んだんだ劇場2008年4月号 vol.113
No47
薪割りの術

「庖丁の極意」には程遠いけれど
 3月末に、房総半島・いすみ市の家に帰ったら、大きな杉の木が2本分、30〜40センチ幅の輪切りになっていた。
 わが家の周囲の河川工事が終わり、西の道路向かい、家のわきを流れる落合川の下流部分の工事が始まって、そこにあった杉の木を伐採したのを、わが家の空き地に運んでもらっていた。今度帰ったら、輪切りにして、それから斧で割って、薪にしなけりゃいけないなと思っていたら、父親がチェーンソーで全部輪切りにしていてくれていたのである。

輪切りにした杉の木
 父親は、「太い部分を、大まかに斧で割ってくれれば、あとは薪割り機でこまかくする」という。
 薪割り機は、ガソリンエンジンの力で、斧の先端部のような刃を押し出し、木を割る機械だ。「んだんだ劇場」2006年4月号の「幻の白鳥」という話の中で、写真をお見せしているので、覚えていらっしゃらない方は、手間だけど、「んだんだ劇場」を開いて、バックナンバーをご覧になっていただきたい。
 薪割り機には弱点がある。丸太があまり大きいと機械に乗らず、力不足で割れないこともある。それで、ある程度、小さくしてやる必要がある。チェーンソーで縦半分に切ってしまう方法もあるが、意外に手間取る。それで、私が斧で少し割ることにした。
 と言っても、いきなり真ん中から割る、というのは、木質の軟らかい杉でも無理だ。そこは、それ、10年も薪割りをしている達人としては、コツをつかんでいる。
 まず、年輪に沿って、どちらかの端に近い部分に、斧を打ち込む。次に、反対側を同じように割る。


向かって右側を割った

次に、左側を割る
 この輪切りの場合、手前に枝があるのがおわかりだろうか。枝は内部まで食い込んでいて、その方向に対して直角に割るのは容易ではない。が、このように、左右の周囲部分を割っておくと、次には、年輪の中心部分辺りから、枝に対して直角に割れる。これくらいにしておくと、薪割り機に乗せられる。

最後に、中心部分から割る
 木を輪切りにしてみると、杉などはだいたい円形に近いが、樹種によってはいびつな形もある。そういう時、径の短い方が割りやすいかというと、そうでもない。次の写真を見てほしい。

径の長い方を割った
 これが、なんの木なのか、私はわからない。周囲が白くて、中心部が黄色いこの木は、何度も割ったことがある。で、不思議なことに、どんな木でも輪切りにすると、中心部に必ず、ごく小さな亀裂があるから、その方向に沿って斧を打ち込むと割れる。これは、経験で知った。
 ところで、古代中国の書、『荘子』「養生主篇」に、料理の名人が牛を切りさばく話がある。名人の名は、庖丁(ほうてい)。料理用の刃物を包丁(ほうちょう)というのは、この人の名が語源だそうだ。
 魏という国の、恵王の前で、庖丁が牛に刃を入れると、みるみるうちに骨から肉が切り離され、その姿はまるで舞うようだった。恵王が「神業だ」と驚嘆すると、庖丁は「自然の摂理に従っているだけです。牛の体にそなわっているすき間に、刃を入れるだけですから、刃こぼれもしません」と答えたという。
 人間は、自然に従って生きるべきだ、という老荘思想を象徴する話の一つだ。
 と、まあ、少々もっともらしい話を引き合いに出したが、輪切りにした木の中心部にある亀裂も、「自然の摂理」を教えてくれるものなのかもしれない。薪割りは、思い切り斧を振り下ろすと、狙いをはずすことが多々あって、「そのすき間に刃を入れる」というわけにもいかないが、そのうちに衝撃が走って割れる。でも、年輪や、中心部の亀裂を無視して斧を何回打ち込んでも、割れないことだけは確かだ。
 わが家の暖房は、基本的には薪ストーブだけ。次に帰ったときに薪割りの続きをやれば、今までの分と合わせて、5年分くらいの薪が備蓄できそうだ。

小さな花が群がって咲くのが好き
 お彼岸が過ぎ、わが家の花壇の、アーモンドの花が咲いている前に耕運機が置いてあったので、「春らしいなぁ」と思い、写真を撮った。

耕運機とアーモンドの花
 その向こうには、雪柳が咲いている。私は、雪柳が大好きだ。
 3月末に、母親の七回忌があって、お寺へ墓掃除に行く途中で、連翹(レンギョウ)が咲き誇っているのを見つけた。これも、好きな花である。その隣には、素朴な感じのする土佐水木(トサミズキ)もあった。


咲き誇るレンギョウ

素朴な感じがする土佐水木
 どうも私は、小さな花が群がって咲くのが好きなようだ。
 一番嫌いな花はノウゼンカズラで、これは暑い盛りに、何だか脂っこい感じがするからだが、牡丹や、大輪のバラは、別の意味であまり好きではない。
 一輪が大きく、豪華な花は、絶頂期は見事なのだが、その先の、崩れて行く過程が無残に思えるからだ。
 だから……と言うと、こじつけめくが、桜は、好きである。
(2008年4月5日)


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