んだんだ劇場2009年7月号 vol.127
No61
「学生運動」って、なに?

どうしてウマノアシガタ?
 房総半島、千葉県いすみ市のわが家の裏庭に、黄色い花がたくさん咲いている。

裏の土手に群がり咲く黄色い花
 この花、前庭の花壇にも、ずいぶん昔からあちこちにあった。茎が地面をはうように伸びて、夏の初めに花を咲かせる。かみさんは「ウマノアシガタだよ」と言っていた。イチゴと同様、茎が地面に接した所に根が生えて、どんどんはびこる。ほかの花を育てるのにじゃまだからと、雑草と一緒に引き抜いて捨てたこともあった。3年前、裏の土手にいろいろな草花を植えた時に、前庭から移植した花の根元に、こいつの根もあったのだろう。今では、こんなに殖えた。
 でも、どうして「ウマノアシガタ」などという、なんだかかわいそうな名前なんだろう。「葉の形が馬蹄に似ているから」という説があるようだが、葉は、どうしたってそんな形には見えない。インターネットで調べてみたら、キンポウゲ科の植物である。が、「ウマノアシガタ」と紹介されている写真は、わが家の花ではなかった。「八重に咲く種類をキンポウゲという」などという解説もあった。
 で、「キンポウゲ」(漢字では金鳳花)で検索して……やっと見つけた。「ヤエキンポウゲ」(八重金鳳花)が、わが家の裏の花だった。

アップで見れば、なるほど八重の花
 これは、別名「ラナンキュラス・ゴールドコイン」というのだそうだ。「ラナンキュラス」なら、私も知っている。前庭の花壇にかみさんが植えた時、「なんだ、この牡丹みたいな花は?」ときいたら、「ラナンキュラス」だと教えられた覚えがある。そちらは、かなり花が大きい。裏の「ヤエキンポウゲ」は、手の指の先ほどの大きさしかない。
 でも、これだけ群がると、きれいなものだ。以前、雑草と一緒に引き抜いたりして、悪かったなぁ、と反省している。

愕然とする話
 昨年4月、私の単身赴任宅がある愛知県稲沢市の大学に「PR学科」というのができて、読売新聞同期入社のMさんが、ジャーナリズム論なんかを教える教授になった。同期だが、Mさんは私より年上で、定年退職を機に転進したのである。
 やはり同期のKさんが、読売新聞中部支社次長で名古屋にいるので、先日、「たまには3人で飲もうか」と、酒盃を交わしたときのことだ。
 「このごろの学生は、学生運動を知らないんだな」と、Mさんが言った。
 「そりゃあ、そうだろう。赤軍派の事件なんて、まだ生まれる前の話だろ」
 「最近の学生は、全く政治に興味がないらしいしね」
 私とKさんが、そんな反応を示したら、Mさんは、「いや、そういうレベルではなくて、学生運動という言葉さえ知らないんだ」と言う。
 ある日、授業で「昔は学生運動があって」とMさんが言うと、学生から「学生運動って、なんですか?」と質問されたのだそうだ。そして、「学生向きの体操みたいなもんですか」とも言われたという。つまり、ラジオ体操のように、学生向けに考案された運動(体操)でもあるのか、という質問だったのである。
 私もKさんも、愕然とした。
 その授業は前年度だから、学生は1年生。高校を出たばかりの連中である。それを差し引いても、現代日本についての知識がなさすぎる。それで、これから社会人になり、中には国際社会で働かなければならない人もいるだろう。「英語は得意ですから、大丈夫です」と、勘違いしている人の多い世の中だから、私がムキになることもないのかもしれないけれど、国際社会では、自国のことをしっかり話ができて、初めて外国の人も信用してくれるのである。言語は、意思を伝える道具であって、伝えるべき意思や中身のない人間では、外国語能力も無用のものに過ぎないと私は思っている。
 さて、最近、それ以上に、愕然とする話を聞いた。これは、私がいま勤めているNEXCO中日本(中日本高速道路)の後輩社員の話である。
 「このごろ、就職試験に、親がついてくる学生が珍しくないそうですよ」
 「で、親は、なにをするの?」
 「会社の人事部の人に、その会社の仕事の内容とか、将来性とか、いろんなことを尋ねるらしいですね」
 「おい、おい、誰が就職するんだよ」
 わが子の将来を託してよい会社なのかと、そういう心配をしているのだろうか。「珍しくない現象」なので、人事部の方も、ちゃんと親に応対してくれるという。
 論評もしたくない話だ。少なくとも、学生運動という言葉さえ知らない学生も、就職試験に親がついてくる学生も、彼らが社会人になった時に、一緒に仕事はしたくないなぁ。

