シングルベル
年の瀬。(1年は、あっという間だなぁ)と月日の流れの速さを感じているところです。毎年、世の中がクリスマスムード一色になるこの時期に、(今年も、シングルべるかなぁ)と、その雰囲気に乗ることのできない自分がいます。今年で、僕は32歳になります。現在、僕は独身街道をヨチヨチと歩いているところです。毎年、年始めに(今年こそ、彼女ができますように)と先祖の仏壇を拝みます。1年が過ぎようとしている今頃、(今年も彼女はできなかったなぁ)とため息をつくことが毎年の恒例行事になっています。"困ったときの神頼み"という笑い話ではありません。寂しい気持ちでいっぱいです。「僕はモテナイ男です」と言うと、友人や知人は「そんなことないよ。ただ、今まで出会っていないだけですよ。そのうち、いい女性と出会いますよ」と励ましてくれているようですが…僕は(そのうちって、いつなんだよ)と思ってしまいます。いっそうのこと、「オマエはモテナイ男だよ」と言われた方が気はラクと思うこともあります。僕は結婚した友人に「いつ、どこで出会ったの?どうして,結婚しようと思ったの?」と不躾な質問をするときがあります。「そんなことを聞く人はオマエしかいないよ」と,僕は友人に笑われます。「気づいたら,そうなっていたのだよ」と友人。僕は「イマイチ,良く分からないなぁ」と言うと,「そんなものだよ」と友人。「俺から見れば、三戸に彼女がいないなんて、不思議と思うよ。仕事は教師で、給料は安定しているしね」という友人に,「現実は,そんなに甘くはないよ」と僕は言い返しています。
先日,秋田魁新聞に《争論 結婚って必要?》というタイトルで,2人の識者がそれぞれの立場から論じていました。その記事に,2005年の国勢調査によれば,30歳から34歳の未婚率は男性が47%,女性は32%であり,10年前よりもそれぞれ10ポイントくらい上昇していて,生涯未婚の方も増加の一途と書いていました。この記事を読んで,僕は考え込みました。今から3年前の調査結果が示しているように,30歳から34歳の男性で2人に1人は未婚です。ちょうど,僕は30歳から34歳の男性です。未婚の僕は同じ年代の男性の中では決して少数派ではなく、僕と同じような立場の人が同世代の男性の半分を占めている現実。2人の識者は【結婚は、一人一人の個人の選択に委ねられていることを踏まえて、結婚のメリットとデメリット】に言及していました。【他人と生活して、自分を知る。上手くいかなかったら、別れれば良い】とのメリット。【自分の自由な時間を自分が使うのでなく、家族のために使わなければならない】とのデメリット。2人の識者の考えに納得できたけど、僕は結婚のメリットに共感しました。結婚をすることで、相手を思いやったり、お互いに助け合って生きていったりすることで、僕は人間的に成長していくことができるのかなぁと思っています。
僕に彼女ができない理由は、年頃の女性と出会う機会がないからと思っています。そういうことを言うと、「三戸さんは、いろいろなところに出かけているから、女性と出会う機会はある方じゃないの」と友人は言います。でも、なかなか(この女性は良いなぁ)と思う女性と出会いません。
もう4年前になります。僕は好きになった女性がいました。その女性とは、あるボランティアで知り合いました。初めは気にも止めていませんでしたが、活動を通して、いろいろと話をするにつれて、少しずつうち解けてきました。その女性は話し好きでした。「聞いて、聞いて。最近、こんなことがあったの」と、僕に話しかけてきました。楽しい話題は楽しそうに話して、悲しい話題は悲しそうに話しました。話を聞きながら、その女性の表情を見るだけでも、僕は面白い気持ちになりました。その女性は読書と映画が好きでした。その女性は本や映画の感想を話したり、勧めたりしました。何となく、気が合うような感じでした。
活動が終わって、一緒に夕食を食べながら、楽しい時間を過ごしていました。そのときも、僕は聞き役でした。仲間で、花見や花火大会、夏祭りなど、いろいろなところに行きました。そのときも、不思議に僕の車椅子を押してくれたのは、その女性でした。飲み会のときは「私、お酒が強くないから、私の分もかわりに飲んで」と、どんどんと僕のグラスにビールを継いできました。その女性は本当に下戸のようで、ビールを一口飲んだだけで、すぐに顔が真っ赤になりました。その表情を見て、「かわいいなぁ」と言ったら、その女性に指先で小突かれました。
