●小雪のISO取得なみだめ日記 柴田真紀子
平成14年12月16日(月)
 いつものように仕事をしていたら、安倍と鐙の打合せの場所に突然呼ばれた。何か新しい本の企画かな、と思いながら2階へ行くと、安倍が「ISO」という耳慣れない言葉について説明を始めた。これは、環境問題に取り組んでいる会社に与えられる国際的な資格のようなもので、これからの時代は、「ISO」の認証を取得している会社が、仕事の受注も含めた社会経済のスタンダードになってくるのだという。
 そして、取得の担当をやってほしい、と言われたのだ。最初は、えっ、こんな大きな仕事を私がやっていいの? 無理なんじゃないかな? というのが正直な気持ちだったし、あまりに話が漠然としていて「ISO」がどういうものなのかよく理解できなかった。
 これはしっかり考えてから返事をしないと大変なことになりそう……と思いながら注意深く話に耳を傾けているうちに、少しずつ興味がわいてきた。中でもすごいなと思ったのは、会社をあげて環境に取り組むことで、社員の環境問題に対する意識が上がり、それを家庭にも持ち込んで輪を広げて行くことが出来る、という部分だ。今までは家庭内で意識してリサイクルできるゴミの分別などをしていても、会社では関係ないという雰囲気が強かった。アルバイトに来た主婦が「ペットボトルについてるビニールの部分ははがして、キャップも別にして捨てるのよ」と言っても、それらが付いたままゴミ袋に入っているところをよく見つけたものだ。そして、それを見ても「仕事に関係の無いことだから」と誰にも言わず黙ってはがしていたような気がする。
 そんなことを思い出しながら、面白そう! やってみたい! という気持ちが大きくなり、気がついたら「私でよければ、やらせていただきます」と返事をしていた。

12月18日(水)
 まずは、セミナーに行って取得のための勉強をしなければならないらしい。そこでISOのセミナーについてインターネットで調べ始めたけれど、あまりにもたくさんのセミナーがあって、何を受講すればいいのかさっぱりわからない。
 もう一度渡された資料によく目を通し、ISOには品質に関する9001と環境に関する14001があり、無明舎で取ろうとしているのは環境の方だということを確認。これで2分の1になったが、まだ10くらいのセミナーが並んでいるし、開催している会社もさまざまで、何を基準に選べばいいのかわからない。
 「どうやって受講するセミナーを選べばいいのか、わからないんですけれど…」と安倍に言うと、「そうだね。アドバイスをもらわないとね」ということで、無明舎の認証取得を手伝って下さる株フ促の小西和博さんという方に話を聞きに行くことになった。小西さんは一度来舎して安倍と富山に説明をして下さったことがあるけれど、私は初めて話を聞くことになる。予定は来週の火曜日。これで少しはわかるようになるのかな、とひと安心。

12月24日(火)
 午後、大曲市に小西さんを訪問。今後のスケジュールについての説明、そして販促がISO認証取得したときのたくさんの書類を見せていただき、どのように取得していくのか、その全体像が少しずつ見えてきた。1月から始めれば、6月か7月の取得が可能とのこと。舎に戻ったあとさっそく安倍とスケジュールを話し合い、7月取得を目標にすることに決めた。
 セミナーも奨めていただいたJACO(ジェイコ)の「内部監査員養成セミナー」に参加を申し込んだが、仙台会場であるのは一番早いのでも1月末。それまでの間は、小西さんから借りたISO関連の本を読んで勉強することにした。

※小西さんから借りた本一覧
『対訳 環境マネジメントシステム』(日本規格協会)
『ISO14001 環境マネジメントシステム 解説とQ&A』(JACO)
『間違いだらけのISO14000』(日経BP)
『「ISO14001」審査登録Q&A』(日刊工業新聞社)

※ISO認証取得までのスケジュール
1月社内プロジェクト立ち上げ
環境宣言(キックオフ)
環境管理責任者(私)のセミナー受講
2〜4月環境文書作成
環境側面(環境に影響を与えている要素)抽出
5月環境マネジメントシステムの仮運用
審査申し込み
6月審査
7月認証登録


