モモのエサ泥棒
クルミが芽吹いた
大型連休の前半は、房総半島、千葉県いすみ市の家に帰った。薪割りの続きがあるし、花壇の植え替えもする予定だった。
家のわきを流れる落合川の河川改修工事のおかげで、家の裏に少し空き地ができ、そこに近くの牧場から買った堆肥をまいたことは、前に紹介した。家の表側の花壇から、そちらにいろいろな植物を植え替えた。そこは北斜面だが、夏の間は、よく日が当たる。その斜面の下の方で、今回、うれしい発見があった。
昨年の秋、父親が植え替えたクルミが芽吹いたのである。
葉を開いたクルミ |
河川改修工事が始まる前に、私は、裏の荒れ地に出ていたクルミの苗木を2本、植木鉢に移しておいた。それにもう1本、庭の梅のわきに勝手に出てきたクルミもあった。しかしそれから2年、植え替える機会がなかった。
クルミは、真っ直ぐに1本、根を伸ばす。ヒゲ根はほとんどなく、植え替えが難しい植物に思えた。植木鉢のクルミは、鉢の底の穴からしっかり根を伸ばしていたし、梅のわきの胡桃は、高さが1メートルを超え、同じくらい深く根を伸ばしているはずだった。それを、父親が掘り起こして、鉢のクルミも含めて北斜面の下の方に植えたのである。
私は、素人がスコップで掘り起こすような手荒なまねをしては、根付かないだろうと、半分、諦めていた。しかし、芽吹いた。最も大きかった梅のわきのクルミは、やはり先端部の芽は開かなかったが、幹の下の方にあった芽がほぐれた。
クルミの幹の途中から開いた芽 |
クルミが芽生えるのは、リスのおかげである。リスは、冬の間に食べるつもりでクルミを土に埋める。いくつか、食べ残しがあって、それが芽を出す。地面に落ちただけではだめで、土に埋めてもらわないと、クルミは発芽しないのだ。
この土地に家を建てた10年前は、家の表側にも、裏側にも大きなクルミの木があり、リスが来ていた。我々が朝ごはんを食べているガラス戸の外で、リスがクルミを食べている光景も何度か見た。
河川改修工事が終わってみると、わが家の周囲はすっかり広々としてしまった。空から丸見えのこんな場所では、タカの類に襲われるから、リスは近寄らない。でも、今年芽吹いたクルミが10年もたてば、リスの姿を隠してくれるだろう。リスがもう一度、来てくれないかと、気の早い期待もしている。
いろいろな芽生え
この季節、地べたに目を凝らすのが楽しい。
例えばこれは、コスモスの芽生え。
芽生えたコスモス |
これは、シソの芽。
シソの芽生え |
ここには昨年、青ジソがあったのだが、今年の芽生えは、茎が赤い。赤ジソの方が遺伝子は優勢らしく、いつの間にか、青ジソは葉の裏が赤くなり、数年のうちに赤ジソばかりになってしまう。
今年、カエデの木の周辺に、こんな双葉がたくさん出ていた。これは、ハツユキソウの芽生えらしい。昨年、父親が近所からもらったハツユキソウを植えていた場所だ。
昨年7月のハツユキソウ |
ハツユキソウの芽と思われる双葉 |
ハツユキソウは、北アメリカ原産の、トウダイグサ科の一年草。花はちっぽけで、ちっとも目立たないが、花のすぐ下の葉は縁がまっ白になり、夏の間、雪のような涼しさを見せてくれる。高さも60センチから1メートルほどになるので、ボリューム感もある。これが、こんなにタネをこぼす植物だとは知らなかった。1本植えただけだったのに、なんだかもうかったような気分になった。
モモが寝ている間に
私は名古屋に単身赴任する前、残りご飯に冷めたみそ汁をぶっかけて、愛犬モモにやっていたのだが、かみさんは基本的に、固形のドッグフードを与えている。ステンレスのお椀に入れておくと、いつの間にか食べてしまうが、一度に食べてしまわないことが多い。
「モモったら、間抜けで、エサを鳥に食べられてるよ」
前に、かみさんが笑いながらそう言った時は、手近にカメラがなかった。それで今回は、モモのエサを撮影しやすいデッキの端に置いて、鳥が来るのを待った。
モモのエサを横取りするヒヨドリ |
鳥は、ヒヨドリだった。北国のヒヨドリは、冬に南へ移動するらしいが、房総半島のこの辺では、年中見かける。人間社会に近寄って来ている鳥の一例らしく、わが家では玄関前の甘夏の花芽をついばまれて、ちっとも実がつかない年もあった。
