んだんだ劇場2008年4月号 vol.112
No55
出勤前、帰宅後

 午前6時ころ,僕は目覚めます。(まもなく,ホームヘルパーさんが来る頃だなぁ・・・)と思いつつ,布団でグズグズしていました。
「ピンポーン」
 部屋のチャイムの音で,僕の1日が始まります。部屋の鍵を開けて,「おはようございます」と挨拶。ヘルパーさんを向かい入れます。ヘルパーさんはエプロンをして,台所で朝食を作り始めます。朝食ができるまで,僕は新聞を読むか,メールのチェックをします。だいたい10分くらいで,朝食が出来上がります。机に向かっている僕に,「朝食,出来ましたよ」と声をかけます。ある朝の朝食のメニューは,
『ご飯,目玉焼き,ベーコン添,野菜サラダ,納豆,じゃがいも・しめじのみそ汁,りんご』。
 僕はテーブルの椅子に座り,テレビを見ながら,朝食を食べ始めます。その間に,ヘルパーさんは夕食のお米を磨いで,炊飯ジャーのタイマー予約をセットしたり,料理で使ったお皿を洗ったり,部屋に掃除機をかけたり,ワイシャツ,ネクタイ,スーツを取り出します。
 僕が「ごちそうさまでした」と言うと,「お粗末さまでした」とヘルパーさん。だいたい20分で,食べ終わります。僕は歯を磨いたり,顔を洗ったり,電気カミソリで髭を剃ったり。ヘルパーさんは,台所で後片付け。その後,ヘルパーさんが僕の身だしなみを整えます。最初の頃,「三戸さん,何をどのようにすればいいの」とヘルパーさん。「そのかごに置いてあるヘアトニックで整髪をお願いします」と僕。「これですか?」とヘルパーさんは目の前に差し出しました。僕は軽く頷くと,「どのくらいの量ですか?」とヘルパーさん。「2,3回くらい振って,寝癖を直してください」と僕は頼みました。
 初めの頃,ヘルパーさんの手先から,緊張している様子が伝わってきました。だけど,月日を重ねるたびに,お互いが慣れてきました。僕が言わなくても,僕が椅子に座ると,ルーティンのように支援をしてくれます。
 次に,衣服を着せてもらいます。最初は靴下から。僕は椅子に座り,足を伸ばします。靴下は自分で履くことができるけど,8分くらいの時間が必要です。その日の体調によって,もっと時間がかかる場合もあります。僕にとって,1つの運動です。比較的に時間にゆとりのある休日などでは自分で靴下を履きます。でも,朝の忙しい時間にとって,靴下をヘルパーさんに頼んでいます。初日から,ヘルパーさんは手際よく靴下を履かせてくれます。ヘルパーさんの手つきから,(慣れているなぁ)と感じました。「ワイシャツですね」とヘルパーさんは,僕が袖を通しやすいように僕の背後に回って,ワイシャツを着せてくれます。ワイシャツに袖を通すと,ヘルパーさんはワイシャツのボタンを閉め始めます。ヘルパーさんは1分もかからず,ボタンを閉めてくれます。僕にとって,ワイシャツのボタンは困難です。続いて,ネクタイ。予め母が結んでおいたネクタイを首に掛けてもらい,ヘルパーさんは首元でネクタイを締めて,その長さを調節します。
 ここまで,朝のヘルパー支援。この支援の中で,夜のヘルパー支援の有無や支援内容,翌朝のヘルパー支援内容を確認します。「飲み会があり,夜の支援はキャンセルでお願いします」「仕事の関係で,30分早く支援をお願いします」などなど。何度も,ヘルパーさんとコミュニケーションを重ねています。予定通りに,支援をしてもらうために大切なことです。午前7時30分,介護タクシーの迎えの時間。学校へ出勤します。
 午後6時30分,介護タクシーが学校へ迎えに来て,帰宅します。10分後,家に着き,ヘルパーさんを待ちます。時間になると,ドアノブを"コンコン"とノックして,「失礼します。ヘルパーです。宜しくお願いします」とヘルパーさんは挨拶。夕方のヘルパー支援は,午後7時から始まります。初めに,僕の背広を脱がしてもらいます。スーツをハンガーに掛けて,Yシャツのボタンを外します。Yシャツのボタンをはめることも外すことも困難です。「うちの夫にも,やったことないわよ」と笑いながらヘルパーさん。なんだか,聞いている僕の方が恥ずかしくなりました。スポーツジャージに着替えます。
