んだんだ劇場2008年8月号 vol.116
No50
モウズイカって、どんなイカ?

高速道路の動物除け
 7月5日の土曜日、愛知県、岐阜県、富山県を縦断する高速道路、東海北陸自動車道が全線開通した。着工して36年。最後の未開通区間だった飛騨清見インターチェンジ(IC)から白川郷IC間、約25qが開通したのである。

東海北陸道全通のテープカット
 正確に言うと、東海北陸道は、名神高速・一宮ジャンクション(JCT)から、北陸道・小矢部JCT間の約185qで、小矢部JCTからは能登半島へ延びる能越自動車道が直結している。白川郷は、世界文化遺産・合掌造り集落の、あの「白川郷」である。飛騨清見ICからは、無料の自動車専用道路「高山清見道路」が高山ICまで開通している。
 つまり、飛騨高山、白川郷、能登を車で巡る観光ルートができたようなものだ。
 最大の難関は、最後の区間にある飛騨トンネルだった。長さ10・7q。道路トンネルとしては、関越トンネルに次いで、日本で2番目の長さだが、問題はその長さではなく、トンネルの上の山の厚さが1000mもあったことだ。そのすさまじい圧力と、途中のグズグズと崩れる地層のために、先進坑を掘っていたトンネル・ボーリング・マシン(ドーバー海峡の底を掘り進んだのと同じ機械)は、押しつぶされ、一度は救出できたが、最後の場面で完全につぶされてしまった。
 出水もすごかった。一時期は、30万都市の1日をまかなうのと同じ量の水が1分で噴き出した。記録映像は、トンネルの中に大雨が降っているようだった。
 掘った穴を支える支柱は、至る所で変形し、まん丸に掘った穴の底部分が、下から突き上げるように盛り上がった。
 東海北陸道は、私がいま勤めているNEXCO中日本(中日本高速道路)が建設した。2年前の冬に、先進坑の現場を見学し、工事事務所で見せてもらった記録映像に、私は感動した。しかも、このトンネル工事で、死者のでるような重大事故は1件も起きなかったということに、また感激した。
 開通式には、もちろん私も行った。あまりにもカメラマンが多くて、私もなんとか、その間に入り込んでテープカットの写真を撮ったが、何だか、右肩上がりのヘタな写真になってしまった。
 まあ、それはともかく、一度は走ってもらいたい道路である。
 ところで、押し寄せる報道陣をどうさばこうかと、開通式の下見で3週間ほど前に行ったとき、道路のわきで、面白いものを見つけた。高速道路の両側にはどこでも、シカなどの野生動物が入り込まないように柵があるのだが、その柵の上の部分に、直径20センチくらいの塩ビ管を並べていたのである。
 それは、小動物がよじ登れないようにする「新兵器」だという。

小動物の爪が立たない太い塩ビ管

塩ビ管を並べると、小動物がよじ登れない
 一昨年、東名高速の御殿場付近で、シカが道路に入って大騒ぎになったことがあった。北海道では、高速道路に入ったキタキツネを避けようとして横転した死亡事故も起きている。道路わきの柵は、シカが飛び越えられない高さにはなっているが、問題なのは、ネズミ、タヌキ、イタチなどの小動物。彼らは、金網をよじ登って柵を越えて来るのである。そこで、この、彼らにとっては太い筒を並べておくと、爪が立たないので、それ以上は登れないというわけだ。
 それじゃあ、高速道路は野生動物の移動を阻害しているじゃないか、という人もいるだろう。でも、ご安心を。必要な所にはちゃんと、高速道路の下をくぐる「ケモノ道」を造ってあるのですよ。定点観測のカメラ映像には、そこを往来する動物の姿が映っている。
 それに、東海北陸道でも今回の開通区間では、90%がトンネルと橋。動物は、わざわざ高速道路を横切らなくても、自由に動き回れる山ばかりなのである。逆に、車で通る人間としては、「景色を楽しむ」のはちょっとした空間しかない、ということでもある。

なかなか覚えられない名前
 房総半島、千葉県いすみ市のわが家の花壇に、大きな葉っぱで、太い花茎を高さ2m近くにも伸ばして、黄色い花を咲かせ始めた植物がある。
 名前は「モウズイカ」。