犬のエサだって食べるのだから、適応力の強い鳥なのだろう。
で、モモはどうしているかと言うと、初夏の日を浴びて、悠然と寝ていた。
「間抜け」ではなく、「太っ腹」と言ってやりたい。
(2008年5月4日)
金沢名物ハントンライス
わからないネーミング
5月15日、出張で金沢へ出かけた。正午ちょっと前に金沢に着く列車にしたのは、お昼に「ハントンライス」を食べたかったからだ。
いかなるものかというと、今回、食べたのが、これ。
「わかばやし」のハントンライス |
ハム、マッシュルーム、タマネギなんかが入ったケチャップご飯を、半熟気味の薄焼き卵で覆い、タルタルソースをかけた白身魚のフライが載っている……そこまでは共通スタイルらしいが、「ホーム・くっく わかばやし」という洋食屋さんでは、真ん中にウインナーソーセージを置き、飾りの薄切りキュウリを飯に突き刺していた。
昨年暮れに金沢へ行ったとき、会社の同僚に「金沢では、ハントンライスを食べなきゃ」と言われた。どんなものかは食べればわかるといい、「グリル オーツカ」という有名店の場所を教えてもらった。が、行ったのが定休日の水曜だった。
今回は、木曜日だから食べられると、意気込んでいたが、これがまた「臨時休業」だった。で、会社の後輩に、「もう1軒、知ってます」と連れて行かれたのが、金沢市新竪町の「わかばやし」。
味は、おおよそ誰でも想像できると思うが、問題は「ハントンライス」という名前だ。料理を運んで来たお姉さんに尋ねると、「聞いたことはあるんだけど、覚えられない」という返事。これを教えてくれた同僚も「ハンは、ハンガリーのハン」とは答えたが、「トン」はわからないという。インターネットで調べたら、「トン」は、フランス語で「マグロ」という説明と、「ハンガリー語」でマグロという説があったし、「マグロのフライにタルタルソースをかける料理がハンガリーにある」という話もあったが、どれも説得力がない。
ただ一つ、この料理が、かつて金沢にあったレストランで、1960年代に始まり、そこで修行したコックさんたちが、独立後に同じ名前でメニューに入れたのが、「ご当地メニュー」として定着した、ということは確かなようだ。その1軒が「グリル オーツカ」らしい。
昨年10月の「房総半島スローフード日記」で、福井市のヨーロッパ軒が元祖の「ソースカツどん」を紹介したことを、覚えていらっしゃるだろうか。そこで、北海道根室市民しか知らない「エスカロップ」という料理にも触れた。トンカツに、甘い、しかもケチャップも入ったような赤いデミグラスソースをかけた料理で、そっくりの「スカロップ」というのが、福井市の本店からのれん分けした福井県敦賀市の「ヨーロッパ軒」にあったという話だ。
その時、「根室では食べた覚えがないが、どこかで食べた」と書いたのだが、それは、思い出した。札幌駅ビルに入っている洋食屋さんで食べたのである。でも、まあ、それはどうでもいい。全国各地には、そこの人しか知らない名物料理がいろいろあるもんなんだ、ということを言いたいので……ついでに最近、長崎市には、「トルコライス」という物があることも知った。
トンカツと、カレーピラフと、スパゲティナポリタンを1つの皿に盛っただけ、という料理のようだ。だが、これがなんで「トルコライス」なのか。こちらは、金沢の「ハントンライス」なんか足元にも及ばないほど諸説入り乱れ、元祖を名のる店さえ何軒もあるという。
今のところ予定はないけれど、長崎に行く機会があれば、食してみようと思っている。
赤っぽい花のクローバー
先日、房総半島、千葉県いすみ市の家に帰ったとき、隣の空き地を歩き回っていたら、なんだか普通より赤っぽいクローバーの花を見つけた。
赤っぽいクローバーの花 |
普通の、白いクローバーの花 |
名古屋へ戻り、いま勤めているNEXCO中日本(中日本高速道路)の植物の専門家、Yさんにきいたみた(高速道路は、斜面の植栽などの仕事もあるので、専門家がいる)。
