んだんだ劇場2012年7月号 vol.162

No73−筋トレと料理−

「屈辱の金曜」からストレッチの日々

6月2日 太平山のけいれんリタイがショックで、昨夜から早速ストレッチと筋トレを再開。なんだか自分の体に「力を貯金」している、いい気分になる。それにしても人生なにが幸いするかわからない。自分のふがいなさを金曜日の太平山で付きつけられ、まったく行く気のなかった6月末の谷川岳登山に挑戦する気になった。近場の、背伸びしない山々で満足していたのだが、敗北感が挑戦に火をつけてくれた。毎日欠かさず筋トレをやるゾ! 誰も飲みになんか誘うなよ!

6月3日 40年近く、同じような仕事をエンエンと繰り返してきた。だいぶくたびれてきた。時々、いつさぼっても休んでも誰にも文句を言われないのに、どうしてこうも律儀に出舎し、8時間以上仕事し、かててくわえて週末まで仕事をするんだろう、と考えることもある。まあフリーランスのような立場の経営者に近いから、仕事がないと干上がってしまう、という恐怖感なのだろう。これが習い性になってしまったのだ。引退を考えたこともある。しあkしリタイアするには仕事のダウンサイジングが必要だ。これがなかなか厄介な問題を含んでいて、そう簡単ではない。そんなわけで今週も仕事三昧の日々。おそまつ。

6月4日 寝室に入るともっぱらギターのゴンチチを聴いている。映画「歩いても 歩いても」のサウンド・トラック版CDだが他にも3枚ほど彼らのアルバムを持っている。フランス映画「PARIS」でサティの音楽が効果的に使われているのを観て、そういえばゴンチチの音楽も日本映画には映えるし、よく映画音楽に使われていることに気がついた。ひとり勝手に「日本のサティのよう」と思って聴いている。彼らのNHK・FM番組も大好きだったが(関西弁のイメージを変えてくれた)、最近聴かない。もしかして番組がなくなったのかな。

6月5日 「屈辱の金曜日」以降、ストレッチと筋トレの日日だ。日々と言ってもまだ4日目だが。散歩の途中、歩きながら上半身ストレッチ。途中の公園に着くと下半身ストレッチととスクワット50回。散歩(5キロ)終了後は事務所でヨガマットを敷いて、ねじり系ストレッチ、腕立て、腹筋を各50回。これで約2時間。日課と言うには少し重いのだが月末の谷川岳までは歯を食いしばってやり遂げたい。ストレッチしていて感じるのは左半身の硬さ。脳卒中で半身まひになったような「血の通わない」イメージが左半身にある。ほっておくとこちら側が麻痺してしまうような恐怖がある。左右バランスのとれた身体が、いまのところの目標だ。

6月6日 万年筆による手の汚れや、フェイスブックの「利用解除」について、けっこうその後もウジウジ、誰にも相談できずに悩んでいた。ところが最近グーグルでそうした悩みを検索すると、ほぼ100パーセント「適切な回答」が載っているのを知った。ちなみに万年筆のインクの汚れは「万年筆を立てずに横に保管すること」。同じようなことに悩んだり、トラブルを抱えている人が多いのだろう。生活上のトラブルのほとんどは(人生相談でない限り)ネット上に回答がある。こんなにコンビニエンスなものは、逆にオジン特有の性(サガ)で、疑ってかかる貧乏性なのだが、本音を言えば、この便利さにははまる。

6月7日 もう2年近く同じ時計を腕に巻いている。4つある時計を交互に気分によって変えていたころからみれば異様な長さだ。手巻きのリューズ時計で中古で買ったもので、たぶん半世紀以上前につくられたものだろう。この時計を着けてから自分の中に「大きな不幸」がない。そこで験を担いでいるのだが、一昨日盤面が水蒸気で曇りだした。手洗いの時の水が入ったのだろう。時計屋に持っていくと修理に一週間、料金は2万円とのこと。着け始めた時にもリペア代として3万円かかったはずだ。はてさて、どうしたものか。金額と我が未来を照らし合わせ、もうしばらくこの時計のお世話になることみした。験を担いだりしないほうだと思っていたが、この時計にはなんだか捨てがたい風情がある。良い時計なのに目だたない。地味なのに華がある。質素なのにシック、って褒めすぎか。