人類進化論
 私の単身赴任宅には、テレビがない。これは、すこぶる快適で、本を読み、いろいろな原稿を書くことができる。でも、ラジオはある。台所で調理中などは、たいていNHK第一放送を聞いている。
 先日、京都大学教授で、ゴリラの研究家、山極寿一(やまぎわ・じゅいち)さんのインタビュー番組を聴いた。そんな人がいたのを知らなかったが、私と同じ年齢だというのに興味がわいて聴き始めたら、すこぶる面白かった。
 例えば、20数年ぶりに、かつて調査をしたゴリラに会いにアフリカへ行ったら、そのゴリラが山極さんを覚えていた、という話。その頃は、まだ子供のゴリラだったのが、今では、背中の毛がまっ白で「シルバーバック」と呼ばれる、りっぱなオスの大人になっていた。山極さんもずいぶん年をとってしまったのに、ゴリラは、最初の日はちょっと考えるような顔をしただけだったが、翌日行ったら、懐かしそうに迎えてくれたのだという。
 山極さんは、霊長類から人間への進化を、サルの研究からアプローチしている学者である。ラジオの話が面白かったので、山極さんの『人類進化論』(裳華房)という本を買った。名古屋の丸善で、一般書ではなく、専門書コーナーに置いてあった本で、ところどころ専門的な言葉も出て来るが、これまた、面白かった

山極寿一著『人類進化論』
 人類誕生の地はアフリカ大陸、というのは最近、定説になった。人類は、アフリカから世界各地に広まって行ったのである。が、なぜ、アフリカで人類が誕生したのだろう。サルと人間の、その後の進化を分ける決定的な違いは「二足歩行」だから、なぜ、アフリカのサルだけが「二足歩行」を始めたのだろう、ということでもある。
 原始的なサルから始まる霊長類は、樹上に生活の場を得たことによって、繁栄を始めた。氷河期に、ヨーロッパにいたサルは全滅したが、現在の熱帯雨林にいたサルは繁栄を続けた。しかしアジアでは、オランウータンなど知能の高い類人猿がいるが、トラという凶暴な捕食者がいて、地上には下りられなかった。また、食物の関係で、アジアのサルは大きな群を作ることがなく推移したのも、地上に下りなかった理由のようだ。
 アフリカの熱帯雨林にも、ヒョウがいるが、トラほどの脅威ではなかった。そして、たくさんの食べ物を得るのには群をつくるのが有利で、地上に下りた際も、集団で身を守ることができた。
――まあ、それほど単純なことではなく、「二足歩行」の始まりについては、この本でも諸説が紹介されているが、おおよそは、そんなことだと、思っていいようだ。そして、いろいろなサルの観察から、人間社会につながるような現象がサル社会に見られることを教えられた。
 中でも、ゴリラのオスが、「お父さん」になる話。
 ゴリラは生後1年ほど、授乳期間がある。そこで母子関係はしっかり確立されるが、子供は父親を認識しない。その後、オスは子供と遊び始める。遊んでやることによって、子供はお父さんを認めるのだという。その際、父親が「遊ぼう」と言っても、子供は「いやだ」ということがある。ところが、子供が「遊ぼう」と言うと、父ゴリラは絶対に拒否しないで、一生懸命に遊んでやるのだそうだ。
 私の娘が1歳の頃、私は事件・事故を追う新聞記者で、子供と顔を合わせる時間がほとんどなかった。珍しく夕方、私が家にいて、娘に「お風呂に入ろう」と手を伸ばしたら、娘は、私の顔をじっと見て、そのうち泣き出してしまったことがある。
 子供と一生懸命に遊ぶゴリラの父親……私には、身につまされる話でもあった。
(2009年6月6日)



