んだんだ劇場2013年3月号 vol.170

No81−山ラーメン−

傾斜があっても、雪は均等に降る積もる

1月26日 最近の土曜日は1週間分の原稿類をまとめて書く曜日。日曜日はほとんど山行で、やむなく原稿は土曜日になったわけだが常識的に考えたら土曜って休む日だよね。新し物好きなので、昔から週休2日制も舎内全面禁煙も、実施はかなり早かった。なのに、いつのまにか土曜日は「勝手に仕事の日」になった。休んでもやることがないからだ。電話も来ないし、郵便物や注文で仕事を中断することもない。来客はほとんどないし、CDやTVを大音響で流しても誰に迷惑もかけない。今日も一日中、ものすごい雪が降っている。車で外に出るのは危険、やっぱり事務所で仕事をしていよう。

1月27日 前夜からものすごい吹雪、雷、大雪。なんだか県内はすべての注意警報が出ているようだ。が日曜は山だ。断固として山には行く。まわりの仲間も、だれも中止を望んでいない。ヒマだからだ。今日は森吉山の恒例の樹氷ハイクだったが、さすがにこの吹雪ではゴンドラが運航中止だろう、と近場の男鹿・真山に変更。おまけにこちらは早起きのたたりか、集合時間の7時を8時に間違え、迎えに来てもらう始末。真山はけっこうハードな山で登りにびっしり2時間を要した。でもやっぱり山は楽しい。苦しいけれど楽しい。

1月28日 月並みな言い方だが「あっというまに月末」だ。支払いや入金がこの時期に集中するから、いやがおうにも緊張を強いられる。でもまあよくも40年近く不渡りだ、未払いだといった修羅場と無縁でやってこれたものだ。振り返って、けっこうきわどい綱渡りだった日々のことを思い起こすと、脇の下に冷たい汗が流れる。零細企業だから、なんとかやってこれたのだろう。調子に乗って、世の中にあおられて規模拡大なんかしていたら、とっくに消えていたのは間違いない。世の中バブリーな時はひっそりと、不況の時は大胆に、普通の時はごく自然に……というのは処世訓ではないが、まあこんな感じでやってきた。それがよかったのか問題があったのか、結論が出るのはもうしばらく先になりそうだ。

1月29日 シャチョー室の、これ見よがしに大きなテレビ台を5分の一以下のコンパクトなものに替えた。部屋がすっきりシンプルに。食器や何年も使っていない台所用品も大量に捨てた。膨大な本の9割は去年あるところに寄贈し整理した。執着のあるアウトドア用具も近じかリストラ敢行予定。今年中には倉庫一個分の事務書類や備品も処分するつもりだ。身の回りからできるだけモノをなくし、身軽になりたい。一番の敵である「贅肉」は文字通り自分の身体だろう。これも3か月前に始めたダイエットがいまだ継続中で、現在6キロ減。この贅肉撤去が一番うれしいかな。

1月30日 2階のデスクから近所の家々の屋根の雪をぼんやり眺めていると、突然ヘンなことに気がついた。屋根に積もっている雪の量が家々でまったく違うのだ。1m以上の家もあれば、明らかにその半分以下の家もある。近所の工務店のKさんにそのことを訊いてみると、意外な答えが返ってきた。雪は傾斜があってもなくても均等に降り積もる。軒先と屋根のてっぺんには同じ厚みの雪が積もる。むしろ平坦な屋根のほうが風で雪が飛ばされるぶん、雪は少なくなる傾向がある。さらに風向きや屋根の方角でも雪の量はだいぶ違う。さらにトリビアも。冬場に除雪依頼が多い職業は歯医者さんだそうだ。手先の器用さが命なので、手が疲れる除雪作業はご法度。除雪は専門家に頼むのが常識になっているのだそうだ。

1月31日 散歩の途中に秋田では珍しいモダンな造りの建設会社がある。建物の大きさからみて2,30人は働いていそうな、まるでデザイン事務所のような建物だ。今日の新聞に、その会社の倒産が報じられていた。従業員は9人。毎日のように走り回っている除雪車と雪運搬トラックには、近所の建設会社の名前が書かれている。この雪のおかげで景気がいいんだろうなと思っていた。ところが訊いてみると、昔は羽振りが良かったが、今は往時の10分の一の社員、持っていた不動産の多くを処分して、やりくりしているのだそうだ。火の車は外から見ても、燃えているのがわからない。