それにしても朝シャワーは気持ちいい

6月8日 「スパムメール」の多さには閉口。かといってかたっぱしからアドレスを「受信拒否リスト」に放り込むのも問題がある。リストに放り込んでいるうち、なぜか自分の個人アドレスもリストに紛れ込んでしまうケースが多いからだ。拒否リストに入れた後は、自分のアドレスも拒否リストにまちがって登録されていないか、しょっちゅうチェックをする羽目になる。先日もある重要な数件のメールが、私のパソコンにだけに入っていなかった。それをメインのPCで発見、一週間遅れでお詫びの返事を出した。取り返しのつかない事態になるところだった。スパムメールが何のためにこうも横行するのか、よくわからないが、こんなことをやっている連中はつまらない人生だなあ、と余計なお世話だろうが、思う。

6月9日 定番になりつつある週末の「料理教室」。昨日はSシェフが来てくださり、魚のさばき方を教えてくれた。アジの開きや3枚下ろし、カレイの5枚下ろしに干物、タイをさばいてムニュエルにまで挑戦。身欠きにしんの山菜煮、なんてものまで作った。ちゃんとメモをとって忘れないようにしなくっちゃ。しかし念願のさばき方がうまくなっても「食べ方」がヘタ、という大問題を抱えている。小さなころから魚より肉派、とにかくきれいに魚を食べられない。これがすごいコンプレックスで、しかもこれだけは習ったところで一朝一夕にはうまくいかない。グーグルにでも回答が書いてないかなあ。

6月10日 ストレッチ&筋トレは続いている。心なしか身体が引き締まって軽く……はなっていないか。どんなに予定が立て込んでいても「やる」と決めた。一日の暮らしの優先順位のトップ事項だ。こう決めると、仕事はむろん、映画や本や料理や散歩の時間のどこかを削らざるをえなくなる。特に夜は観たい映画や読みたい本がびっしりだ。さらにテレビのスポーツ中継も外せない。いきおい時間との勝負になってしまう。筋トレ後のご褒美は「森永ミルクアイス」。この氷菓のために頑張っているようなもんだ。

6月11日 ストレッチ&筋トレを優遇するあまり、いろんな不具合が生じてきた。〈やらないとだめ〉という義務感というかプレッシャーが強くなる一方で、それが終わるまで他のことが手に着かない。いくらなんでもこれはマズイ。そこで一念発起、早起き(5時半)して、散歩、ストレッチ、筋トレを一挙にかたづけてしまうことに。最初からこうすればよかったのだが、なにせ宵っ張りで、めっぽう朝に弱い。でも山行ではいつも5時起き。やればできるはず。そう自分に言い聞かせて、今日から散歩&ストレッチは朝に変更。汗だくになって浴びる朝のシャワーが気持いい。そうかシャワーのことまでは考えていなかった。山行後の温泉と似た快感。これはもしかしたらはまるかも。

6月12日  お世話になった人に贈る品物選びにいつも四苦八苦。このごろはあきらめて(アイデアが浮かばないので)、図書券でお茶を濁している。図書券じゃいくらなんでも味気ない、となったらカミさんに相談。こういうことに関しては圧倒的に女性の専権事項だ。やつらはだてにショッピングやランチのおしゃべりをしているわけではない。「プレゼント向きの小物類や食品」についての情報は詳細で潤沢だ。できれば自分がもらいたいと思っているのだから、まずはずれはない。というわけで、いつもカミサン頼みなのだが、こうなると、ちょっと秘密にしたい関係のほうの贈り物は処置なし。プレゼントぐらい自分で選べる男になりたい。

6月13日 時代小説に詳しくはないのだが、明智光秀が織田信長を殺した「本能寺の変」は知っている。知っているが、なぜ光秀が信長を殺さなければならなかったのか、理由は知らなかった。山本兼一の新刊『信長死すべし』では、信長を殺したのは帝の「正親町方仁(おおぎまちみちひと)」の勅命だったことが明らかにされている。戦国時代、武家の大将と朝廷がどのような関係だったのか、この小説でよくわかった。江戸時代の徳川と天皇の関係も基本的には似たようなものだったのだろう。信長は帝を「占い師の棟梁みたいなもん」と小馬鹿にしている。この男が天下をとっていたら日本はどうなっていただろうか、と考えると楽しい。歴史小説にドンドンはまっていきそうな自分が怖い。

6月14日 先日、黒森山で拾ったデジカメの落とし主が見つかった。警察経由で電話をもらって礼を言われたが、ここまで4週間近くかかったのは、警察に遺失物届を出していなかった、ということなのかな。そこを訊くのを忘れた。他にも、数十年ぶりの珍客はあるは、引っかかっていた本が動き始めるは、朝トレのおかげで生活リズムが激変するは……と、なにかと身辺にザワザワと風が吹き始めている。穏やかで滑らかな日常に不満はないのだが、いろんなことが起きそうな予感のする日々というのも、悪くない。


