映画と漫画の関係を考えたりして
このところずっと体調が芳しくなかったのだが、心身に少し余裕が出てきたので、気分転換に駅前シネコンで映画をみてきた。「プール」という封切られたばかりの若い女性が主人公の映画だ。「かもめ食堂」や「めがね」と同じスタッフによるもので、それなりに期待して行ったのだが、なんだかちょっと肩すかしを食ってしまった。あまりにも味付けがあっさりしすぎ。主人公の若い女性の心象風景が茫漠とした感じで、表層をなぞっているだけの中途半端さしか感じられないのだ。単に演技がヘタだけなのかもしれないが、彼女の心象風景を推し量りながらも、その「あいまいさ」を演じる下手さ加減に、観ている側が消化不良を起こしてしまう。
ふだんは原作を読んだものの映画はみない。映画を見てしまったら原作は読まない。原則ではないがいつの間に自分の中にルールが出来上がった。が、この映画に引っかかりを覚え、映画の後、原作にも手を伸ばした。いったい原作をどの程度デフォルメした映画なのか確認したくなったのだ。原作の桜沢エリカの漫画本「プール」を読んで驚いた。映画はこの漫画原作をほぼ忠実に映像に置き換えただけだった。映画と原作の関係って、こんな単純なものだったんだ。どちらかといえば漫画のほうの内容が濃く、若い女性の哀切さや癒しへの渇望がよく描かれていた。逆に映画のほうのディテールが淡白すぎ、こちらの感情へのひっかかりを、簡単にスル―してしまっている。
還暦を迎えたオヤジの印象批評で申し訳ないのだが、映画が漫画に従属しているという違和感は、心の中に「漫画より映画のほうが芸術作品として上」という根拠のない保守的なサブカルチャー感が当方にあるせいかもしれない。
そういえば同じ漫画で最近読んだ益田ミリ「週末、森へ」にも感動した。面白くて興味惹かれ、原作者である彼女の文庫本(漫画よりコラムを書く文筆の人なのだ)をまとめ読みしたのだが、あれまあ、本のほうはちっとも琴線に触れてこないのだ。面白くも何ともない。もしかするとここにも「漫画より文学のほうが上」という抜きがたい偏見がこちらにあるせいかもしれないが、「プール」にせよ「週末、森へ」にせよ、漫画ってなんだろう、と考えさせらられる文学性が含まれているのは間違いない。あれ、このどちらの漫画本も出版社は「幻冬舎」じゃないか。
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