1月26日(日)
 明日、仙台で開催される「内部環境監査員養成セミナー」を受講するため、夕方秋田を出発した。多少天気が悪くても高速道路なら3時間見れば余裕で着くとは思っていたが、事故などで閉鎖したときのことを考えて前泊することにしたのだ。
 ホテルは、前にも出張で使ったことのある「ベルエア仙台」。清潔で明るく、気持ちのいいホテルだ。夕食の後、のんびりしようと思いつつも、不安にかられてISOの本を開いてしまった。
 これまで1ヶ月間、時間を見つけて小西さんから借りた本を読んでみたけれど、小西さんに「これは取得のためのバイブルですよ」と言われた『対訳 環境マネジメントシステム』は、理念のようなものがずらずらと書かれていて、うん、うん、と読み進め、しばらく読んでから「何が書いてあったんだろう」と反すうすると、???で頭がいっぱいになるという不思議で難しい本。じゃあわかりやすい方を読もう、と取得について具体的に書かれている『ISO14001 環境マネジメントシステム 解説とQ&A』や『「ISO14001」審査登録Q&A』を読むと、取得のためのハードルはとても高く、自分には無理なんじゃないかという気持ちになってくる。結局、本を読み進めることで不安が増長するばかりの1ヶ月間だった。
 ここまできてじたばたしてもしょうがない、とふんぎりをつけて1時間ほどで本を閉じ、熱めのお風呂に入って早く寝ることにした。

1月27日(月)
 いよいよセミナー1日目。朝はあいにくの雨。ホテルを出て約1kmほどのところにある会場まで歩きながら、講習の内容についていけなかったらどうしよう……などと考えてしまい、いやでも緊張が高まった。
 セミナー会場は、五橋にある「東北外国語専門学校」の8階。受付をすませて部屋に入ると、受講者は私を含めてたったの7人。アットホームな雰囲気に少しホッとしたが、皆30代〜40代くらいの男性ばかりで、私が入っていったとたんに「おや?」という目で何人かが振り返った。着慣れないスーツを着て、少しでもキャリアウーマンっぽく見えればいいな、と胸を張ってみたけれど、自分が場違いな場所にいるような気がして落ち着かない。
 講習が始まる前に講師がひとりひとりに会社のISO認証取得状況を質問した。取得がこれからと答えたのは私だけで、他の会社の人たちはすでにISO14001の認証取得をしていて、これからの1年ごとのサーベイランス(環境目標を達成できたかどうかのチェック)や3年ごとの更新のために、このセミナーを受講しているらしい。
 緊張を解くひまもなく講習の時間になってしまったが、いざ始まってみると内容はついていけないほど難しいものではなく、逆に〔?〕ばかりだった頭の中に答えが埋め込まれていくようで、進むにつれて頭がすっきりとしてきた。何度読んでもわからなかった『対訳  環境マネジメントシステム』と同じことが書かれているのに、注釈や講師の説明が加わるだけで理解できるのだから不思議だ。
 午後になると、実際に環境文書を審査する演習があった。ある会社の環境文書のサンプルを読み、その不備な点を見つけ、なぜそれが不備なのかをコメントするのだが、まず自分で審査した内容を紙に書いたあと、2つの班に分かれて話し合った。私のいる1班は全部で4人。電話会社、金属会社、電気会社の人たちで、電話会社の30代半ばくらいの人が積極的に話し合いを進めてくれた。最初は、とんちんかんなことを言っちゃったら恥ずかしいな…と思って人の意見ばかり聞いていたけれど、話し合いが進むにつれて自分のやり方が正しかったことがわかり、誰も見つけていない項目を挙げていたので思い切って発言をしてみた。最終的に私たちの1班は講師に褒められるほどたくさん項目を挙げることができたし、話し合いにきちんと参加できたことで自信がついて、明るい気持ちで1日目が終わった。
 夜は古川に住んでいる友達が遊びに来てくれたので、イタリアンレストランで軽く飲んで、たくさんおしゃべりをして羽を伸ばした。

※初日の時間割
10:00〜11:30 環境マネジメントシステム規格解説
11:30〜12:30 昼休み(お弁当が配られる)
12:30〜13:45 環境マネジメントシステム規格解説
14:00〜16:00 書類監査の演習、解説
16:00〜17:45 監査規格・監査手順の解説
※使用したもの
JACOのテキスト『内部環境監査員養成コース』(非売品)
JACOのテキスト『環境関連法』(非売品)
『新 よくわかるISO環境監査』(ダイヤモンド社)
『新 よくわかるISO環境法』(ダイヤモンド社)


