んだんだ劇場2012年9月号 vol.164

No75−ゆったり構えて100点−

立秋・節電・コボタッチ

8月3日 お盆過ぎに出す予定の秋のDMがようやく終わった。年4回の営業活動だが、いつも終わるとストレスと脱力感で、どこか遠くに出かけたくなる(でも無精なので最近はどこにも出かけない)。外に出るだけでリラックスできるのはわかっているのだが、この暑さじゃあ、ね。週末の山歩き予定も中止だ。滝巡りでもしようかという話になっている。秋田って滝はけっこうすごいんだけど、クマが怖いから行くには勇気も必要だ。海水浴というのも新鮮だが、日焼けが怖い。30年前、アマゾンで川遊びして全身が直射日光で水ぶくれになった苦い思い出がある。

8月4日 日本全国で街から毎日2店近くの書店が消えていく。そんな中、わが秋田県では6月の潟上市に続いて9月にも湯沢市に300坪クラスの大型書店「ブックスモア」がオープン。本は売れないんじゃなかったの? と不思議に思われる方もいると思うが、これは書籍チェーン大手の丸善CHIホールディングスが地方書店の運営支援のために出店したもの。地元(?)トヨタカローラ青森(青森市)と提携した書店である。丸善傘下なので「ジュンク堂」や「丸善」という書店名をつけることも可能なのだが、この2店はトヨタ系のため「ブックスモア」になった。これからは、とんでもない過疎の町にジュンク堂や丸善といった名前の大型書店が出現する可能性もある。それで採算がとれるの? それは別にあなたが心配する必要はない。

8月5日 事務所の羽アリ騒動の結果がようやくわかった。専門業者に来ていただき床に潜ってもらったのだが結果はシロ。いやシロアリの白ではなく被害なし、という意味。念のため家の周りの巣をつくりそうな場所のチェックと自宅検査もお願いした。若干、家の周りの倒木の下などに白アリが見つかったので、こいつらの絶滅をお願いした。昔と違って駆除の方法もけっこう進歩しているようだ。とにかくアリで悩むことからは解放されそうでホッとしている。

8月6日 県南部の一部の田んぼでは出穂が確認されたらしい。朝、注意深く近所の田んぼを見て回ったが、こっちはまだ。それにしてもこの暑さ、「おコメ」にとっては最高の環境のようで、豊作間違いなし、といったところか。今年の田植え時、噂話の類だろうが秋田のコメ不足が懸念されていた。これは「フクシマ」原発事故の影響で、福島、山形、宮城のコメが敬遠され、秋田ものに注文が集中する、という憶測によるもののようだ。

8月7日 立秋。朝の散歩で汗だくになるのに今日は気持のいい「秋の風」が吹いていた。ほとんど汗をかかなかったし湿気もない。家々からはみ出すように千葉やら足立、栃木といったナンバープレートの車が目についた。帰省した人たちなのか。それでなくとも広面地区は医学部があるせいか県外ナンバーの車を多く見かけるところだ。そうか帰省というか竿灯を観に来た人たちの車か。その竿灯も昨日で終わった。広島の原爆記念日も過ぎ、後はお盆休み。ずっと休みが取れなかったが(忙しいからではない)、お盆休み明けに1週間休みを取ることにした。ボーっとしながら八ヶ岳周辺を歩いてくる予定。

8月8日 今日の朝日新聞に小学館がコボタッチ(電子書籍端末)を全社員に配布とのニュース。なんかなあ、この程度の(短期間のスパンの)問題意識なの。死蔵(絶版)本の再活用で儲けようぐらいのことしか考えてないんだね、たぶん。大手出版社のもたもたフットワークでは、デジタルではもう闘いにならないと思うよ。同じ紙面の「ひと」欄に、うちの著者(「永幡嘉之さん)が「津波に襲われた三陸の生き物を見つめる写真家」として載っていた。山形大学の講師かなんかだった記憶があるが、いつのまにか東大の研究員になっていた。

8月9日 朝の散歩でも山歩きでも多くの人と出会う。そのたびに見知らぬ人たちと「こんにちは」とあいさつする。これがけっこう苦手だったが、この頃ようやく自然に頭を下げて声が出るようになった。はほとんどの女の人はあいさつを返してくれるが、無視は圧倒的に男に多い。これは散歩も山も同じ。なんとなく理由はわかるが、無視する男にもかわいらしいシンパシーを感じる。お盆休みが近いので休みの計画をつくりたいのだが、頭のなかがぐしゃぐしゃで、混乱したまま。もうしばらく時間がかかりそう。

