んだんだ劇場2010年3月号 vol.135
No69
チェンソーアートをご存知ですか?

今年、愛知県で世界大会
 先日、愛知県東栄町まで出かけた。東名高速・豊川インターから北へ約40キロ、車で1時間はかかる山奥である。この町で今年5月29、30日の週末、「チェンソーアート世界大会」が開かれ、出場者と観客合わせて2万人もの人が集まるのだという。
 と言っても、ピンと来ない人が多いだろうから、まず、作品を見てもらおう。

看板を持つクマ

杉材の赤と白の色をうまく使った馬
 最初は、愛知県内の東名高速・上郷サービスエリア(下り線)に置いてあるクマ、次は、今回訪ねた東栄町で制作中の馬である。一見して「ちょっと大きな木彫りじゃないか」と思われるだろうが、これ、ノミや彫刻刀で削ったのではなく、普通は木材を切るのに使うチェンソーで作ったのだと言えば、驚いてくれるだろうか。
 チェンソーは、歯をチェーン状にして回転させるノコギリ。房総半島、千葉県いすみ市の我が家は、暖房が薪ストーブだけなので、私も冬になると丸太をチェンソーで輪切りにし、オノで割って薪を作るから、なじみのある道具だ。が、これで彫刻ができるのは、最近知った。
 東栄町を訪ねたのは個人的興味ではなく、私がいま勤めているNEXCO中日本(中日本高速道路)名古屋支社が、この世界大会に協力するからだ。NEXCO中日本と愛知県は、いろいろな協力をしましょうという「包括協定」を結んでいて、チェンソーアート世界大会への協力も、この協定の一環。具体的には、愛知県内で建設中の新東名高速道路の予定地にある杉の木を伐採して、彫刻の材料に提供する。すでに、名古屋支社管内の高速道路サービスエリアなどに作品を展示し、この世界大会と、10月に名古屋市で開かれる「COP10」(コップ・テン=生物多様性条約第10回締約国会議)のPRを始めている。そして名古屋支社では新たに、20体の彫刻を注文した。受けたのはチェンソーアートクラブ「マスターズ・オブ・ザ・チェンソー東栄」の皆さんだ。

「世界大会」の横断幕を掲げた東栄町のチェンソークラブ
 林業センターに隣接するクラブの前ではこの日、7人のクラブ員が注文の彫刻に取り組んでいた。クラブ員は60人ほどいて、この日来ていた7人のうち、副会長の内藤さんも含めて6人はプロだそうだ。全国には9か所にクラブがあって、それぞれに活動しているという。
 制作の現場を見ると、私がふだん使っているような大型のチェンソーのほかに、だれもが小型のチェンソーを持っていた。大型のものは、先端にスプリングがついていて、先端だけで木を削ろうとすると、突然跳ね返ること(キックバック)がある。これは、私も体験していて、怖い思いをした。内藤さんによると、東栄町で開催した過去の大会では、それで救急車を呼ぶ大けがをした人がいたそうだ。「小型のものは、先端にスプリングがないので、キックバックの心配はなく、こまかい部分を削るのに必要です」と、内藤さんは言う。
 杉の木は柔らかくて削りやすく、外周は木地が白く、心材は赤いので、それをうまく利用すると、塗装しなくても味のある彫刻になる。内藤さんは、「ヒノキは、香りはいいけど、ほとんど真っ白な木地なので、変化がなくてつまらない」とも言った。そして、設計図などはなく、頭の中に描いた像を削りだしていくのが面白いのだそうだ。2枚目の馬の写真を、もう1度見ていただきたい。顔全体は杉の心材の赤、鼻先は外周の白い木地をうまく使っているのがわかるだろう。

小型チェンソーでフクロウのこまかい部分を削る

写真を参考に削りだしたトラの親子
 いやはや、お見事。しかも、このくらいの大きさだと、3時間程度で削りだしてしまうというから、その手際にも驚くほかない。けっこう太い丸太でも、なんとかまっすぐ切り落とせるようになったくらいの私の腕では、ケガの方が心配だから、まねをするのはやめておこう。
 制作現場を見学したあと、東栄町の中心街を通ったら、何軒もの商店の前に、店の宣伝用のチェンソーアートが置いてあった。林業が次第に衰退している中で、木材を活かした町おこしにもなっているのが見てとれた。

