んだんだ劇場2008年4月号 vol.112

No23− 年度末に何をする−

書評ラッシュにうれしい悲鳴
 昨年末から、少し大げさにいえば、出す本出す本が全国紙の書評に取り上げられて、うれしい反面、とまどってもいる。
 伊藤孝博著『東北ふしぎ探訪』が朝日新聞読書欄に載ったのが皮切りで、何せこの本は600ページ・2800円という大冊、売れっこないと思っていたら、書評のおかげで完売した。粘り強く(?)返品待ちをしたが、客注が溜まり、どうにもならず先月増刷した(このへんが計算どおりにいかず、戸惑っている理由)。新聞書評が出ただけで初版が売り切れるなんて、10数年前でも経験がない。どうしたんだろう。
 毎日新聞の永幡嘉之著『白畑孝太郎』は著者によると、書評は「無署名記事」だが、実は書いたのは養老さんとで、いろんな事情があり無署名の書評になったのだそうだ。著者は養老さんと昆虫つながりで、親しい。
 『笑種似顔絵草紙』は読売新聞に書評が出たが、5000円近い本なので部数とは結びつかないと思っていたが、これがけっこう売れて驚いている。
 この項を書いているいま(7日)も河北新報に『白畑』の書評が出たらしく、電話が鳴っているし、今月号の『ヤマケイ』には『秘境・和賀山塊』、3月下旬に出る『サライ』には『似顔絵』と、書評が目白押しだ。
 いったい本当にどうなっているのか。活きのいい新刊がない時期にうまくウチの本たちがもぐりこんだ、といったあたりだろうか。
 それにしても全部違う本が3大新聞に同じような時期に立て続けに書評が出た、というケースは35年の出版社人生でもはじめてのこと。  何かよくない「反動」などありませんように、といまは祈るばかりだ。 /DIV>
水郡線で見かけた高校生。どんな大人になるんだろう
金峰山の頂上で
近所のチェーンレストランのラーメンセットは安くてボリュームもあるが、まずい


中学の同級生たちは今……
 実家の湯沢にある喫茶店のマスター(中学の同級生)からショッキングな話を聞いてしまった。昭和24年生まれの団塊世代である私たちの中学校の一クラスは53名。1年生から3年生まで持ち上がり(というんだっけ)クラスで、同じ顔ぶれで3年間を過ごしている。先生も1年生の時だけベテランのS先生(女性)で、2年3年とC先生(やはり女性で30代の先生)がひとり担任だった。S先生、C先生ともすでに亡くなっているのだが、最初のS先生は高齢で、今考えるとC先生が産休か何かでピンチヒッターの1年担任だったのかもしれない(余談になるが数年前、ルポライター竹中労さんの葬儀の時、隣に偶然一水会の鈴木邦夫さんがいたので、おしゃべりしていると、お父さんが転勤族だった鈴木さんは中学が私と同じで担任がS先生だった、というので驚いたことがある)。
 実はこの中学校時代の53人のクラスメート中、9人がすでに鬼籍に入っている。まだ還暦に2年を残すクラスで男4名に女5名が亡くなっているのである。死亡率15パーセント以上というのは当事者にとってはショッキングな数字である。さらに亡くなった9名のうち自殺者が3名もいる。これもグサリときた。亡くなった同級生9名中6名は中学卒業後すぐに就職した、いわゆる集団就職組である。9名の中で大学までいった者は一人きりで、その彼は自殺している。
 主に東京に出たクラスメートたちは、他のクラスよりも仲がよく、毎年ひんぱんに連絡を取り合い、飲み会などの集まりもこまめにやっていた、という。秋田県内に住んでいても40年間で2回ほどしか集まりを持たないわれら地元組に比べ、都会組の関係の濃密さは、田舎では信じられないほど強いものだったのだ。それが死亡率15パーセント以上、ときき愕然とするとともに、その事実の重さに、打ちひしがれてしまった。
福島・矢祭もったいない図書館はコンパクトで静かで、なかなか居心地のいい場所
酒田の街の路地に古い民家の美術館が
山はすっかり春です


年度末なのに本と映画ばかり
 月末になって、ようやく新刊2点が出来てきた。長い時間をかけて力を込めてつくった本(『六十里越街道』と『超積乱雲』)なので、ちょっぴり陣痛を懐かしく思ったりしている。月初めに『東北ふしぎ探訪』の増刷があったきりだから、新刊のインクの匂いをかぐのはけっこうひさしぶりだなあ。
 今月は普通の月末ではなく、お役所で言うところの年度末。月日の経つのは早い。増刷を足しても3点の本しか出せなかったが、個人的には雪山に3回出かけたし、3ヶ月ぶりに再開したエアロビクスに7回も通っている。忙しくなかったせいもあるのだろうが、すごく本も読んだし、映画(レンタルDVD)も観た。年度末なのに、あんた何やってるの、と言われそう。

 本も映画も「自分系」をわざとはずしたところに、面白いものが隠れていた。山岳救助ボランティア・三歩が超人的な活躍をするコミック『岳』は単行本になった6巻全部を読んだ。全編泣かせるストーリーだが、山仲間に聞くと「人が簡単に死にすぎ、主人公はほとんどスーパーマンでリアリティはゼロ」と評判はよくなかった。なるほど,そういわれれば、ひたすら、あざとく読者の涙腺をゆるませることに全力を使い切っているような印象もある。でも漫画だからなあ……。本では有川浩著『阪急電車』と朝倉かすみ著『田村はまだか』。どちらも小説の構成として一番好きな、物語の筋がつながっている連作短編集で限られた時間、空間のなかでストーリーが展開される。好きだなあ、こういう構成の小説。映画のほうは橋本忍脚本、仲代達矢主演のモノクロ時代劇『切腹』が驚く構成で、ダントツに面白かった。これは橋本の本、『複眼の映像―私と黒澤明』を読んで触発され観た。ウディ・アレンの新作『タロットカード殺人事件』はガッカリだったが、『かもめ食堂』がそこそこだった萩上直子監督の『めがね』は、すごく面白かった。


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