「固体変化のひとつでしょう。劣性遺伝が現れたんでしょうか」
Yさんは、「ヒイラギは、年をとると葉が丸くなる」ことを教えてくれた人だ。野草についても、非常に詳しい。
なるほどと思ったが、「アカツメクサとの交配ではないですか」と、重ねてきくと、「それほどの大きな変化ではない」という。
普通に見られるクローバーは、明治になって、アメリカから牧草として入ってきたものが野生化した。「シロツメクサ」という日本名があり、同じマメ科シャジクソウ属に花の赤い「アカツメクサ」、あるいは「ムラサキツメクサ」と呼ばれる植物がある。これも牧草で、群がって咲くのは壮観だ。
でも、なんだか気になって、その後いろいろ調べたら、「シロツメクサ」と「アカツメクサ」の中間に、「タチオランダゲンゲ」という草があることを知った。「オランダゲンゲ」というのも、クローバーの別名のひとつである。「ゲンゲ」というのは、一昔前は、起こす前の田んぼに育て、土に鋤き込んで肥料にした蓮華草のことだ。田んぼが薄紫の蓮華草で覆われている光景を思い出す人も多いだろう。蓮華草は、「ゲンゲ」という呼び方もあって、クローバーを「オランダゲンゲ」というのは、ここから派生した名称だろう。
しかし、「タチオランダゲンゲ」は、茎の途中に葉をつけ、花の茎も分かれる特徴があるという。そこまでは観察していなかったので、今度帰ったら、確かめよう。
ところで、「シロツメクサ」を私は、今回調べるまで、「白爪草」だとばかり思っていた。葉の模様が、白い爪のように見えるからだと、子どもの時に覚えたからだ。
白い筋の模様があるクローバーの葉 |
ところが、漢字では「白詰草」と書くのである。これは江戸時代、長崎に入ってくる西洋のガラス器の梱包材として、クローバーの干草が詰められていたからだそうだ。調べた限り、「爪」という説は全く見つからなかった。
でも……詰め物にしたのなら、「詰草」だけでいいじゃないか。なんで「白」をつけたのだろう。新たな疑問もわいた。
が、まあ、それは調べようとは思っていない。
この季節、地べたを見て回るのは楽しい、ということだけ伝えられれば、それでいい。
愛知県のサクランボ
私の単身赴任宅は、愛知県稲沢市、名鉄国府宮駅からすぐのところにある。近くに農協ストアがあって、土曜日にはよく行く。地元の農家が「家庭菜園」並みに作ったいろいろな野菜が並ぶからだ。しかも、とても安い。
金沢から16日には富山まで行って、その夜遅く帰り、翌日、久しぶりに少し朝寝してから、農協ストアへ行った。今回は、サクランボを見つけた。
1パック300円だった愛知県のサクランボ |
「桜の実」というほどの大きさ |
でも、「高砂」とか「佐藤錦」、それに最近は出回らなくなったが6月末ごろに収穫する「ナポレオン」などの大粒品種を見慣れた目には、とても小さく見えた。ソメイヨシノでも花が終わってしばらくすると、青い小さな実をつけるが、それがほんの少しふくらんだ程度の大きさである。それで私は、今年、かみさんが、いすみ市の家の裏に植えた「暖地性サクランボ」を思い出した。
わが家に今年植えたサクランボ |
「あったかい土地でも実るサクランボだって」と、かみさんが見つけて来た苗木だ。と言っても、すでにたくさん実がついていた。
農協ストアで買ったサクランボは、それにそっくりだった。サクランボの主産地は山形県と山梨県。寒さの厳しい土地である。これは、もっと暖かい土地向きに作り出された品種なのだろうか。食べてみたら、あまり甘くなかったけれど、サクランボの香りはあった。
ところで、わが家の畑には昨年、父親がサクランボの木を2本植えた。父親が「桜を植えて花見をしよう」と言ったときに、「花だけじゃつまらない。食べられるサクランボがいい」と私が言ったら、さっそく苗木を買って来て植えたのである。こちらは、家の裏の「暖地性サクランボ」より、かなり大きな木だが、今年もまだ花は咲かせていない。「本格的なサクランボ」は、実がついたらついたで世話が大変だろうが、畑の木にサクランボが実るのは、大いなる楽しみである。
(2008年5月17日)