その女性の話を聞くだけでなく、僕も自分のことを話しました。その女性は僕の生活支援に興味をもったらしく、「何か困っていることがあったら、私にも言ってよね。私にできることは、手伝いたいから」と言いました。僕は教材作りを頼みました。画用紙に図形(円、二等辺三角形、正三角形…)を描いて切り取ってもらったり、重要な語句を画用紙に書いてもらったり…日曜日に,自宅で一緒に作りました。「腰が痛いなぁ」と言うと,一緒に病院に付き添ってくれました。また,僕は「寒くなってくると,電動車椅子のハンドルを握る手が冷えてくるよ」と言うと,「手袋を履けばイイと思うよ」と。「手袋は、自分で履くことができないしなぁ」と僕がぼやくと、「親指を除く指をまとめて覆うようになっているミトンであれば、自分で履くことができるのでは…私で良ければ、一緒に行っても良いですよ」と。秋田駅前のお店には、指1本ずつ覆く手袋は置いてありましたが、ミトンを置いている店を探すのに苦労しました。結局、スポーツ店で、ミトンを購入しました。ミトンは、一人でも履くことができました。
その女性に対して、僕は少しずつある感情が芽生えてきました。僕は「彼女として、付き合いたいなぁ」と友人に相談すると、友人は「告白するしかないよ。今までのままだったら、ただの仲の良い友だちだよ」と一言。「オマエに言われなくても、そんなことは分かっているよ」と言いつつ、どのタイミングで自分の気持ちを伝えればいいのかと悩んでいました。「自分の気持ちを伝えたくなったら、伝えたら…」と友人。「僕が障害者なので、ただの優しさで会っているだけなのかなぁ」と呟くと、「三戸らしくないなぁ。弱気になっているね。三戸のことを障害者として見ていれば、必要以上に関わらないと思うよ。三戸の話を聞く限り、その女性は三戸のこと、障害者として見ていないような気がするよ。女性の気持ちは女性に聞いてみたら」と友人。(それもそうだなぁ)と思い、女性の友人に聞いてみました。「一緒にいて楽しいのなら、しばらくの間は今のままでイイと思うよ。突然、告白されたら、引かれる場合もあるからね」と。
しばらく、僕は悩みました。その女性に、僕の卓球をやっている姿を見てもらっていませんでした。「卓球の練習を見に来てほしい」と誘いましたが、都合は合いませんでした。僕が卓球をしている姿を見れば、また1つ自分のことを知ってもらえそうな気がしました。そんなとき、「今、解夏という映画が面白そうです」とのメールが届きました。(どんな映画なのだろう)と、僕はインターネットで検索しました。【解夏】のあらすじを読んだとき、僕に衝撃がはしりました。《小学校教師である主人公が徐々に視力が失う病に冒され、教師を辞める。主人公の彼女は、共に生きていくこと道を選ぶ》というストーリーでした。僕の好きな映画内容でした。「今、ネットで内容を確認しました。良かったら、一緒に見に行きませんか」とメールで返信しました。すると、「イイですよ」との返信メール。(もしかして、一緒に映画を見に行く日が告白するタイミングなのかなぁ)と考えました。(映画を見てから、そのときの気持ちを大切にしよう)と思いました。
一緒に映画館に行き、【解夏】を見ました。胸に迫ってくる感動がありました。いろいろな曲折はありましたが、ラストのシーンは愛する2人が助け合って生きていこうと決意する姿でした。とてもメッセージ性のある映画でした。映画館を出たところで、僕は告白しました。
「僕の彼女になってほしい」
この映画が僕の気持ちを押してくれました。少し躊躇して、「ごめんなさい。好きな人がいるの」と答えました。僕はビックリして「好きな人って…」と聞きました。「先日、中学校の同期会があって、中学校のときに好きだった男の子から告白されたの…それが嬉しくて」と教えてくれました。その言葉を聞いて、僕は呆然としました。(そんなのないよなぁ)と思いながら…
家に帰り、友人に話をすると、「一緒にヤケ酒を飲もう」と駆けつけてくれました。いくら飲んでも、その日はほとんど眠ることができませんでした。心の中に、ポッカリと穴が空いたような感じでした。「その人だけが女性でないよ」「また、新しい出会いがあるさ」「男の魅力を磨く機会と考えみては…」と友人は慰めて、励ましてくれました。僕は自分を否定されたような気がして、立ち直るまで時間がかかりました。その間、何をやっても無気力でした。あれ以来、連絡は取っていません。どこで、何をしているかも分かりません。
「24日の予定は、どうすればイイですか」とホームヘルパーさん。「今年もシングルベルの予定だから、いつもの時間帯で支援をお願いします」と答えると、「きっと、イイ女性が見つかりますよ。焦らないで」とホームヘルパーさん。友人に愚痴ると、「三戸だけでないよ。オレもシングルベルだぞ。それより、贅沢な悩みだよな。今、リストラの嵐が吹いている中、明日の生活で悩む同世代もいるんだよ」と友人。これが30代前半の男性の現実です。
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