2月1日 年4回出している愛読者への通信(DM)を、今年から6回に増やすことにした。こんな時代だから経費節減で「減らす」ならわかるが、「増やす」って何それ? といわれそうだが、ま、いろいろ思惑あってのこと。経費増は厳しいが年6回はあくまで今年限定の措置。ある程度、読者の志向や傾向が把握できれば、来年にはまた元の年4回態勢に戻す予定だ。そんなわけでここ数日、今年最初のDM通信制作に没頭中だった。何であれ没頭できるって楽しいよね。


CT検査とインスタント・ラーメンとクライマー

2月9日 本の定価表示は税込みだ。1700円の本体価格なら「定価1785円(本体1700円+税)」というふうに「くるみ価格」を表示する。来年には消費税が上がるから、これではまずい。あまり深く考えずにやってきたのだが今年の新刊、増刷本から「定価(本体1700円+税)」と本体表記することに決めた。にわかに昔の3パーセントから5パーセントへアップしたときの、あのシール張りの煩わしさが生々しく思い起こされたからだ。新刊よりも既刊本の売り上げのほうが大きいから本当は消費税アップ騒動の前から定価表示は変えるべきだった。遅きに失した感は否めないが、これはあきらかに自分のミス。でも10%になる頃には、もうこの世界から足を洗ってるかもね。

2月10日 角館で行われたトークショーへ。雪がひどかったので車はやめ新幹線で。これが正解だった。さきごろ日本人で初めて8千m峰14座を無酸素完全登頂したプロ登山家・竹内洋岳さんと作家の塩野米松さんの対談だが、会場は補助席が出るほどの盛況。話が面白く、忘れないようにメモまでとってしまった。メモをとって人の話を聞くなんて久しくなかったなあ。講演後、主催者の歯科医師Iさんと塩野さんのご好意で、小料理屋さんの打ち上げへ。車なら飲めなかったから新幹線で大正解だったわけだ。竹内さんは下戸。緑茶を飲みながら、最後まで付き合っていただき恐縮。偉業を達成した人なのにまるで威圧感がない。人間ができているせいだろう。飲食にも健康にもトレーニングにも何の興味もない、と言い切るあたりが可笑しかった。

2月11日 前日、角館で飲んで新幹線で帰ってきたのだが竹内洋岳さんと会ったコーフンで、魔が差した。駅から歩いて家に帰る途中、なじみの(というか昔の友人のやっている)バーに立ち寄ってしまった。明日は山行があるので、自制に自制を重ねて(なら行くなよ)1杯の水割りだけでおさえ、かろうじて午前様ギリギリで布団にもぐりこんだ。翌朝、雄和の高尾山へ出発。完璧に二日酔いだ。登っている間ものどがカラカラに乾き、水分補給が忙しかった。下山後の温泉でもちょっと脱水症状のような違和感があり、水を飲み続けた。夜7時にはベッドにもぐりこんだ。情けない。もう2日酔いで山に行けるほど余力のある身体じゃない。

2月12日 夜4回ほど尿意で目が覚めた。昨日の山で脱水症状気味で、水をがぶ飲みしたせいだろう。朝はすっきり目が覚めた。実は今日も連チャンで山行の計画があったのだが昨日の疲労度が激しく、今日はキャンセルさせてもらった。まだかろおじて自制心が残っているなジブン。で、3連休最後の今日は何をするか。なにもしないことに決めた。仕事場でCDを大音響で流しながら本を読み、日誌を書き、ブログの原稿も書こう。後は夕食の準備をして晩酌をし、9時には布団に入って寝てしまおう。あっ駅前までの散歩も欠かせないな。何にもしなくてもグズグズしていると1日はすぐに飛び去っていく。

