愛犬モモ……9歳
伊賀のかた焼き
前回の最後に「お楽しみに!」と書いた、とんでもなく硬い「せんべい」の話……それは「伊賀のかた焼き」という。どれくらい硬いのか……木槌(きづち)が付いていて、これで割ってから食べてください、というのだから、すごい。
包装の中に木槌が入っている |
トンカチで割った「かたやき」 |
私がいま勤めているNEXCO中日本(中日本高速道路)の同僚Mさんの故郷、伊賀上野(三重県伊賀市上野地区)へMさんと2人で行ったのは仕事のためだが、昼食は、老舗「田楽座 わかや」で伊賀名物「豆腐田楽」にMさんと舌鼓を打ち、仕事(高速道路交通安全教室)を終えて名古屋へもどる前に、Mさんが「ぜひ、味わってほしい」と案内してくれたのが、「かたやき元祖 伊賀果庵 山本」だった。創業は嘉永5年(1852)というから、ペリーの黒船が来る前の年である。「かたやき」と、ひらがな書きが商標のようだ。
で、その由来は「伊賀忍者の携帯食」であるという。敵の屋敷に忍び込んだ忍者が、じっと潜んでいる時に食したのが、「かさが少なく、滋養にとむ」これだったと、「かたやき」の紹介文にあった。にわかには信じがたいが、「伊賀果庵 山本」5代目店主が記す「かた焼きの由来」によれば、上野市街から少し北の地に住んでいた初代が「忍者の携帯食に暗示を得て」創案したものだそうで、「堅いこと鉄の如く、よく伊賀武士の剛胆を表わし、その味、甘味またよく伊賀侍の人情味を表わす。幸い世の好評を得て」今に至っている、という。
房総半島、千葉県いすみ市の家への土産に「かたやき」を持ち帰り、父親、かみさんと3人で食べてみた。木槌でたたいたら、案外、簡単に割れた。77歳でも入れ歯など1本もない父親は、鋭角的に割れたところからガリガリとかじり、「けっこう、うまいな」と言った。私も少しずつかじった。唾液でふやかして食べる、と聞いていたのだが、歯が丈夫ならそんな必要はない。ほのかに甘く、小麦粉の味わいもよくて、私も「なかなか、うまい」と思った。
たしか、神戸の「瓦せんべい」はもっと薄いが、やはり硬くて、こんな味だったかと思う。小麦粉を原料にした、甘みのあるせんべいはほかにもある。日本の農業は米作中心だが、各地に麦作地域があり、小麦粉は江戸時代もけっこう生産されていた。「うどんを自宅で打つのは当たり前」というのは麦作地域の伝統のようなものだから、小麦粉を原料にした菓子があっておかしくはない。伊賀上野でその昔、麦がどれくらい作られていたかは調べていないが、たぶん、かなりの量があったのではないだろうか。それに目をつけた「伊賀果庵 山本」の初代がアイデアマンだったのである。
ところで、「んだんだ劇場」の今年2月号に、「生せんべい」の話があるのを思い出した方はいらっしゃるだろうか。あれは「グニャグニャのせんべい」。「かた焼き」とは反対の極地である。「せんべい」と称するだけで、こんな両極端があるのだから、食いしん坊の私としては、「まだまだ面白いぞ、ニッポン!」と言いたくなる。
久しぶりにノレソレ
6月4日の金曜日、会社の八王子支社で「中央道フォトコンテスト」があって、その審査員を務めてから、房総半島の家に帰った。途中、帰宅予定時間を携帯のメールで知らせたら、かみさんから返信が来た。
「ノレソレ、あるよ」
おう、おう、久しぶりのノレソレだ。毎年、春にはこいつを食べたいと思っていたが、房総半島の魚屋にいつもあるわけではなく、3年ぶりのご対面である。
久しぶりの「ノレソレ」 |
「んだんだ劇場」の、2007年4月号を読み返していただきたい。白魚のように見えるだろうが、これはアナゴの幼生(稚魚になる前の段階で、生物学上はレプトケファルスという)。ワサビ醤油で食べる。ちょっとした渋みがあって、それが独特の刺激になる。高知の居酒屋では、春の定番メニューらしい。太平洋岸で獲れるが、房総半島では「地物」ではないようだ。3年前は「三重県産」で、今回は「茨城県産」だった。
が、まあ、そんなことはどうでもいい。こういう季節の味わいは、「まだまだ面白いぞ、ニッポン!」である。
6月6日はモモの誕生日
愛犬モモが、6月6日で9歳になった。人間で言えば、もう「おばあちゃん」である。が、すこぶる元気に庭の芝生を走り回っている。
精悍な顔つきのモモ |
モモ、天に向かって吠える |
モモは、迷い犬である。わが家へ姿を現し、飼ってやることにしたが、いつ、どこで生まれたのかわからなかった。獣医が「4か月だね」というので、逆算して、覚えやすい「6月6日」を誕生日にしてやった。私は「ウメという名にしよう」と提案したのだが、そのころは元気だった母親が、「それじゃあ、おばあちゃんみたいで、かわいそうだ。モモがいい」というので、モモと名づけた。
以来、番犬の役目を務めている。芝生に現れたヘビをやっつけてくれるので、ヘビが嫌いな父親の評価は高い。ほんとうは、夜は放し飼いにして、畑のスイカやウリ、トウモロコシを狙う害獣を追い払ってほしいのだが、鎖をはずすとどこへ行ってしまうかわからない。先日も、狂犬病の予防注射に父親が連れて行ったら、何かの拍子に首輪がはずれてしまい、雨の中を一目散に走り去った。まあ、夜になってちゃんと帰って来たが、その間、どこで何をしていたのか……以前、庭でネコを飼っている家に入り込んでネコを追いかけ回し、苦情を言われたことがある。犬の放し飼いはルール違反だから、いつも長い鎖につないでいる。でも、ほんとは、タヌキや、ハクビシンや、ノラネコから畑の作物を守ってほしいと思っている。
ともあれ、モモは元気で、9歳になった。誕生日だから、お祝いにごちそうをやった。
誕生祝のごちそうを前に、「待て!」の姿勢のモモ |
食事を前にして、「待て!」と言えば、モモはちゃんと待っている。「よし」と言って、初めて食べる。が、「吉幾三!」とか、「芳之助!」とか、「よし」のあとに別の言葉をつけると、聞き分けて、「よし」とだけ言われるまで、じっとしている。賢いやつだ。
6月6日、かみさんが「飼い犬の長寿記録は、25歳らしいよ」と言った。