 ヘルパーさんは冷蔵庫の中にある食材を見ながら,夕食のメニューを考えます。食材は、母が毎週日曜日に1週間分の食材を冷蔵庫に入れて置きます。ヘルパーさんが夕食を作っているとき、僕はテレビを見たり,新聞に目を通したり,メールのチェックをしたり…約30分後の午後7時30分頃に,夕食が出来上がります。「三戸さん,出来ましたよ」とヘルパーさんが声をかけます。僕はテーブルに配膳された夕食を食べ始めます。朝の時間帯とは違い,夕方の時間はゆっくりと食事をすることができます。食事をしながら,《今日の出来事》をヘルパーさんと話し合って,その会話を楽しんでいます。僕が食事をしているとき,ヘルパーさんは明日の朝食のご飯を磨ぎ,炊飯ジャーのタイマーをセットし,朝食のおかずを作ります。基本的に,夕方のヘルパーさんは日替わりで支援。毎日,違うヘルパーの夕ご飯を食べます。同じメニューでも味付けが違います。それも,夕食の楽しみの1つになりました。
 2007年4月は,午後7時から午後8時までの1時間のヘルパー支援。片付けまで含まれて1時間。食べる時間が15分程度。僕は急いで食べていました。1ヶ月後,ヘルパーさんと支援内容を確認しました。「夕方の支援時間が1時間だど,食べる時間は少ない。もう少し時間を延長してもらうことができませんか」と僕は希望を伝えました。「そうですね。1ヶ月,三戸さんの支援をして,私たちも同じことを感じていました。私たちも,全ての支援を1時間で終わらせることは,調理する時間で調節することになります。15分〜20分くらいで作れる料理で…」とヘルパーさん。「ヘルパー支援時間の延長を希望します…」と僕がヘルパーさんに伝えました。「分かりました。市役所の福祉課に相談しますので…」とヘルパーさん。
 翌月から,夕方のヘルパー支援の時間が1時間30分に変更。午後7時から午後8時30分までの支援。30分間の延長で,ゆっくりと食事ができます。毎日、ヘルパーさんは夕食のメニューをメニューノートに書きます。
ある日の夕食のメニューは、
【ご飯、豚汁、たらのソテー野菜あんかけ、ふきと人参の煮物、焼肉、リンゴ、味噌汁】。
 朝と夕方の支援終了後、ヘルパーさんは《ヘルパー活動記録表》に記録します。ヘルパーさんのサービス提供記録です。その日に行ったサービス内容を記します。そして、【特記事項】の欄に、必ずヘルパーさんはコメントを書いてくれます。そのコメントがあたたかく、ヘルパーさんが帰ってから読むのが楽しみにしています。
・初めて生徒さんを前にし、どんな感想でしたか?緊張したのではないでしょうか。明日の歓迎会、楽しんで来て下さい。
・わか杉大会も目の前に来ています。体調の方は、どうでしょうか。まだ、暑い日は続いています。体調を崩さないように気をつけてくださいね。
・訪問すると、テストの採点していました。家に帰ってからも仕事、大変ですね。

 4月から、昨年度を振り返って、週に1回は刺身などの生ものをメニューの中に入れてもらうことにしました。その日は、ヘルパーさんが買い物をします。「三戸さんは、好き嫌いがないから、とても助かっています。何か食べたいものがあったら、リクエストしてくださいね」とヘルパーさん。「天ぷらが食べたい」とリクエストしたら、作ってくれました。1週間に1度くらい、天ぷらの日があります。ヘルパーさんに、その月の給食の献立表を渡しています。「給食と夕食のメニューが重ならないように」と、ヘルパーさんの気遣いを感じています。
現在の支援。
【平日】
朝 :午前6時30分〜午前7時30分。
夕方:午後7時〜午後8時30分
【土曜日・日曜日】
母の支援。


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