自家製アーモンド
「天神様」を食べる
房総半島、千葉県いすみ市のわが家にアーモンドの木があるのは、前に紹介した。桜に似て、でも、もっと大きな花を咲かせる木である。
アーモンドの木と雪柳 |
色が濃いアーモンドの花 |
耕運機が置いてある写真は、昨年の3月29日に撮った。花は、ソメイヨシノより2まわりくらい大きくて、色が濃い。葉の出る前に花が咲くのは、ソメイヨシノと同じだ。花が終わると実が育ち始め、6月に熟すのは梅と同じ。
ふくらんだアーモンドの実 |
で、どこを食べるかと言うと、タネの硬い殻の中……梅干のタネの中にある、通称「天神様」である。ということは知っていたが、11年前に苗木を植えて、3年目ごろから実がつき始めたものの、毎年、せいぜい5、6個しかなかったので、手間をかけてまで食べる必要はないな、と思っていた。
今年は、花がよく咲いて、実も30個近くできた。9月に帰ったら、父親がそれを収穫して干していた。それから1か月……「殻の口が少しだけ自然に開いた」そうで、「そのちょっとした割れ目を金づちでたたいたら、意外に簡単に割れたぞ」と父親は言った。
硬い殻と、取り出したアーモンド |
生では若干えぐ味を感じたが、弱火でから煎りしたら香ばしく、おいしかった。市販品ほどふっくらしていないけれど、庭でアーモンドができたのはうれしい。
それより、「梅干の天神様のところを食べるんだよ」と言った私の言葉を覚えていて、「割ってみよう」と考え、行動した父親の旺盛な好奇心が、もっとうれしい。
父親は10月23日で77歳になった。
茅葺き屋根に名月
10月3日の土曜日、私がいま勤めているNEXCO中日本(中日本高速道路)の有志「竹友会」が、岐阜県郡上市の山奥で観月会を開き、地元の皆さんに尺八を聞いていただくというので、私は頼まれて写真を撮りに出かけた。この日が、今年は中秋の名月だった。
名古屋から東海北陸自動車道を北上し、郡上八幡インターの次の「ぎふ大和インター」を出て15分ほど走った山中に、「古今伝授の里フィールドミュージアム」という場所がある。現在は郡上市だが、ここは旧大和町で、当時の町のキャッチフレーズは「古今伝授の里」だった。
中世、この地を治めた東(とう)氏の初代、胤行(たねゆき)は、藤原定家の子・為家に和歌を学び、9代常縁(つねより)は歌人であり、歌学者でもあった。常縁を訪ねた連歌師の宗祇(そうぎ)に、古今集を伝授したことで知られていて、郡上八幡の町の中に湧く清水「宗祇水」は、旅立つ宗祇をここまで常縁が見送りに来たことで名づけられた。戦国時代に滅んだ東氏の屋敷があったのが、「古今伝授の里フィールドミュージアム」である。庭園跡のわきの石段の上には、その記念碑がある。
東氏館跡庭園 |
古今伝授の碑 |
庭園跡から小さな川をはさんだ高台には今、和歌文学館、東氏記念館などがあって、休日には短歌を愛好する人たちの姿が絶えない。
その一角に、研修施設でもある「篠脇山荘」がある。これが「竹友会」の演奏会場だった。建物は鉄筋コンクリートなのだが、屋根は茅葺きという斬新な建築である。演奏会が終わった午後6時過ぎには、すっかり辺りが暗くなり、狭い谷あいの空に名月が顔を見せてくれた。
今年の中秋の名月 |
旧暦8月15日の月をしっかり見たのは、何年ぶりだろうか。『徒然草』の吉田兼好は「花は盛りに、月はくまなきをのみ見るべきものかは」(桜は満開、月は満月だけがいいのだろうか)と言ったけれど、美しいものは、やはり美しい。それは素直に愛(め)でるのが良い、と思わせる月だった。
テレビドラマが始まった『JIN−仁−』
またマンガの話で恐縮だが、現在16巻まで出ている『JIN−仁−』(村上もとか作画、集英社)のドラマが、10月11日の日曜からTBS系のテレビで始まった。
テレビドラマが始まった『JIN−仁−』 |
脳外科医である南方仁(みなかた・じん)が、タイムスリップして幕末の江戸へ行くという物語である。現代のような医療機器も薬もないそこで、仁は、さまざまな病気やけがの治療に奮闘する。簡単に言えば、そういう話だが、幕末・維新史が専門の私が見ても時代考証はしっかりしていて、しかも医学知識の豊富さ、解剖図をみるような絵に驚嘆し、新刊が出るたびに買い求めて来た。手の指の腱を縫い合わせる場面など、よくここまで描けるものだと感心したし、外科医の領域がずいぶん広いものだということも教えられた。
普通は日曜の夜に名古屋へ戻るのだが、10月12日の月曜は祝日だったので戻らず、2時間の特番だった第1回を見ることができた。
マンガを原作にしたドラマにはこれまで、たいてい失望させられて来た。トレンディドラマ風に仕立てられてオーバーアクションになり、原作の面白さが伝わって来ないし、学芸会みたいだと感じることが多かった。が、今回は感心した。原作にない人物や、ずっとあとになって出て来るはずの坂本竜馬が最初から登場するなど、原作とはだいぶ違うのだが、これはこれで面白かった。演出と脚本がうまいのである。
しかし日曜の夜は、ほとんどが愛知県稲沢市の単身赴任宅にいる。前にこの日記で、単身赴任宅にはテレビがないので本が読める、と書いた……が、実は、テレビはある。どこにあるかと言うと、浴室にある。浴室の壁の、湯につかってちょうどよい高さに、小さな液晶画面のテレビがついているのだ。このアパートを商品化した住宅メーカーが、浴室テレビを常備したらしい。だから私は、朝風呂に入って、ニュースを見てから出勤している。夜はほとんど入浴しない。大酒を飲んで入浴し、急死した知人が2人いて、酒飲みの私としてはそれが怖いからだ。
でも、このドラマは見たい。
だけど、湯の入っていない浴槽に入ってテレビを見るなんて、なんだか間抜けな自分の姿が想像されて……2回目は見なかった。
(2009年10月24日)