1月28日(火)
 セミナー2日目。午前中は環境関連法の講習、午後はその演習。さらにそのあと、現場監査の演習があった。現場監査とは、監査員が会社の仕事現場に行き、作業や施設が法規制にのっとっているかをチェックしたり、現場の担当者に質問をしたりするもので、通常の内部監査では書類監査のあと行われる。今回は私たちが監査員、講師が監査を受ける側、というロールプレイングの演習だ。
 1班はゴミ置き場、2班は給油口の現場に決まり、写真を見ながら質問事項を考えた。「廃棄物はどのように分別しているか?」「保管にあたってどのようなことに気をつけているか?」など、張り切って質問事項を書いていたら、班の人たちに「柴田さんが一番たくさん書いているので、主任監査員をやって下さい」と言われ、監査員グループの責任者のようなものにされてしまった。主任監査員が何なのかわからなくて、辞退しようとしたけれど出来なかった。どうやら、監査のはじめと終わりの挨拶、質問の流れを作るといった役回りのようで、班の皆にサポートされながら演習がスタート。
 監査を受ける役の講師が、時々わざととぼけた答えをするのだが、知識や理解不足のせいで、それが正しい答えなのか、不備な点を追求しなければいけないのかがわからなくて、四苦八苦してしまった。一番おかしかったのは、焼却炉について質問したときだ。私たちは4人とも「廃棄物処理法」の「何人も次を除き、廃棄物を焼却してはならない。(「次」の条件のひとつに、廃棄物処理基準に従って行う廃棄物の焼却、とある)」というところを読んで、「ゴミを焼却してはいけない」という法律ができたのだと理解していた。写真の中の焼却炉を見ながら「これを使用しているのかどうか質問しよう」「使用できないということをきちんと表示しているか、質問しよう」などと意気込んでいたのだ。
 ところが、講師の答えは「使ってますよ」。予期しない答えにとまどいながら、例によって講師がとぼけているのだろうと思い、「廃棄物処理法では、焼却炉は使えないのではないですか?」と聞くと、「え、そんな法律は知りませんよ。焼却炉が使えないと困るじゃないですか」との答え。困ってしまって班の人を振り返ると、積極的な電話会社の人が法規制の本を開いて「廃棄物処理法」のところを読み始めた。それを聞いて、質問の意味がわからず困っていた講師が笑いながら言った。「それは、野焼き禁止という意味ですよ」 変な質問をしていたのは、私たちの方だったのだ。
 それでもなんとか演習を終え、2つの不備な点を見つけ出すことができた。それを所定の用紙に記入して提出し、書き方や内容が正しいかどうかチェックを受けて、演習は終わった。
 最後は2日間の仕上げのテスト。問題は45問、○×形式で、6割正解すれば合格だ。テキストや本を読みながらやった演習とは違い、習ったことをちゃんと覚えていなければならない。緊張するのは皆同じだったようで、テスト前に「どんなところが重要なんでしょうかね〜」などと講師に探りを入れている人もいた。テストの時間は30分間だったけれど、15分ほどで最後まで終わってしまった。直前に復習したテキストの内容を忘れないうちに問題を解きたくて、わかるところはさっさと答え、わからないところは直感で答え、猛スピードで終わらせたのだ。おかげで5回くらい見直しをすることができ、問題を覚えちゃうのではないかと思ったくらいだ。でも、自信を持って合ってると言える答えは23問。6割に達するのは27問。4問のブランクをどうしても埋めることができなかった。
 合格していれば後日認定証が届く、とのこと。「まあ、落ちるのは1000人に1人くらいですけどね」と講師は言ったけれど、不安がなくなるわけではない。もう1時間くらい帰るのが遅くなってもいいから、合否が分かってすっきりしてから帰れればいいのになぁ……と思いながら、会場をあとにした。
 不安でもやもやしている私の心を表すかのように、帰り道は猛吹雪。高速道路なのに時速50〜60kmしか出せず、秋田まで3時間半もかかってしまった。

※ 2日目の時間割
9:00〜11:30 環境関連法の解説
11:30〜12:30 昼休み(お弁当が配られる)
12:30〜14:00 法規制の演習
14:00〜16:30 現場監査の演習
16:30〜17:00 テスト


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