わさびソフトクリーム

姿を消した揚げパンソフト
 先日、山梨県の富士吉田市から甲州市(以前の塩山市や勝沼町)周辺を歩き回ってきた。私がいま勤めているNEXCO中日本(中日本高速道路)の社内報に連載している、「インターチェンジ(IC)から20分紀行」の取材である(この連載は、NEXCO中日本のホームページでご覧いただけます)。
 富士吉田に1泊して、翌日、勝沼ICへ向かう途中、中央自動車道の谷村(やむら)パーキングエリア(PA)に寄ったら、「わさびソフトクリーム」(340円)なるものを売っていた。高速道路のサービスエリア(SA)やPAには、たいていソフトクリームがあって、最近とても種類が多くなったが、「わさび」は初めてだった。私はすぐに食券を買って、スナックコーナーのカウンターに出した。すると、受け取ったオバさんが、冷蔵庫から、なにやら小さな容器を取り出し……出来上がった「わさびソフトクリーム」が、これ。

本物のわさびのすりおろしがついているソフトクリーム
 いやはや、たまげた。容器の中には本わさびが入っていて、オバさんはそれを水洗いしてから、ビニールの手袋をはめ、小さなおろし金でおろし始めたのである。棚の上から取り出したプラスチックの小さなスプーンに、おろしたわさびを載せ、それからコーンカップにソフトクリームを流しいれ、わさびのスプーンをクリームに突き刺した。
 「これ、どうやって食べるの?」
 「適当に、わさびを塗ってお召し上がりください」
 客が立て込む昼食時に注文されたら大変だろうなと同情したくなるほど、作るのに手間がかかるし、食べるのも手間取る。けれど、これが「ファンタスティック!」と言いたくなるほど、おいしかった。わさびの辛味が、ソフトクリームの甘さを引き立ててくれるのである。それに、本わさびだから、香りがいい。
 粉わさびや、チューブ入りの練りわさびを、本物と思っている方はほとんどいないと思うが、あれは「わさび大根」の粉末から作る。わさび大根は、北海道で大量に栽培されている。ヨーロッパでは「ホース・ラディッシュ」といって、ローストビーフの薬味に使われている野菜だ。辛味、香りの成分は、わさびとほぼ同じ。でも、ツンと来る辛味は強いが、香りは、本わさびの方がずっと上品だ。
 面白いソフトクリームと言うなら、高速道路のSAでは、例えば三重県の東名阪(ひがしめいはん)道沿線に、「伊勢茶ソフト」とか「伊勢醤油ソフト」がある。
 伊勢神宮近くで売っている伊勢醤油は、けっこうなお値段の醤油で、ソフトクリームにはその香り(フレーバー)が混ぜ込んである……ということだが、私が食べた限りでは、それほどでもなかった。
 三重県は、お茶の生産量も多くて、それで「伊勢茶ソフト」なのだろうが、これは、ちょっと茶の粒子が粗くて、舌触りがよくなかった。
 抹茶ソフトなら、静岡県の東名高速・牧之原SAのがいい。ほんとうに微粒子の茶が混ぜ込んであって、滑らか。香りもよかった。
 変わったものでは、岐阜県の名神高速・養老SA(下り線)に「カレーソフト」がある。ここのスナックコーナーはSB食品がやっていて、それで「カレーソフト」を考案したのだろう。辛味は全くなくて、カレーの香りだけがする、不思議なソフトクリームだ。
 オーソドックスなバニラのソフトクリームでは、やはり岐阜県の東海北陸道・ひるがの高原SAがお勧め。原料の「ひるがの牛乳」が良質なのだろう。どこが、とは言えないのだが、おいしい。
 それにしても、「わさびソフト」の印象は強烈だった。これに匹敵するのは……と考えたら、3年前に食べた、東名・足柄SA(下り線)の「揚げパンソフト」を思い出した。
 手のひらに乗るくらいのロールパンを油で揚げ、パンに切り込みを入れ、そこにドドッとソフトクリームを流し込んで山盛りにする。
 ソフトクリームを渡される時に、「熱いですから、気をつけて」と言われたのが、なんともおかしかった。
 で、これに、いきなりかぶりついた。揚げたてのパンが熱くて、でも、すぐにソフトクリームの冷たさが広がって、まあ、なんと言うか、これほどミスマッチでおいしい、と思われるものはなかった。
 が、今は、ない。紹介しようと思って、SA・PAを経営している中日本エクシスという会社に問い合わせたら、「今は、ありません」との返事だった。
 あまりにも変わり者だったので、売れなかったのだろうか。話のネタにするだけでも面白かったのに、残念だなぁ、と思う。

