雑草の花
やさしき名前 母子草
なぜ、この雑草の名は、母子草(ハハコグサ)なのだろう。
花開いたハハコグサ |
この季節、房総半島、千葉県いすみ市のわが家の周辺では、ちょっとその気になって見渡せば、普通に見られる花である。が、これがキク科の植物だと言われると、ちょっと驚く。あまりにも小さい花なので、花の形が肉眼ではよくわからないからだ。少し過ぎると綿毛になって、タネが飛び散るから、「タンポポみたいだな」と気づいて、「キク科」ということも納得できる。
体全体に白い、極細の綿毛がまとわりついていて、温かく包む感じから「母子草」の名がついた、という説があるが、あまり説得力はない。「ゴギョウ」という名で、昔から春の七草のひとつに数えられていたから、よく知られていた草ではある。古語で、毛の多い状態を「ほほけ立つ」と言い、それがなまったという説の方が、「そうかな?」と思わせるが、「ホホケグサ」よりは、「母子草」と呼び始めた人のやさしさが思われて、植物の命名としては出色だろう。
老いて尚なつかしき名の母子草 高浜虚子
「母子」は、自分の幼い頃を思い出させる言葉だ。腹をいためて産んだ子は、母親にとってはかけがいのないものだし、子も、また、母親にすがりつくのは当たり前だろう。
だが、最近、母親がわが子の命を奪ったり、虐待したりする事件がいくつかあった。母子草を見て、そのニュースを思い出すと、やりきれなくなる。
ニワゼキショウ
これも、わが家の周囲では今ごろ、普通に見られる雑草だ。
白いニワゼキショウの花 |
特に、薪割りをしている空き地に多いが、草丈10センチくらい、花は5ミリくらいで、散在しているとあまり目立たない……と思っていたら、富山県で群がり咲いているのに出会った。棟方志功の面影を訪ねた、旧福光町(現南砺市)である。
紫色のニワゼキショウ |
JR城端(じょうはな)線福光駅から西へ走り、道の駅「福光」に車を置いて、わきを流れる小さな川沿いの道を歩いた。ここは地名から「法林寺歴史街道」と呼ばれている。何が「歴史」なのかよくわからないが、道沿いに点々と、棟方志功の版画をタイルに焼きこんだモニュメントがある。終戦直前から昭和26年まで、ここに疎開していた棟方志功がこよなく愛した散歩道である。
川は、ほんとうは豆黒川というが、そこに伝わる河童(カッパ)伝説をモチーフに昭和23年、志功が版画集を出した。その際、志功はこの川に「瞞着(だまし)川」という名をつけ、版画集の題名にもした。その記念の石碑の周辺に、ニワゼキショウが群がって咲いていたのである。
棟方志功が散歩を楽しんだ「瞞着川」記念碑 |
志功の版画のモニュメントと、南砺市の田園 |
この花、ちっともそれらしくないのだけれど、実はアヤメ科に属する。アヤメも6弁の花を咲かせるが、3弁は大きく、3弁は小さいはなびらだ。ニワゼキショウも6弁だが、花びらがみな同じ大きさなので、「それらしくない」のである。漢字では「庭石菖」。「菖」が、「花菖蒲」の「菖」である。北アメリカが原産で、明治になって渡来し、全国に広がったらしい。ひとつひとつはちっぽけだけど、群落になると、それなりに美しい。
雑草の花も、捨てたもんじゃない。
食べられる花
今年、かみさんが、ナスタチウムとボリジの苗を買ってきて、花壇に植えた。
黄色のナスタチウム |
青色のボリジ |
どちらも「ハーブ」として扱われている。が、これで料理に香り付けするわけではない。花そのものを食べるのである。
ナスタチウムは、ほんの少し苦味がある。クレソンの代用になる、という話を聞いたことがあるが、それほどの強烈さはない。色は、黄色、赤と何種類かある。
ボリジは、ほとんど味がない。砂糖菓子にもできるらしい。
以前にも育てたことがあって、何度か食べた。面倒なことはせず、サラダに散らしただけだが、とっても華やかで、食卓がこれだけで楽しくなる。
最近、「エディブルフラワー」(食用花)という言葉を、時々耳にするようになった。ナスタチウムもボリジも、代表的なエディブルフラワーだ。でも、日本では昔から、菊の花を食べていた。野菜で言うと、ブロッコリーもカリフラワーも、花蕾、つまりつぼみの状態の花を食べる。「花を食べる」こと自体は、それほど新しいことではない。けれど、花をサラダで食べるというのは、日本人にとっては新鮮である。
ボリジの青は、その昔、ヨーロッパの画家が聖母マリアを描くとき、着衣の色の手本にしたそうだ。そういう色が、目を楽しませてくれる。
ナスタチウムもボリジも、2か月くらい咲き続けてくれるのが、これまた重宝である。
(2008年6月15日)