2月13日 3連休の後の週はハードになるのが常だ。1日少ないからだろうが、たった1日短いだけで1週間の濃度がこうも強くなり圧迫感すらある。今週も春の新刊DM発送があり、小さなイベントもいくつか。個人的にも前から予約を入れていた病院通いや原稿の締め切りも。ま、ヒマよりはいいが。恒例のダイエット報告もしておこう(誰にも頼まれていないが)。もう4カ月目に突入したが月2キロ減の順調な下降ペースがここに来て少し鈍くなった。6キロ減あたりでウロチョロ。早くこの壁を突破したい。これも今週中には目処をつけるゾ。

2月14日 近年はっきりと病名として認知されたらしいのだが「気象病」という病気がある。わかりやすく言うと「天気が悪くなると古傷がうずく」というやつだ。特に秋田ではハタハタの季節に天候不順になることが多く、気圧の変化の激しい山などでは気象病が多発するらしい。低気圧で血行が悪くなり、体がむくみ、自律神経のバランスが崩れる。要するに等高線の混みあった山では気圧の変化に身体(脳)が対応できなくなってしまうのだ。先日の高尾山でもこの手の症状があった。すわ気象病、と色めき立ったが、どうやら二日酔いのせいだったことが判明。さえないなあ。天気と身体は密接な関係を持っている。

2月15日 2か月前の健康診断で胸部レントゲンに影があるため再診したのだが、結果は「異状なし」。念のため昨日はCT検査も受け、今日は朝一番で結果を聞きに病院へ。大学病院までは歩いて5分。昨夜から「もし異常があったらどうしょう」とビクビク、オロオロ、不安を隠せなかった。が、またしても異常なし。生まれて初めてのCT検査だったが、想像とは違い派手めな毛布を敷いた指圧室か整骨院といった風情で、ちょっぴり拍子抜け。結果報告する医師も「問題なし」以外の言葉がなかった。逆にいま流行の「糖質制限食(ダイエット)について、こちらから質問してみた。なるほど耳学問だけでは判断できない、いろんな要素も視野に入れる必要がある、ということを教えてもらう。オレも転んでもただじゃ起きない。

2月16日 こうみえてかなりの臆病者。胸部CT検査の直前まで「異状があったらどうしよう」とビクビクオロオロ。もし異状がなかったら、お祝いに好きなものを食べよう、と決め、前日アトランダムに書き出してみた。高級料亭料理から自家製湯豆腐まで千差万別候補に挙がったが、結論は「山でインスタン・トラーメンを食べる」に落ち着いた。「マルちゃん正麺」にネギと生卵を入れガスコンロでアツアツのやつを厳寒の山中で食べる。これしかない。普段食べないものをハードな環境で食べるのは快感だ。山用ガスコンロを新調したのも大きい。この火力のおかげで山ごはんが一挙に楽しくなったのだ。それにしても、焼肉でもイタリアンでもお寿司でもなく、山ラーメンって、オレって、けっこういい人だなあ。


ようやく忙しくなってきたのに、毎日酒びたり

2月16日 昨夜は久しぶりに痛快な一夜だったなあ。ひとりで5時半から飲みはじめ、しっかり腹ごしらえしてから、秋大と教養大の学生コンパに参加、3次会は作家のSさんと二人、川反のバーでウイスキーをたらふく。帰宅は夜中の3時半、起きたのはお昼だった。でも二日酔いじゃない。そればかりか恐れていた体重も飲む前より減っていた。なんと10時間あまり、笑っておしゃべりして焼酎とウイスキーを1カ月分飲んだのに、これは不可解。日本酒やツマミを「糖質制限」をきどってとらなかったのが、よかったのだろうか。それにしても楽しい夜だった。最近ほとんどいいことがなかったので、ここからツキが変わってくれるといいなあ。

2月17日 秋田市上新城にある小又川大滝にスノーハイク。「ふるさと百景」にも選ばれた美しい鄙びた村里だ。林道を歩いているうちに青空が広がりだした。おかげで一級品の風景を堪能できた。一汗かいた後はSシェフの料理で「シャチョー室宴会」。今日のメイン料理はサムゲタン。こうした難しい韓国料理を事前の準備もなく簡単に作ってしまえるのがSシェフの真骨頂。ダイエット中の小生はひたすら焼酎で「糖質制限」。その傍らでSシェフらは勝手に冷蔵庫から「天の戸大吟醸」をとりだしグビグビ。10キロ減量に成功したら、お祝いにひとりで呑もうと隠していたやつだ。悔しい。少しは遠慮というものがないのだろうか。