フェイジョア満開
 南米原産のフトモモ科の常緑樹、フェイジョアの話を書くのは、これが3回目である。
 最初は、この「房総半島スローフード日記」の2004年7月号(「んだんだ劇場」のバックナンバーをご覧ください)。房総半島、千葉県いすみ市に家を建てた1998年に、かみさんが苗木を買ってきて植えたのが、6年たって花を咲かせるようになった話だ。
 ところが、その年の10月、台風の大雨で、わが家のわきを流れる落合川が氾濫し、フェイジョアを植えていた地面が崩れ、木は姿を消した。
 1昨年、2007年3月の「日記」に、その思い出話をちょっとだけ書いたら、種苗会社「サカタのタネ」のSさんから、新しい苗木をプレゼントされた。その苗木は、2007年5月号に写真が載っているので、ご覧いただきたい。ひょろひょろした苗木だった。
 それが、今年、驚くほどたくさんの花を咲かせた。

花が満開になったフェイジョアの木

花びらが甘いフェイジョアの花
 大きさは手の親指くらいしかないが、美しい花である。しかも、この花びらは甘い水を含んでいて、おいしい。たくさん咲いたのがうれしくて、私は花びらをひょいひょいとちぎって、ずいぶん食べた。
 初代の木は、人の背丈より高く育って、花もたくさん咲いたが、実はつかなかった。Sさんは、その木は自家受粉では結実しないタイプだと言った。Sさんは2代目のフェイジョアを送ってくれた時、「これは、自家受粉する品種です」と、メールをくれた。そもそも、かみさんがフェイジョアを購入したのは「果実がおいしいらしいよ」という理由だった。
 これだけたくさんの花が咲けば、実もつくだろう。どんな実がつくのか、秋が楽しみである。

スグリが実った
 前庭の花壇の隅で、なんだかいつまでも大きくならないな、と思っていたスグリの木に今年初めて、ルビーのような光沢のある実が、房になってぶら下がった。

赤い色が美しいスグリの実』
 母方の祖父の家には、かなり大きな木(と言っても、人の背丈ぐらい)があって、夏休みに遊びに行くたびに、甘酸っぱいというより、かなり酸っぱい実をむしり取って食べていた思い出があるので、日本に昔からあるものだと思っていたら、ヨーロッパ、北アメリカが原産地だという。こんな房になるのはフサスグリ、房にならないのをグーズベリーというのだそうだ。ユキノシタ科スグリ属の植物である。
 千葉県いすみ市のわが家のスグリは、「福島県から引っ越した時に、玄関前にあった木を持って来た」と、父親は言っている。だとすると、移植して結実するまで10年もかかったことになる。木の背丈は、ほとんど伸びていないと思う。生長がとても遅い木のようだ。
 欧米ではこれをジャムにするらしいが、わが家でそれほどの量が実るには、これからどれほどの時間がかかることやら。まあ、鳥についばまれないうちに何個か味わえればいい。
 実が黒いクロスグリという品種もあって、それはフランスで「カシス」と呼ばれている。そう紹介すれば、「ああ、リキュールにあるな」と思う人もいるに違いない。わが家のスグリも、もっとたくさん実れば、焼酎につけて、きれいな赤い色のリキュールを作れるかもしれない。ジャムよりは現実味があって、何年か先が楽しみだ。
(2009年6月21日)


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