題」といわれていましたし、業界の評価も極めて低い版元なので、驚きもほどほどですが、草思社の倒産はショックでした。
 数年前、東京の街を歩いていて偶然に千駄ヶ谷で大きな7,8階建ての派手なファッションビルに「草思社」の看板を見つけたときは、何かの間違いだろう、と何度もビルの周りを歩きまわったほどです。わずか40名弱の小出版社には極めて不似合いなモダンな自社ビルで、草思社の出版物とイメージがうまく結べなかったの。創業者Kさんのもうひとつの職業であるアパレルメーカーが同居するファッション系ビルであることを聞き、納得したのですが、昨年暮れ、そのビルを売り払ったあたりから倒産説はささやかれ出しました。
 今年は書店の相次ぐ倒産に続いて、出版社の倒産ラッシュが懸念されています。出版はすでに斜陽から絶望産業に移行した、という人もいれば、本は残るだろうが職業としての編集者や産業としての出版は消えていくだろう、と予想する人もいます。
 アメリカでは去年から、米アマゾンが「キンドル」というブックリーダー(読書端末)を発売し、好評のようです。これまでの読書端末と違い、コンテンツを携帯電話回線でアマゾンから購入できる仕組みで、接続料金もアマゾンの負担、コンテンツ料金だけを支払うようになっている。ほとんどの新刊本のダウンロードが10ドル以内、ニューヨークタイムスなどの新聞も2ドル以下で月刊定期購読ができるという。パソコンを使わず電話で直接コンテンツを取り込めること、1冊の本の購入料が安いこと、さらにアマゾンという強力なコンテンツ・プロバイダーの存在などから、これで一挙にペーバーレス化が進むのでは、と期待されているそうだ。いやはや、どこまでついて行けるのか、不安はいや増すばかりですが、老骨に鞭打って、今年もがんばります。よろしくご指導のほど、お願いします。
元日の午後からはきれいに晴れ渡りました
元旦の筑紫森の頂上です
阿仁スキー場の樹氷。このロケーションに参って今年はスキーをするぞ、と意気込みました

「今度はわたしが母に貸す」
ある1日のこと。朝8時半前に突然、印刷所の秋田営業所長がやってきた。9時過ぎなければ誰も出舎してないことを知っいるはずなのに、失礼なやつだなあ、と思ったら、会社のえらいさんの新年あいさつ回り。長い付き合いなんだから「あそこは朝早く行っても誰もいません、午後からでも」と配慮してほしかったのだが、客よりも上司の事情に気兼ねしたのだろう。
その2時間後、今度はまったく付き合いのない市内の印刷所の女性が「出版のことで相談がある」とアポなしで突然来舎。仕事の話だと思って応対したが、どうやらただの営業。一人で考え事のできる朝の貴重な時間をとられ、無性に腹がたつ。イラつく日だなあ、と腐っていたら1本の電話で救われた。仙台の元大学教授からのもので、「福島に住む同僚教授が亡くなり、その遺書に〈自分の遺稿は無明舎から出版して欲しい〉とあったので相談に伺いたい」という電話だった。亡くなったのは東北の中世史を研究する高名な先生だった。これは出版社冥利に尽きる朗報、前の不快な二つの出来事は帳消しになった。

それにしても毎朝、新聞を読みながら広告がどんどん下世話でインチキ臭い会社や商品に独占されつつあることに、不快感を覚えているのは私だけだろうか。うさんくさい健康食品やインチキすれすれの通販商品の類が全国紙の1ページ全面をつかって読者に襲い掛かってくる。新聞やテレビがこれからどんどん下降線に向かい、経営も厳しくなるのは自明の理だが、それにしてもこの広告の質的低下は、その象徴以上のものがある。ある日、1面広告に「食べる物に、世界一臆病な企業でありたい」というコピーが、牛が牧場で草を食む写真とともに載っていた。ファーストフード・チェーン店を多数展開する企業の広告だ。ウソっぽく、奇をてらった、品のないコピーだなあ、と思ってスポンサー名を確認すると、コピーとは正反対のことをしている可能性がもっとも高い企業だったので、笑った。同じ日の別の紙面には筑摩書房の広告もあった。そのなかに「ちくま日本文学」のコピーはこうだ。「今度はわたしが母に貸す」。う〜ん、うまい! このぐらいのセンスのいいコピーを考えてみろ、と言いたいが、無理だろうな。
酒田市街の眺望。遠くに見えるのが最上川
後ろに見えるのは国宝・羽黒山の五重塔です


DM・文学賞・雪山
思いがけないニュースは、編集長の妹のチカちゃん(小さなころから知っているので)が北日本新聞社(富山市)の文学賞選奨を受賞したこと。これは驚いた。選者は宮本輝氏で、昨年も惜しいところで落ちていたらしい。チカちゃんは大学では美術系で、ウチの本のカットを書いてもらったり、先日なくなった神保町の「書肆アクセス」でも働いていたことがあるのだが、まさか東京で主婦のかたわら小説を書いているとは知らなかった。さっそく受賞式に花を贈る。

20日の日曜日、本格的な雪山に登ってきた。モンスター樹氷で有名な森吉山に行ったのだが、ものすごい強風でマイナス10度の世界。山頂には行けず途中の非難小屋でお昼をとって、帰りはスキー場の横を下りてきた。その前の週は鳥海・三俣や羽黒山、元旦は筑紫森、去年は保呂羽山と雪山は何度か経験しているのだが、本格的な高山ははじめて、寒さのケタが違った。それにしてもスノーシューというのは、なかなかのすぐれものだ。基本的に「登る」ことよりも「歩く」ことが好きなので、スノーシューとはけっこう相性がいいようだ。明日からは鳥海山・獅子が鼻、2月は貝吹岳、金峰山、3月は秋田駒が岳、稲倉岳と雪山ハイクが続く。
校正中のDMチラシ
チカちゃんの小説が掲載された新聞
非難小屋は2階から出入りする


無明舎Top ◆ んだんだ劇場目次