8月10日 夜中までオリンピックにつきあっている人に文句はない。が、つい先日までうるさかった「節電」のほうはどうなっているの。オリンピックのせいで「節電」の声が小さくなったとすれば、これは問題だよね。こちらは夜に観ない分、日中テレビをつけて順位を確認したりすのだが、まあCMの長いこと長いこと。その内容もほとんど健康食品か、益体のないインチキ通販商品。一昔前なら「品位の問題」としてオンエアー不可能だった商品ばかりだ。本を読んだり勉強したり人の話を聞いたりする訓練を積んでおかないと、簡単にインチキCMにだまされる時代が来た。飲めばすぐ病気が治り、健康になってしまう薬があれば、苦労して誰も医者になったりしない。節電もとりあえずはテレビ局から始めたらどうなの。


お盆はダラダラ過ぎていきます

8月11日 試しにコボタッチ(電子書籍端末)を市内の家電チェーン何店かに見に行ったが、どこにも売っていなかった。それはいいのだが、「はッ、なんですか、それ?」という反応がほとんどだったのには驚いた。恐るべし秋田。よく訓練された家電店員にしてこうなのだから、楽天の野望の道は遠いのかも。今日は仙台に行く予定。コボタッチを観て(買うかも)くるつもりだが、仙台でも「はッ?」なんていわれないだろうな。ネットで買うのが一番早いのだが、こうしたものはやはり手にとって説明を聴きながら手に入れたい。どんな売れ方、売り方をしているのか見たいのだ。それにしても、このコボタッチの件ひとつとっても、東京と地方の格差は目に見えにくいところでどんどん広がっているように感じる。

8月13日 仙台の家電量販店でコボタッチを買う。当たり前のように山と積んであった。秋田の反動で買わないと悪いような気になってしまった。大人買いである。今回の仙台行きで運がよかったのはインカ帝国展が仙台市博物館で開催中だったこと。知らなかったなあ。東京まで見に行こうと思っていた展示だったので渡りに船だ。でも展示は良くない。リマの天野博物館(個人蔵)のほうがずっと迫力がある。マチュピチュの「発見100年」がテーマだが、それもほとんどインパクトはなし。本を読んでるほうが為になる。現地に行っても観光ガイドはスペイン語と英語だけ。そのため日本展示に期待していたのだが、これはちょっとガッカリだなあ。

8月14日 お盆である。にもかわらず事務所に垂れこめ、どこへも出かけず仕事をしている。いや半分仕事、半分オアソビといったところか。オアソビというのは仕事場でダラダラ本を読んだりDVD映画を観たりすること。そんなの家でやれよ、といわれそうだが、家では主人が別、使用人は何かと居心地が悪い。自由勝手にふるまえるのは「ここ」しかない。それにしても電話もメールもほとんどない。これだけでもストレス半減、リラックス空間だが、3日も続くと世間から忘れられかけているのでは、と不安が頭をもたげてくる。大型の休みはいつもこの繰り返し。年なんだからいい加減に学習しろよ、ジブン。

8月15日 なんとなく長年の体感があり、お盆過ぎあたりから「秋風」を感じることができる。今年は立秋の日あたりから劇的に「肌寒さ」を実感した。これは例年より1週間は早い。寒さが早めにやってきそうな予感。といっても小生の実感は「早朝」の一時から切り取ったもの。日中はほとんど冷房のきいた事務所でダラダラしているから、世間の猛暑の実感がまったくないだけの話だ。気楽なもん。お盆中にやることは早めに締め切りのある(新聞)原稿を書いてしまうこと。今週末からの夏休み山行のための準備をすること。その留守の間の仕事の段取りを整理しておくこと。でもなあ、年々外に出るのがおっくうになる。これはもうどうしようもない。

8月16日 まだお盆休み中なのだが、今日は秋DMの発送日だ。みんな出舎しなければならない。ひとりの舎員は鳥海山・稲倉山荘まで納品出張だ。ごくろうさん。書店よりもこうした山荘で本がよく売れる。そのための追加納品だ。売れ時がお盆だからだ。標高の高い場所なので宅配便は行ってくれない。さらにシーズンだけの営業だから直接納品に行くしかない。山道を3時間かけ(ということは往復6時間)納品、売り上げはシーズン最終日に清算される。この仕事を始めたころは、こうして毎月全県の書店をくまなくまわって集金して歩いたものだ。あんなこと、もう絶対できないなあ。あの頃には戻りたくない。

8月17日 今日から仕事だ。そして私メは逆に今日から夏休みをもらい、八ヶ岳周辺をブラブラしてくる予定。去年の夏休みは白馬周辺ブラブラ旅で、味をしめての長野行きだ。山形や大阪の友人たち4人の旅。昨日からその旅の準備でけっこう汗をかいてしまった。年々衰えていく体力を、何でどのようにカバーするか、少し長めの旅行に出ると、いつも考えてしまうようになった。


