4年ぶりに柿が実った
ストーブ始動
10月23日が父親の誕生日で、76歳になった。数え年なら喜寿なので、その前夜、娘夫婦も来て、太平洋に面した千葉県勝浦市の、料理自慢の宿に泊まった。
翌日、いすみ市の家に帰り、ストーブの煙突を掃除した。急に寒くなって、そろそろ薪ストーブを使いたくなっていたからだが、「今年は、煙突掃除に3人ほしい」と父親が言っていたので、娘夫婦が来たのは絶好のチャンスだった。
わが家の居間は、吹き抜けになっている。天井まで6メートル近くある。ストーブの煙突は、まっすぐ、天井を突き抜けて屋根の上に出ている。これだけの長さがあると、ストーブの中の空気は激しい上昇気流を生み、薪はよく燃える。しかし、煙突をはずし、また組み立てるのは、けっこう大変だ。
これまでは毎年、長いはしごをかけてやっていた。でも「それでは、危険だ」と父親が言い、今年、足場を買った。鉄パイプを組んで、足場板を渡せば、「安全に作業ができるだろう」というわけだ。
室内で足場を組み立てる |
やってみたら、父親が「3人ほしい」と言ったのが納得できた。パイプを2本立て、横棒になるパイプをつなぐ。これで「1面」の壁になる。2人が2方向の壁を支え、3人目が、それをつなぐパイプをはめ込むのである。さらに「×印」の補強材を組み合わせて、ぐらつきをなくす。次に足場板を渡し、2段目の足場を組む。父親は3段分の足場を購入していたが、煙突掃除には、2段で十分だった。角の4本のパイプにはキャスターを取り付けたので、組みあがった足場を、適当な位置に動かして、キャスターにブレーキをかけた。これで準備OK。
組みあげた足場は、2段で高さ十分 |
煙突をはずし、父親と、ムコ殿は庭で掃除。私は屋根に上って、「雨じまい」(雨が吹き込まない構造になっている先端部分)をはずして掃除した。燃焼効率のよいストーブなので、あまりススは溜まっていなかったが、何かの具合で、煙突内のススが火事の原因になることもあるから、これだけは、冬が来る前にやっておかなければならない。
煙突に針金ブラシを通してススを取る |
それから2週間後、11月8日に、名古屋からいすみ市の家に帰り、翌9日の日曜、父親が作った薪小屋の屋根を補修した。屋根材のプラスチックの波板が、太陽光線で劣化していたので、その上にトタンの波板をかぶせたのである。午前中、父親とふたりで専用の釘で打ちつけ終わったら、ちょうど雨が降ってきた。
「うまいこと、間に合ったな。これでこの冬は大丈夫だ」
電気、ガス、灯油のストーブなら、こんな手間は要らないのだけれど、薪の炎を見ていると、なんだか、別の暖かさを感じる。これから毎日、わが家は、その炎を見ながら過ごす。
復活! 柿の木
わが家の柿の木に、4年ぶりに柿が実った。
実った柿 |
みなさんは、覚えていらっしゃるだろうか。2004年秋の台風22号で、わが家のわきを流れる落合川が増水し、川に面した土手が崩れて、河川改修のために掘り起こされ、翌年夏まで放置されて、あきらめるしかないと思われた柿の木である。
房総半島、千葉県いすみ市に土地を求め、家を建てたのは1998年の春。それまで福島で過ごしていた両親が、まず移り住んだ。すぐに父親は、2本の木を買って植えた。1本は玄関前にある甘夏の木。「ミカンが実った写真を、福島の友人に送る」と父親は言った。そしてもう1本が、甘柿である。寒い地方では、渋柿を干し柿にしたり、「会津みしらず柿」のように焼酎につけて渋を抜いたりして食べるが、甘柿はできない。「雪の降らない土地に来たのだから、甘柿の木がほしい」と、父親は思ったのである。
が、なかなか実らなかった。
それが初めて大豊作になったのが、2004年の秋だった。父親は柿の木に上り、たわわに実った柿を嬉しそうに収穫した。が、台風の襲来。
河川改修にひっかかる場所にあった柿の木は、幹を切り、枝を切り詰め、機械で根ごと掘り出したが、工事にかからない場所が確定せず、翌年夏まで放置されていた。ようやく場所が決まり、工事の人たちが機械で大きな穴を掘って植えてくれたのだが、「生き返らないだろうな」という状態だった。
しかし、この木は強かった。
2006年の3月、幹にほんのちょっと、裂け目ができて、わずかに緑色が見えた。そして小さな、小さな芽を吹いた。
昨年は、たくさんの枝を伸ばしたが、幹になるような太い枝はなかった。今年も、そんな姿だったが、春に花が咲いた。そして、そのうちのいくつかが、実ったのである。
復活した柿の木 |
再び、父親が上って実を取るようになるまでは、あと何年かかるかわからない。けれど、この木は再び、地にしっかり根を張り始めた。枝が太くなり、また、上れるまで待てばいい。そして、その時、木に上れるように、父親が元気でいてほしい。
サツマイモの花
いすみ市の家に帰ったら、居間のテーブルの上に水を張った皿があって、ちょっと根を出したサツマイモのツルを入れていた。葉は、青々と広がっている。
「どうしたんだ、サツマイモじゃないか」
「花が咲いたのよ」
近所の人が、珍しいだろうと持って来てくれたのだと、かみさんが言った。
確かに、珍しい。
帰ったのが8日の土曜日の夕方で、花はしぼんでいた。それで、翌日の日曜日、新たに咲いた花の写真を撮った。
中心が濃い紫色のサツマイモの花 |
1か所にたくさんのつぼみをつけていた |
ずいぶん昔だが、読売新聞で「食べ物専門記者」だったころ、読者から「サツマイモの花を咲かせるには、どうしたらよいか」という電話をいただいて、絶句したことがある。サツマイモがヒルガオ科の植物であることは知っていたが、花など気にしことがなかった。サツマイモを栽培するには、ツルを土に埋めればいいだけの話で、すぐに根が出てツルが伸び、秋にはイモができる。掘りあげたイモを放置しておくと、春に、イモから芽が出てツルを伸ばすので、そのツルを切って苗にすればいいのである。
すぐには答えられず、調べてみたら、サツマイモも花を咲かせることがわかった。ただしそれは、沖縄から南の地域で、それより北では、花が咲く前に寒さで枯れてしまう。もう一つ、花が咲く場合があって、イモやツルに傷がつくとか、異常事態が発生した時に、子孫を残す本能が働き、タネを作ろうとして花を咲かせるのだそうだ。
読者に、そんなことを答えた記憶があるが、サツマイモの花を見るのは、私も初めてのことである。なるほど、ヒルガオの花に似ている。真ん中の紫色が美しい。つぼみを1か所にいくつもつける、ということも初めて知った。
でも、房総半島がいくら暖かいと言っても、自然にこんな花が咲くのだろうか。イモを収穫したあと、ツルを切って、こんなふうに水につけて根を出させ、暖かくしてやれば枯れないから、花を咲かせることができたのかもしれない。それは、持って来てくれた人にきかなければわからない。
が、まあ、なにしろ、珍しい花なので、皆さんにもお見せしたいのである。