街を歩くと新しい風が吹いてくる
11月3日 夕方のローカルテレビニュースで「朝ごはんは、ご飯かパンか」という高校生へのインタビューを流していた。農協のコメキャンペーンの一環のようだが、かわいい女高生にけっこうご飯派が多いのは驚いた。でもこれってスポンサー(農協)を意識したTV局側のチョイスなのかも。最後にむさくるしい男の高校生が出てきて、「ハタハタのしょっつる」とぶっきらぼうに答えたのには夕飯を吹き出すほど笑ってしまった。オイオイ、それって昨晩の残りめしだろ。高校生の「本当のことを言ったまで」というふてぶてしさが、無性におかしい。
11月4日 暑いだけで静かだったあの夏の日々に比べると、さすがに秋。来客は多くなり、各地から個展やらイベントの便り、飲み会、出版依頼などが雑多に届くようになった。明日からは2日間東京に出張。ボーっとしているのも嫌いではないが、やっぱり忙しく立ち働いているほうが精神衛生上はいいのかも。昨日は雨の中、朝4時起きで岩手・青森・秋田の3県にまたがる「四角岳・中岳」へ。最初から最後まで雨の中の山行だったが、なぜか不快感はない。アプローチに往復7時間近くかかり、登るのに2時間、このアプローチの長さだけを考えれば、もう行けないかも。いろんなことが一期一会だ。個展もイベントも出版も出会いも飲食も。そんな気分にさせるのも秋のなせるわざか。
11月5日 山を歩くと決まって方向標示板や掲示板がクマに喰い荒されている。クマは人口加工物が好きなの? と、いつも不思議に思っていたのだが、疑問が氷解した。昨日、クマ研究家として有名な広島のMさんが事務所にみえたので訊いてみた。クマは石油の入った揮発系の匂いが大好きでペンキ缶までなめるし、ガソリンの匂いがするチェーンソーを盗んだりするそうだ。木工の防腐用に塗られた塗料に反応していたのだ。人間の腐乱死体の匂いも好きで、ようするに「匂いフェチ」なのだ。そうだったのか。Mさんによれば、昨今のクマ出没はブナの不作と一緒に語られるが、これは疑問で、奥山のミズナラ不作との関連のほうが重要だという。暑さにも弱く川沿いの岩に抱きついて腹を冷やしている光景をよく見かけるから、猛暑の年も里への出没は多くなるそうだ。
11月6日 またまた東京出張だ。この頃はほとんど飛行機を使うことはない。空港は事務所から15分ほどのところにあり、駐車場も1日千円以下と安いのだが、羽田から都心まで遠くて面倒。たっぷり4時間読書ができる電車移動がこのところの定番で、好き。仙台で途中下車して用事を足すこともできるし、仕事をしたり、寝たりも自由。最近は乗客に高齢者が目立つ。ケータイ電話を大声でかけ、不快なマナー違反のほとんどは若者ではなく高齢者。傍若無人という言葉がぴったりだ。本を読んでいる高齢者も少ない。現役のビジネスマンのほうが読書系は多いようだ。年金生活者って大切な社会的緊張がユルユルになってしまうのかもしれないね。
11月7日 青山や新宿の高層ビル街を何度も迷いながらウロウロ。午前中だけで歩数メーターは一万歩を越してしまった。東京ではほとんど神保町を中心に(宿があるため)1時間以内であれば歩く。そのためやたら東京の地理に詳しくなったが、渋谷や新宿といった大都会は無理だ。すぐに迷子になって、ヘロヘロになるまで歩数計のメーターをあげてしまう。歩く速度も自分では普通だと思うのだが、前の人の遅さにイライラ。都会では追い抜くタイミングにもコツがいる。4,5人広がって歩いている女子高生がいると真ん中をかき分けて前に出る。いやみだが、こうでもしないとあのバカたちは自分が他人に迷惑をかけているという意識を持たないまま大人になってしまう。やさしいオジサンのボランティアだ。
11月8日 さすがに秋田に帰ってくるとホッとする。自分のデスクの前で「移動せずに」ほとんどの仕事ができてしまう、この快適さ。ここが自分の仕事と暮しの中心だ。東京では喫茶店でも飲み屋でも本屋でも駅中でも、どこも満杯で人がはみ出している、なんていう「いつもの光景」はついぞ見られなかった。なんだか不況そのものを全身で街が表現しているような印象。その点わが秋田はこの20年、都会より何周も早く不況を経験し今もそのまっただなかで生き続けている。まあ不況の大先輩ですね。東京もいつか秋田のようになる。先輩に少しは敬意を示せよな、とつぶやきながら東京を後にしてきた。
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