んだんだ劇場2013年9月号 vol.176
No109
ヒヨドリの巣立ち

飛べないヒナたち
 愛犬モモは、夜は室内に入れている。畑に野良猫、タヌキなどが現れるとモモは夜中でも猛烈に吠える。それが「うるさい」と、50m以上離れた隣家から苦情が出たからだ。もう10年にもなる習慣で、昼は長い鎖いっぱいに芝生を走り回っているモモが、夕方になると「入れてくれ」と吠え始める。
 7月27日の土曜日、家の南側に並べているフウセンカズラ、朝顔、夕顔などのプランターに水をやって、モモを家の中に入れようとした時だった。突然モモの足が止まったので、その視線の先を見ると、デッキの上に何か黒っぽいものがあった。よく見ると、鳥のヒナである。すぐにモモを室内に入れて鎖をテーブルの脚につないだ。「鳥のヒナがいるぞ」とかみさんを呼び、持って来てもらったタオルでヒナをくるんでやったら、ジタバタと逃げようとする。椅子代わりに置いてある木の切り株の上に置くと、じっとこちらを見上げたが、逃げようとはしない。まだ、よく飛べないようだ。

最初に見つけたヒヨドリのヒナ

ヒナを呼び続ける2羽のヒヨドリ
 外に出て来たかみさんが「あら、あそこにも」と、夏ミカンの木の枝分かれしたところにいる、もう1羽のヒナを見つけた。それから2人で見回したら、亡き父親の部屋の前の地面と、外に設けた流しのところにもいた。全部で4羽である。
 あとから見つけた2羽は、捕まえようとしたら羽ばたいた。おぼつかない飛翔だが、近くの月桂樹の枝にとまった。するとヒヨドリが2羽飛んで来た。
 「ヒヨドリのヒナだったんだ」
 親のヒヨドリは畑の南の端にある柿の木にとまって、ヒナを呼ぶようにしきりに鳴く。月桂樹の2羽、それに切り株に置いたヒナは、暫くしたら飛び立った。
 が、夏ミカンの木のヒナは、すぐ近くまで親鳥が来たのに飛び立とうとしない。けがでもしているのだろうか。こんなに地面の近くでは、野良猫にやられてしまうのではないか。でも、自然の力に任せるしかない。そのままにしておき、翌日の朝6時、様子を見に行ったらヒナはまだそこにいた。

翌日まで動かなかったヒナ

玄関正面の夏ミカンの木
 ヒヨドリは、全国どこででも普通に見られる野鳥である。北の方にいるヒヨドリは寒くなると南へ渡るらしいが、暖かい房総半島では1年中いると思っていた。調べると5月〜9月が繁殖期で、通常4個の卵を産むそうだ。わが家で見つけたヒナも4羽。無事に全部の卵が孵化したのだろう。そして10日もすると巣立つのだが、数日はあまり飛べないという。4羽の中でも、夏ミカンの木のヒナは成長がちょっと遅れていたのかもしれない。
 それにしても、ツバメなどはヒナが十分に育ってから巣立つのに、ヒヨドリはなぜ、巣立ちを急ぐのだろう。親はスマートな体形だが、4羽のヒナはコロコロしていて、その体を浮遊させるには羽が小さいように思われた。
 朝ごはんを食べて、玄関のガラス戸越しにみたら、夏ミカンの木のヒナはまだそのままだった。しばらく見て食卓に私が戻り、交代して玄関に出たかみさんが、すぐ「飛んだ、飛んだ」と声をあげた。私も慌てて行ったが、ヒナの姿は空にも見えなかった。「親鳥が、そばまで来ていたよ」と、かみさんが言った。
 ヒヨドリは、ミカンの花をついばむ。そのせいで夏ミカンが不作だった年もある。外においていたモモのエサを、盗み食いしたこともある(「んだんだ劇場」2008年6月号「モモのエサ泥棒」に写真があります)。わが家にとってヒヨドリは、あまり歓迎できない鳥なのだが、新しい命が成長する姿はやはり見てうれしい。
 その夕方、東側のヘチマの棚にヒヨドリのヒナが1羽、しばらくとまっていた。

ブドウが実った
 6月の第3日曜は、父の日。今年は16日だった。その日、娘から大きな箱に入ったプレゼントが届いた。開けてみると、ブドウの木の鉢植えだった。まだ緑色の実がたくさんついていた。