次々に花を咲かせているモウズイカ
 昨年の夏、かみさんが、苗を買ってきた。「すごく背が高くなるんだって。で、花がきれいだって」と言ったが、すぐに、「ただし、咲くのは来年」と言われた。
 今年の冬までは、地べたの近くに葉を広げているだけだったが、春になったらズンズン伸びはじめ、6月に咲きはじめた。
 実は昨年の夏、石川県の海岸近くで、こいつの花を見たことがある。「こんな花が咲くのか」とはわかったけれど、「あれ、なんていう名前だっけ?」と、その時は、名前が思い出せなかった。
「モウズイカ」なんて、だれだって「イカの一種か?」と思うじゃないか。
 調べたら、ゴマノハグサ科の植物で、花の雄蕊(オシベ)の軸に毛が生えていて、この軸を「雄ズイ」というのだそうで……「雄ズイ」に「毛」(もう)のある花……「もうズイ花」。
 いや、はや、植物学者というのは、ずいぶん細かいところに着目するもんだ。
 仲間が多く、わが家にあるのは、草全体に毛が生えているので「ビロード・モウズイカ」というのだそうだ。と、言われても、ますます頭が混乱してしまう。
 もっと、覚えられないのは、この花。

やっと名前がわかったプレクトランサス
 わが家の玄関に咲いている花である。
 花の形から、シソ科の植物だとは、すぐにわかったが、これを持ち込んだかみさんも「あれ、なんだっけ?」と言う。
 かみさんは、花が好きで、花壇にいろいろ「新顔」見つけては植えている。私が舌をかみそうなカタカナ名前も、実によく覚えている。が、これは「忘れた」という。
 この花、偶然に会った人から、「挿し木で、簡単に増えます」と言われて、2、3本、枝をもらって植えた。それが、一昨年のこと。うまく根が出て、昨年は5月末から11月まで、次から次へと花芽を出して咲き続けた。これほど花期の長い植物は珍しい。
 昨年の夏、「わかった、わかった」と、園芸店から戻ったかみさんが言った。「同じものに、名札がついていた」と言った。ところが今年5月、「名前、なんだっけ」と言うと、「あら、忘れた」と言うのである。
 それを先日、私の単身赴任宅のある愛知県稲沢市のホームセンターで見つけた。
 「プレクトランサス」というのである。
 南アフリカ原産の植物で、日本に園芸品種として入ってきたのは、2004年ごろらしい。これも、品種がいろいろあって、わが家のそれは「プレクトランサス・モナラベンダー」という。
 園芸植物の市場は、年々拡大するばかりで、どんどん新しい花に出会う。が、覚えやすい名前なんて、一つもない。
 「プレクトランサス」だって、今、この話を書くためにメモしたからそう書いているけれど、1週間後に覚えているか、まったく自信がない。
(2008年7月6日)



屋根は広い

前回の続きをちょっと……
 愛知県一宮市(名神高速一宮ジャンクション)と富山県小矢部市(北陸自動車道小矢部ジャンクション)を結ぶ、東海北陸自動車道が全線開通したことを、前回の「日記」で紹介した。で、覚えていらっしゃるだろうか、その中で、動物が高速道路に入り込まないよう、両側のフェンスの上端に太めの塩ビ管を取り付けているという話を。
 「小動物の爪がたたないので、フェンスを乗り越えられない」と、私は紹介した。
 あの「日記」は、私がいま勤めているNEXCO中日本(中日本高速道路)の社員も何人か愛読していて、その一人が、「あれは、タヌキ返しと言うんだよ」と教えてくれた。現場を案内してくれた人は、「小動物」としか言わなかったのだが、主要なターゲットはタヌキだったのである。
 一般道でも、交通事故に遭うタヌキは多い。房総半島、千葉県いすみ市の自宅近くでも、そういう光景はしょっちゅう目にする。祖先を同じくする私としては、いたたまれない気持ちになる。だから、「タヌキ返し」は大賛成。すべての高速道路わきに設置してほしい。
 もうひとつ、前回の続き……
 「プレクトランサス」の花を、ちょっとアップで撮ってみた。

プレクトランサスの花
 細長い形が、おわかりだろうか。シソ科の植物は、みんな、こういう形の花なので、これがシソ科だとはすぐわかったのだけれど、名前がわかるまで、ずいぶん時間がかかった、というのが前回の話である。
 サルビアや、セージの類もシソ科だ。今、裏に新しく作った花壇では、各種のセージがずんずん育っている。チェリーセージは、もう、花を開き始めた。もうすぐメドーセージも咲く。それからパイナップルセージ、アメジストセージ、メキシカンセージ……秋の終わりまで咲き続けるのだが、最近、かみさんが目新しい品種のセージを次々に買ってきては植えるので、これも名前が覚えきれない状態になっている。けれども、シソ科の花はよく似ていることをお伝えするために、咲いたら写真をお見せしたい。お楽しみに。

