んだんだ劇場2008年1月号 vol.109
No53
案ずるよりも引越しは易し

 3月27日に、秋田西中の同僚の車に乗って、本荘東中へ挨拶に行きました。「4月からお世話になります三戸です。よろしくお願いします」と職員室で挨拶すると、校長室に通されました。校長先生から本荘東中の教育方針の説明を受けました。その後、4月からの生活を話し合いました。由利本荘市教員委員会の担当者,校長,市役所福祉課の担当者,市社会福祉協議会の方々と僕がメンバーでした。
「早速ですが、三戸さんから現在の状況を説明してください」と由利本荘市教委の担当者。
「現在、4月から学区内に生活する方向で、アパート探しをしています。"僕が生活しやすいように、手摺りなどを取り付けても良い"と大家さんの許可を頂いている物件が1つあります。ただ、学校まで距離があります。電動車椅子で歩いたら、約40分かかりました。片道40分かけての通勤は困難なように思います。通勤手段を考えるか、他の物件を探すのか、いろいろと悩んでいます。また、仮に引っ越しができたとしても、僕は日常生活の支援をホームヘルパーにお願いすることになります。秋田市は1ヶ月15時間の支援時間でした。これでは、とても足りません。朝と夕方の1日2回、ヘルパー支援が必要です。そうすると、1ヶ月最低でも44時間の支援時間が必要となります。」
 他の方々は、メモをとりながら、僕の話を聞いていた。話し合いは、市教委の担当者が進めた。
「三戸さんの話をもとに、話し合いをしていきましょう。まず、アパートのことですが、通勤方法が決まれば、そのアパートで良いということですか」
「はい、そうです」
「分かりました。通勤に電動車いすを使用するのですね」
「その予定です」
「電動車いすが入るタクシーは,この地域にありますか」
市教委の担当者は市役所福祉課の担当者に聞きました。
「介護タクシーは走っていますよ。だから、利用はできると思いますよ。たしか、4月から"移動支援サービス"が始まると思うなぁ。少しお待ち下さい。上司に確認しますので…」
その間に、市教委の担当者は、ヘルパーに確認していた。
「三戸さんの支援、大丈夫ですか」
「はい、私たちは対応できますよ。支援時間は市役所で決めますので…その決められた時間内であれば、三戸さんの希望に対応できます」
 数分間、電話が終わるのを待ちました。
「今、上司に確認したところ、移動支援サービスが受けられます。利用者は3つのコースから1つを契約して,その料金の1割を支払うサービスです」
「学校から,目ぼしい物件までタクシー料金はいくらですか」
僕は距離感覚が分からないので,聞いてみました。
「1000円くらいじゃないの。だから,その1割負担なので,そんなに経済的な負担にならないと思うよ」
と市役所の担当者。市教委の担当者は,
「よかったですね。次にヘルパー支援…三戸さんの要望として,1ヶ月の利用時間が最低44時間。秋田市で利用された3倍くらいの増加は,できますか」と市役所の担当者に聞きました。
「また,確認してみますけど,たぶん大丈夫だと思いますよ」
市役所の担当者の言葉を聞いて,僕は驚きました。今までの経験と僕の障害者仲間の話から,「それは難しいですね。検討してみますので,少しお時間ください」などと予想していたから…
「確認したら,1ヶ月44時間の介護給付費が支給できますよ」
市役所の担当者の言葉に,思わず僕は「4月から,ヘルパー支援を受けられますか」と聞きました。「可能です。ただ,住民票を由利本荘市に移すこと,秋田市から《障害程度区分認定証明書》をもらってきて,こちらの窓口に提出してください。これで,手続きが完了です」と市役所の担当者。
「三戸さん,これで4月から由利本荘で生活できますね。確認しますけど,介護タクシーで通勤するので,第一候補のアパートに引っ越しますよね」と市教委の担当者。「はい,そのつもりです」と。「続けて,ヘルパーの事業所は社会福祉協議会でイイですよね」と。「イイですよ」と答えると,「ありがとうございます」とヘルパーさん。「これで,話し合いは終わりましたね」と市教委の担当者。「これから,よろしくお願いします」と,僕は挨拶をしました。
「全部決まって,安心したね。さぁ,帰りましょう」と,同僚は話し合いが終わるまで待っていました。帰りの車の中で,同僚に4月からの生活の見通しを伝えました。
「介護タクシーの1割負担はイイなぁ…オレたちみたいに車で通勤するより,ずっと安全で,コストも安いなぁ」
 秋田西中に戻り,校長先生に報告をしました。校長先生はホッとした表情。
「本当に心配していたから,安心したよ。さぁ,これから,荷物をまとめて引っ越しの準備をしないとなぁ」
 職員室に戻ると,仕事をしていた数人の同僚が「どうだったの?」と聞いてきました。
「よかったね」
「秋田市にも,そういうサービスがあるのかな?」
 家に帰り,母に話しました。母は大きな溜息をついて,
「うれしいよ。一時は仕事を辞めて,あなたに付いていかなくては…と思っていたから」
 ゆっくりと整理がつかないまま,物事は進んでいきました。「これで,心置きなく引っ越しの準備ができるよ」と僕は気合いをかけました。昨日までと比べて,荷物のダンボール詰めがはかどりました。


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