んだんだ劇場2009年4月号 vol.124

No35−されど穏やかな日々−

増刷と復刻と注文発送
 このところ出す本の多くを増刷している。
 喜ばしいことに違いないが、実はもともとの初版部数が極端に少なかったことによるもので、あまり喜んでばかりもいられない。増刷しただけ赤字になる、という本のケースも出てくるからだ。
 だったらもっと初版部数を刷ればいいのに、と言われそうだが、これまでの販促の経験などから導き出した数字であり、そう簡単ではないのだ、これが。
 結果は「部数をしぼりすぎ」で、けっきょくまた費用をかけ増刷することになり、初版で上げた利益を帳消しにしてしまうのだが、ホント部数決定は難しいんですよ。
 最近の出版傾向として「復刻」が多くなっているのが、大きな特徴だ。正確には復刻というより増刷なのだが、その多くが30年近く前に出した本なので、「増刷なのだが、実質的には復刻」のようなものである。時間がたちすぎているのだ。それと今昔の印刷事情も深く預かっている。印刷の技術革新と低コスト化がある。印刷代は昔と比べればずいぶん安くなった。そのせいもあって小部数でも気楽に復刻(増刷)が出来るようになったのだ。
この復刻(増刷)本は販促宣伝の上手下手で売れ行きが見事に影響を受ける。具体的に言うなら、宣伝材料(パンフ)のつくり方、がそのすべてといってもいいほどだ。なぜいま復刻(増刷)するのか、いわばその現代的な意味をしっかりとアピールする必要があるのだ。
 先週出した愛読者DMの返信注文が、今週から届きだした。
愛読者通信の返信のピークは最初の1週間、ここで全体の8割の注文が集中する。今週はその発送作業に忙殺されたわけだが、それぞれが抱えているルーチンワークもあり発送作業だけに集中できるわけはない。そんなこんなで大変な1週間だったが、これは「うれしい忙しさ」だ。疲れよりも「もっとこい忙しくなって」と祈りたくなる。昔はこの時期になるとアルバイトに来てもらったこともあったほど。わが舎にとっては読者と直接の結 びつきを実感できる貴重な時間でもある。


芸術選奨と穏やかな日々
 去年、読んだ本でもっとも感動したのは南木佳士『草すべり』で、評論では津野海太郎『ジェローム・ロビンスが死んだ』、映画は日本映画はやっぱり『おくりびと』かな――と、何度となくいろんなところに書いてきたのだが、文化庁が芸術分野の優れた業績挙げた人に贈る「2008年芸術選奨大臣賞」に、上記のわが推薦作品3本がすべて選ばれていた。
 あちゃ、いいのか、こんなんでオレ。50歳を超えてから、感動した本や映画がことごとく賞をとる。これって審査員の方たちと小生の目線が似てきたのかな、それとも時代がこちらにすり寄ってきているのかな。年っていうのもあるのかも。ま、どっちでもいいか。
 3作のうち津野さんの本は、いわばわが編集の師匠のような人のものなので、あまり褒めると身びいきになる。それにしても南木さんと津野さんって容貌がそっくりだ。ともに坊主頭で太っている。新聞には南木さんが載っていたが、おもわず「津野さんだ」と勘違いしたほど。
 そういえば3,4年前、やはりこの賞を仙台在住で『山に暮らす 海に生きる』という本をうちで書いた結城登美夫さんが受賞している。結城さんと津野さんは大の親友だ。
 知り合いや親交のある人が賞をとったり、本や映画に登場してくるケースが、このごろやたらと多くなった。この業界で長く仕事をしてきたので、これは職業病のようなものかもしれないなあ。
このところ気分は「出不精」。山もしばらく開店休業状態で、東北小さな旅も、腰が重い。実はホテルが怖くて旅を控えているのだ。寝ている間、乾燥でのどをやられる恐怖に付きまとわれている。それに旅の夜は酒を適量以上飲んでしまう恐れもあり、知らず知らず体調不良のアクセルを一気に踏み込んでしまう地雷原でもある。
 毎日、カミサンの小言さえ我慢すれば、日々の規則正しい生活で、夜はよく眠れるし、日がな机の前に垂れこめていることに不満はない。「今日もぐっすり寝たなあ」と目覚めるし、就眠の時もコトリと眠りに落ちていく。ホテルはそんなルーチンをめちゃくちゃにする。いやだいやだ。
 ご近所だけの範囲で、つましく何不自由なくいまのところ暮らしている。不平も支障もない。わざわざ旅をして体調やリズムを崩す冒険は犯すべきではない。フラストレーションも溜まるが、そのときはそのとき、発散の方法を真剣に考えればいい。とまあ、そんなおだやかな日々を送っています。


雨の日は本を読もう
もう週末か。あいかわらず光陰矢のごとし。これを書いている3月27日朝、仕事場の窓から、屋根を白く塗り替えていく吹雪が舞い踊る寒々しい景色が見えている。
今週は静かだった。来客も電話も少なく、天気は荒れ狂い、大きな事件もなく、静謐な時間(とき)が流れ去った印象が強い。

週末の山歩きもしばらくない。先週末、何となく身体にコケが生えてきそうな気分だったので、無目的に米沢市まで小旅行。仙台で新幹線を乗り換え、福島まで。そこからさらに山形新幹線に乗り換えてようやく米沢へ。秋田からみると、東北ではもっとも行きにくい街といっていい。そのため、行きたいと思いつついつも機会を逸してしまう街なのだが、今回はひたすらそこに行くことだけを目標にした。街をブラつき、友人と会って、一泊。これでしばらく行かなくても渇望を感じることもないだろう。

雨は降るし、気分もいまひとつ乗らない。散歩もさぼりがちで映画にも若干食傷ぎみ。こんなときは本を読むに限る。買い求めて積んでた本を片っ端から読破した。『リストラされた100人 貧困の証言』(宝島新書)、『資本主義はなぜ自壊したのか』(集英社)、『トヨタが消える日』(成甲書房)といった社会問題系(というほどんものじゃないが)の本は、いまいちテレビの不況報道が信じられないため。『イメージを読む』(ちくま学芸文庫)は、大学での美術史講義をまとめたものだがうわさ通り刺激的な論考で驚く。これが本のだいご味だ。『ライク・ア・ローリングストーン』(岩波書店)は題名から想像つかないが全共闘世代の「俳句少年漂流記」。俳句に疎い自分でも楽しく読むことができ、かつ見事な青春物語にもなっている。『トイレのポツポツ』(集英社)は原宏一のサラリーマン連作小説だが、こちらに月給生活の実感がないせいか、なかなか感情移入できない。『シズコさん』(新潮社)は佐野洋子の自伝的母娘愛憎物語。それぞれみんな面白かった。雨の日は、やっぱり本ですね。


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