屋根の塗装
 先月、梅雨の晴れ間に、屋根を塗装した。家を建てて10年が過ぎたので、父親が「そろそろ手入れしないといけない」と言ったからだ。ほとんど傷みはないけれど、海風が届く場所ではあるし、目に見える傷みが出てからでは補修も大変だ。それで、塗装屋さんに頼んで、全面塗装をしたのである。

塗装したわが家の屋根
 わが家の屋根は、銀色のトタンである。これは、太陽光をはねかえして、夏に屋内が暑くならないようにする工夫だ。
 そのほかにも暑さ除けの工夫があって、まず、片屋根であること。両側に勾配のある屋根だと、どうしても屋根裏の中心に熱気が集まる。片屋根も、高い方に熱気がこもると思うだろうが、どっこい、わが家の屋根は、すぐ裏側の全面が空洞になっていて、南北方向へいつでも空気が流れているのである。だから、熱気の溜まる場所がない。
 そして、太陽光をはねかえす銀色のトタン。だから今回、屋根の塗装も銀色にした。おかげで、わが家はクーラーがなくても夏を乗り切れる。
 屋根の傾斜は、わずか5度なので、登ってもほとんど危険はない。それで私も時々登って、雨どいを掃除したり、ストーブの煙突掃除をしたりする。おまけに、命綱をつなぐリングを四隅に取り付けてある。つまり、とてもメンテナンスしやすい屋根なのである。
 ただし、面積が60坪ある。先日、仕上がり具合を点検に来た塗装屋さんが、「ほんとに広いですね」と言った。そうだろうなぁ、梅雨の晴れ間とは言え、日の光を浴びて、この面積を塗装するのは大変だったろうな、と思う。

十六ササゲとニホンカボチャ
 単身赴任宅がある愛知県稲沢市、名鉄国府宮駅近くに、農協ストアがあって、土曜日はそこへ買い物に行くのが楽しみだ。市場へ出荷する野菜とは違って、農家が「家庭菜園」のように作った野菜を持ち寄って並べるからだ。
 7月19日の土曜日、ここで「十六ササゲ」と「ニホンカボチャ」を買った。

糸のように細長い十六ササゲ
 ササゲは普通、豆を食べる。が、これはサヤごと食べる品種。野菜の本には、「ナガササゲ」という分類があって、30センチくらいまでの「十六ササゲ」、それよりちょっと長い「姫ササゲ」、60センチ以上になる「三尺ササゲ」などがあるという。
 「十六ササゲ」は、愛知県、岐阜県では伝統野菜なのだが、長さをそろえて出荷するのが面倒とかで、市場にはあまり出て来ない。
 もう一つ、やはり市場ではほとんど見かけない「ニホンカボチャ」を見つけた。品種名まではわからないが、表面が、深い谷間を刻むようにゴツゴツしているのは、「ニホンカボチャ」の特徴である。

表面がゴツゴツしたニホンカボチャ

切ると、中はねっとりした感じがある
 カボチャは戦国時代末期、カンボジアから渡来したので「カボチャ」というのが通説。でも、大阪では「ナンキン」(南京)といい、トウナス(唐茄子)とか、ボウブラという別名もある。ボウブラというのは、ポルトガル語に由来するらしい。いずれにしろ、最初に日本へ入って来たのは、こういう形で、その後、各地で独自の品種が生まれた。それを総称して「ニホンカボチャ」と呼ばれる系統ができたのである。
 だが、昭和30年代に、「ニホンカボチャ」は伝統野菜のようになり、市場からは急速に姿を消していった。ねっとりした肉質の「ニホンカボチャ」は、煮物にはいいが、食生活の変化で、ホクホクして、粉っぽい肉質の「セイヨウカボチャ」が消費者に好まれるようになったからだ。表面に凹凸がなく、ツルッとした感じなのが「セイヨウカボチャ」。
 農協ストアからは、ほかにナス、ニンジン、キュウリ、トマトも買って来た。夏野菜を切り刻んで弱火にかけ、野菜の水分だけで煮るラタトィユを作るためだ。これは、たっぷり野菜が食べられる。しかも、冷めてもおいしい。この季節、単身宅でよく作る料理である。2、3日食べて、飽きたら、そのままベジタブルカレーにしてしまうのが私流。
 今回は、最後に、「十六ササゲ」も刻んで入れた。

「十六ササゲ」も入れて、ラタトィユ
 なるべくたくさんの種類の野菜を入れた方が、複雑な味わいになって……うまい!
(2008年7月20日)


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