アイルランド到着の翌日は、ダブリン市内の自由行動日。私は美術館・博物館巡りを計画しました。「The National Gallery of Ireland」の開館時間が最も早かったため、まずは絵画鑑賞からスタート。照明が反射して見えにくい点は減点だな、などと考えながら歩いていると、宗教画のフロアに到着。最後の晩餐やキリストの捕縛、カインとアベルなど、キリスト教を知らない私にもピンとくる場面が多く、しかも迫力がありました。学生時代、宗教芸術を受講した記憶がチョットだけ甦りました。確か、キリスト教の絵は誰が描いても同じ絵にならなきゃいけないというようなことでした。もっと真面目に先生の話を聞いておけばよかったと反省しましたが、とにかくこのフロアを見たおかげで、今回の旅行のテーマは「教会で宗教芸術」に決定です。
近くにある「National Museum of Ireland」や「Natural History Museum」は修学旅行の少年少女が多く騒々しかったのでさっさと切り上げ、ダブリン市内の大きな教会に向かいました。しかし、ダブリン最古の教会「Christ Church Cathedral」は修復中。
アイルランド最大の教会「St.Patrick Cathedral」は閉館時間ギリギリだったので中に入れず、結局ダブリンでは教会を見学しないまま、外観だけ眺めました。
翌日、ベルファストへ向かう途中のドロヘダの町で大きな教会を見つけ立ち寄りました。「St.Peter's Roman Catholic Church」。
小さな赤いキャンドル(1個25セント)に火をともす人や礼拝をする人もいて、信仰の場としての神聖な教会を体感しました。芸術的にも歴史的にも価値のありそうな教会が現役で、身近な存在になっていることをうらやましく感じました。
ベルファストでは、到着時間が遅かったため開いている教会を見つけることができませんでした。翌日以降も教会らしきものを見つけましたが、早朝だったり夜遅かったりで中に入ることはありませんでした。
ようやくゆっくり町を歩き回ることができたのはゴールウェイ。この日も自由行動だったので、「St. Nicholas's Cathedral」と「Galway R.C.Cathedral」、もう一つ(たぶん「Augudtinian Friary」)をハシゴしました。St. Nicholas's Cathedralを囲む路地には市がたってとても賑やかなのに、聖堂の中は静か。生演奏ではありませんがパイプオルガンの曲が響いています。一角には書庫もあり、古い皮表紙の本が書架に並んでいます。ステンドグラスなどにも派手さがないぶん風格を感じました。対照的に華やかなルネッサンス洋式の建物はGalway R.C.Cathedral。コリブ川沿いの遊歩道を10分ほど歩くと到着します。床は大理石で壁のモザイクもマリア像もキリスト像も手が込んでいました。「こんなところまで!」と驚いてしまうほど小さな窓や見えにくい壁にも絵やステンドグラスがあったりするのです。中でも気に入ったのは十二使徒、一人づつのステンドグラス。それまでは、聖書の一場面らしきものやイエスを題材にしたものが多かったので意外性がありました。この教会では偶然結婚式に出くわし、パイプオルガンの生演奏と聖歌隊のコーラスを聞くことができました。Augudtinian Friaryは中心部をブラブラ歩きまわっていたら偶然行き合った教会。ちょうど疲れた頃だったので座って休憩していたら、自然に心が落ち着いていきました。信仰の場には人の心を癒す不思議なパワーがあるようです。
その日の夜はエニスという町に宿泊。他の3人はパブに行ってしまったので、一人で町を歩きまわりました。最初に目に付いたのは「Ennis Friary」。13世紀に建てられた修道院の跡です。見学時間は既に終了していましたが、柵の間からライトアップされた修道院と庭がよく見えました。また、近くには「The Franciscan Friary」があり、外にあるマリア像がライトアップされていました。その雰囲気に惹かれて何度も足を向けていると、東洋人が繰り返し見に来るので不思議に思った地元のおじさんが声をかけてきました。「この建物が好きなのか?ここは聖フランシス修道院だ。明日の8時30分から礼拝があるから興味があったら来なさい。向こうの教会の神父様は黒い服を着ているけど、ここの神父様は茶色い服を着ているんだよ」というようなことを一気に喋っていました。このおじさんが言っていた「向こうの教会」とは「St.Peter&Paul's Pro.Cathedral」のこと。ここも夜のうちに見に行きましたが、暗がりではただの石造りの建物にしか見えずイマイチでした。しかし翌朝、礼拝が終わった頃に中に入ると、比較的新しくてかなり豪華でした。壁も柱も天井もクリーム色で統一されているので、壁画やステンドグラスはそれほど大きくないのに存在感がありました。
アイルランドの教会は石造りで、外観は質実剛健というイメージで苔が生えているほどですが、中は対照的に見事なステンドグラスや絵画、柱の装飾などで飾られています。また、遠くからもわかるほどの高さもあります。その美しさ、立派さに見とれる反面、教会の権力を恐く感じることもありました。また、どの町の教会にも、曜日や時間帯に関係なく礼拝している人がいました。歩き疲れて一休みしたり、ステンドグラスや絵を見たくて立ち寄った私の隣で熱心に祈る人が必ずいました。沿道や家庭の庭など、あちこちでマリア像も見かけます。
ガイドブックによるとアメリカに移住して成功した人が故郷に寄進するからだそうです。アイルランドの人たちの信仰心の厚さを感じた旅行でした。