ブラックバス
 パソコンで「無料動画」のページを見ていたら、「高滝湖」という文字が目に入った。千葉県いすみ市の我が家から、大多喜町を通り、市原市に入ってすぐにあるダム湖である。
 昨年9月、市原市の公民館に「北前船」の講演を頼まれて行った帰り、「湖畔においしい蕎麦屋がある」とかみさんが言うので、立ち寄ったところだ(かみさんは、私の話を聞きに行ったのではなく、帰りに評判の蕎麦が食べたいと、ついて来ただけ。講演中は、その辺を散歩していた)。

一久美の天ぷら蕎麦
 店の名前は「一久美」といい、老舗らしい店構えで、湖がよく見えた。蕎麦も、天ぷらもおいしかった。
 で、今回見つけた「動画」だが……春先、高滝湖でブラックバスを狙うという釣り番組だった。この人造湖にはワカサギがいるそうで、それが春先、せき止めた川の上流へ移動するのを追って、ブラックバスも動くという。湖全体ではポイントが絞りにくいが、この季節なら大物のブラックバスを狙いやすい、という解説だった。実際、番組では案内役のプロの釣り師が何匹もブラックバスを釣り上げた。

高滝湖のブラックバス=パソコン画面から
 あそこに、こんな魚がいたのか、と見ていたのだが、実は私は、ブラックバスを釣る「スポーツフィッシング」は、好きではない。この番組では放映しなかったけれど、たいてい、このあと、釣り上げた魚を放流してしまうのが気に入らないのだ。
 「せっかく釣ったのなら、食え」と言いたいのである。
 もったいないから、ではなく、針を呑み込ませてケガをさせ、人間の雑菌をベタベタと魚にくっつけた末に放り出すなんて、かわいそうだと思うのだ。食生活ジャーナリストの会の仲間、魚の専門家の野村祐三さんも「釣ったら食べるべきだ」と言っていた。
 スポーツフィッシングの面白さに、一理あるのは承知している。エサに食いつかせる知恵、釣り上げるまでの魚との格闘、それを制した喜び……「やったことのない人にはわからないよ」と言われる。そういうことは近年に始まったことではなく、たとえば山形県鶴岡市の至道博物館には、庄内藩士が作った釣竿の名品が多数展示してあって、『釣りバカ日誌』のハマちゃんとスーさんではないけれど、江戸時代から釣りで「勝負、勝負!」とやっていた光景が想像できる。
 釣りは、奥が深い。ヘラブナ釣りのように、専用の竿が「ん10万円」とか、釣竿を立てかけておく台木(名前を私は知らない)だけでも数万円とか、なんだか道具自慢みたいになっている分野は論外にしても、どちらかというと凝り性でもある私としては、奥が深い趣味だから、始めたらのめり込みそうなので、わざと手を出さないということもある。
 ブラックバスや、ブルーギルなど、釣りの対象とするために外国から持ち込まれ、それが日本在来の魚の存在を脅かしているのは大問題――という自然保護団体の代弁をする気もない。動物も植物も、外来種がはびこった例は、数えればきりがなく、そういう淘汰が行われるのが自然界なのだ、とも思うからだ。でも、最初から、釣られてはまた放り出されるために日本に持ち込まれた魚、人間の遊びの手段というしか存在価値のない魚では、それこそがかわいそうじゃないか。
 釣ったら、食うべきだ。
 ブルーギルは食べたことがないが、ブラックバスは釣り人からもらって料理したことがある。淡水魚は寄生虫が怖いので、刺身はよした方がいい。ブラックバスは白身で、淡白な味わいと聞いていたので、3枚におろして塩、コショウを振り、パン粉をつけてフライにした。
 これは、けっこう、うまかった。
(2010年2月21日)


無明舎Top ◆ んだんだ劇場目次