2月18日 朝から巨大な除雪車が何台も事務所の前に集結、ゴミ出しに行くのも迂回しなければならない。まさに除雪車銀座。先週の中ごろから身辺が騒がしく仕事も忙しくなった。酒を飲む機会が増え、来客も増え、スケジュール表が埋まりだした。もう半年以上さえない状況が続いているから、少しは何かが好転し始めたのだろうか。ま、どう考えても楽天的になれるような時代環境ではないのだが、せめて身の回りだけは好奇心銀座になってほしいもんだ。あれ、今日はなんだか銀座って言葉が勝手に口を衝いて出るなあ。

2月19日 ここ2年ほど日本農業新聞に「読書日記」という連載を持たせてもらっているのだが、慣れからくる油断か、今月締め切り原稿で大チョンボ。毎回2冊の本を取り上げるのだが、以前に取り上げた本をまた載せてしまったのだ。原稿を編集部にメール送信して、別の原稿を書くために資料ファイルを開いたところで二度載せに気がついた。この間、約20分。あわてて書き直し再送信するまで約2時間、さすがに寒くて冷汗は出なかったものの、頭に血がのぼりっぱなしでカッカと熱かった。どうもこの手のミスが昔に比べて多くなった。年のせいにすれば話は簡単だが、これは「慣れ」と「油断」のほうの問題だ。山でも同じような忘れ物が増えている。でも慣れって年の功のことでもある。やっぱり年かなあ。

2月20日 あれよあれよというまに身辺が忙しくなってきた。いろんなことが数カ月分前倒しで、というか過去のヒマな分まとめて、押し寄せてきた感じ。でもこれも長く続かない。経験からその程度のことは学んでいる。一昨日はお金をいただいている原稿を2本書き虚脱状態のようになったので、なにも予定のなかった昨日は1泊で酒田市へ。仕事ではなく「逃避」だ。2軒ほどなじみの飲食店をまわり、ホテルで本を読んで寝るだけだが、それだけでもストレスは軽減、リフレッシュできた。山形は好天なのに秋田に入ったとたん7号線は猛吹雪。たまのドライブも気分転換にはいい。夕方からは横手市の「天の戸」の蔵開きに行く予定。

2月21日 昨日1日だけで酒田そして横手(浅舞)往復と、ずっと車に乗りっぱなしだ。浅舞(天の戸)からの帰りは吹雪で高速が閉鎖。下道を通り帰宅は夜12時近かった。酒蔵で、とびっきりのお酒をいただいたので、友人Fさんに運転を依頼したのが効を奏した。私のドライブ技術では立ち往生したに違いない。それほどの猛吹雪。今日の朝10時には出版依頼の人と事務所で打ち合わせがあったのだが見事に寝過ごした。おまけに約束まですっかり忘れていた。これはちょっとシャレにならない。もう二日酔いモードは卒業だ。しっかり仕事をしようぜジブン。

2月22日 国際教養大の中嶋学長が亡くなった。地元紙を1日遅れでしか読んでないため、知らなかった。地元紙ではトップではなく国体スキーの記事の1面下段の死亡記事。このあたりの価値観は秋田的だね。教養大を全国区の「文化遺産」にした学長の業績はもっと称えられていい。最近、国際教養大の学生たちと合コンしたりするのだが、先日は隣に座った20歳の娘が「早稲田と津田塾に合格しましたが、こっちを選びました」とこともなげに言う。偏差値や学歴の問題ではない。子供たちが自分の価値観で有名大学をけって秋田に来る、これはすごいこと。そういえば山仲間のY君は一橋を落ちて教養大を選んだ、って言ってたな。彼は今リトアニアに留学中で、近く「リトアニア日記」をこのHPで連載する予定だ。


無明舎Top ◆ んだんだ劇場目次