「父の日」に娘から贈られたブドウの鉢植え

熟したブドウ
 付属のパンフレット「育て方」に従って、かみさんが朝夕に水をかかさずにやっていたおかげで、猛暑、そして1か月も房総半島に雨らしい雨が降らない中で、ブドウは次第に紫色に変化した。粒の大きさ、色から見てデラウェアのようだ。届いてから2か月の8月18日、全体が紫色になった房を2つ切り取って食べた。
 やはりデラウェアの味だと思った。が、タネがあったのに驚いた。
 熟したブドウにタネがあるのは当然なのだが、デラウェアに限って言えば、昭和30年代に山梨県果樹試験場で、植物の生長ホルモンであるジベレリンを使ってタネ無しブドウを作る技術ができて以来、デラウェアはタネ無しが当たり前のようになっていたからだ。
 今は巨峰のような大粒のブドウでも、タネ無しが売られている。こちらはジベレリンではなく、別の技術でタネ無しにしているのだが、ジベレリンは元々、稲をやたらと背高のっぽにする「馬鹿苗病菌」の研究から、昭和13年、東京帝国大学教授の薮田貞治郎博士が発見した植物ホルモンで、それが戦後、デラウェアの果実を大きくしようという研究から偶然にタネ無しブドウができたのだ。つまりタネ無しブドウは、最初から日本の科学研究によってできたのである。
 うっかりしたことに、私は、娘から贈られたブドウがデラウェアだろうと見当をつけた段階から、そこにタネがあるなどとは夢想もしていなかったのだ。
 「そうか、自然のままに育てれば、ブドウにはタネができるんだ」
 そんな自分のうっかりが、なんだかうれしくなった。
 来年の春が来る直前、まだ寒いころ、葉を落としているブドウを鉢から取り出して、わが家の畑のどこかに植え替えてやろう。

梅干しを作った
 今年は梅が大豊作だった。梅干しにするのには完熟の方がいいらしいが、かみさんが「梅シロップも作りたいから」と、6月半ば、梅の実を収穫したら一輪車いっぱいになった。何キロあったのだろう。

大収穫だった今年の梅の実

塩漬けにした梅を日に干す
 梅シロップは、梅の実1キロに氷砂糖800g〜1sを加え、密閉容器に入れておくだけでできる。今年は、2リットルのペットボトルに2本できて、この暑さの中、氷水で割って飲んでいる。
 梅干しの方は、畑のあちこちに芽生えていた赤ジソの葉を摘んで、かみさんが「塩分20%」の塩漬けにした。今年の夏、房総半島はさっぱり雨が降らないが、塩漬けにした梅を干すには都合のよい天気が続いている。梅を干すには3日3晩かかる。かみさんが日中、1粒ずつ裏返して、写真の盆ザルで3枚分の梅干しができた。
 前にも書いたことがあるが、今スーパーなどで売られている梅干しを、私は買う気がしない。梅干しは本来、梅、塩、赤ジソがあればできる。だが市販品のパックの裏を見るとそれ以外に、水あめ、調味料、色素、酸味料、甘味料……と、さまざまな食品添加物が記載されている。それは、塩漬けにした梅を中国から輸入し、水に漬けて塩分を抜いた後、調味液に漬け込んで作るからだ。梅干しが酸っぱいのは豊富に含まれるクエン酸のためなのだが、「調味梅干し」には、わざわざクエン酸を添加しているものもある。そして塩分は「減塩」と称して10%以下。7%程度のものもあり、これでは長期保存できないし、カビが生えるものさえある。逆に言うと、梅、塩、赤ジソだけで作るわが家の梅干しは、今や貴重品なのである。昔から「健康にいい」と言われる梅干しは、本来の作り方なればこそだろうと私は思う。塩分20%なら、冷蔵庫に入れる必要もない。
 千葉県佐倉市の単身宅に、かみさんが作った梅干しを容器に入れて持ち帰り、レトルトのおかゆに1粒入れて食べるのが、このごろの私の「単身夕食」の定番だ。
 これが塩味、酸味、ともに絶妙。市販品にはないうまさに、ちょっぴりぜいたく感も味わっている。

メンガタスズメ蛾の幼虫でした
 前回の「日記」の最後にお見せした、「とにかく、大きい。長さは10センチくらい。太さは私の手の親指より太い」巨大な、黄色い芋虫を覚えていらっしゃるだろうか。調べてもなんの幼虫かわからなかったと書いたら、3人の愛読者から「メンガタスズメの幼虫です」とメールをいただいた。
 メンガタスズメはスズメ蛾(が)の仲間で、背中に人の顔に似た模様(ドクロ模様と言う人もいる)があるので「面形」という名前がある。3種あるが、いずれも大型の蛾で、幼虫もそれ相応の大きさなのだ。今回お見せする写真は前回とは違うが、その大きさ、あざやかな黄色はおわかりいただけると思う。

メンガタスズメの幼虫とわかった黄色い芋虫
 名前を特定した3人の中で、「クロメンガタスズメだ」という人がいた。が、ネット検索で見つけた写真を見ても、成虫は区別できるが、幼虫では区別できなかった。まあ、それはともかく、これが、わが家のナスの葉を食べていた。調べたら、ほかの植物も食べるが特にナス科の植物が好物だというから、黄色い巨大芋虫がメンガタスズメの幼虫であることは間違いない。
 ところで、前回の「日記」の中で、「温州ミカン、柚子の苗などのかんきつ類にはキアゲハの幼虫が食いつく」と書いたら、「キアゲハではなく、アゲハチョウの間違いです」と指摘してくれた方がいた。言われてみれば、キアゲハの幼虫は黄色と黒の縞模様で、ニンジンの葉をよく食べている。かんきつ類の葉を食べる芋虫は全体が緑色で、これはアゲハチョウだった。
 こんな専門的なことまで指摘してくれる愛読者がいるのは、ありがたいことである。
(2013年8月22日)


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