今年の夏休みも信州でした

8月17日 さあ、夏休みだ。今年は去年と同じく信州で休みをとる。メンバーも去年と同じ、酒田のカメラマンSさんと大阪の山仲間K夫妻。初日は酒田泊まりで土門拳記念館の「高梨豊写真展」を観に行く。常設展の横で「土門拳の昭和展」もやっていた。昭和28年に撮影した「街角――待つ女」というスナップに感動。秋田市のある街角で撮られた、若いモンペ姿の女性の立ち姿で、例の話題になっている木村伊兵衛の観光ポスターの女性より、こちらの方が個人的には好きなタイプだ。木村のあの女性は完成度が高く、構図も非の打ちどころがなく、表情にモデルっぽい冷たさすら感じてしまうが、土門の街角の秋田美人は、隙があって自然で、めちゃセクシーだ。

8月18日 一路信州へ。秋田から白馬まで、とにかくまともに食事できる場所は路上に皆無である。ところどころで休憩タイムをとって買い置きしたお茶やお菓子を食べながらドライブ。朝8時に酒田を出て、昼1時には白馬着。時間があるので、白馬岳登山口付近まででかけて、そばの山を登ってくる。ペンション「500マイル」着は夕方5時。他の客たちと初日はバーべキューで盛り上がる。ペンションのオーナーはSカメラマンの義弟なのだ。

8月19日 今日は白馬から八ヶ岳のある茅野市に移動。ロープウエイをつかって北横岳に登った。とにかくものすごい観光(登山)客で、人ごみを縫い、かきわけて山に登る感じ。途中から雨、早く下りてきて助かった。午後からは白樺湖や諏訪市を経由して霧ヶ峰にある山小屋「ころぼっくる・ひゅって」。生ビールがなかったのが無念だが、食事はおいしかった。一部屋に男2人、女1人の計3人が雑魚寝。

8月20日  朝早くから霧ヶ峰湿原を散策。昼はその湿原にある有名なヒュッテでドライカレー。「有名な」と嫌味っぽく書いたのは、カレーを食べたかったのに、団体客用だ、と断られたせい。とにかく信州の山小屋の主人たちは、なぜだかみんな本を書いている有名人、文化人が多い。自分の山小屋で自分の本を売っているオヤジたちがほとんどである。新田次郎だとか深田百名山とかにまったく興味がない。本を出す文化は、いわば信州の地場産業みたいなものだから、しょうがないのかもしれないが、山と本と文化人は相性がいいのだろう。今日の泊りは再度白馬のペンション「500マイル」。ここの食事は朝夜とも洋食だが、本当においしい。

8月21日 白馬を出発し途中、大阪のK夫妻を糸魚川の「フォッサ・マグナ記念館」で降ろし、いちやく酒田へ。昼過ぎ酒田着。お気に入りのホテル「リッチ&ガーデン」泊。夕食は今回のガイド役のS夫妻を招いて、ホテル内のビヤガーデンで打ち上げ宴会。
8月22日 ようやくここで初めての一人ぽっちになる。おいしいホテルの朝のバイキングを食べた後は、ひたすら秋田目指し、ハンドルを握る。午前中に秋田着。午後からは普通どおり仕事。

8月23日 5泊6日の夏休みも終わった。休みのうち2日は酒田泊で、よほど庄内が好きなんだね。でも鶴岡の「アル・ケッチャーノ」には遅い平日のランチにもかかわらず「予約でないとダメ」と振られた。マイカーの調子はすこぶる良かった。車を買ってから初めての遠出だが、カーナビがあればどこにでも行けることを証明。ところで、明日からは、今度は2泊3日で気仙沼。朝日カルチャーセンターの講演シンポに参加するのだが、また車で出かける予定だ。10月初めには久しぶりに東京にも3日間ほど出かける予定を立てている。なんとなくエンジンがかかってきたかな。

8月24日 車の運転は苦手。嫌いなわけではなく技術がヘタなのだ。今の車はハイブリッドで、いちいち運転技術の採点図が表示される。葉っぱの数で点数がわかるのだが小生はいつも80点。他の人が運転するとほぼ95〜100点が出るから、かなり下手ということなのだろう。夏休みに信州から秋田まで長距離運転もこなしたのだが、その時に同乗者から「身体とハンドルが近すぎ」を指摘された。座席を少し離して、ゆったりハンドルを構えるようになったら昨日初めて100点が出た。うれしい。ちょっとした事なんだ。でも、この採点マーク、少しうるさくないか。


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