筋トレ成果で、どうにか谷川岳

6月23日 久しぶりに4泊5日の「旅」。酒田、群馬、長野といったあたりをうろつくことになりそうだが、けっこう緊張している。というのは地道に築きあげてきたこれまでの「日常」が壊れるのが怖いから。10年ほど前までは、毎月2,3度、3〜6日ぐらいの出張は当たり前だった。ひと月に4,5回飛行機に乗るのもフツーだった。めっきり外に出なくなったのは、メールでほとんどの意思疎通ができるようになったことが大きいが、もっと大きいのは、こちらの立ち位置が変化したこと。非日常より日常が大事、というスタンスのほうが強固になった。老化という人もいるだろうが、そうかなあ。今の自分にとって大事なことを優先する。素直にそのことに従えるようになった、と自分では思っている。非日常は心身をくたびれさせるだけだ。

6月24日 ウディ・アレンの『結婚記念日』は何回も観ている大好きな映画だ。ロスのデパートで展開する一幕コメディの会話劇で、これ以上の映画はない、と思っていた映画だが、イラン人監督アッパス・キアロスタミの『トスカーナの贋作』を見てびっくり。男と女がトスカーナの街をうろつきながら「夫婦ごっこ」する、これも会話劇の映画だった。女は名優ジュリエット・ビノシュ、男は映画初出演のオペラ歌手ウイリアム・シメル。最後はホテルのトイレで男が魔か不可思議な表情で放尿するシーンで終わる。どこまでが現実で、どこからか嘘なのか、洒脱な会話に惑わされているうちにわからなくなる。心に残る映画だがキアロスタミの次回作の舞台は日本だそうだ。楽しみだなあ。

6月25日 酒がすっかり弱くなってしまった。晩酌でカミさんに付き合って一杯やるのが夕食の「決まり」なのだが、酒のセレクトは小生の受け持ち。日本酒、ワイン、焼酎とその都度、肴によって替える。それはいいのだが飲む量がカミさんの半分以下(日本酒おちょこ1杯、ワインはグラス1杯)。ときには酒はけっこう、と思える日も多い。そのくせ学生たちとの飲み会では昔のようにがんがん飲んだりする。どうなっているの。酒ってけっきょくコミュニケーションの「肴」なのかも。そうか、カミさんとはもう会話がないってことか。

6月26日 下り坂の人生だ。そのことは自覚しているが、フィジカルの面ではこれまでの人生になかったほど、ワイルドで規則正しく、ハードな筋トレ・ストレッチ&散歩の日々である。「下り坂のくせに、そんな無理しなくても」とはカミさんの小言。上りであろうと下りであろうと人は目標ができると強いノダ。今年は秋田最強の山・鳥海山を「軽々と」登りたい。軽々と、というのはオーバーか。あの山は何度登っても下山時にヘロヘロになる。行きはよいよい、帰りが怖い、なのである。これを今年はなしにしたい。今日はスクワット100回に挑戦、文句あるかッ!

6月27日 昨夜、小旅行から帰ってきた。谷川岳はロープウエイが運休中でマチガ沢から歩いて、両耳ピークを踏破、西黒尾根を下山してきた。12時間歩き通しのきつい山だった。なんだか自分の限界点を超えたような、気もする。でも下山で完全にばてた。仲間に迷惑をかける寸前まで「息が上がっ」てヨレヨレで下山。筋トレ効果は確実にあったが、下山の体力までは想定外だった。神室山を急勾配にして大きくしたような山だった。ロッククライマーたちの伝説の一の倉沢も初めて観た。文字でしか知らなかったから、ウルウルと感動してしまった。そうか、ここで数多のクライマーたちが命を……。今日からさっそくまた朝の筋トレ・ストレッチを再開。鳥海、神室、焼石、虎毛、行きたい山は県内にもたくさんある。

6月28日 谷川岳登山の後、長野の松代町を訪ねた。太平洋戦争の遺跡である「本土決戦最後の拠点」ともいわれる「松代大本営跡」を前から見たかったのだ。と同時に松代は真田家10万石の城下町。城跡や文武学校も見学。いまだ現役で小学校の授業に使われている文武学校に「長野県民の学問好き」の原点をみた。それにしても「大本営」である。戦争中、この町に天皇や学習院、大本営や政府各省を移そうとした軍部の「狂気」を、生で見た衝撃は小さくない。いたるところから感じられる追い詰められた人間の「狂熱の残滓」が、胸を締め付けてくるのだ。戦争は嫌だね。


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